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JUGEMテーマ:ショート・ショート 漆黒と黄金を纏った櫛だった。高貴な櫛だと思った。地色は艶の強い漆黒で、そこに黄金の紋様が描かれている。細かく細かく描かれている。風や波や火山の噴火や、その他のありとあらゆる流れが、その流れの曲線が黄金で描かれている。そこには叫びが内包されている。誰かの叫びではなく、誰のものでもない叫びでもなく、私の叫びだ。 でも、私の叫びじゃない。それは今このときの私の叫びじゃない。たぶん来世の私の叫びだろう。来世の私はこんな風にありとあらゆる流れに織り...
pale asymmetry | 2022.10.20 Thu 21:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日は何の日か知ってる?」 私はモニタに向かって問い掛ける。 「今日は世界手洗いの日だね」 応えはすぐに帰って来る。モニタの中には彼が映し出されている。でもフルCGの相貌の彼だ。 「じゃあ、世界中の人が手を洗う日なんだね」 私がそう言うと、彼は複雑に表情を歪める。笑っているようにも困っているようにも見える。見ようによっては啓示を受け取ったようにも見えた。 「それは少し違うよ。世界には不衛生な環境下での暮らしで、命を失う子供たち...
pale asymmetry | 2022.10.15 Sat 21:17
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「excuse me……、excuse me……」 彼女が呟いている。隣に横たわる彼女が。 「excuse me……、excuse me……」 何度も呟いている。僕は文庫本から顔を上げ、彼女を見つめる。彼女はタブレットを抱きしめて眠っている。その表情は、フラットだった。苦しそうでもなく、楽しそうでもなく、何かを探求しているようでもなかった。 「excuse me……」 夢の中で誰かを呼び止めているのだろ...
pale asymmetry | 2022.10.08 Sat 21:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「雨は何も考えていない」 あなたは濡れながら呟く。 「何も考えていないから雨なのかもしれないよ」 私は空を見上げ、雨を頬で、額で、唇で受けとめる。 「やめなよ。汚れているよ」 あなたが顔を顰める。 「汚れているかもしれないけれど、穢れてはいないでしょう?」 私は肩を竦める。 「それはもちろん私たちの方が穢れているわ」 あなたは立ち止まり、手のひらの匙で雨を受けとめる。僅かに掬い取った雨を、あなたは口に運ぶ。 「どう...
pale asymmetry | 2022.10.04 Tue 21:53
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「この中に昆虫が閉じこもっているよ」 散歩の途中で甥っ子が唐突にしゃがみ込み、道端の石の一つを指差す。 「へー、昆虫か」 甥っ子と並んでしゃがみ込み、僕は石を見つめる。黒っぽい色と青灰色が混ざり合った拳大の石だった。石には詳しくないので、それがどんな由来の石なのかは解らない。手に取ろうと腕を出すと、すぐに甥っ子が止める。 「駄目だよ。昆虫が起きちゃうよ」 僕は手を引っ込め、顔を寄せて石を見つめる。見える範囲を隅から隅まで確認した...
pale asymmetry | 2022.09.30 Fri 21:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「翼の話をしましょう」 夕食のあとアイスを食べていると、彼女が突然切り出した。 「いいよ」 僕はアイスを食べる手を止めることなく頷く。コーヒーフロートアイスで、とても溶けやすかったから急いで食べていたのだ。 「翼をくっつけられるとしたら、どこが良い?」 「背中で良いよ」 「駄目。それじゃあ面白くない。背中NGで」 「でも背中以外の場所につけて意味があるかな?」 「それを言うなら、人間が背中に翼をつけることに意味ある?」 「格...
pale asymmetry | 2022.09.28 Wed 21:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「そのロボットはスプーンをくわえたままで言うの。オレは幸せには暮らせないって」 彼女は食後にシュークリームを頬張りながらそう言った。夕食の直前まで眠っていたのに、何の躊躇もなく大盛りのパスタを食べ、さらにはシュークリームも食べている。そして夢の話を始める。 「可笑しいよね?」 「ロボットが? そのセリフが?」 僕が尋ねると、彼女はどこか困った顔をする。 「全体の流れのこと。だってロボットはスプーンをくわえているんだよ。幸せになるに...
pale asymmetry | 2022.09.25 Sun 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは迷える魂だった。 風は北西から強く吹き上げられていた。それは黒い海から吹き上がっていた。僕らを星の世界に吹き飛ばそうと企んでいるようだった。 「星座って、難しいよね」 誰が言ったのかはよく解らなかった。真夜中にあと数歩の公園には照明がなく、全てが闇に輪郭を滲ませている。山の上にあるこの公園は街からも遠く、街の明かりは海を闇に沈める役割しか担っていなかった。 「海が黒いと、獣みたいだね」 誰かが言う。誰かが笑う。 「見下...
pale asymmetry | 2022.09.19 Mon 21:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「235億キロメートルって、イメージ出来る」 彼女が天井を斜めに見つめて言う。おそらく彼女自身にはイメージ出来ていないのだろう。 「遠いね。すごく遠い場所。何だかとても暗い空間をイメージしてしまうな」 僕の言葉に、彼女が大きく頷く。 「その場所から一番近い星は40兆キロメートル離れているんだって。多分暗い場所よね?」 「そうだね。それは宇宙空間で、そこに誰かがいるんだね?」 「うん。ボイジャーよ」 「ボイジャー? 宇宙探査機の?」 ...
pale asymmetry | 2022.09.11 Sun 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨が降り出しそうだったから、傘を持ってバス停に行く。夜の空には星も月も見えなくて、風は淫らな感じのする湿り具合だった。空気に照明を滲ませながらバスが近づいてくる。降りてきたのは彼女だけだった。バスの内部に目を向けると、他に乗客は一人しかいなかった。何だか、生と死の境界を走るバスのように思えた。 「お帰り」 僕は彼女に傘を差し出す。 「ただいま」 彼女は傘を受け取るとすぐに開いた。 「まだ、降っていないよ」 「良いじゃない。傘は...
pale asymmetry | 2022.09.06 Tue 21:41
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