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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これ、何に見える?」 甥っ子が差し出したのは、歯車の塊だった。オーブントースターくらいのサイズの、無数の歯車の組み合わさりだった。複雑に噛み合う歯車たちは、おそらくスイッチをオンにすれば回り出すのだろう。甥っ子はその装置のような歯車塊をテーブルの上に置いて、僕を見つめる。 「どんな感じがする?」 甥っ子は小学校の新学期が始まり、その初日を終えた帰りに僕の家に寄ったらしかった。だからたぶんこの歯車の塊は自由工作か何かなのだろう。それは...
pale asymmetry | 2021.09.06 Mon 21:35
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「セプテンバーとインターセプトは似ているわ」 彼女がタブレットから顔を上げて呟く。 「響きが? 意味が?」 僕は文庫本に目を落としたまま訊いてみる。 「両方、あるいはそれ以上」 きっぱりと言い切って、彼女はクーラーボックスから取り出したアールグレイのボトルに口を付ける。午後はその裾を伸ばしきっていたけれど、空気は暑い粒子を跳ね回らせている。いや逆か。粒子が激しく跳ね回り、夏の後ろ髪をがっちりと握りしめている。僕らはそれを愉しんで...
pale asymmetry | 2021.09.02 Thu 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「昨日、あるアーティストMVを見たんだ」 夕食の後、ベランダで涼んでいるとき彼が独り言のように言った。小さな丸椅子を並べて座り、私たちは月を眺めながらワインを飲んでいた。渋みと甘味が群舞するような風味のワインだった。 「そのMVは、どこかの都市の映像だった。たぶん架空の都市。時代は現在かな。低空飛行するドローンカメラで撮影されたようなアングルだった」 「カラフルな都市だった?」 「うん、とても」 「じゃあ、私も見たことあるかも」 「そ...
pale asymmetry | 2021.08.30 Mon 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「大きな羊が掲げられていたの」 彼女はエスプレッソを一口飲んで、澄まし顔で言う。 「捧げられていたのかもしれない」 「誰に、いや何者に」 僕もエスプレッソを一口飲み、その苦みを身体に行き渡らせる。 「さあ、何かしら。神に似たもの、神的なものかな」 「神様そのものじゃなくて?」 「そうね、そのものじゃないわ。神的な事象、神的な装置、神的なルーブ・ゴールド・バーグ・マシン。そんな感じね」 僕らはエアコンのフル稼働するダイニング...
pale asymmetry | 2021.08.25 Wed 19:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「首長竜の夢を見ましたのよ」 カウチで眠っていた祖母が、目覚めてすぐにそう口にした。 「瑠璃色の海で、滑るように泳いでいましたの」 僕はテーブルにカップを並べる。時刻はちょうど三時になるところだった。 「ミルクティーはいかがですか?」 祖母は頷き、カウチに沈んでいた姿勢を正す。 「首長竜は、寂しそうだった。独りぼっちで泳いでいたせいでしょうね」 遠くを見つめる眼差しで、祖母は首を傾げる。 「でもどうしてかしら、孤独を持て...
pale asymmetry | 2021.08.22 Sun 21:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女は無言のままドライブし続けた。海沿いの道は、ゆるやかなカーブが続く。時々トンネルがアクセントのように現れ、それを抜けたときに僕たちは海を再発見する。それはまるで、生命は海から来たのだと何度も教えられているようだった。誰が僕らにそれを教えているのだろう。誰でもない、何者でもない、ただ海があるだけだ。僕らは母から生まれたのであって、海から生まれたわけではない。それでも意味を考えてしまうのは、無闇矢鱈と考えてしまうのは、会話がないからだろう。 ...
pale asymmetry | 2021.08.20 Fri 19:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨は、終末を告げるように降っていた。でも、終末なんてないことを僕らは知っている。だから、僕と甥っ子は傘をさして、いつものように散歩に出かけた。雨が苦手な小型のミックス犬は留守番をしている。今頃は夢の中で、獲物と戯れているかもしれない。あの犬は、決してハンターではないから。 「669」 数字をリズミカルに唱えながら、小学生の甥っ子は跳ね歩く。その度に傘が揺れて、僕の下半身に雫がかかる。 「772」 甥っ子は時々立ち止まり、傘を傾けて空を見...
pale asymmetry | 2021.08.18 Wed 21:32
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼は畳の上にだらしなく寝そべり、小さな窓の向こうを見つめている。部屋の明かりは薄暗く、虫除けの線香が不可思議な妖怪の瞳のように、部屋の隅で灯っている。ラジオからはオルタナティブロックが流れている。音量が小さくて、経のように思えたりもした。それが経であったなら、部屋の隅に妖怪が潜むはずはない。いや、妖怪ではなかった。線香だ。だから仄かな清浄を漂わせているのだ。けど全てが裏返る可能性だってある。例えば経はそういう不可思議なものを呼び寄せるために唱...
pale asymmetry | 2021.08.16 Mon 21:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「6090は?」 僕が訊くと、甥っ子はすぐに答える。 「サメ」 にっこり笑って何度も頷く。 「そういう風に見えるの?」 「ううん、そういう風に感じるの」 「ふーん、そうなんだ」 僕らは日陰から日陰へと最短距離を移動しながら散歩していた。午後の遅くだったけれど、日差しはまだまだ鋭かった。甥っ子は小学生で、だから今は夏休み。僕は先月からずっとテレワーク。午後の遅くは二人とも持て余す時間帯だった。僕らの家は徒歩3分の距離にあったから、...
pale asymmetry | 2021.08.13 Fri 20:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、とても単純な質問をしてもいい?」 私が話しかけると、彼は文庫本から目を上げて頷く。 「痛いのと痛くないの、どっちが好き?」 彼は天井に目を向けしばらく考える。エアコンディショナーがフル稼働している部屋の真ん中で、私たちは寝そべっていた。優しい感触のラグの上で、まったりとした時間を過ごしていた。漂っている感じで。 「痛いほう、かな」 彼がポツリと言う。海の向こうで、蝶が羽ばたいた感じで。でもその微かな波は何とも連動せず、だ...
pale asymmetry | 2021.08.11 Wed 18:47
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