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掌編。超短編。など、名前は様々。
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Vase for burning flowers

JUGEMテーマ:ショート・ショート    リビングのソファーでうつらうつらとしながら休日を過ごす。読みかけていた文庫本の続きを開いたけれど、それはすぐに胸の上に被さることになった。半覚醒の心地良い時間を漂う。朝なのか昼なのか、午前なのか午後なのか、よく解らなくなりどうでも良くなる。 「ねえ、起きて」  彼女が優しく僕の肩を揺する。 「エスプレッソをいれたよ」  上手く目が開かないまま上体を起こし、胸の文庫本が床に落ちる。その音が意外に大きく響き、この部屋は今平和が満ちているの...

pale asymmetry | 2022.03.25 Fri 21:16

B pencil and pangolin

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「ねえ、戻ってきて」  指先で頬をつつかれる感触で目が覚める。いつの間にかリビングのソファーで眠っていたらしい。休日を利用して古いサイファイムービーを見てる途中で。この映画は何度見ても途中で眠ってしまう。哲学的すぎるのだ。 「ねえ、見て」  横たわったままの僕の鼻先に、彼女が差し出したのは何本かの鉛筆だった。鉛筆を見るのは久しぶりだ。鉛筆が必要な機会がなかったからだ。僕の日常は鉛筆というものから距離があるスタイルなんだろう。 「これね、...

pale asymmetry | 2022.03.17 Thu 21:44

Informal distance

JUGEMテーマ:ショート・ショート    玄関の扉を開けると、中は真っ暗だった。そういえば、彼は今朝ビジネストリップに出かけたのだった。一週間戻っては来ない。何だろう、とても空虚な感じがする。去年一年、互いにビジネストリップがなかったから、すっと同じ夜を過ごしていた。それが当たり前になっていたせいだろうか。  足りないような気がしてしまう。  急いで掻き集めないと、手遅れになってしまうような感じ。  取り敢えず家中の電気を付ける。音楽を流す。こういうときはケルトの音楽が良い。弾...

pale asymmetry | 2022.03.15 Tue 21:50

海へ還る足跡

JUGEMテーマ:ショート・ショート    毎日早朝と夕刻に犬と散歩している。海沿いの道を小一時間ほど。天気の良い夕刻には綺麗なサンセットを眺めながら歩いている。早朝の方は、この季節にはまだ暗い時刻なので、瞬く星座を楽しんだりしている。海沿いの道には海側に防潮堤が造られている。私の腰から胸の間くらいの高さの壁が海に沿って続いている。その向こう側には砂浜があるので、何カ所か防潮扉が設置されていて、それは普段は開放されているので、そこからコンクリートの階段を下りて砂浜にアプローチ出来るよう...

pale asymmetry | 2022.03.07 Mon 20:35

海の向こうのゴースト

JUGEMテーマ:ショート・ショート    仕事から帰ると、彼女がリビングのソファーに横たわってテレヴィジョンを見つめていた。仄かにハーブティーの香りがした。 「今日ね、映画を見たの」  彼女は今日休みだった。 「どんな映画を見たの?」  僕はソファーの前の床に腰を下ろす。テレヴィジョンには、ミサイルに破壊される電波塔が映し出されていた。海の向こうの戦争は激化する一方だ。何かが失われようとしている。とても大切な何かが。そう感じさせる映像だった。 「それはゴーストのお話だった」...

pale asymmetry | 2022.03.02 Wed 21:03

Departed title

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「面白い本を見つけたの」  仕事から帰ってきた彼女が分厚い書籍を翳す。 「帰りに何となく古書店に寄ったら、すごく惹かれる本に出会っちゃった」  その本は瑠璃色のハードカバーで、どういう表面処理をしているのかはよく解らないけれど、ところどころきらきらと玄関の照明を細かく弾いていた。 「綺麗な本だね」 「でしょう」  彼女が差し出すので、僕はその書籍を受け取る。表側にも裏側にも、タイトルの記述がない。もちろん著者名も記載されていない。 ...

pale asymmetry | 2022.02.27 Sun 20:39

Slow rain

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「雨が降っているわ」  彼女からの電話。電話の声を久しぶりに聞く。電話はもうメッセージだけを行き来させるデバイスになっていたから、少し新鮮で、そしてぎこちなくなる。 「冷たい雨よ」 「傘を持ってる?」 「いいえ、傘はないの」 「どこにいるの? 傘を持っていくよ」 「傘はいらないわ」 「でも冷たい雨なんでしょう?」 「でも傘はいらない。ゆっくりと降る雨だから」 「ゆっくりと降る雨?」 「そう。だから冷たいけれど、これは私を傷つ...

pale asymmetry | 2022.02.23 Wed 21:31

Life with pain

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「どこか遠いところで、死んでいるんだよ」  息子が唐突にそんなことを呟いた。二人で毛布に包まって、寒い夜を畏怖していたときのこと。まあ、畏怖していたのは私だけかもしれないけれど。 「何を思っているの?」  私の首元に頬を沈めて、息子は少しもぞもぞと蠢く。そうやって自分と私のパズルをより正確なものに仕上げようとしているのかもしれない。 「今日、先生が言っていたよ。海の向こうで、たくさんの命が消えているんだって。どの瞬間にも、この瞬間にも」...

pale asymmetry | 2022.02.17 Thu 21:13

鹿の呪文の呪文

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「伝説の通り、村人たちは皆叡智を得た。しかし五人の猟師は愚か者のままだった。お終い」  彼女は一気に話し終わると、ソーダ水のグラスを傾けた。二度喉を鳴らし、気持ちよさそうに大きく息を吐き出す。 「それで終わりなの?」 「そう」 「何だか、中途半端な物語だね」 「そう思う?」 「うん」  彼女は薄く笑う。旅人はこんな風に笑ったのだろうか。猟師たちは今の僕のように戸惑ったのだろうか。 「死んだのは、本当はどちらだったのかしら。猟師の...

pale asymmetry | 2022.02.14 Mon 20:46

待つことは時間を読むこと

JUGEMテーマ:ショート・ショート    彼女は静かに横たわっている。お腹と胸を地面に付け、息を潜めている。周囲にはサイズの大きな瓦礫が散乱していて、彼女の姿を隠している。守護しているわけではないから、彼女は常に周囲に気を配っている。 「こういうときって、どんな気分なの?」  僕は尋ねている。横たわっている彼女にではなく、ソファーに沈み込んでコントローラーを握りしめている方の彼女に。 「普通だよ」  答えているときも、彼女の目はテレヴィジョンの画面にフォーカスされている。彼女...

pale asymmetry | 2022.02.08 Tue 21:42

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