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〈藤村操世代〉の憂鬱(連載第11回) 川喜田晶子

  折口信夫の〈青あざ〉?    戦後の詩篇「贖罪」において折口が描いた「すさのを」も、戦前は異形の者としての罪業意識とそれがゆえの〈妣(はは)が国〉への憧憬との、双方を総身に満たした「素戔之嗚尊(すさのおのみこと)」として想い描かれていたこと、しかもその折口的な魂の偏りを、われわれの祖先とも明治・大正の大衆とも共有し得るという認識が、次のような一節からわかる。  敗戦によって「虚無の塊り」としての「すさのを」を造形しなければならなくなるよりも前の、そもそもの折口らしい〈まれ...

星辰 Sei-shin | 2016.12.19 Mon 15:53

霧芯館KJ法ワークショップ2016其ノ二

 さる12月3日、「霧芯館KJ法ワークショップ2016 其ノ二」を開催致しました。(於・京都テルサ)  年二回開催するワークショップは、夏と冬とで完結する物語です。  でも、霧芯館での研修を受講済みの方であれば、冬のみのご参加も可能としておりますので、今回もたくさんの方が京都にお集まりくださいまして、KJ法による熱いご交流の機会を楽しまれました。    今年のテーマは、「〈初対面〉のラビリンス」だったのですが、このテーマ設定は、我ながら「神ってる」としか言いようがなく、実に身近で誰でも必ず...

川喜田晶子KJ法blog | 2016.12.10 Sat 18:48

宮沢賢治童話考(連載第10回) 川喜田八潮

       21   「三人兄弟の医者と北守将軍」の韻文形において、作者は、北守将軍と兵士たちによって象徴される無名の生活者たちの哀切な生涯のイメージを、詩的なリズムを通して、「うたう」という行為の中に包摂してみせている。  そのことは、一面において、個的な生の不条理性を自然意識の内に解消することで、ある種のカタルシスをもたらすというメリットを生んでいるが、他面では、物語の時空を、生活者の〈生身〉の匂いを大幅に希釈したヴァーチャルな観照者的風景へと変質させてしまっている。 ...

星辰 Sei-shin | 2016.11.23 Wed 19:13

七〇年代の分岐点―初期藤沢周平作品の闇―(連載第5回) 川喜田八潮

       12    「溟い海」のラストで、チンピラに殴られ、ふらふらになりながら深夜に帰宅した北斎は、体の血を洗い流し、全身の痛みをこらえながら喉の渇きをうるおすと、行燈のそばで夜着をかぶって、描きかけの仕事にとりかかる。    絹布の上に、一羽の海鵜(う)が、黒々と身構えている。羽毛は寒気にそそけ立ち、裸の岩を掴んだまま、趾は凍ってしまっている。  北斎は、長い間鵜を見つめたあと、やがて筆を動かして背景を染めはじめた。はじめに蒼黒くうねる海を描いたが、描くより...

星辰 Sei-shin | 2016.10.20 Thu 11:36

宮沢賢治童話考(連載第9回)  川喜田八潮

       20    宮沢賢治の夢みた生身の接触と絆のイメージを、三つの童話作品をサンプルにしながら追跡してきた。  今まで取り上げてきた作品は、あくまで、孤独な個人の内面のドラマとして造型されたものだが、最後に取り上げる「三人兄弟の医者と北守将軍」は、人間同士の生身の接触に、ある種の社会的な拡がりを与えた野心作であるといっていい。  作者はここで、極度に単純化され誇張されたユーモラスな童話的牧歌性を巧みに活かしながら、ひとつの理想的な〈自然分業〉の世界を提示してみせて...

星辰 Sei-shin | 2016.10.17 Mon 15:41

〈神歌唱〉と出会う

   私にとっては、言葉はいつもなんらかの映像を喚起するものなのですが、そうでない方も多いようです。  ずっと、誰もが言葉と映像はセットなのだ、と思い込んで生きてきたのに、そうではないということがわかった時はかなりショックでした。  言葉でさえあれば、「桃」であれ「里山」であれ「近代」であれ、いつでもなんらかの映像が浮かびます。「100−20」というだけでも、私の頭の中では、100センチのリボンから20センチをチョキっと切り取ったりしていますし、「三分の一」という時にも、円いホットケーキが均...

川喜田晶子KJ法blog | 2016.09.29 Thu 21:44

〈藤村操世代〉の憂鬱(連載第8回) 川喜田晶子

  折口信夫の〈青あざ〉?    折口信夫(1887年[明治20年]〜1953年[昭和28年])晩年の歌に、     眉間(マナカヒ)の青あざひとつ 消すゝべも知らで過ぎにし わが世と言はむ   という一首がある。  折口には右の眉根から鼻梁にかけて青あざがあったことに因む一首だが、もちろん「青あざ」はメタファーとして解き放たれており、同じ型のあざを魂に刻印されながら、〈負の物語〉を背負ってかろうじて生き、あるいは倒れた、明治から昭和の人々のすがたが、折口の一身における不能性...

星辰 Sei-shin | 2016.09.25 Sun 15:54

七〇年代の分岐点―初期藤沢周平作品の闇―(連載第4回) 川喜田八潮

       10    ところで、一九七〇年代前半の初期藤沢作品には、「溟(くら)い海」(一九七一年)や「旅の誘(いざな)い」(一九七四年)のような、葛飾北斎や安藤広重を主人公とする風変わりな小説がある。これらは、「暗殺の年輪」や「ただ一撃」のような武家物で追求された脱社会的な闇への渇きというモチーフを、芸術と実生活をめぐる問題を通じて探求した作品であり、今なお、現在的な鮮度を失わぬ、重要な問題作となり得ている。  最後に、この系列の作品に触れておきたい。  「溟い海」で...

星辰 Sei-shin | 2016.09.24 Sat 20:29

書評:スピノザ『エチカ』(連載第3回) 川喜田八潮

川喜田八潮評論集『コスモスの風』 書評篇 スピノザ『エチカ』(畠中尚志訳)岩波文庫(連載第3回)        5    「外部」にある諸物の力によって翻弄されない、真に内発的で純粋な「欲望」に生きる時、人は、世間・他人の評価や意見、大衆の支持などに全く左右されぬ、満ち足りた、確固たる己れ自身の足場を持つことになる。  スピノザにとって、己れ自身の生命を維持し、それを「能動的」に高めることで、喜びに満ちた生の充実を味わうことは、「道徳的な善悪」の観念を超えた、真の「徳」...

星辰 Sei-shin | 2016.09.22 Thu 18:14

七〇年代の分岐点―初期藤沢周平作品の闇―(連載第3回) 川喜田八潮

       8    ここで再び、藤沢周平の作品に立ち戻ることにしよう。  「オール読物」一九七三年三月号に発表された「暗殺の年輪」から、同年の六月号に発表された「ただ一撃」への微妙な推移は、以上のような七三年から七四・五年にかけての日本社会の隠微な変容を象徴的に先取りするものであった。  「ただ一撃」には、脱社会的な野性の生命の息づかいが、藤沢作品中では空前絶後ともいうべきほどの力強さをもって凝縮的に表現されていると同時に、その野性が一瞬の光芒を放ちながら消滅へと向かい...

星辰 Sei-shin | 2016.08.24 Wed 18:42

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