[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
JUGEMテーマ:ショート・ショート 北からの風は冷たかったけれど、陽光はなかなかに鋭かった。海は南側に広がっていたから、背中に風を受けることになる。陽光は真上から。水面は細かく波打ち、キラキラの衣を纏っていた。 「何を狙っているの?」 恋人は忙しなく竿とリールを操っている。防波堤の上に立ち、動作とは裏腹に水面を優しく見つめている。僕は防波堤の上に腰を下ろし、というか半ば寝そべるような姿勢で、ラインの先端がキラキラを切り裂くのを眺めていた。 「とくに何って言うのはないよ」...
pale asymmetry | 2023.01.29 Sun 20:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 私たちは、手を繋いで歩いた。夕暮れ時、風はとても冷たい。青空が広がっているのに、どこからか微細な雨粒が風に運ばれてくる。 「誰かが泣いているのかもしれない……」 あなたが囁く。声が風に流される。だから上手く聞き取れなかったけれど、私は聞き返すことはしなかった。声がよく聞こえなくても、あなたの想いは私の内側に響いていたから。 「日が長くなったから」 私がそう言うと、あなたは首を傾げる。空を見つめ、私を見つめ、微かに頷く。...
pale asymmetry | 2023.01.28 Sat 19:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート ベランダに降り積もった雪で、彼女は小さな雪だるまを作った。僕らはそれを挟むように椅子を並べ、アイスクリームを食べた。雪はもう降ってはいなかったけれど、もちろん空気は凍てついている。だからモコモコに着込んで、ホットワインを飲みながらカップからアイスを掬う。こういうことをして、僕らは魂をアイスクリームに救われたりするのだ。なんて大げさに、不謹慎に考えたりしながら、のんびりとアイスを食べる。 「良いこと思いついた」 彼女はそう言って、アイスの...
pale asymmetry | 2023.01.25 Wed 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「失われた大陸だわ」 唐突に彼女が言う。僕らはそのとき寝転んでこたつに埋没して、互いに自分のタブレットを眺めていた。夕食のあと、シャワーも済ませ、歯磨きもして、このままここで眠ってしまおうと企んでいた。 「失われた大陸?」 僕が尋ねると、彼女はこたつを指差す。 「この状況よ」 僕は首を回してこたつを見つめる。どこにも大陸は見当たらない。いや、大陸はもう失われているのか。 「巨大な双頭のカメが、大洋を回遊しているの」 彼女が...
pale asymmetry | 2023.01.19 Thu 21:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると、キッチンの大きなダイニングテーブルの真ん中にキャンバスが横たわっていた。周りには色とりどりの絵の具のチューブが散乱し、残りのスペースで彼女が正座してキャンバスと向かい合っていた。衣服や腕には絵の具が飛び散っている。何度も首を傾げ、彼女はチューブから直接キャンバスに絵の具を付け筆を操る。 「ただいま」 「おかえり」 キャンバスから目を離さずに彼女は答える。僕はテーブルの脇に立ち、キャンバスを覗く。虹色の翼が描かれていた。 ...
pale asymmetry | 2023.01.13 Fri 20:58
JUGEMテーマ:ショート・ショート モニタのなかで、奇妙な獣が歩いている。それは黒い獣だ。四肢は長く、尾は竹箒のような形。頭はない。本来頭のあるところには、真紅の目玉が三つあるだけだった。黒い奇妙な獣は、揺らぐように歩く。ときどき立ち止まり、来た道を振り返る。そしてまた歩き出す。眼球だけで空を見上げたり、地面を睨んだりしながら、ゆっくりと歩く。一定のリズムで揺らぎながら。 「これは、何だい?」 僕は思わず尋ねる。 「生物だよ。オリジナルの」 甥っ子は得意げに答える。...
pale asymmetry | 2023.01.08 Sun 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 私たちはモコモコに着込んで歩いている。都市から遠く離れた海辺の町で、街灯の少ない国道沿いの歩道を彷徨うように歩いている。北風はゆるやかだけどとても冷たい。それは鋭い冷たさではなく、重く鈍い冷たさだった。 「今日は満月なんだよね?」 私が尋ねると、彼は微かに頷く。今、何かこの場所とはかけ離れたことを考えていたのだろう。私に顔を向けるまでのタイムラグが長かった。 「何時頃満ちるの?」 彼ははにかむ。そして少し寂しそうに私を見つめる。 ...
pale asymmetry | 2023.01.07 Sat 21:11
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さなベランダで、僕らはバケツを挟んで向かい合い腰掛けている。片手にはホットワイン、もう片方の手には火花を持っている。夕刻まで強く吹いていた北風は日没と共に弱まり、真夜中が近い今は空気がただ重く沈んでいる。僕たちの吐く息の白色も、流れることなく拡散する。 「可愛いね」 彼女が火花を見つめて呟く。 「うん、綺麗だ」 僕も火花を見つめて呟く。僕らは真冬の夜に線香花火を楽しんでいた。年をまたぐ瞬間に何をしていたいか、ということを二人で考...
pale asymmetry | 2022.12.31 Sat 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 目を覚ましたのは正午過ぎだ。分厚いカーテンがしっかりと閉じられていたから、部屋は薄闇に沈んでいた。でも窓の一つが全開で、吹き込む風が部屋に光の斑を描いたりしていた。そして寒かった。それで目が覚めたのだ。身体はひどく重かったけれど、寒さには耐えられず、僕は起き上がって窓を閉めた。陽光はそれなりに強く、庭に薄く積もった雪は所々溶けていた。それは意味のある模様のように見えて、この家の上空を通過する誰かに向けたメッセージのようにも見えた。たぶんその意...
pale asymmetry | 2022.12.25 Sun 17:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事は正午で切り上げた。雪のせいにして僕らは家に籠もる。食材とアルコールを両手に抱えて、世界が閉ざされることに歓喜したりしてる。不謹慎なのは重々承知している。でも僕らは心を偽れない。本当は世界なんていらないと思っていたりするんだ。世界が失われれば、僕らも失われてしまうのにね。そのことをよくよく知っているのに、そう思ってしまうのは何故だろう。 理由なんてない。理由なんていらないんだ。 君はキッチンで踊り出す。リビングのモニタからオルタナ...
pale asymmetry | 2022.12.24 Sat 20:41
全1000件中 131 - 140 件表示 (14/100 ページ)