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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ある朝目を覚ましたら、自分以外に誰もいなくなっていたと仮定して」 彼女はリビングのテーブルに頬を横たわらせ、窓の向こうを見つめている。 「どんなに探し回っても、世界には自分一人しかいないと結論づけるしかないという状況なの」 「うん」 僕はソファーに身を沈めて、彼女と同じように窓の外を見つめている。 「そのときあなたは、自分一人だけが世界に取り残されたと思うかしら」 窓の外はどんよりと曇っていて、街路樹の様子から強い風が吹いて...
pale asymmetry | 2023.03.03 Fri 20:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 早朝、スマートフォンのコールで起こされる。 「今、扉の前にいるよ」 甥っ子の声。よろけながらベッドを後にし、玄関のドアを開ける。レインコートを纏った甥っ子が立っている。外の空気は冷たく硬く、そして強く流れていた。 「どうこれ?」 両腕を広げて、甥っ子はレインコートを僕にお披露目する。寒風と雨滴が玄関に入ってくるのに、ドアを閉めてはくれない。サフランイエローとモスグリーンのコートはたぶん寒さを完璧に撥ね除けているのだろう。 「いい...
pale asymmetry | 2023.03.02 Thu 18:58
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは花を買った。彼女の思いつきで。午後の陽光は強く、風の冷たさを無効化するのに十分だった。だから花が必要だと彼女は思ったのかもしれない。花屋により、吟味して、いくつかの花を彼女は手に入れた。見知らぬ花ばかりだった。 「あなたはもう少し花に興味を持った方が良いわ」 彼女が笑う。僕も笑う。その花たちの色と形を、僕はちゃんと見つめて記憶した。そして僕らは海辺まで歩き、砂浜に腰を下ろした。 「あの人は、何をしているのかしら?」 彼女が目...
pale asymmetry | 2023.02.28 Tue 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼はリビングのソファーに身体を投げ出すように横たわっている。やわらかく目を閉じているから、眠っているのかもしれない。あるいは瞑想しているようにも見える。瞑想中にうっかり身体から抜け出てしまって、別の宇宙を旅している最中のようにも見える。表情が穏やかだから、迷っているようには見えない。でも彼はどんなときも穏やかな表情だから、本当にそうなのかは私には解らない。 「ただいま」 私はそっと彼に声をかける。彼は目を開け小さく頷く。 「お帰り」 ...
pale asymmetry | 2023.02.22 Wed 20:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事から家に帰ると、彼女がリビングのソファーに倒れ込んでいた。朝仕事に出かけて行ったときの服装。ソファーの脇にはそのとき持って行った鞄も投げ出されていた。 「ただいま」 「お帰り」 ソファーに顔を伏せたままで、くぐもった声が返ってきた。 「疲れてる感じ?」 「溶けてる感じ」 顔を僕に向け、彼女は微妙な感じで笑う。 「溶けてる感じ?」 「そう。雪が溶ける感じ。雪のまま舞い落ちては来ず、溶けて雨として落下してくる感じ」 よ...
pale asymmetry | 2023.02.19 Sun 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「南風って、こましゃくれているわね」 彼女が芝生に寝転がりながら小さく叫ぶ。 「僕は結構癒されるけどね」 彼女の隣に僕も寝転んでみる。陽光が強すぎるので、芝生は電気カーペットくらい暖かい。それに乾いていて、メタバースチックだった。 「じゃあ、あなたには母性の強い存在なの?」 「南風が?」 「ええ」 「母性は感じないな。親しい友達みたいな感じかな」 僕は上半身を起こし、風景を見下ろす。僕らは山の中腹の公園にいて、そこからは斜...
pale asymmetry | 2023.02.17 Fri 18:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日はダーウインの日なんだって」 彼女は額の汗を拭う。 「ダーウインって、進化論のダーウイン?」 僕は後ろから彼女の肩に手を回す。 「そう。彼の誕生日なんだって」 「そうなんだ」 僕らは浴室にいて、浴槽に熱めのお湯を半分ほど溜め、前後に並んで収まっている。そして浴槽の脇にはアルミのテーブル。そこにはワインのボトルとグラスが二つ。 「人間は進化したから、こんな時間を過ごすようになったのかしら?」 彼女がグラスに手を伸ばし...
pale asymmetry | 2023.02.12 Sun 20:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「僕は天使だったみたいなんだ」 遅い朝、エスプレッソを飲んで覚醒を引き寄せているところに、甥っ子が訪ねてきた。 「おはよう、火曜日の朝だね。学校は?」 「それは訊かないで」 「うん解った。もう訊かない」 僕らは笑い合う。共犯者の笑顔を重ねる。 「で、どうして君が天使だと判明したの?」 僕が尋ねると、甥っ子は驚いた表情を見せて一瞬フリーズした。 「えーっと、理由が必要な感じ?」 少し再起動に戸惑っているような口調だった。...
pale asymmetry | 2023.02.07 Tue 20:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは傘を持て余していた。家を出るときには弱いけれど大粒の雨が降っていたのに、歩き出して数分でその雨は止んでしまった。空はまだどんよりと曇っていたから僕らは閉じた傘を手に歩いた。そこからさらに数分、いつもの散歩コースでビーチに着いた頃には雲はかなり薄まり、淡いブルーが見え隠れしていた。 「春は嘘つきだね」 彼女が砂に足跡を押しつける。砂は僅かに湿っていて、そのへこみぐわいが巨大な生物の背中のように思えた。モンスターの背中を彼女は進む。 ...
pale asymmetry | 2023.02.04 Sat 19:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「すごく深い塔なんだ」 甥っ子がスケッチブックを広げる。 「深い塔? 高い塔じゃなくて?」 「そう、深い塔」 甥っ子は色鉛筆のグレーで輪郭を書き始める。 「もちろん造られたときは高い塔だったんだけど、今は地中に埋まっているんだ」 「なるほど、だから深い塔か」 甥っ子は赤と茶と黄色と緑で、地中の塔を描いてゆく。彼は実に絵が上手い。 「それでね塔の下層には水が溜まって円柱型の池になっているんだ」 甥っ子は塔の底の方に薄い青...
pale asymmetry | 2023.01.31 Tue 17:45
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