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JUGEMテーマ:ショート・ショート 玄関の扉を開けると、老いたビーグルが寝転がっていた。たぶん出迎えに来てくれたのだと思う。その証拠に尻尾は盛大に振っている。それが床を叩いてリズミカルな音を奏でていた。撫でてやると立ち上がり、ついてくる。歩みは軽快で、今日は調子が良いようだ。 「お帰り」 ダイニングの大きなテーブルでタブレットを読んでいた彼女が顔を上げる。テーブルには湯気を立てているカップが二つ並んでいた。 「そろそろだと思って、ロイヤルミルクティーをいれておいた」 ...
pale asymmetry | 2022.01.02 Sun 20:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 両手で包み込むように持つ六角柱状の青水晶を、甥っ子はじっと見つめている。黄昏時、窓辺はすでに薄暗い。街灯の飴色が部屋に滲んできて、甥っ子の横顔を哲学者のように装わせている。そして青水晶は、遠い未来から飛来した万能計算機のように僕には思えた。 「結晶の内部に何か見えるのかい?」 僕が問い掛けても、甥っ子はじっと青水晶を見つめたままだ。よほど気に入ったのだろう。それは友人から貰ったものだったけど、このまま甥っ子にあげようと思った。僕よりも彼...
pale asymmetry | 2021.12.28 Tue 21:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 北の都市は、雪に埋もれていた。時刻は真夜中を二時間ほど過ぎた辺り。都市の灯りは風に渦巻く雪に滲まされ、その冷気が熱を奪うことで色彩そのものを萎ませていた。当然、街路に人影は見当たらない。好んでこの冷え切った波に翻弄されようとする人間はいないのだった。 少女は狂喜乱舞する雪の結晶たちを見上げて、通りに佇んでいた。乏しい色彩の光が浮かび上がらせる彼女の横顔は、綺麗だった。冷え切った波も、彼女を萎ませることは出来なかった。少女は両手を夜に延ばし...
pale asymmetry | 2021.12.25 Sat 21:09
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『年の変わり目が近づくと、何かし残したことはないかと焦ってしまうことないかい?』 そんな一文でメールは始まっていた。見覚えのあるアドレス。もう繋がることはないと思っていたアドレス。 『これは10年前に教えて貰ったアドレスだから、もう君に繋がっていないだろうか?』 彼は私の携帯ナンバーを知っているのだから、確実に繋がりたいのなら電話すればいいのに。 『何か君と繋がらなければいけない理由なんてないのだけれど、だから今このメールが君に届いて...
pale asymmetry | 2021.12.18 Sat 20:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「綺麗ね。今日は空気が澄んでいるのかしら?」 水平線に近づく太陽に彼女が目を向けている。確かに綺麗な夕日だった。茜の裾が水平線を撫でるように広がっている。 「何色と言えば良いのかしら、この太陽は」 「銀朱かな」 僕の言葉に彼女は僅かに首を傾げた。僕らは堤防の上に並んで腰掛け、生クリームたっぷりのパンケーキを食べていた。風はなく、空気もそんなに冷たくはなかったけれど、師走の気分を高めるために熱々のミルクティーも用意していた。 「私、...
pale asymmetry | 2021.12.11 Sat 20:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 流星だ。月も星も見えない空に、流星が二筋流れた。黒い川を流れる宝石のように、全ての変数をゼロに回帰させるように、あるいは全ての変数を無限大に無効分散させるように。そして僕は叫んでいた。見知らぬ言語で叫んでいた。 「大丈夫?」 妻の声。僕の肩を揺さぶる手。目を開ける。部屋は明るかった。僕は横たわっていて、妻は上半身を起こして僕を覗き込んでいる。僕らはベッドで並んでいる。いつもの夜だ。ありふれた夜だ。 「うなされてたよ」 「そう」 ...
pale asymmetry | 2021.12.06 Mon 21:35
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「風には色があるのよ」 風がやって来る北の方角に顔を向けて、少し顎を反らせて彼女が言う。冷たい風に挑んでいる気分なのかもしれない。 「でも、風は透明なのよ」 意味ありげに彼女は笑う。僕らは風に向かって歩いている。右側には片側二車線の国道、左側には海。歩道は真っ直ぐに北へと延びている。バス停が見える。そのすぐ海側にビーチが広がっている。太陽は十分に傾いていたから、何人かの人がそのビーチに腰を下ろしていた。 「風はね、肌を撫でたときにだ...
pale asymmetry | 2021.12.05 Sun 21:03
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あなた、綺麗という言葉が好きよね?」 彼女が唐突に言う。濡れた髪をタオルで掻き混ぜながら、ベッドに歩いてくる。僕は読んでいた文庫本から顔を上げる。 「そうかな?」 彼女は僕の傍らに滑り込み、僕の方に顔を向けて横たわる。シトラスの香りがした。 「そうよ。美しいという言葉よりも、綺麗という形容詞を使うわ。むしろ美しいという形容詞は全く使わないんじゃないかな」 僕は文庫本を閉じ、考えてみる。 「どうだろう。そうかもね」 「どうし...
pale asymmetry | 2021.11.28 Sun 21:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「そういえば今日一緒に仕事したスタッフの一人がね、ユニークな子だったの」 夕食の後、僕と彼女はアイスミルクティーを飲んでいた。食器洗いを効率化するために一つのカップに交互に口を付けて飲むことにしようと提案した彼女に、僕がユニークなアイデアだねと言ったら、それが彼女の記憶を刺激したらしかった。 「どんな風に?」 「その子はね、世界が三角で出来ているように感じるんだって」 「三角? 三角だけでってこと? どんなイメージなの?」 「何とい...
pale asymmetry | 2021.11.24 Wed 21:21
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さな庭だった。卓球台をなんとか置くことができるくらいのサイズ。でもそれを入れてしまえば人が入る余裕はもうない。だから卓球は出来ないな。とそんなことを考えながら、私は庭を見つめていた。 「手首を痛めてしまってね」 隣に座る祖父が右手を翳す。手首に包帯が巻かれていた。 「それで困ってしまって、君を呼んでしまったんだ」 祖父の加えている煙草から紫煙が真っ直ぐに昇っていく。甘い香りのする煙だった。庭に面した縁側に、私と祖父は並んで座って...
pale asymmetry | 2021.11.20 Sat 18:31
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