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JUGEMテーマ:ショート・ショート 風向が北に変わったから、僕らは毛布を取り出して身を寄せ合ってそれにくるまった。窓辺のソファーにだらしなく沈み込んだまま。風はゆるやかだったけれど、窓は全開だったから部屋はヒンヤリとした空気でひしめいていた。窓を閉めれば良いのだ。それだけで劇的に暖かくなる。でも僕らは毛布に包まる方を選ぶ。それが正しい世界だと思えたから。 午後の日差しはか弱い。灰色の雲が空を覆っていたから。それは極薄い雲だったけれど、それでも陽光は十分に希釈されていて、その...
pale asymmetry | 2022.05.03 Tue 22:27
JUGEMテーマ:ショート・ショート 空は灰色で青かった。青灰色という意味ではない。見上げた瞬間には灰色だと思うのだけど、しばらくじっと見つめているとその灰色が淡い青色に見えてくるのだ。だからたぶんその空の灰色成分は、青から出来ていたのだろう。そういう話を隣の弟に話すと、弟は何度か頷き「あるね、そういうことあるよ」と気持ちよさそうに笑う。そして傘を高く掲げる。 僕らは並んで歩いていた。二人とも買ったばかりの傘をさしていた。内側が黒、表側が瑠璃色の大きな傘。本当は一つで二人でも...
pale asymmetry | 2022.04.30 Sat 21:23
JUGEMテーマ:ショート・ショート あの日のことは憶えている。私は夜を通して目覚めていて、静かな朝をぼんやりとした頭で捉えていた。そこは広大な埋め立て地で、周囲にはまだ何もなかった。今は違うのだろう。沢山の施設が建ち並び、都市となっているのかもしれない。けれどそのときは何もなかった。 ときどき石が降ってくる不思議な場所だった。 私は殺陣のスキルをかわれてその場所にいたのだけれど、本当はそれは嘘だった。友達に誘われて、殺陣の経歴を詐称して潜り込んだのだ。その場所の仕事に。...
pale asymmetry | 2022.04.29 Fri 21:38
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ティラノサウルスは、どんな夢を見ていたのかしら?」 旅から戻った彼女は、空港で助手席に乗り込んだとたんにそうきりだした。「ただいま」を言う前に。ティラノサウルスが夢を見ていたことは確かだという前提で、その夢はどんなだったのかと。 「おかえりなさい」 とりあえず僕は言っておく。忘れないうちに。 「そうね、ただいま」 シートベルトを装着しながら彼女が笑う。けれど眼差しは真剣なままだ。 「ティラノサウルスは夢を見たのかな?」 ...
pale asymmetry | 2022.04.27 Wed 21:17
JUGEMテーマ:ショート・ショート 森の奥深くは碧色の苔で隠されている。薄い膜で波打つ陽光が、苔の先端を煌めかせる。妖精のような煌めきで、僕はそこに妖精の幻影を見る。形はないし、動きもない。だって、妖精がどんな姿をしていてどんな風に振る舞うのかなんて僕は知らない。誰も僕にそれを教えてはくれなかったから。沢山の本を読んでみたけれど、そこに描かれている妖精は全部嘘だと僕には思えたんだ。 ノイズ、そしてノイズ。ラジオのアンテナをいっぱいに伸ばし、どちらの方向に傾けても拾い集めるこ...
pale asymmetry | 2022.04.25 Mon 21:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「物語って、必要なのかな?」 甥っ子が独り言のように声を零したとき、僕は地面を見つめていた。そこではイモムシがゆっくりと、でもクイックにも見える動作で行進していた。そう、イモムシは威風堂々と行進していた。とてもカラフルな模様のイモムシで、そのことに誇りを持っているのかもしれない、と思えた。それを世界に向かって強く主張したいのかもしれない、と思えた。 「物語がなかったら、僕らは困るのかな?」 強い日差しに、イモムシの模様がときどき煌めく...
pale asymmetry | 2022.04.23 Sat 21:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「海辺の道に、最近この黒い虫が多くなったわ」 彼女が顔の前でヒラヒラと手を振り呟く。確かに黒い虫が頼りなく飛び回っていた。 「こんな虫は初めて見るね」 彼女は頷き、捕まえようと手を振り回す。もちろん一つも捕まらない。虫だって賢いのだ。僕らと同じくらいか、僕ら以上に。 「例えば長い周期で増える虫なのかしら。それとも、どこかからたまたまこの春にここに運ばれてきたのかしら」 「さあ、どうだろう。海辺でしか見ないから、海と何か関係があるの...
pale asymmetry | 2022.04.18 Mon 21:36
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『完全な恐竜を見つけた』 弟からのメッセージ。私は卵に彩色していた手を止める。あれは何年前のことか、弟と二人で今日のように卵に彩色していたときのことだったはずだ。 「恐竜になれたらと思う」 弟はぽつりと言った。 「恐竜? どの恐竜?」 私は卵の方に夢中になっていたので、弟の顔を見ていなかった。 「具体的な恐竜じゃないんだ。概念としての恐竜だよ」 とても冷静な声が返ってきて、そこで初めて私は弟の顔に目を向ける。深刻な顔をして...
pale asymmetry | 2022.04.17 Sun 21:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ピンクムーンなのにちっともピンクじゃないわ」と君は嘆く。時刻は午前三時。僕らはベランダから空を見つめている。観月のためにここにいるわけじゃない。朝早くに君が旅立つから、いっそのこと眠らないで過ごそうと、ただだらだらと時間に身を任せていたのだった。 「ピンク色の月というわけではなく、ピンク色の季節の月ということらしいよ」 僕はホットワインのグラスに口を付け、その熱を夜空に放った。どのくらいの熱が、あの満月まで届くだろう。ほんの微かでも届け...
pale asymmetry | 2022.04.16 Sat 21:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 砂丘に吹く風は砂の曲面に沿って波打っていた。いや、それは逆だ。風が波打ちながら撫でるから、砂の曲面が作られるのだ。とても卑猥な関係のように思える。砂丘と風の関係が。それが凝縮したのが彼女かもしれない。そんな佇まいだった。そんな立ち居振る舞いだった。長い髪は奔放に錐揉みし、それだけが独立した生物のようだ。彼女に取り憑き犯している獣のようだった。聖なる卑猥な獣のようだった。 彼女が空に手を伸ばす。二本の腕を絡ませ、天に向かわせる。その先に存在...
pale asymmetry | 2022.04.15 Fri 20:44
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