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生きづらい世に誰がした | 2019.05.14 Tue 17:01
〈狂〉への転調 日常の中の一こまが、突然〈狂気〉としての象徴性を帯びる。 一見、地味な写生と見える句の中で、次元を変容させられるモチーフたちの表情には、〈個〉の殻を超えた無意識の渇望がさりげない傲岸さで滲んでいることがある。 月光に開きしままの大鋏(おおばさみ) 真鍋呉夫 開いたままうち置かれている大鋏が、月光を浴びて、日常生活の道具から舞台上の主役の趣に変貌する。 人生において、何か大きなものを切断する不吉さと勇断とを月光に晒し...
星辰 Sei-shin | 2018.10.29 Mon 18:48
〈うそ〉と〈ほんと〉 人は、表層を裏切るものをたっぷりと抱えて生きている。そのことが、危うさや悲哀でもあれば救いでもある。 高々と蝶こゆる谷の深さかな 原石鼎 己れの内にざっくりと深く切れ込んだ〈谷〉があることを憶い出させる一句。平らかに穏やかに見える他者の内にもまた、そのような〈谷〉の底知れぬ深さがあるかもしれない。人生の表層の浮き沈みの激しさと必ずしも比例するわけではない、その深さ。 その〈谷〉が深ければ深いほど、〈蝶〉はより高々...
星辰 Sei-shin | 2018.09.26 Wed 17:49
〈生き残り〉の哀歓 人はみな鬼の裔(すえ)にて芒原(すすきはら) 木内彰志 何かが一面にひろがる風景の〈無辺〉の感触は、私たちを、どこから来てどこへゆくのか、という問いへと誘うのだが、「人はみな鬼の末裔なのだ」という認識も、〈芒原〉にたたずむことで自然に受け容れられてしまう。 鬼の領域と人の領域が隣接しながらも険しく排除し合い、切なく惹きつけ合い、混じり合って、いつか人がかつて鬼であったことを忘れ去るまでの壮大な時間が、そこには〈芒〉の姿をとって見...
星辰 Sei-shin | 2018.08.31 Fri 12:49
想い出す世界・忘れる世界 この世界の可視的な成り立ちを根底からひっくり返すことも、定型短詩は得意である。短さのゆえに、読み手は仮構された世界の奥ゆきをいかようにもはるばると想い描くことができる。異世界のほんの欠片を提示されるだけで、私たちは深い呼吸を取り戻すことができる。「もしも」が「ほんとうは」へと壮大に膨らむ。 月の夜の柱よ咲きたいならどうぞ 池田澄子 月の夜の柱の望みを肉感的に感じ取り、応答する作者の口ぶりが微笑ましく躍動的だ。 ...
星辰 Sei-shin | 2018.07.16 Mon 15:23
〈けもの〉の匂い 〈けもの〉に喩える営みによって解放されるものがある。 私たち、あるいは私たちの内なるなにものかを、解き放つための十七音、または三十一音の潔さ。 大いなる鹿のかたちの時間かな 正木ゆう子 梟(ふくろう)や森の寝息の漏るるごと 無田真理子 早春の馬はしり過ぎ火の匂い 穴井太 狼(おおかみ)のごとく消えにし昔かな 赤尾兜子 こめかみは鱗(うろこ)のなごり稲光 秋月玄  ...
星辰 Sei-shin | 2018.06.30 Sat 15:28
隠し持つ欲望 無意識を表現してこその文学。 俳句や短歌といった定型短詩において、無意識に隠されているものはどれほどの振幅で表現され得るだろうか。 致死量の遊びせんとや犬ふぐり 三木冬子 肉体やとりとめもなく青葉して 鳴戸奈菜 能面のくだけて月の港かな 黒田杏子 馬を洗はば馬のたましひ冱(さ)ゆるまで人戀(こ)はば人あやむるこころ 塚本邦雄 「致死量の遊びせんとや」は、もちろん『梁塵秘抄』の「遊び...
星辰 Sei-shin | 2018.05.28 Mon 21:08
〈少年〉の居場所 学生たちの作品についてはほぼ語りつくした感がある。 彼らの提出してくれた作品を論じることが授業の中心になった分、じっくり鑑賞するつもりであった近現代の作品をそれほど論じられず、残念な想いもないではなかった。ここでは、準備しておいた作品群からいくらかなりともピックアップして、〈現在〉に通じる〈生き難さ〉の質感について、それを超えようとする表現営為について、今しばらく語ってみたい。 少年のかくれ莨(たばこ)よ春の雨 中村汀女 この家...
星辰 Sei-shin | 2018.04.29 Sun 12:52
〈更新〉への想い? 己れの無意識を浸す不条理感を超えてその〈生〉を更新したいという想い、更新すべきだという想いが、学生たちの作品には〈生き難さ〉の痛みとともに十字架のように貼りついている。 誰かの人形 N・M たくさん辛いことが重なった 僕は必死に生きようとした たくさんの人を傷つけた 私は自分のために「愉しいこと」だと錯覚した たくさんの努力が認めてもらえなかった 俺は結局何にもできなかった 誰かに愛してもらいた...
星辰 Sei-shin | 2018.01.27 Sat 14:28
6 宮崎駿が、大人の恋愛感情の〈純粋さ〉を、子供の恋愛感情(彼によれば、その最も純粋な形態は「幼児期」に認められるものらしい)に還元せんとするのは感心しないけれども、私は、だからといって、幼児的なエロスの世界・感覚を、大人への成長過程の脱皮を強いられる中で「切り捨ててもかまわない」未熟な心性とみなして貶めているわけでは決してない。 人見知りしないで済む、幼児的な兄弟―姉妹的感覚ないし双子的感覚による、閉ざされた親密さの世界・絆というものは、たしかに、男女...
星辰 Sei-shin | 2017.12.25 Mon 17:28
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