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体質 無二はここへ来てはじめてエレベーターに乗った。 D棟の東の辺境に位置するこの建物は“廃館”と呼ばれている。 建てられた年代が古く老朽化が著しいからだが、なぜだか棟内では希少な現役のエレベーターがある。 途中で止まること2回、聞いたこともないような不吉な音を立てながら5階にたどり着いた。 写楽が“開”ボタンを拳で2〜3回叩くと、ドアが5センチほど開いて、何かにひっかかるように止まる。 だがそれも不測の事態ではないらしい。 写楽は当然のごとく慣れた仕草ですきまに靴先をねじ込み...
き み は ぼ く の ひ か り | 2009.02.28 Sat 23:59
JUGEMテーマ:連載 第1章 玄丈先生との出会い5 玄丈先生登場(1) 結局、ぼくは待った。まったくぼくは人につられやすい人間というか、付き合いのいい人間だ。 順番が来るまで、ほかに何もすることがないので、ぼくと翔太はよもやま話をした。 翔太の話によると、彼はこの道場に子供のころから通っていて、玄丈先生と呼ばれる整体師にずっと面倒を見てもらっているということであった。翔太は玄丈先生を親以上に信頼し尊敬しているらしい。 ところが、話題が家族、特に父親についておよぶと、彼はなぜか話を避けるような態度を...
ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.02.28 Sat 09:46
JUGEMテーマ:連載 第1章 玄丈先生との出会い4 翔太との出会い(8) 玄関のドアを開けると、天井に二本の太い梁がむき出しのままかかっているのが眼に入った。それは、この家の所有者の骨太さを象徴しているようにも思えた。 靴を脱いで、百足くらいは軽く収容できる本棚のように大きな靴箱に靴を入れてから、一段高くなっている床に上がり、ふつうの家の三倍はあろうかという広い廊下を通っていくと、広い待合室があった。そこには十人くらいの人がいたが、ぼくたちの顔を見てぎょっとしていた。 しばらくすると、若い女事務員...
ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.02.27 Fri 08:42
JUGEMテーマ:連載 第1章 玄丈先生との出会い4 翔太との出会い(7) 結局、ぼくたちはタクシーで行くことになった。どうしてぼくはこうも押しの強い人間に弱いのか。 顔を隠してタクシーに乗り込み、運転手に「成城学園まで」と伝えたところ、幸い運転手はぼくたちの顔に気がつかなかったようだ。もっとも、あとで気がついてぎょっとしていたが、車に乗ってしまえばこっちの勝ちだ。そんなことで自慢してみてもなんにもならないのだが……。 タクシーの行き先は世田谷の小田急線成城学園駅の南西側、駅からは車で二、三分、歩いて...
ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.02.26 Thu 06:43
グリーンおもちゃ工場といえば、以前はよく工具や機械をあつかう、トントン、カンカン、ガーガー、キコキコ、といったリズミカルな音が、外までひびいていたものでした。そして通りをゆく人々は、ミスター・グリーンは今日も精をだしているなあ、と感心して歩いていたものでした。 ところが、いまとなってはどうでしょう。子どもたちはコンピュータゲームにすっかり夢中で、ミスター・グリーンのおもちゃのことなど、いつしか見向きもしなくなっていたのです。おもちゃ職人となって早十年、ミスター・グリーンはこれほど投げやりな...
こどものほん | 2009.02.25 Wed 18:32
JUGEMテーマ:連載 第1章 玄丈先生との出会い4 翔太との出会い(6)「君に金を貸すいわれはない」 ぼくは男の眼を睨みつけて要望を断固拒否した。 すると、男は突然声をあげた。「そうだ」 男はよいことを思いついたというように、急に明るい顔になった。「あなたも先生のところに一緒に行って、みてもらいましょうよ。とにかく腕のいい先生なんですから。でも、依頼が多すぎて、一見ではなかなかみていただけないんですよ。たいへんな名人ですからね。だけど、ぼくは懇意にしてもらっていますから頼んであげます。ぼくが頼めば...
ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.02.25 Wed 08:48
JUGEMテーマ:連載 第1章 玄丈先生との出会い4 翔太との出会い(5) 最初は、こんなやつはぶっ飛ばしてやろうと考えたのだが、素性のわからない男と下手にかかわったらどうなるかと思ったとたん、襟首がヒヤッとしてきた。それで、ここは相手を怒らさないように、穏便にすまそうという気になった。「ずいぶんやけになっているようだな。でも、とにかく警察から出られたんだから、それでいいじゃないか」「もっと、暴れたかった。でもこれくらいしかできなかった」 男は天を仰いでから、ふーと大きなため息をついた。「君が何を考...
ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.02.24 Tue 07:46
JUGEMテーマ:連載 第1章 玄丈先生との出会い4 翔太との出会い(3) 警察署に連れていかれたぼくは、取調室で尋問された。尋問したのは署長だと言っていたが、本当かどうかはわからない。ぼくの聞き間違いかもしれない。 署長だと言っていた人は、長年の?勤続疲労?がそのまま顔に出ているような、しわくちゃな顔をしていた。彼はいかにもつまらない仕事をしているといった顔つきで、けだるそうに質問してきた。「あんた、仕事は?」「今は失業中です」「その前はどこに勤めていたんだ?」「川上商事です」「川上商事といえば、超...
ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.02.23 Mon 09:21
JUGEMテーマ:連載 第1章 玄丈先生との出会い4 翔太との出会い(4) ちょうどそのとき、取調室に警官が入ってきて、メモを署長に手渡した。それを読んだ署長はさっと顔色を変えた。 彼はしばらく思案するように眼を上に向けていたが、やがて眼をぼくの方に下ろして言った。「もう帰っていい」 そう言うと、署長はなぜか肩をがくっと落とした。「どうなってるんだ、これは?」 頭を机にこすりつけられ、胸をどつかれるのではないか、などと恐れていたぼくは拍子抜けした。まあ、そんなことはどうでもいい。一刻も早くこんなとこ...
ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.02.23 Mon 09:10
すこしなまぬるい、やわらかな南風が西スモモ町にふきつけ、初夏のおとずれを知らせました。みどりがしげるころの西スモモ町はといえば、ちょっとした絵はがきのような風景なのでした。 白い砂浜のむこうにひろがる、絵の具をとかしたような深いプルシアンブルーの海。あまい果実をつけた木々がそこここに立ちならび、かわいい小動物たちが枝の上でたわむれています。石畳にはこまやかな彫刻がほどこされ、坂道や階段は、どこも色とりどりの花でかざられていました。白壁のちいさな家々ときたら、まるで砂糖菓子のようです。 なか...
こどものほん | 2009.02.21 Sat 21:04
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