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Fに
with a kiss, passing the key | 2021.11.28 Sun 00:00
JUGEMテーマ:小説/詩 その晩、幸一は東京で働いている友人に電話をかけた。高校時代に仲がよかった男である。 三年前の同窓会であったきりだが、二日前に起きた北海道地震で被害に遭い、どうしても頼みたいことがあるというと、急な申し出にもかかわらず時間をつくってくれた。 翌七月十五日、新幹線で東京へ向かった幸一は、飯田橋駅付近の店でその男と昼飯をともにしながら話をしたが、一時間ほど話をしたのち、幸一は函館へ飛ぶため羽田空港へと向かった。 離陸も知らず眠りに落ちた幸一は、着...
狙われた男 | 2021.11.27 Sat 11:26
JUGEMテーマ:小説/詩 高まる動悸に、幸一は胸に手をやった。そのとき幸一はふと、この格好ではまずいと思った。一億を超えるカネをおろしに行くのにこんな格好では怪しまれる。 幸一は急いで店を出ると、すぐ近くの伊勢丹デパートでスーツを買った。それにあわせてネクタイと靴を買い、高級ブランドの旅行用バッグも買った。支払いはすべてリュック中のカネを使った。 マンションに戻ると、母親の信子がヴィトンの紙袋をひとめ見るなり、 「ちょっとあんた。そんな高いものを買ってきてどうするつもり。あん...
at dawn | 2021.11.27 Sat 11:11
JUGEMテーマ:小説/詩 平川はドアに近づいて行った。 ドアが自動で開く。 平川は右足を建物内に踏み入れる。 次に左足を踏み出しつつ右手を体の前に振り出すと、マニピュレータがその手から鞄を受け取る。 また右足を踏み出しつつ上着を肩から下ろすと、マニピュレータが背後からするりと脱がせて持って行く。 さらに左足を踏み出すと同時に彼の足元からシートが生え出し、そのまま腰を下ろして両脚を揃え、平川はカートに着座する。 カートは音も静かにロビーを横切りエレベータへ向かう。 ...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2021.11.26 Fri 12:52
JUGEMテーマ:小説/詩 時中が手にした機器を岩壁の方向に向け、ゆっくりと、自分の体を中心にして機器の先端で円を描くように回る。それが洞窟の奥へ向けられた時、黒く沈黙していた機器の表面にふっと、ほの白い光輝が灯った。ふわ、ふわ、ふわ、と音もなく点滅を繰り返し、そして消える。 「こっちにあるということですか」時中が訊く。 「そうですね」天津が頷く。「行ってみましょうか」 一行は、白い光が灯った方向へと足を進めた。時中は機器の先端を同じ方向に向け続け、その表面には時折、ふわ、ふわ...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2021.11.26 Fri 10:51
JUGEMテーマ:小説/詩 その晩、札幌市内のホテルに泊まった幸一は、夜が明けると早々にチェックアウトを済ませ、タクシーで新千歳空港へ向かった。 九時二十五分発の飛行機で新潟に向かったが、新潟に着くなり、到着口で待っていた母親が、駆け寄ってきて幸一の手をとった。 「あんた、死んだと思ったんだよ!」 その声に前をいく数人が振り返った。 家に帰ると、幸一は母親にあれこれと訊かれ、そのうちに答えるのが面倒くさくなった。散歩にいくといって家を出たが、なによりもまずリュック...
at dawn | 2021.11.26 Fri 09:12
JUGEMテーマ:小説/詩 昼すぎになって、幸一はナース・ステーションで検査結果を聞かされた。 「傷は処置しておきました。それと、脱水をおこしていたので今は点滴をしています。ゆっくり落としているので時間はかかりますが」 医師はそういって、明日にでも退院できるといった。 「それはそうと……失礼ですが、お父さまですか?」 「エッ、あ、はい」 若すぎると思ったのか、医師は疑っているようだ。 「で、このあとはどちらへ?」 「東京へいこうと思います」 「ご親戚かな...
at dawn | 2021.11.26 Fri 08:20
JUGEMテーマ:小説/詩 昼すぎになって、幸一はナースステーションに呼ばれて検査結果を聞かされた。 「問題はないようですが、よほど恐ろしかったのでしょう。あとから点滴をしますが、ゆっくり落としますので時間がかかりますよ。退院はあしたで結構です」 眼鏡をかけた医師がいった。そして、「失礼ですが、おとうさまですか?」と訊いてきた。若すぎると思ったのか、目が疑っているようにみえる。 「で、このあとはどちらへ?」 「東京へいこうと思います」 「ご親戚かなにか?」 「はい。渋谷に...
at dawn | 2021.11.25 Thu 09:36
JUGEMテーマ:小説/詩 幸一はありさをかかえあげた。だが、数歩進んだところで幸一はハタと足をとめた。 そっとありさを地面におろすと、走ってその場をあとにしたのである。 避難場所の高台では、大勢の人が右往左往していた。誰それがいないとか、家に人を残してきたとか、そんな切羽詰まった声を聞いているうちに、幸一はいたたまれなくなって坂を駆け下りた。あのとき、ありさはまだ生きていたのだ。 途中で、戻るんじゃないと何度も引き留められたが、ありさは意識を取り戻して瓦礫のなかで泣...
at dawn | 2021.11.25 Thu 00:40
JUGEMテーマ:小説/詩 幸一は急いで社長宅へ引き返した。だが、社長の家についてもまだ揺れは収まらない。 「だめだ! 裏へ回れ!」 玄関で社長の声がした。戸があかないようだ。 と、あっという間に玄関がくずれ、大屋根が上から降ってきた。幸一は間一髪で難を避けた。 「津波だあ、津波がくるぞォ!」 どこからともなく声が聞こえた。 再び強い揺れがきた。余震だ。幸一は這いつくばってしのいだが、かろうじて倒壊を免れていた奥の家も崩れ落ち、コンクリートの電柱がのしかかっていく。 「...
at dawn | 2021.11.24 Wed 09:57
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