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掌編。超短編。など、名前は様々。
一瞬を切り取って、読んでくれる人に届けたい。
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The invader\'s garden

JUGEMテーマ:ショート・ショート    小さな庭だった。卓球台をなんとか置くことができるくらいのサイズ。でもそれを入れてしまえば人が入る余裕はもうない。だから卓球は出来ないな。とそんなことを考えながら、私は庭を見つめていた。 「手首を痛めてしまってね」  隣に座る祖父が右手を翳す。手首に包帯が巻かれていた。 「それで困ってしまって、君を呼んでしまったんだ」  祖父の加えている煙草から紫煙が真っ直ぐに昇っていく。甘い香りのする煙だった。庭に面した縁側に、私と祖父は並んで座って...

pale asymmetry | 2021.11.20 Sat 18:31

Wave stone

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「これがそうだよ」  甥っ子が見せてくれたのは彼の掌よりも二回りほど小さい楕円の石だった。少し青みがかった表面が滑らかな石で、上品な印象の石だった。 「どうやって解るんだい?」  僕が問うと、甥っ子は川原を走り出す。複雑にジグザグに走り、ときどき跳躍する。両手を飛行機のように伸ばしているから、彼は走っているのではなく飛んでいるのかもしれない。 「まあ、こんな感じかな」  戻ってきた甥っ子は息を弾ませている。汗はかいていないけれど、午後...

pale asymmetry | 2021.11.14 Sun 20:35

non-Intelligent moon

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「ストーリーか、ストリートか、あるいは両方が私には足りないのかもしれないわ」  呟いた妹の表情は真剣だったから、それは言葉遊びではなく、彼女の正確な思考だったのだろう。 「でもこういうのって、補えるものではないと思うの。足りないのなら、その状況は変えられなくて、そのままで進むしかないと思うの」  私は寒かった。午後の風は北から吹いていた。歩道に面したテーブルはその風の硬い頬ずりにずっと晒されていた。暖かなラテでは、その頬ずりをはねのけるこ...

pale asymmetry | 2021.11.12 Fri 21:10

厭う者、厭わぬ者

JUGEMテーマ:ショート・ショート    ダイニングテーブルで彼女が鏡を見つめている。その左頬に赤いサインペンで斜めに直線が引かれている。そのラインを、彼女はじっと見つめている。 「ただいま」 「おかえり」  僕に返事をするときも、鏡を見つめたままだった。泣いているような気がした。涙は流れていなかったけれど。 「どうしたの?」  彼女はようやく顔を上げ、隣の椅子を指差す。僕はその椅子に腰を下ろした。 「今日ね、仕事帰りの駅のホームで女の子が顔を切られたの。セーラー服の女の...

pale asymmetry | 2021.11.10 Wed 21:14

Sacrifice and bouquet

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「フフフ」  背後のソファーから微かな笑い声が聞こえてきて、僕は文庫本から顔を上げる。背中をだらしなくソファーに預けて、両脚はラグに投げ出して読書していたのだ。振り返ったソファーの上には彼女が横たわっている。微笑みながら、やわらかな寝息を立ている。次の瞬間、全身を鋭く歪ませて目を開けた。 「お帰り。笑っていたよ」 「そう。夢を見ていたの」 「どんな夢?」 「私は生け贄だった」 「生け贄? では君は夢の中で死んでしまったの?」 「い...

pale asymmetry | 2021.11.04 Thu 21:28

Lonely flower

JUGEMテーマ:ショート・ショート    朝はまだ走り出したばかりで、空気も眠気を完全に振り払えていないように思えた。空は薄曇り。でも日中は気持ち良く晴れる予報だ。ベランダにテーブルと椅子を出して、僕と彼女は卵かけご飯を食べる。大きなカップでカフェオレを飲みながら。冷たい風が微かに吹いていて、それがこの時間が空回りしていないことを証明しているように思えた。 「ねえ、誰もいない場所で花が咲くの。その花は満足かしら?」  彼女は空を見つめていた。眩しさはどこにもない空だったから、真っ...

pale asymmetry | 2021.10.30 Sat 20:52

招き鬼

JUGEMテーマ:ショート・ショート    パラシュートを開いて降下していた。眼下は一面海だった。少しだけ赤みがかった緑の水面が果てしなく広がっていた。その端っこは丸かったから、僕は孤独を感じた。その丸みが遠すぎて、僕はスタンドアローンなのだなという想いを強く感じたのだった。風がパラシュートを揺らす。音のない風が、音がないのに鋭く激しい風がパラシュートを揺らし、繋がる僕も揺らした。音がしないわけがないと思って、僕は耳を傾ける。すると微かに声が聞こえた。よく見知った声。呼んでいるようだ。...

pale asymmetry | 2021.10.22 Fri 21:25

Winter coming from …

JUGEMテーマ:ショート・ショート    季節の急勾配に耐えきれず、ダイニングにダルマストーブを出した。といってレプリカで、石炭ではなく電気で稼働するタイプ。だから煙突はない。代わりに小さなファンが付いていて、温風を吐き出して部屋を暖めてくれる。 「ねえ、冬ってどこから来ると思う?」  夕食の後、ダイニングテーブルの脇で、僕と彼女はレプリカストーブに椅子を寄せ、それぞれタブレット端末を見つめていた。 「大陸からじゃない? この寒さは大陸から南下してきた寒気の影響らしいから」 ...

pale asymmetry | 2021.10.17 Sun 21:30

The umbrella that doesn\'t know the rain

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「私、今日気づいたことがあるの」  夕食を食べながら、彼女が切り出した。 「何?」 「傘をね、買ったの。二ヶ月くらい前かな」 「うん」 「今日、午後から雨の予報だったじゃない。だからその傘を持っていったの」 「ああ、僕も今日は傘を持っていった」 「でも、結局降らなかったよね」 「うん、どちらかと言えば晴れ間も見えたね」 「そう、それで気づいたの。この新しい傘を手に入れてから、この傘を持っているときには雨に降られてないなって」 ...

pale asymmetry | 2021.10.11 Mon 21:22

Wise man\'s eye

JUGEMテーマ:ショート・ショート    リビングには、小さなランプが一つ灯っているだけだった。もう日はすっかり落ちていたから、その灯りだけでは明らかに不足していた。光だけではなく、熱も、そして柔らかさも不足しているように思えた。 「おかえり」  彼女はリビングの真ん中で、丸まって横たわっていた。極彩色のラグマットの上にいたはずだけど、部屋の薄暗さのせいでその極彩色はエネルギーを失っているみたいだった。 「ただいま。灯りはつけない方が良い?」 「うん、そうね」  彼女の周り...

pale asymmetry | 2021.10.05 Tue 21:54

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