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JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると、リビングのソファーで毛布に包まった彼女が横たわっていた。 「ただいま」 「おかえり」 毛布の中からくぐもった彼女の声が聞こえる。見たことのない毛布だった。 「毛布、買ったの?」 「そう。この冬のために新しいのを買ったの。それで寝心地を確かめてるの」 毛布全体がもぞもぞと蠢き、彼女が顔を出した。 「暑くないの?」 「エアコンがかかっているから大丈夫」 そういえば部屋はひんやりとしていた。彼女が顔の横に右手を出...
pale asymmetry | 2022.11.20 Sun 20:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート キッチンとリビングの間にある大きなダイニングテーブルに、小さな漆器が二つ並んで置かれていた。少し朱色がかった黒い地色に金で複雑な紋様が描かれている。どこか方程式のようにも見える紋様だった。これが方程式なら、別の宇宙のそれだろう。そこはこの宇宙とは違う素粒子とその振る舞いで構築されているのだろうと思えた。 「ただいま」 ダイニングテーブルに頬杖をついて、彼女がじっと二つの漆器を見つめていた。その漆器たちから何かの事象を読み取ろうとするよう...
pale asymmetry | 2022.11.13 Sun 20:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大学時代の友人から久しぶりの電話。 「ぼくのXを知らないだろうか?」 開口一番彼はそう言った。 「エックス?」 僕は聞き返す。 「エックスって、変数とかに使うアルファベットのXかい?」 「ああ、そうだ。まさにその変数だよ。君なら解ってくれると思っていたよ」 僕は戸惑う。何も解っていないから。 「君はさっきぼくのXと言ったけれど、ということは一度手にしたXを見失ったということなのかな?」 「まさにその通りだ。本当に君は話が早...
pale asymmetry | 2022.11.09 Wed 20:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ロールケーキは?」 僕が尋ねると、甥っ子はすぐさま笑顔で頷く。 「いいね。ロールケーキはすごく怪物っぽいよ」 日曜日の午後、僕らは海辺の遊歩道を散歩していた。強い陽光が海面を騒々しく煌めかせている。それが巨大な怪物の皮膚のようだと僕が言ったら、世界には怪物の素材が溢れていると甥っ子が言い出したのだ。 「どの辺りが怪物っぽいの?」 「ロールケーキの断面には数字の6が見えるでしょう? 6は怪物の数字だから」 甥っ子が自信たっぷりに...
pale asymmetry | 2022.11.06 Sun 20:18
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰り着くと、リビングが雲母で満ちていた。正確には雲母という文字で満ちていた。水墨の文字で。 「お帰り」 リビングとキッチンの間にある大きなダイニングテーブルの上で、正座している彼女が振り向く。 「ただいま。習字?」 「そう」 彼女は筆でさらに一枚雲母と書き、それをリビングの雲母の群にくわえる。 「どの雲母が好み?」 僕はリビングを見回し、ソファーの端の一枚を手に取る。 「これかな」 「どうして?」 「何というか、...
pale asymmetry | 2022.11.02 Wed 21:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「眠いわ」 彼女が大きく口を開いて欠伸する。 「眠いね」 僕は欠伸をかみ殺す。そしてグラスのソーダ水を一気に飲み干す。心地良かったけれど眠気は覚めない。 「もう今日休もうかな」 「良いんじゃない」 頷きながら、僕はアツアツの卵かけご飯を口に運ぶ。 「あなたも休めば良いんじゃない?」 卵かけご飯を食べる手を止めずに、僕は肩を竦める。 「休まない」 「どうして?」 「休む理由がないな」 「理由がなくちゃ、休んじゃ駄目...
pale asymmetry | 2022.10.30 Sun 21:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ネットワークって大事だよね?」 香月さんはそう言って太陽に顔を向けた。目を細めて、何度か頷く。自分の言葉に頷いたのか、陽光に対して頷いたのかは解らなかった。 「ネットワークって、何の?」 僕は除菌シートで香月さんの右手を拭きながら訊く。香月さんは首を傾げて、僕の顔を覗き込む。 「君はネットワークを知らないの?」 「ネットワークって言葉なら知ってるよ。でも香月さんが大事だって言うネットワークが何のネットワークか解らないから。ネット...
pale asymmetry | 2022.10.29 Sat 21:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「やあ、久しぶりだね。最近はどんな感じだい?」 モニタの中の友人が笑顔で問い掛けてくる。私はただ黙ってモニタを見つめる。 「相変わらずな感じだね」 友人は僅かに肩を竦めた。 「久しぶりに君を見つめると、不思議な気分になるよ」 モニタのすみにデジタル数字が現れていて、友人が話すたびにカウントダウンが始まる。数字がゼロになると彼は次の言葉を発する。そういうルールだった。スタートの数字は一定ではなく、例えば今ならば二十五秒から始まった...
pale asymmetry | 2022.10.27 Thu 21:18
JUGEMテーマ:ショート・ショート バスを降りると、夕日と目が合った。海に向かって傾く夕日。でもまだ水平線まで少し距離があるからか、茜には染まっていない。でもそれは艶の強い黄色、あるいは金色で、十分に綺麗な夕日だった。何だか久しぶりに夕日と出会ったような気がして、新鮮な心持ちになる。バス停のすぐ脇には小さなビーチがあって、そこにベンチがあったから、少し眺めてから帰ろうと私は足を向けた。 ベンチには先客がいて、その人も夕日と向かい合っていた。花束を抱えた老婦人で、真摯な表情を...
pale asymmetry | 2022.10.26 Wed 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日は未来の日なんだって」 仕事から帰ると、待ち構えていたかのように彼女が言う。いや、実際に待ち構えていたのだろう。 「でも、その未来はもう過去なんだって」 「えーっと、どういう意味?」 「その意味はどうでも良いの。知りたければあとでググって。本題はそこではないから」 彼女はソファーに腰を下ろし、僕を手招く。 「じゃあ、本題というのは?」 僕は彼女の隣に沈み込んだ。今日のソファーはいつもよりやわらかく感じた。 「つまり、...
pale asymmetry | 2022.10.21 Fri 20:13
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