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JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女は無言のままドライブし続けた。海沿いの道は、ゆるやかなカーブが続く。時々トンネルがアクセントのように現れ、それを抜けたときに僕たちは海を再発見する。それはまるで、生命は海から来たのだと何度も教えられているようだった。誰が僕らにそれを教えているのだろう。誰でもない、何者でもない、ただ海があるだけだ。僕らは母から生まれたのであって、海から生まれたわけではない。それでも意味を考えてしまうのは、無闇矢鱈と考えてしまうのは、会話がないからだろう。 ...
pale asymmetry | 2021.08.20 Fri 19:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨は、終末を告げるように降っていた。でも、終末なんてないことを僕らは知っている。だから、僕と甥っ子は傘をさして、いつものように散歩に出かけた。雨が苦手な小型のミックス犬は留守番をしている。今頃は夢の中で、獲物と戯れているかもしれない。あの犬は、決してハンターではないから。 「669」 数字をリズミカルに唱えながら、小学生の甥っ子は跳ね歩く。その度に傘が揺れて、僕の下半身に雫がかかる。 「772」 甥っ子は時々立ち止まり、傘を傾けて空を見...
pale asymmetry | 2021.08.18 Wed 21:32
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼は畳の上にだらしなく寝そべり、小さな窓の向こうを見つめている。部屋の明かりは薄暗く、虫除けの線香が不可思議な妖怪の瞳のように、部屋の隅で灯っている。ラジオからはオルタナティブロックが流れている。音量が小さくて、経のように思えたりもした。それが経であったなら、部屋の隅に妖怪が潜むはずはない。いや、妖怪ではなかった。線香だ。だから仄かな清浄を漂わせているのだ。けど全てが裏返る可能性だってある。例えば経はそういう不可思議なものを呼び寄せるために唱...
pale asymmetry | 2021.08.16 Mon 21:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「6090は?」 僕が訊くと、甥っ子はすぐに答える。 「サメ」 にっこり笑って何度も頷く。 「そういう風に見えるの?」 「ううん、そういう風に感じるの」 「ふーん、そうなんだ」 僕らは日陰から日陰へと最短距離を移動しながら散歩していた。午後の遅くだったけれど、日差しはまだまだ鋭かった。甥っ子は小学生で、だから今は夏休み。僕は先月からずっとテレワーク。午後の遅くは二人とも持て余す時間帯だった。僕らの家は徒歩3分の距離にあったから、...
pale asymmetry | 2021.08.13 Fri 20:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、とても単純な質問をしてもいい?」 私が話しかけると、彼は文庫本から目を上げて頷く。 「痛いのと痛くないの、どっちが好き?」 彼は天井に目を向けしばらく考える。エアコンディショナーがフル稼働している部屋の真ん中で、私たちは寝そべっていた。優しい感触のラグの上で、まったりとした時間を過ごしていた。漂っている感じで。 「痛いほう、かな」 彼がポツリと言う。海の向こうで、蝶が羽ばたいた感じで。でもその微かな波は何とも連動せず、だ...
pale asymmetry | 2021.08.11 Wed 18:47
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「許せない。でも許すわ」 私の頬を平手で叩いた後、その子は抑揚のない口調でそう言った。見知らぬ子だった。何のことか解らなかった。私は棺に花を収めたばかりで、まだ涙も流していなかった。といっても、涙は零れそうにはなかった。小夜の顔は眠っているようにしか思えなくて、明日の予定を考えているようにしか思えなくて、薄く笑っているようにしか見えなかったから。 「あなた、小夜と付き合っていたでしょう?」 見知らぬ子は私の手を引いて、強引に歩き出す。...
pale asymmetry | 2021.08.09 Mon 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート ひっくり返して並べた二艇のカヤックの隣で、僕らも並んで腰を下ろしていた。海は冷静な凪を纏っていて、それでも鋭すぎる陽光を乱雑に弾いている。たぶん陽光のデタラメさが強すぎるのだろう。だから冷静な海がそれに振り回されているような、そんな感じに見えた。水面の話。 「空気が、あっという間に暑くなったね」 隣で、頭にタオルを被っているアリカワさんが独り言のように呟いた。 「そうだね」 この分だと、すぐに濡れた身体も乾くだろうと思えた。ついさ...
pale asymmetry | 2021.08.02 Mon 21:28
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あそこ」 橋の直前で弟が立ち止まり、橋の真ん中辺りを指差した。 「何?」 僕も立ち止まり、弟が指差した辺りに目を凝らす。太陽はすでに沈んでいたけれど、それが残した余韻がまだ漂っていて、だからなのか街灯は灯っていない。でも橋の真ん中辺りは薄闇に霞んでいて、そこに何があるのか、何かがあるのか、よく解らなかった。 「両腕を広げて、通せんぼしてる」 弟はじっと睨んでいる。睨み返しているのかもしれない。だから僕も、見えない何かを睨んでお...
pale asymmetry | 2021.07.27 Tue 21:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「三千年の眠気がするわ」 彼女はそう呟いて、広いダイニングテーブルに上半身を投げ出した。大きく放たれた両腕は、この部屋の空気を押さえ込もうとしているようだ。押さえ込んで、同じようにぐうたらさせようとしているようだ。 「解る?」 彼女がその眼差しを僕に向ける。僕は隣の席で、タブレット端末を眺めていた。モニタの中で、ドイツの哲学者が『情けは人のためならず』的な思想を語っていた。それが新しい資本主義と繋がっているのだと。納得できる部分もあっ...
pale asymmetry | 2021.07.21 Wed 20:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 同じ顔だと、その人は涙を流した。同じ身体だと、その人は人形を抱き寄せた。見て下さいと、その人は写真を差し出す。その人と並んで写っていた女性、その人の恋人は、私が作った人形とは全く似ていない。顔も身体も。でもその人は全く同じだと喜び、その人形を抱きしめたまま、足早に帰っていった。三分の一の大きさになった恋人を連れ帰り、二人きりになったらどうするのだろう。口づけをし、甘い言葉を囁くのだろうか。息をしていない恋人に、熱を感じたりするのだろうか。鼓動...
pale asymmetry | 2021.07.20 Tue 21:42
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