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『右大臣実朝』と宿命(連載第1回) 川喜田八潮

  *この「『右大臣実朝』と宿命」は、「1999年・春」に発行された「星辰」第二号に掲載されたものである。すでに、「『中期』太宰治の変容」の初めにも断ったように、旧「星辰」誌上においては、「太宰治と〈悪〉」という統一タイトルのもとに組まれた連載評論の「第二回目」として発表された。これから、その内容を五回に分けて再掲してゆく予定である。「『中期』太宰治の変容」と併せて味読いただければ、本望である。(二〇一七年九月 筆者)        1   『右大臣実朝』は美しい小説である...

星辰 Sei-shin | 2017.09.29 Fri 21:37

〈生き難さ〉のアーカイブス〜「詩を描く」若者たち〜(連載第2回) 川喜田晶子

  歪む世界?    学生たちにとって、表現の原点となり、起爆剤となっているのは、自分の存在を肯定する難しさであるようだ。〈個〉を超えたものに存在を支えられているという安らぎからの遠さを、明晰に見極めた表現が繰り出されてゆく。      ラッシュ時の改札     Y・R   慈悲はいらない 慈悲は私を脱落させ 慈悲は私を焦らせ 慈悲は私を敗者にする 敗者は時を奪われ 勝者は時を制す ほんの些細な出来事だろうか されどこれも一つの世界 時を懸けたシビ...

星辰 Sei-shin | 2017.07.22 Sat 16:24

「中期」太宰治の変容―表現と実生活をめぐるアポリア―(連載第4回) 川喜田八潮

           5    しかし、昭和十六年の『新ハムレット』になると、すでに、太宰の生活思想には、重大なほころびが顕われ始める。  ハムレットの、「言葉」にのみ「真実」を認め、言葉の無いところには真の「愛」も無いとする理念は、「前期」太宰の〈関係の障害感〉と表裏する芸術至上主義的理念と同じものであり、実生活と表現の〈均衡〉の崩れが明瞭に見てとれるのである。 「愛は言葉だ。言葉が無くなれや、同時にこの世の中に、愛情も無くなるんだ。愛が言葉以外に、実体として何かあると思って...

星辰 Sei-shin | 2017.07.21 Fri 18:20

「ギャップ萌え」症候群

「ギャップ萌え」という言葉があるようです。  一人の人物が、両極端な要素を抱え持っていたり、意外な変貌ぶりを見せたりする。そういう人物やドラマのキャラに「萌え」ることを言うようで、ドラマの登場人物の中に、役者さんの日常の素顔に、恋愛を上手に進めるテクニックに、と、いたるところにこの「ギャップ萌え」が求められたり、意識的に演出されたりしているようです。  もはやステレオタイプ化している「ツンデレ」をはじめ、男性的な人物の中の女性性、悪党の中の良心、大人の中の幼児性、現実主義者の中のロマン...

川喜田晶子KJ法blog | 2017.06.30 Fri 17:28

「中期」太宰治の変容―表現と実生活をめぐるアポリア―(連載第3回) 川喜田八潮

       4    ただし、このような太宰の実生活と表現の〈均衡〉に、危うさと不安定さがあったことは否めない。  彼の希求する文学のもつ〈関係への渇き〉(及び、それと裏返しの関係にある〈生得的な障害感〉)の激しさは、彼自身の生きざま(実生活)を、絶えず〈言葉〉と〈行為〉において塗り変え、家族的な〈物語〉を繊細に紡ぎ、支える基盤となったばかりではなく、自身の周囲を超えて、広く世間へ、社会へと広がろうとする。  自身と家族とを大海の塵のような心細さに追い込み、翻弄する、得体...

星辰 Sei-shin | 2017.06.26 Mon 16:06

〈生き難さ〉のアーカイブス〜「詩を描く」若者たち〜(連載第1回) 川喜田晶子

 ブログ「星辰」をスタートさせた2016年2月から、「〈藤村操世代〉の憂鬱」というタイトルで批評文を連載してきたが、そこでは明治20年前後生まれの当時の青年たち・表現者たちが、時代に蔓延する〈生き難さ〉と格闘する様を多角的に取りあげた。その〈生き難さ〉の質が、藤村操が投身自殺した明治30年代後半に限ったものではなく、表情を変えながら〈現在〉にまで連なる普遍性を帯びていることにも触れてきた。    私の中でこの連載はまだまだ始まったばかりであり、今後、谷崎潤一郎の倒錯的な美意識の意味するものや...

星辰 Sei-shin | 2017.06.24 Sat 18:46

芥川龍之介と闇(連載第4回) 川喜田八潮

       9    己れの人生を嘲弄し、破滅と死に向かって刻一刻と自身を追いつめてゆく、目に視えぬ悪魔的な力の存在を、象徴的・暗示的に感受する「歯車」の作者の体験には、幼児期から少年期にかけて彼の魂の〈下地〉を培ってきた、江戸後期以来の下町共同体的な〈闇〉の感覚の残滓が、正常な〈表現〉を封じられたがために、歪められた形で痛ましく露呈しているとみることもできる。  それは、土俗的でアニミズム的な、野性味のある生命感覚に対する、近代合理主義的なまなざしによる〈抑圧〉によっても...

星辰 Sei-shin | 2017.05.25 Thu 12:53

「中期」太宰治の変容―表現と実生活をめぐるアポリア―(連載第1回) 川喜田八潮

  *この「『中期』太宰治の変容」は、「1998年・秋」に発行された「星辰」創刊号に掲載されたものである。当初は、「太宰治と〈悪〉」という統一タイトルのもとに、連載評論の「第一回目」として発表された。この連載は、「星辰」創刊号〜第四号までの計四回にわたり、その内、創刊号と第二号には「中期」太宰論、第三号と第四号には「後期」太宰論が分載されたが、今回、ブログ「星辰」に再掲するにあたり、改めてその内容を慎重に検討した結果、「中期」太宰論の二論考(「『中期』太宰治の変容」及び「『右大臣実朝』と...

星辰 Sei-shin | 2017.04.26 Wed 14:30

〈藤村操世代〉の憂鬱(連載第15回) 川喜田晶子

折口信夫の〈青あざ〉?   「葛の花」の一首と同様の〈死〉の風景への憧憬は、次の歌にも顕著である。    人も 馬も 道ゆきつかれ死にゝけり。旅寝かさなるほどの かそけさ   「葛の花」の歌ほど、〈死〉に鮮やかさを見ているわけではないが、この情景に感受した「かそけさ」に、折口が憧憬を抱いていることがわかる。  人の生き死にと馬の生き死にとの重さに大きな違いを見出していない歌いぶりである。その違いを薄れさせてゆくかのような旅寝の重なりこそが主題とも見える。人も馬も旅の...

星辰 Sei-shin | 2017.04.23 Sun 13:17

無駄に使うな、贅沢に使え。

 ずいぶん前のことですが、バイオリン作りの職人さんが、「木は、無駄に使うな、贅沢に使え。」と語っておられる記事を読んだことがあります。  これは、素材としての木の、良い部分を効果的に使ってバイオリンにする、といった平板な意味ではなかろうとおもわれます。  木には木としての命があり、その全体を生きています。その「部分」が使われてバイオリンとなるはずですが、使われない部分ははたしてただ廃棄されるだけなのでしょうか?  私には、木が「ここを使ってくれ」と訴えかけてくる、そこを使うことが、木...

川喜田晶子KJ法blog | 2017.03.31 Fri 15:31

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