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JUGEMテーマ:小説/詩 高まる動悸に、幸一は胸に手をやった。そのとき幸一はふと、この格好ではまずいと思った。一億を超えるカネをおろしに行くのにこんな格好では怪しまれる。 幸一は急いで店を出ると、すぐ近くの伊勢丹デパートでスーツを買った。それにあわせてネクタイと靴を買い、高級ブランドの旅行用バッグも買った。支払いはすべてリュック中のカネを使った。 マンションに戻ると、母親の信子がヴィトンの紙袋をひとめ見るなり、 「ちょっとあんた。そんな高いものを買ってきてどうするつもり。あん...
at dawn | 2021.11.27 Sat 11:11
JUGEMテーマ:小説/詩 平川はドアに近づいて行った。 ドアが自動で開く。 平川は右足を建物内に踏み入れる。 次に左足を踏み出しつつ右手を体の前に振り出すと、マニピュレータがその手から鞄を受け取る。 また右足を踏み出しつつ上着を肩から下ろすと、マニピュレータが背後からするりと脱がせて持って行く。 さらに左足を踏み出すと同時に彼の足元からシートが生え出し、そのまま腰を下ろして両脚を揃え、平川はカートに着座する。 カートは音も静かにロビーを横切りエレベータへ向かう。 ...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2021.11.26 Fri 12:52
JUGEMテーマ:小説/詩 時中が手にした機器を岩壁の方向に向け、ゆっくりと、自分の体を中心にして機器の先端で円を描くように回る。それが洞窟の奥へ向けられた時、黒く沈黙していた機器の表面にふっと、ほの白い光輝が灯った。ふわ、ふわ、ふわ、と音もなく点滅を繰り返し、そして消える。 「こっちにあるということですか」時中が訊く。 「そうですね」天津が頷く。「行ってみましょうか」 一行は、白い光が灯った方向へと足を進めた。時中は機器の先端を同じ方向に向け続け、その表面には時折、ふわ、ふわ...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2021.11.26 Fri 10:51
JUGEMテーマ:小説/詩 その晩、札幌市内のホテルに泊まった幸一は、夜が明けると早々にチェックアウトを済ませ、タクシーで新千歳空港へ向かった。 九時二十五分発の飛行機で新潟に向かったが、新潟に着くなり、到着口で待っていた母親が、駆け寄ってきて幸一の手をとった。 「あんた、死んだと思ったんだよ!」 その声に前をいく数人が振り返った。 家に帰ると、幸一は母親にあれこれと訊かれ、そのうちに答えるのが面倒くさくなった。散歩にいくといって家を出たが、なによりもまずリュック...
at dawn | 2021.11.26 Fri 09:12
JUGEMテーマ:小説/詩 昼すぎになって、幸一はナース・ステーションで検査結果を聞かされた。 「傷は処置しておきました。それと、脱水をおこしていたので今は点滴をしています。ゆっくり落としているので時間はかかりますが」 医師はそういって、明日にでも退院できるといった。 「それはそうと……失礼ですが、お父さまですか?」 「エッ、あ、はい」 若すぎると思ったのか、医師は疑っているようだ。 「で、このあとはどちらへ?」 「東京へいこうと思います」 「ご親戚かな...
at dawn | 2021.11.26 Fri 08:20
JUGEMテーマ:小説/詩 昼すぎになって、幸一はナースステーションに呼ばれて検査結果を聞かされた。 「問題はないようですが、よほど恐ろしかったのでしょう。あとから点滴をしますが、ゆっくり落としますので時間がかかりますよ。退院はあしたで結構です」 眼鏡をかけた医師がいった。そして、「失礼ですが、おとうさまですか?」と訊いてきた。若すぎると思ったのか、目が疑っているようにみえる。 「で、このあとはどちらへ?」 「東京へいこうと思います」 「ご親戚かなにか?」 「はい。渋谷に...
at dawn | 2021.11.25 Thu 09:36
JUGEMテーマ:小説/詩 幸一はありさをかかえあげた。だが、数歩進んだところで幸一はハタと足をとめた。 そっとありさを地面におろすと、走ってその場をあとにしたのである。 避難場所の高台では、大勢の人が右往左往していた。誰それがいないとか、家に人を残してきたとか、そんな切羽詰まった声を聞いているうちに、幸一はいたたまれなくなって坂を駆け下りた。あのとき、ありさはまだ生きていたのだ。 途中で、戻るんじゃないと何度も引き留められたが、ありさは意識を取り戻して瓦礫のなかで泣...
at dawn | 2021.11.25 Thu 00:40
JUGEMテーマ:小説/詩 幸一は急いで社長宅へ引き返した。だが、社長の家についてもまだ揺れは収まらない。 「だめだ! 裏へ回れ!」 玄関で社長の声がした。戸があかないようだ。 と、あっという間に玄関がくずれ、大屋根が上から降ってきた。幸一は間一髪で難を避けた。 「津波だあ、津波がくるぞォ!」 どこからともなく声が聞こえた。 再び強い揺れがきた。余震だ。幸一は這いつくばってしのいだが、かろうじて倒壊を免れていた奥の家も崩れ落ち、コンクリートの電柱がのしかかっていく。 「...
at dawn | 2021.11.24 Wed 09:57
問一:語句の反復使用 一段落(三〇〇文字)の語りを執筆し、そのうちで名詞や動詞または形容詞を、少なくとも三回繰り返すこと(ただし目立つ語に限定し、助詞などの目立たない語は不可)。 錨を上げろ! 白と紺のボーダーシャツを着た姉が叫ぶ。イカリってなあに? 姉に半ば無理やり着替えさせられた、縞々のシャツの裾を引っ張りながら、妹が首を傾げる。船が港に泊まるために下ろす、重いやつのこと、と姉が説明する。帆を下ろせ! ホってなあに? 船が風を受けて進むために必要な布のこと。ふうんと相槌を打って、妹...
水平線上の雨 | 2021.11.24 Wed 00:24
JUGEMテーマ:小説/詩 仕事が終わってアパートに帰った幸一は、家に食事に来いと社長に呼ばれた。これまでにもあったが、いずれも控えめな食事で、溢れんばかりの料理がテーブルに並んでいたのは今日が初めてだった。 「金額がでかいから二つに分けたんだとさ。どういうことかわかるか、こうちゃん」 ビールをつぎながら、社長は得意満面だ。 「この島でだぞ、億なんてカネが振り込まれたんで信金のやつらビックリしていたよ。記帳するにも桁が足らんとかいって、二段に分けて入金させてもらいました、だとさ...
at dawn | 2021.11.23 Tue 11:43
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