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JUGEMテーマ:ショート・ショート 早朝から雨が降り出して、風も強まった。休日だったけれど、僕も彼女もどこかに出かけようかという気分にはなれなかった。二人とも朝早くに目覚めてしまい、窓の外の世界に少しだけがっかりして、時間と思考を空回りさせたりした。一日は長いから、僕らは取り敢えずモフモフした部屋着に着替え、リビングのソファーのまえにモフモフのラグを敷き、アウトドア用の小さなアルミテーブル出してそこにカップを二つ並べ、ホットワインを注いだ。そして身体を寄せ合って横たわる。 「...
pale asymmetry | 2022.12.05 Mon 21:53
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「少し寒いね」 彼女が僕に肩を寄せる。 「北風だからね」 僕も彼女に肩を寄せる。行き来する熱は、僕らの間で留まることなく、やがては空気に拡散していく。そして北風に煽られ、鼠色の空に入力される。空を覆い尽くす鼠色は僕らみたいに肩を寄せあっている人たちの熱で出来上がっているのかもしれない。 「傷ついている気分になりそう」 彼女が微かに笑う。 「空の色のせいで?」 彼女は頷き、そして首を振る。 「風が空を撫でているせいかな」 ...
pale asymmetry | 2022.11.30 Wed 17:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さな青い気球は、風のない灰色の空に真っ直ぐに上昇していった。小さな青い気球は小さな石版を乗せていた。その石版には文字のようなものが刻まれていたけれど、それは僕が今までに目にしたことのあるどんな言語の文字でもなかった。まあそれは当然で、その文字は僕の甥っ子が考え出したオリジナル言語の文字だった。 「あの石版には、なんて書いてあったの」 並んで空を見上げながら、僕は甥っ子に尋ねた。灰色の空はそれなりに明るく、でも目を細めるほどでもないから...
pale asymmetry | 2022.11.25 Fri 21:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、賢者の声が聞こえない?」 公園の前で立ち止まり、彼女が囁く。僕も立ち止まり、耳を傾ける。「ホー、ホー」と微かな鳴き声が聞こえた。 「確かに、フクロウの声だ」 新月の夜、公園の周りは住宅街で、真夜中の今はか弱い街灯の光以外は分厚い闇に塗りつぶされている。芳醇な夜に支配されていた。 「私たちを呼んでいるのかも」 「あるいは、月の不在を嘆いているのかもね」 僕らは公園の闇に目を向け、見えないフクロウの動向を探る。でも、アイス...
pale asymmetry | 2022.11.22 Tue 21:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると、リビングのソファーで毛布に包まった彼女が横たわっていた。 「ただいま」 「おかえり」 毛布の中からくぐもった彼女の声が聞こえる。見たことのない毛布だった。 「毛布、買ったの?」 「そう。この冬のために新しいのを買ったの。それで寝心地を確かめてるの」 毛布全体がもぞもぞと蠢き、彼女が顔を出した。 「暑くないの?」 「エアコンがかかっているから大丈夫」 そういえば部屋はひんやりとしていた。彼女が顔の横に右手を出...
pale asymmetry | 2022.11.20 Sun 20:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート キッチンとリビングの間にある大きなダイニングテーブルに、小さな漆器が二つ並んで置かれていた。少し朱色がかった黒い地色に金で複雑な紋様が描かれている。どこか方程式のようにも見える紋様だった。これが方程式なら、別の宇宙のそれだろう。そこはこの宇宙とは違う素粒子とその振る舞いで構築されているのだろうと思えた。 「ただいま」 ダイニングテーブルに頬杖をついて、彼女がじっと二つの漆器を見つめていた。その漆器たちから何かの事象を読み取ろうとするよう...
pale asymmetry | 2022.11.13 Sun 20:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大学時代の友人から久しぶりの電話。 「ぼくのXを知らないだろうか?」 開口一番彼はそう言った。 「エックス?」 僕は聞き返す。 「エックスって、変数とかに使うアルファベットのXかい?」 「ああ、そうだ。まさにその変数だよ。君なら解ってくれると思っていたよ」 僕は戸惑う。何も解っていないから。 「君はさっきぼくのXと言ったけれど、ということは一度手にしたXを見失ったということなのかな?」 「まさにその通りだ。本当に君は話が早...
pale asymmetry | 2022.11.09 Wed 20:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ロールケーキは?」 僕が尋ねると、甥っ子はすぐさま笑顔で頷く。 「いいね。ロールケーキはすごく怪物っぽいよ」 日曜日の午後、僕らは海辺の遊歩道を散歩していた。強い陽光が海面を騒々しく煌めかせている。それが巨大な怪物の皮膚のようだと僕が言ったら、世界には怪物の素材が溢れていると甥っ子が言い出したのだ。 「どの辺りが怪物っぽいの?」 「ロールケーキの断面には数字の6が見えるでしょう? 6は怪物の数字だから」 甥っ子が自信たっぷりに...
pale asymmetry | 2022.11.06 Sun 20:18
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰り着くと、リビングが雲母で満ちていた。正確には雲母という文字で満ちていた。水墨の文字で。 「お帰り」 リビングとキッチンの間にある大きなダイニングテーブルの上で、正座している彼女が振り向く。 「ただいま。習字?」 「そう」 彼女は筆でさらに一枚雲母と書き、それをリビングの雲母の群にくわえる。 「どの雲母が好み?」 僕はリビングを見回し、ソファーの端の一枚を手に取る。 「これかな」 「どうして?」 「何というか、...
pale asymmetry | 2022.11.02 Wed 21:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「眠いわ」 彼女が大きく口を開いて欠伸する。 「眠いね」 僕は欠伸をかみ殺す。そしてグラスのソーダ水を一気に飲み干す。心地良かったけれど眠気は覚めない。 「もう今日休もうかな」 「良いんじゃない」 頷きながら、僕はアツアツの卵かけご飯を口に運ぶ。 「あなたも休めば良いんじゃない?」 卵かけご飯を食べる手を止めずに、僕は肩を竦める。 「休まない」 「どうして?」 「休む理由がないな」 「理由がなくちゃ、休んじゃ駄目...
pale asymmetry | 2022.10.30 Sun 21:20
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