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JUGEMテーマ:ショート・ショート 明るい空から、雨は真っ直ぐに降っていた。コンビニエンスストアの前を通るとき、その軒先で子猫が丸く蹲っていた。白い猫で、尻尾の先だけに金色っぽい縞模様を纏っていた。 「あれは?」 子猫を指差し、僕は甥っ子に尋ねる。 「あれは一だね」 「どういうところが?」 「丸くなっているから寒そうにも見えるけど、でも結構くつろいでいるじゃない。だから一」 「一はくつろいでいるの?」 「一がくつろいでいるわけじゃなくて、くつろいでいるのが一」 ...
pale asymmetry | 2022.01.23 Sun 19:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート 窓ガラスを割る。そのためにハンマーを用意した。鍵を外して、その窓から校舎に侵入する。廊下は月光が渦巻いている。風はないけど、確かに渦巻いている。ヒンヤリと湿った粒子が、その渦に攪拌されて廊下で乱舞している。それが私の頬をときどき撫でるから、奇妙に擽ったかった。 私はそんな廊下を進み、教室へと急ぐ。もうすぐ真夜中。夜の真ん中。でも夜はいつだって短いから、油断しているとすぐに溶けてしまう。何をするにしても急がなければいけないの。教室の扉にも鍵...
pale asymmetry | 2022.01.20 Thu 21:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今、何時?」 僕は彼女に問う。部屋は暗い。布団から出した手が冷たい。彼女は上半身を起こしていたから、きっととても寒いはずだ。 「六時よ」 手にしていたスマホを見て彼女が答える。フラットな口調。まだ夢の中にいるような声の色だ。 「夢を見ていて、その夢に起こされてしまったの」 彼女が僕に顔を向ける。どんな表情をしているのかはよく解らない。笑っているようにも見えたし、泣いているようにも見えた。 「夢に裏切られたの?」 「そうね、...
pale asymmetry | 2022.01.17 Mon 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、見て」 彼女がタブレットを差し出す。モニタにはアルミのローテーブルが表示されている。折りたたみ式のたぶんアウトドア用のものだろう。でも、そのテーブルの脚は三本だった。長方形の各角の、三箇所にしか脚がついていない。これでは自立しないのではないだろうか。 「これ、使えるの?」 彼女は微妙な表情で首を傾げ、画像をスライドする。実際に野外に置かれたローテーブルの画像が現れ、それは見事に傾いていた。 「これに何かを載せようというつもり...
pale asymmetry | 2022.01.12 Wed 22:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 夢を見ていたような気がしたけれど、どんな夢だったのかは全く思い出せない。そんなことを考えている私はもう目覚めているのかまだ目覚めてはいないのか、よく解らない。これは薄衣の眠りだろうか。私はまだそれに包まれているのだろうか。それともこれは過剰に無垢な覚醒だろうか。私はそれを鼻先に載せているのだろうか。 取り敢えず薄く目を開けてみる。私はリビングのソファーに横たわっていて、ブランケットを抱きしめている。ローテーブルを挟んだ向こう側に彼が腰を下...
pale asymmetry | 2022.01.06 Thu 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 玄関の扉を開けると、老いたビーグルが寝転がっていた。たぶん出迎えに来てくれたのだと思う。その証拠に尻尾は盛大に振っている。それが床を叩いてリズミカルな音を奏でていた。撫でてやると立ち上がり、ついてくる。歩みは軽快で、今日は調子が良いようだ。 「お帰り」 ダイニングの大きなテーブルでタブレットを読んでいた彼女が顔を上げる。テーブルには湯気を立てているカップが二つ並んでいた。 「そろそろだと思って、ロイヤルミルクティーをいれておいた」 ...
pale asymmetry | 2022.01.02 Sun 20:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 両手で包み込むように持つ六角柱状の青水晶を、甥っ子はじっと見つめている。黄昏時、窓辺はすでに薄暗い。街灯の飴色が部屋に滲んできて、甥っ子の横顔を哲学者のように装わせている。そして青水晶は、遠い未来から飛来した万能計算機のように僕には思えた。 「結晶の内部に何か見えるのかい?」 僕が問い掛けても、甥っ子はじっと青水晶を見つめたままだ。よほど気に入ったのだろう。それは友人から貰ったものだったけど、このまま甥っ子にあげようと思った。僕よりも彼...
pale asymmetry | 2021.12.28 Tue 21:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 北の都市は、雪に埋もれていた。時刻は真夜中を二時間ほど過ぎた辺り。都市の灯りは風に渦巻く雪に滲まされ、その冷気が熱を奪うことで色彩そのものを萎ませていた。当然、街路に人影は見当たらない。好んでこの冷え切った波に翻弄されようとする人間はいないのだった。 少女は狂喜乱舞する雪の結晶たちを見上げて、通りに佇んでいた。乏しい色彩の光が浮かび上がらせる彼女の横顔は、綺麗だった。冷え切った波も、彼女を萎ませることは出来なかった。少女は両手を夜に延ばし...
pale asymmetry | 2021.12.25 Sat 21:09
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『年の変わり目が近づくと、何かし残したことはないかと焦ってしまうことないかい?』 そんな一文でメールは始まっていた。見覚えのあるアドレス。もう繋がることはないと思っていたアドレス。 『これは10年前に教えて貰ったアドレスだから、もう君に繋がっていないだろうか?』 彼は私の携帯ナンバーを知っているのだから、確実に繋がりたいのなら電話すればいいのに。 『何か君と繋がらなければいけない理由なんてないのだけれど、だから今このメールが君に届いて...
pale asymmetry | 2021.12.18 Sat 20:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「綺麗ね。今日は空気が澄んでいるのかしら?」 水平線に近づく太陽に彼女が目を向けている。確かに綺麗な夕日だった。茜の裾が水平線を撫でるように広がっている。 「何色と言えば良いのかしら、この太陽は」 「銀朱かな」 僕の言葉に彼女は僅かに首を傾げた。僕らは堤防の上に並んで腰掛け、生クリームたっぷりのパンケーキを食べていた。風はなく、空気もそんなに冷たくはなかったけれど、師走の気分を高めるために熱々のミルクティーも用意していた。 「私、...
pale asymmetry | 2021.12.11 Sat 20:40
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