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JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事に出かけるために玄関の扉を開けたら、そこに大叔父が立っていた。私と目が合うと、彼は何故か控えめにピースサインをする。顔は笑ってはいなかった。かなり深刻な表情で、私を真っ直ぐに見つめている。目の前の私の顔と、記憶のなかの私の顔を比べているのかもしれない。私と会うのは久しぶりだったから。しばらく待つと、彼はようやく笑った。 「やあ」 控えめだったピースが、高く掲げられた。 「どうも」 私は軽く頭を下げる。 「これから、仕事なんで...
pale asymmetry | 2022.04.14 Thu 21:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さな橋の上に、僕らはエアマットを敷いて寝そべった。傍らにはオニオンスープとコッペパン。早朝はまだ寒いし、お腹だって空くだろうから。 「風がないね」 君が囁く。風がないせいなのか、その声はすぐに川面に沈んだ。 「静かだね」 僕が囁く。その声も、川に落ちて流れていく。声にも質量はあったっけ。君に訊いてみたかったけれど、賢い問ではなさそうに思えて訊けなかった。 「夜と朝の混ざり方が濃厚だから、声が重く感じるね」 声を潜めて君が笑...
pale asymmetry | 2022.04.12 Tue 22:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート あなたは果実を拾う。歩道に散らばった果実。ビー玉より少し大きな果実。卵のような形をしている。色は深い紫。高貴というよりは世間知らずな印象。世界はそれを歓迎していそう。そんな果実を立ち止まってあなたは拾う。親指と人差し指で摘まみ上げ、パステルブルーの空に翳す。眩しそうに目を細めているけれど、しっかりと観察出来ているのかしら。何度か首を傾げて、短く息を吹きかける。 「ようこそ。何てね」 あなたははにかみ、その小さな果実を路面に戻した。これか...
pale asymmetry | 2022.04.11 Mon 20:53
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女を待つ間に眠ってしまった。リビングのソファーに横たわっていたはずなのに、いつの間にか床に寝そべっていた。冷たく硬い感触で目が覚めると、彼女が傍らに腰掛けていた。僕を覗き込んで笑っていた。 「お帰り」 彼女が言う。 「お帰り」 僕も言う。 「博士に会ったわよ」 どの博士かよく解らなかった。 「局所的逆転ハイブリッドの可能性について話し合ったって?」 僕は頷く、今日そのテーマでリモートミーティングしたことを思い出した。...
pale asymmetry | 2022.04.09 Sat 21:39
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事から帰って来ると、リビングのソファーで彼女が毛布に包まって横たわっていた。 「どうしたの?」 やわらかく閉じていた目を開け、彼女は長く息を吐く。たった今まで呼吸を忘れていたかのように。 「熱があるように思えて」 「計ってみる?」 彼女は微笑み首を振る。 「熱はないの。さっき計ったら平熱だったから。でも熱があるように思えるの。そういう眠気がするの」 「熱があるような眠気?」 「そう」 僕はソファーの脇に腰を下ろし、自...
pale asymmetry | 2022.04.06 Wed 21:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「この世界は昨日私が創造したの」 彼女が澄まし顔で言う。 「そしてその世界は、今日すでに僕が破壊してしまった」 僕も澄まし顔で返す。 「あなたが破壊したのは、きっと私の世界に擬態した誰かの世界だわ」 彼女はスパークリングウォーターのグラスに口を付ける。勢いよく傾け喉が鳴る。心地良い響きだ。世界の片隅でセキュリティーボックスのロックが解除された音みたいだ。 「それは擬態した世界だけど、その完成度はこの上なく精密で、だから最早クロ...
pale asymmetry | 2022.04.01 Fri 21:06
JUGEMテーマ:ショート・ショート 右耳の奥が痛い。正確には痛痒い。頭を振るとざらざらと音がする。いつからだろう? ついさっきからか、今朝からか、生まれてからずっとか。どれも当てはまるような気がするし、どれでも良いような気もする。どれであったとしても現状は変わらないし、対処の方法も変わらない。 頭を右に傾け、耳の上を掌で叩く。耳の奥で何かが揺れるのが解る。蠢いているような感じもするし、舞い踊っているような感じもする。もっと強く叩く。耳から小さな何かが飛び出て床に落ちた。膝を...
pale asymmetry | 2022.03.31 Thu 21:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート リビングのソファーでうつらうつらとしながら休日を過ごす。読みかけていた文庫本の続きを開いたけれど、それはすぐに胸の上に被さることになった。半覚醒の心地良い時間を漂う。朝なのか昼なのか、午前なのか午後なのか、よく解らなくなりどうでも良くなる。 「ねえ、起きて」 彼女が優しく僕の肩を揺する。 「エスプレッソをいれたよ」 上手く目が開かないまま上体を起こし、胸の文庫本が床に落ちる。その音が意外に大きく響き、この部屋は今平和が満ちているの...
pale asymmetry | 2022.03.25 Fri 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、戻ってきて」 指先で頬をつつかれる感触で目が覚める。いつの間にかリビングのソファーで眠っていたらしい。休日を利用して古いサイファイムービーを見てる途中で。この映画は何度見ても途中で眠ってしまう。哲学的すぎるのだ。 「ねえ、見て」 横たわったままの僕の鼻先に、彼女が差し出したのは何本かの鉛筆だった。鉛筆を見るのは久しぶりだ。鉛筆が必要な機会がなかったからだ。僕の日常は鉛筆というものから距離があるスタイルなんだろう。 「これね、...
pale asymmetry | 2022.03.17 Thu 21:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 玄関の扉を開けると、中は真っ暗だった。そういえば、彼は今朝ビジネストリップに出かけたのだった。一週間戻っては来ない。何だろう、とても空虚な感じがする。去年一年、互いにビジネストリップがなかったから、すっと同じ夜を過ごしていた。それが当たり前になっていたせいだろうか。 足りないような気がしてしまう。 急いで掻き集めないと、手遅れになってしまうような感じ。 取り敢えず家中の電気を付ける。音楽を流す。こういうときはケルトの音楽が良い。弾...
pale asymmetry | 2022.03.15 Tue 21:50
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