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JUGEMテーマ:ショート・ショート 森の奥深くは碧色の苔で隠されている。薄い膜で波打つ陽光が、苔の先端を煌めかせる。妖精のような煌めきで、僕はそこに妖精の幻影を見る。形はないし、動きもない。だって、妖精がどんな姿をしていてどんな風に振る舞うのかなんて僕は知らない。誰も僕にそれを教えてはくれなかったから。沢山の本を読んでみたけれど、そこに描かれている妖精は全部嘘だと僕には思えたんだ。 ノイズ、そしてノイズ。ラジオのアンテナをいっぱいに伸ばし、どちらの方向に傾けても拾い集めるこ...
pale asymmetry | 2022.04.25 Mon 21:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「物語って、必要なのかな?」 甥っ子が独り言のように声を零したとき、僕は地面を見つめていた。そこではイモムシがゆっくりと、でもクイックにも見える動作で行進していた。そう、イモムシは威風堂々と行進していた。とてもカラフルな模様のイモムシで、そのことに誇りを持っているのかもしれない、と思えた。それを世界に向かって強く主張したいのかもしれない、と思えた。 「物語がなかったら、僕らは困るのかな?」 強い日差しに、イモムシの模様がときどき煌めく...
pale asymmetry | 2022.04.23 Sat 21:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「海辺の道に、最近この黒い虫が多くなったわ」 彼女が顔の前でヒラヒラと手を振り呟く。確かに黒い虫が頼りなく飛び回っていた。 「こんな虫は初めて見るね」 彼女は頷き、捕まえようと手を振り回す。もちろん一つも捕まらない。虫だって賢いのだ。僕らと同じくらいか、僕ら以上に。 「例えば長い周期で増える虫なのかしら。それとも、どこかからたまたまこの春にここに運ばれてきたのかしら」 「さあ、どうだろう。海辺でしか見ないから、海と何か関係があるの...
pale asymmetry | 2022.04.18 Mon 21:36
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『完全な恐竜を見つけた』 弟からのメッセージ。私は卵に彩色していた手を止める。あれは何年前のことか、弟と二人で今日のように卵に彩色していたときのことだったはずだ。 「恐竜になれたらと思う」 弟はぽつりと言った。 「恐竜? どの恐竜?」 私は卵の方に夢中になっていたので、弟の顔を見ていなかった。 「具体的な恐竜じゃないんだ。概念としての恐竜だよ」 とても冷静な声が返ってきて、そこで初めて私は弟の顔に目を向ける。深刻な顔をして...
pale asymmetry | 2022.04.17 Sun 21:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ピンクムーンなのにちっともピンクじゃないわ」と君は嘆く。時刻は午前三時。僕らはベランダから空を見つめている。観月のためにここにいるわけじゃない。朝早くに君が旅立つから、いっそのこと眠らないで過ごそうと、ただだらだらと時間に身を任せていたのだった。 「ピンク色の月というわけではなく、ピンク色の季節の月ということらしいよ」 僕はホットワインのグラスに口を付け、その熱を夜空に放った。どのくらいの熱が、あの満月まで届くだろう。ほんの微かでも届け...
pale asymmetry | 2022.04.16 Sat 21:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 砂丘に吹く風は砂の曲面に沿って波打っていた。いや、それは逆だ。風が波打ちながら撫でるから、砂の曲面が作られるのだ。とても卑猥な関係のように思える。砂丘と風の関係が。それが凝縮したのが彼女かもしれない。そんな佇まいだった。そんな立ち居振る舞いだった。長い髪は奔放に錐揉みし、それだけが独立した生物のようだ。彼女に取り憑き犯している獣のようだった。聖なる卑猥な獣のようだった。 彼女が空に手を伸ばす。二本の腕を絡ませ、天に向かわせる。その先に存在...
pale asymmetry | 2022.04.15 Fri 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事に出かけるために玄関の扉を開けたら、そこに大叔父が立っていた。私と目が合うと、彼は何故か控えめにピースサインをする。顔は笑ってはいなかった。かなり深刻な表情で、私を真っ直ぐに見つめている。目の前の私の顔と、記憶のなかの私の顔を比べているのかもしれない。私と会うのは久しぶりだったから。しばらく待つと、彼はようやく笑った。 「やあ」 控えめだったピースが、高く掲げられた。 「どうも」 私は軽く頭を下げる。 「これから、仕事なんで...
pale asymmetry | 2022.04.14 Thu 21:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さな橋の上に、僕らはエアマットを敷いて寝そべった。傍らにはオニオンスープとコッペパン。早朝はまだ寒いし、お腹だって空くだろうから。 「風がないね」 君が囁く。風がないせいなのか、その声はすぐに川面に沈んだ。 「静かだね」 僕が囁く。その声も、川に落ちて流れていく。声にも質量はあったっけ。君に訊いてみたかったけれど、賢い問ではなさそうに思えて訊けなかった。 「夜と朝の混ざり方が濃厚だから、声が重く感じるね」 声を潜めて君が笑...
pale asymmetry | 2022.04.12 Tue 22:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート あなたは果実を拾う。歩道に散らばった果実。ビー玉より少し大きな果実。卵のような形をしている。色は深い紫。高貴というよりは世間知らずな印象。世界はそれを歓迎していそう。そんな果実を立ち止まってあなたは拾う。親指と人差し指で摘まみ上げ、パステルブルーの空に翳す。眩しそうに目を細めているけれど、しっかりと観察出来ているのかしら。何度か首を傾げて、短く息を吹きかける。 「ようこそ。何てね」 あなたははにかみ、その小さな果実を路面に戻した。これか...
pale asymmetry | 2022.04.11 Mon 20:53
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女を待つ間に眠ってしまった。リビングのソファーに横たわっていたはずなのに、いつの間にか床に寝そべっていた。冷たく硬い感触で目が覚めると、彼女が傍らに腰掛けていた。僕を覗き込んで笑っていた。 「お帰り」 彼女が言う。 「お帰り」 僕も言う。 「博士に会ったわよ」 どの博士かよく解らなかった。 「局所的逆転ハイブリッドの可能性について話し合ったって?」 僕は頷く、今日そのテーマでリモートミーティングしたことを思い出した。...
pale asymmetry | 2022.04.09 Sat 21:39
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