[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
JUGEMテーマ:ショート・ショート 少年と歩くのは大きなシベリアンハスキーで、片目はコバルトブルー、もう片方の目は漆黒だった。 「この目はね、宇宙なんだ」 少年が私を見て言う。右手の人差し指がコバルトブルーの目を指している。瞳に触れそうで、ドキドキした。でも犬に嫌がる様子は微塵もない。 「そしてこの目は、夜なんだよ」 少年の左手の人差し指が、漆黒の目を指す。そのままその指先が漆黒の瞳に突き刺ささるイメージがよぎり、ぞくりとしてしまった。不快だったわけではない。むしろ...
pale asymmetry | 2021.07.06 Tue 21:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると、妻が特殊な顔になっていた。いや、これでは説明になっていないな。キッチンで夕飯を作っている妻が振り向くと、その顔の右側だけがメイクされていて、左側半分はすっぴんだったのだ。 「お帰り」 にこやかに言う妻の顔を、思わず覗き込む。すごく丁寧に、口紅も正確に半分までひかれていた。計ったかのように。いや実際に計ってひいたのかもしれない。彼女の性格なら十分にあり得る。 「ただいま。それは?」 「それって?」 「いや、その顔」 ...
pale asymmetry | 2021.07.02 Fri 19:23
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「というわけで、その犬は神様になっていつまでも少年を見守りました」 「それは駄目なんだよ」 「え? 何が?」 「犬が神様になるのは駄目なんだよ」 「何が駄目なの?」 「神様になるのは鳥だから」 真剣な眼差しで、息子は私に言う。寝かしつけようとして読み聞かせをしたのに、逆に目が覚めてしまったようだ。 「鳥が神様なんだ。どうして? 飛ぶから?」 「神様は飛ばないよ」 「でも神様って空の上の方の国に住んでるんじゃないの?」 「そ...
pale asymmetry | 2021.06.29 Tue 21:38
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「仄かにむらむらする感じって解る?」 「仄かにムラムラ? それは性的な感覚の話?」 「それが解らないから訊いているの」 「うーんと、質問の意味がよく解らないな」 首を傾げた動作につられて傘が少し傾き、僕の傘が彼女の傘をこづく。彼女の傘の表面で雨の雫が群舞するように跳ね回った。 「私にもよく解らないの。むらむらという表現も正確ではないのかも知れないとも思えるわ。仄かにざわつく感じなのかな。でもざわつくというとざらついた感じがしない?」...
pale asymmetry | 2021.06.24 Thu 20:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 希薄な雨だった。未熟な東風に簡単に舞い上げられてしまうくらいに。 そんな雨だったから、私は傘もささずに歩いていた。雫は細かすぎて、それは本当に雫なのか、空気の粒子がスピンしてそう感じてしまうのか迷うくらいだった。空気がそんな迷うようなスピンをし始めたのならば、世界が崩壊するカウントダウンが始まっているのかも知れないと思う。 真夜中だから暗い。そう考えて即座に否定する。真夜中だから暗いわけではない。今私が歩いているこの真夜中が暗いだけだ...
pale asymmetry | 2021.06.22 Tue 21:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 近所を散歩していたはずなのに、いつの間にか見知らぬ街路に立っていた。何となくいつもより随分と早くに目が覚めてしまったから、少しだけ散歩でもしてみようかと思い立っただけだったのに。右を見ても左を見ても、足下を見ても空を見上げても、見覚えのある風景はなかった。まだ薄暗い空気が遠くまで見定めることを幾分邪魔していたけれど、それを差し引いたとしても見知らぬ場所に立ち尽くしていることは確実だった。 「忘れ物はないですか?」 声は斜め上から聞こえた...
pale asymmetry | 2021.06.21 Mon 20:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 最近は皆が我慢しなければいけないご時世のようだけど、僕の場合は特に何も変わらずに暮らしている。考えてみれば、今までの人生で大きな事件に出会ったこともなければ、とんでもないトラウマを抱えることになったしまった、といったようなエピソードもない。何とも平々凡々と生きてきたというわけだ。そんな僕でも不可思議な出来事の記憶なら、一つだけ持っている。事件と言えるほどのものではなく、ただ少し不可思議な出来事というだけの記憶だけど。 あれは今から十数年前...
pale asymmetry | 2021.06.19 Sat 20:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「知っている、とカエルが言ったの」 「カエルが? 人語で?」 「ごめん、説明不足だったわ。カエルが人間の言葉を口にしたわけではないの。知っていると意思表示したということ」 「どんな感じで? ジェスチャーとか?」 「いいえ、何というか雰囲気ね。あるいは、纏った空気を震わせることによって」 「何だか、特殊な能力をカエルは、そのカエルは有していたようだね」 「あら、これは特別な能力ではないわ。どんなカエルだって持っている。それにカエルだけ...
pale asymmetry | 2021.06.15 Tue 21:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート サフラン色の髪の少女は、胸に小さな傘を抱きしめていた。雨は強く降っていたけれど、その閉じられた傘を抱きしめ、開くつもりはないようだった。もっともそれは本当に小さくて、たぶん直径三十センチくらいだと思われたから、開いたところでたいして役には立たなかったかもしれないけれど。その傘はサフランの色をしていた。サフラン色ではない。染料の色ではないということ。サフランの花冠の色だった。 「私たちはもう溺死していてもおかしくないと思わない?」 サフラ...
pale asymmetry | 2021.06.14 Mon 21:17
JUGEMテーマ:ショート・ショート 私たちは窓辺のソファーに並んで腰掛けていた。腰掛けていると言うより、だらしなく身を沈めていると言った方が正確だろう。そのソファーは二人で吟味して買ったもので、最近のお気に入りの場所だった。休日の午後はだいたい並んで過ごしていた。湿度が高かったから、窓はしっかりと閉じてエアコンディショナーを働かせていた。 「ねえ、フクロミツスイの精子って、哺乳類では最も大きいんですって」 私はタブレットで有袋類のドキュメンタリーを見ていた。骨伝導のイヤホ...
pale asymmetry | 2021.06.13 Sun 20:44
全1000件中 281 - 290 件表示 (29/100 ページ)