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JUGEMテーマ:戯言 白地に黒縁模様の子猫は、その老人の足下で甘えるように頬を擦り寄せていた。白黒の縞模様の尻尾が、何かを掴むように丸まっている。透明な何かを実際に掴んでいるのかもしれない。形のない質量もない色彩もない何かを。それはこの宇宙のものではなくて、並行世界の宝物なのだろう。だからこの子猫は並行世界からやって来たのかもしれない。そう思えた。 「私の妻なんです」 老人が足下の子猫を指差して告げる。黒いスーツ姿の老人はネクタイを着けてはいなかったけれど、それが喪服であ...
pale asymmetry | 2024.08.26 Mon 18:26
JUGEMテーマ:戯言 何も失っていないけれど、何も得ていない。そんな暮らしが続く。何の不満もないけれど、満足もしていない。それを日常と呼ぶんだよとあなたが笑う。私は笑わない。螺旋の先端を千切り取り、宙に投げて土に刺す。その螺旋は地面から水を得て天に向かって育つかもしれない。でも鋭すぎる陽光に焼かれて枯れるかもしれない。きっと根付くさとあなたは言う。きっと枯れるだろうと私は思う。そんな私たちは肩を寄せ合い、エアコンディショナーの制御下にある部屋でショートフィルムを見つめている。視...
pale asymmetry | 2024.08.24 Sat 20:25
JUGEMテーマ:戯言 港の端に車を止めて、月の出を待つ。日が沈んだばかりだから、月が水面から浮上するのはだいぶ先だ。それでもあなたはフロントガラスの向こうに目を凝らしている。薄闇に消されそうになりながら、小さな島がぼんやりと浮かんでいる。私はその島を眺めていた。その島の海岸線で細かく光る赤い煌めきを。それは瞳だ。生命体の瞳。きっと獣だろう。いくつもの煌めきが私を見つめている。そこじゃないと言われているように思えた。「お前の居るべき場所はそこではない。こちら側だろう?」と。ところ...
pale asymmetry | 2024.08.23 Fri 20:37
JUGEMテーマ:戯言 雨は不確かに降っていた。迷い惑い降っているようだ。何者かに迷わされているわけではなく、何者かに惑わされているわけでもない。自身の行く道を自身が探ることに迷い惑っているようだった。ああ、私と同じだなと思った。あるいは、私が身勝手に雨に投影しているだけか。私の迷いと私の惑いを。それでも私は雨との重なりを感じずにはいられない。その重なりが不確かであったとしても、形も色も有していなかったとしても、私がそれを感じるのならばそれはたゆたっているのだ。やわい雨だった。だ...
pale asymmetry | 2024.08.20 Tue 19:53
JUGEMテーマ:戯言 得体の知れない不快感に襲われている自分に気づく。原因は解らないし、いつそれに襲われたのかも解らない。いつの間にか、そんな状態に陥っていたのだ。記憶を辿ってもその不快感の出所には行き着けないし、思い返せば思い返すほど、そんなものが私に付け入るような出来事はないはずだった。けれど不快感は確かに私の胸の奥で蠢いている。鋭くはない。鈍重に私の心臓を刺激するような感じだ。強く悩まされるという感じではなく、ふとした拍子にその不快感に気を取られるような感じ。私はこの感覚...
pale asymmetry | 2024.08.18 Sun 18:41
JUGEMテーマ:戯言 空は橙色で、何処までも砂漠が広がっている。そういう世界では、鳳凰の尾羽を食さなければいけないのだという。けれど私たちが食したのは人魚の肉だけなので、私たちはこの世界に相応しくないのかもしれない。でも確かめようがない。誰かに問い掛けるわけにもいかないから。というのも、広大な砂漠には視界の何処にも人影がなかったから。人影だけではなく魑魅魍魎の影も、精霊聖獣の影も、人工生命体やロボットの類いも見当たらなかったから。つまりもっかのところこの世界には私たちしかいない...
pale asymmetry | 2024.08.17 Sat 21:01
JUGEMテーマ:戯言 碧かった炎は、すっかり翠色に変わってしまった。もちろん熱を失ってはいない。けれど空気に奔放な紋様を転写することはもはや出来ない。むしろ周囲の空気に取り囲まれて窮屈に控えめに踊っている。その紋様はもう何も語っていない。そこから姿形や声や匂いや、もちろん想いも読み取ることは出来ない。もうその炎を鎮めなければいけないのだ。炎はあるべき世界に戻る。消えてしまうわけではない。それをよく理解していても、この世界から見えなくなるのであれば、あるべき世界なんて私にとって何...
pale asymmetry | 2024.08.16 Fri 20:36
JUGEMテーマ:戯言 土を食べるように昼食を口にする。不快でしかない。暑さのせいではない。くだらない日常のせいでもない。くだらないことは受け入れて暮らしているから、そんなことで不快にはならない。食べるという振る舞い自体が、不快なのだ。枯れてしまいたいという欲求が、萎れてしまいたいという欲求が、訳もなく溢れてくる。身体がスムーズに踊るように動くからだ。それに反して軋む心。かけ離れた二つの事象が私を異界へと誘う。そんなものはないのに。そんなものはありはしないということを受け入れてい...
pale asymmetry | 2024.08.14 Wed 20:13
JUGEMテーマ:戯言 私の郷里では、お盆の初日に魂を迎え入れるために水を燃やす。幼い頃、水が燃えることを教えられてそれを信じていた。少し成長して水が燃えるはずがないことを知った。でもさらに成長して、水が燃えるのではなく水を燃やすのだということに気づいた。水が燃える、と水を燃やす、は全然違うのだ。前者は現象であり、後者は儀式だということ。それならば実際に水が燃えているわけではないのかというと、もちろんそうではない。水はしっかりと燃えているのだ。碧い炎を揺るがせて。その炎はひんやり...
pale asymmetry | 2024.08.13 Tue 18:45
JUGEMテーマ:戯言 庭の真ん中に象が佇んでいる。いや、この表現はおかしい。庭は小さくて、象がそこに収まると象だけで満たされてしまっていたから。だから象は真ん中にいたわけではなく、庭を埋め尽くしていたのだ。私は庭に面した縁側に座っていた。両腕で膝を抱えて体育座りしていた。脚を庭に投げ出すことは出来なかった。それをすれば象と融合してしまいそうだったから。庭への入り口は小さな木戸しかないから、象はきっと空から下りてきたのだろう。だから普通の象ではないはずだ。形は象のようだったけれど...
pale asymmetry | 2024.08.12 Mon 18:47
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