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JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると甘い香りで満たされていた。リビングの床に、ピンクの花が敷き詰められている。その花が甘い香りを放っていたのだった。 「お帰り」 ソファーに横たわる彼女が僕を見て微笑む。モフモフした毛布を首まであげていたから、猫のように見えた。 「ねえ、見て。面白いよ」 彼女が毛布から右手だけを出しテレヴィジョンを指差す。そのモニターには走る少女の映像が映し出されている。学校の制服のような、でも制服にしてはガーリー過ぎる衣装の女の子が都市を...
pale asymmetry | 2023.03.29 Wed 21:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 土曜日、僕も彼女も久しぶりの休日だったからたっぷりと眠った。とろけてベッドに染み込んでしまうくらい眠り続けた。 「ねえ、まだ眠る?」 彼女の声で世界に呼び戻されたとき、カーテンは鋭い陽光を過剰に孕んで発光していた。 「何時だろう?」 「11時30分」 「少しお腹が減ったな」 「私は喉が渇いたわ」 僕らはもぞもぞと互いを支え合い、覚束ない足取りでキッチンへと移動した。そのままダイニングテーブルに倒れ込み、彼女はミネラルウォーターを...
pale asymmetry | 2023.03.18 Sat 20:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると、リビングのテーブルに数字が並んでいた。3と1と4の数字だった。それらの数字はチョコレートで出来ていた。 「どう?」 ソファーに寝転ぶ彼女が尋ねてくる。 「パイだね」 そう答えると、彼女は満足そうに頷く。 「ホワイトデーと絡めて、チョコでパイを作ってみました」 彼女は立ち上がりキッチンへ。そこで冷蔵庫からガラスの器を取り出す。器には3と1と4がびっしりと詰まっていた。 「大盛りのパイだ」 「そうパイに溢れる世界を表現...
pale asymmetry | 2023.03.14 Tue 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事から帰ると、彼はリビングのソファーに横たわっていた。胸の上で両手を噛み合わせるように握り、硬く目を閉じていた。それはまるで棺に納められた人のように見えた。ただ、死者には見えなかった。彼はまだたくさんの付随するものを纏っているのを感じられたから。彼は重そうに見えた。自分の質量を持て余しているような気がした。私はそっと彼に近づき、耳元に顔を近づけ囁いた。 「重いの?」 彼は目を閉じたまま、小さく頷く。 「そうだね」 「沈んでしまいそ...
pale asymmetry | 2023.03.11 Sat 20:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ある朝目を覚ましたら、自分以外に誰もいなくなっていたと仮定して」 彼女はリビングのテーブルに頬を横たわらせ、窓の向こうを見つめている。 「どんなに探し回っても、世界には自分一人しかいないと結論づけるしかないという状況なの」 「うん」 僕はソファーに身を沈めて、彼女と同じように窓の外を見つめている。 「そのときあなたは、自分一人だけが世界に取り残されたと思うかしら」 窓の外はどんよりと曇っていて、街路樹の様子から強い風が吹いて...
pale asymmetry | 2023.03.03 Fri 20:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 早朝、スマートフォンのコールで起こされる。 「今、扉の前にいるよ」 甥っ子の声。よろけながらベッドを後にし、玄関のドアを開ける。レインコートを纏った甥っ子が立っている。外の空気は冷たく硬く、そして強く流れていた。 「どうこれ?」 両腕を広げて、甥っ子はレインコートを僕にお披露目する。寒風と雨滴が玄関に入ってくるのに、ドアを閉めてはくれない。サフランイエローとモスグリーンのコートはたぶん寒さを完璧に撥ね除けているのだろう。 「いい...
pale asymmetry | 2023.03.02 Thu 18:58
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは花を買った。彼女の思いつきで。午後の陽光は強く、風の冷たさを無効化するのに十分だった。だから花が必要だと彼女は思ったのかもしれない。花屋により、吟味して、いくつかの花を彼女は手に入れた。見知らぬ花ばかりだった。 「あなたはもう少し花に興味を持った方が良いわ」 彼女が笑う。僕も笑う。その花たちの色と形を、僕はちゃんと見つめて記憶した。そして僕らは海辺まで歩き、砂浜に腰を下ろした。 「あの人は、何をしているのかしら?」 彼女が目...
pale asymmetry | 2023.02.28 Tue 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼はリビングのソファーに身体を投げ出すように横たわっている。やわらかく目を閉じているから、眠っているのかもしれない。あるいは瞑想しているようにも見える。瞑想中にうっかり身体から抜け出てしまって、別の宇宙を旅している最中のようにも見える。表情が穏やかだから、迷っているようには見えない。でも彼はどんなときも穏やかな表情だから、本当にそうなのかは私には解らない。 「ただいま」 私はそっと彼に声をかける。彼は目を開け小さく頷く。 「お帰り」 ...
pale asymmetry | 2023.02.22 Wed 20:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事から家に帰ると、彼女がリビングのソファーに倒れ込んでいた。朝仕事に出かけて行ったときの服装。ソファーの脇にはそのとき持って行った鞄も投げ出されていた。 「ただいま」 「お帰り」 ソファーに顔を伏せたままで、くぐもった声が返ってきた。 「疲れてる感じ?」 「溶けてる感じ」 顔を僕に向け、彼女は微妙な感じで笑う。 「溶けてる感じ?」 「そう。雪が溶ける感じ。雪のまま舞い落ちては来ず、溶けて雨として落下してくる感じ」 よ...
pale asymmetry | 2023.02.19 Sun 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「南風って、こましゃくれているわね」 彼女が芝生に寝転がりながら小さく叫ぶ。 「僕は結構癒されるけどね」 彼女の隣に僕も寝転んでみる。陽光が強すぎるので、芝生は電気カーペットくらい暖かい。それに乾いていて、メタバースチックだった。 「じゃあ、あなたには母性の強い存在なの?」 「南風が?」 「ええ」 「母性は感じないな。親しい友達みたいな感じかな」 僕は上半身を起こし、風景を見下ろす。僕らは山の中腹の公園にいて、そこからは斜...
pale asymmetry | 2023.02.17 Fri 18:43
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