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JUGEMテーマ:ショート・ショート 私たちはモコモコに着込んで歩いている。都市から遠く離れた海辺の町で、街灯の少ない国道沿いの歩道を彷徨うように歩いている。北風はゆるやかだけどとても冷たい。それは鋭い冷たさではなく、重く鈍い冷たさだった。 「今日は満月なんだよね?」 私が尋ねると、彼は微かに頷く。今、何かこの場所とはかけ離れたことを考えていたのだろう。私に顔を向けるまでのタイムラグが長かった。 「何時頃満ちるの?」 彼ははにかむ。そして少し寂しそうに私を見つめる。 ...
pale asymmetry | 2023.01.07 Sat 21:11
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さなベランダで、僕らはバケツを挟んで向かい合い腰掛けている。片手にはホットワイン、もう片方の手には火花を持っている。夕刻まで強く吹いていた北風は日没と共に弱まり、真夜中が近い今は空気がただ重く沈んでいる。僕たちの吐く息の白色も、流れることなく拡散する。 「可愛いね」 彼女が火花を見つめて呟く。 「うん、綺麗だ」 僕も火花を見つめて呟く。僕らは真冬の夜に線香花火を楽しんでいた。年をまたぐ瞬間に何をしていたいか、ということを二人で考...
pale asymmetry | 2022.12.31 Sat 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 目を覚ましたのは正午過ぎだ。分厚いカーテンがしっかりと閉じられていたから、部屋は薄闇に沈んでいた。でも窓の一つが全開で、吹き込む風が部屋に光の斑を描いたりしていた。そして寒かった。それで目が覚めたのだ。身体はひどく重かったけれど、寒さには耐えられず、僕は起き上がって窓を閉めた。陽光はそれなりに強く、庭に薄く積もった雪は所々溶けていた。それは意味のある模様のように見えて、この家の上空を通過する誰かに向けたメッセージのようにも見えた。たぶんその意...
pale asymmetry | 2022.12.25 Sun 17:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事は正午で切り上げた。雪のせいにして僕らは家に籠もる。食材とアルコールを両手に抱えて、世界が閉ざされることに歓喜したりしてる。不謹慎なのは重々承知している。でも僕らは心を偽れない。本当は世界なんていらないと思っていたりするんだ。世界が失われれば、僕らも失われてしまうのにね。そのことをよくよく知っているのに、そう思ってしまうのは何故だろう。 理由なんてない。理由なんていらないんだ。 君はキッチンで踊り出す。リビングのモニタからオルタナ...
pale asymmetry | 2022.12.24 Sat 20:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 深夜、私たちは小さなベランダで、パンプキンプリンを食べている。北風は荒々しく吹いているけれど、ベランダは南に面しているから、巻き込む僅かな枝葉だけがベランダを攪拌している。私たちは小さな椅子を並べて腰掛けている。それだけでもうベランダにはスペースがない。とても小さな宇宙。だから私たちはこのベランダを気に入っている。 「寒いね」 彼が白い言葉を吐き出し、私に肩を寄せる。モコモコのパーカーを羽織っているので、そのフードが私の頬を撫で心地良い...
pale asymmetry | 2022.12.22 Thu 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート あの人の夢を見た。私たちは裸で抱き合っていた。今より少し若かった。実際に抱き合っていたあの頃の私たちよりも少し若い二人だった。見知らぬ部屋の見知らぬソファーに、私たちは横たわっていた。部屋は快適な温度だったけれど、エアコンディショナーの稼働音はひどくうるさかった。レースのカーテンの向こうから午後の強い日差しと共に、微かな風が微かな海の香りを運んでいた。 「ねえ」 あなたが私の耳元で囁いた。 「あなたになら……」 あなた...
pale asymmetry | 2022.12.21 Wed 20:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 日曜日の午後、僕たちは窓のない部屋で話し合う。外は冷気が渦を巻いている。その渦が猛威を振るい、世界の色を滲ませているらしい。僕らはエアーコンディショナーが完璧に制御する部屋の、少し銀色がかった照明の下で、のんびりと紅茶を飲んだりしながら、4℃の可能性について話し合ったりしている。 君は安楽椅子にだらしなく身体を沈ませ、「少し暑いような気がしない?」と何度も問いながら、4℃は決して洗練されたフェノメノンではないと主張する。僕はビーズクッションに...
pale asymmetry | 2022.12.18 Sun 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「木を隠すなら森の中、って言うでしょう」 よく解らない例えを持ち出す彼女と一緒に、僕は閑静な住宅街を歩いている。日没時刻から三十分くらい、家々の窓には明かりが灯っている。その明かりが北風の冷たさを和らげてくれた。 「そこを曲がったところよ」 言っている途中で彼女の姿が角の向こうに消える。僕は慌てて追いかける。角を曲がると行き止まりで、そこに店はあった。カラフルな電飾の看板には、カタカナでフラワーサースデイと書かれている。その文字の隣で...
pale asymmetry | 2022.12.15 Thu 19:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「昨日の夢に怪物が出てきたんだ」 早朝にやってきた甥っ子が言う。真っ直ぐな眼差しで僕を突き刺す。眠気が一瞬で吹き飛んだ。 「怪物? 怪獣じゃなくて?」 「うん怪物。モンスター、というかファントムだね」 甥っ子は最近英語教室に通い始めていた。 「ああ、人の形をしていたんだね」 「というか、人みたいな形ね」 その違いにこだわる気持ちは、僕にも何となく解った。人の形は人を超えていないけれど、人みたいな形は人を超えていると言いたいの...
pale asymmetry | 2022.12.08 Thu 20:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰るとクリスマスツリーのようなものが飾られていた。ようなものと感じたのは、ツリーの飾り付けが全て歯車だったからだ。大小の銀色の歯車が雪の結晶のようにツリーに纏わされていた。 「お帰り」 ソファーに寝転んでいた彼女が微笑む。 「ただいま。これは?」 ツリーに近づき、僕は歯車を観察する。金属のような質感に見えたけれど触れてみると樹脂製のようだった。 「クリスマスツリーだよ、もちろん」 「これが?」 彼女が手招くので、僕はソ...
pale asymmetry | 2022.12.07 Wed 21:28
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