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久義は見開いた目を伏せ、それからパチパチと何度も瞬きをした。そうして、どうやら彼は自分の中で、それを冗談にすることにしたらしい。 「金魚を自慢したいだけだろう?」 「そうとも言う!」 ウィリアムもすぐに久義の考えに乗ることにした。事を急ぎすぎてはいけない。久義には久義の生活の基盤があるのだ。こんな話をすぐに受け入れられる訳がないということを、もちろんウィリアムだって分かっているのだから。 それでも、自分の考えを知って欲しい。少しでもその可能性を考えて欲しい。 久義はウィリアムの...
真昼の月 | 2023.05.06 Sat 22:54
「最近は、ヒースが届けに来ないから、義母が少し気にしていたよ」 「ああ……パティシエの俺が届けるのもおかしいだろうと言われて……。今迄は、真理江夫人が領地に馴染むためにと俺が行くように言われたけど……テオドア様、こないだの件で……」 久義が躊躇いがちにそう告げると、ウィリアムはさすがに顔を歪めた。 「ああ……くそ、失敗したか」 あの時は、テオドアの傲慢は物言いが我慢できなかった。ヒースに対してあんな高圧的な言い方をするな...
真昼の月 | 2023.04.30 Sun 03:14
そういえば久義は、エジプトのミイラにもビビっていた。おいおい、ミイラは大英博物館の人気展示物だぞ?六千体も所蔵されてるんだぞ?いや、人気だから収蔵してる訳ではないだろうけど。 その時の様子を思い出し、ウィリアムは口元がムズムズとにやけそうになるのを抑えるのに苦労してしまった。 「大英博物館はとても興味深いけど……ちょっと祟られそうだよね……。なんか……化けて出そう……?」 久義が怖々と言うと、ウィリアムは楽しそうに笑った。 「良いじ...
真昼の月 | 2023.04.23 Sun 11:22
◇◇◇ ◇◇◇ 真理江夫人はあの後、久義がこちらにこられないならと、バーマストンに訪問したい旨を打診した。だが、その日は忙しいからと、」バーマストン側から断られてしまった。 もちろん、バーマストン伯爵もフィッツガード伯爵も、暇な訳でも時間がありあまっている訳でもない。社交のシーズンが終わった後は、領地での行事も色々あるし、バーマストン伯爵はそもそも世界に名だたる磁器メーカーの経営者だ。オフシーズンには世界中の工場や各国の支店を視察に行ったり、翌年の新デザインの打ち合わせなど、仕事は...
真昼の月 | 2023.04.15 Sat 23:15
◇◇◇ ◇◇◇ 「どうして久義さんがこないの!?」 今日せっかく和菓子をフィッツガード城まで届けてもらったというのに、運んできたのは高校を出たての新人ポーターだった。いかにも「まだ仕事も覚えていないから、ちょうど良いから配達に出しました」と言わんばかりの若造で、「久義さんが来たら通してくれ」と言いつけられたメイドが、困ったように「若い男の子が配達に来た」と告げにきた。 久義ではないのか、車の中に久義はいないのかと確認したが、何度確認しても久義はおらず、仕方がないからそのままお...
真昼の月 | 2023.04.09 Sun 00:16
◇◇◇ ◇◇◇ 一通り仕事が終わり、自室に戻った後、久義は執事のトーマスの元を訪ねた。 今日、自分がフィッツガード伯爵家に和菓子を配達しなかったが、それで良かったと確認したかったのだ。 「伯爵の指示に従ったのだろう?君が気にする問題ではないのでは?」 「ですが、伯爵が今までフィッツガード伯爵家への対応をするように私に指示されていたのは、特別な事情があったからだと推察します。今回だけの特別措置でしょうか。それとも今後ともなのか……トーマスさんは、何かお聞きですか...
真昼の月 | 2023.04.01 Sat 23:36
◇◇◇ ◇◇◇ サマーバケーションの時期がやっと終わり、ティールームは少しだけ落ち着いてきた。だから真理江夫人から秋の練り切りを注文されても、「ああ、今日なら別に時間があるから良かった」と思っただけだった。 だが、お客様が少なくなった途端に「配達はポーターにさせるから、ヒースはジャパニーズケイクの準備だけしてくれ」と言われても、何故それを今!?と思うのは仕方ないだろう。 「それなら、もっと忙しい時期にそうさせてくれれば良かったのに……」 思わず久義が呟くと、...
真昼の月 | 2023.03.25 Sat 22:20
◇◇◇ ◇◇◇ 結局、久義はウィリアムをローズウッド城の最寄り駅ではなく、フィッツガードとは反対側の、少し離れた駅まで送っていくことにした。ローズウッド城の最寄り駅と言っても城からは車で二十分程かかるが、それでも地元の街には久義の顔馴染みも多くいる。見るからに貴族階級の男と二人で食事などしていれば、どんな噂を立てられるか分かったものではない。 車で街道を走りながら、目についた小さなパブに入る。そこに見知った顔はなくて、久義は小さく安堵の息をついた。 「酒を提供する店だが、...
真昼の月 | 2023.03.18 Sat 22:04
◇◇◇ ◇◇◇ 「陶器の商用で」と言われたせいか、クラリスは就業後の久義をボーディングルーム(応接室)に案内した。中にはウィリアムとテオドアが既に座って待っている。さすがに久義も一瞬体を硬くしてしまった。そんな久義の様子を見て、ウィリアムがテオドアに向かってよそ行きの笑顔を向ける。 「テオドア。ここから先は、私が対応する。君は席を外してくれないか」 「何故だ?私から言った方が、早く用件が済むだろう」 そのテオドアの台詞に、ウィリアムは眉を顰めた。 「父親の形見を力尽...
真昼の月 | 2023.03.12 Sun 17:57
「おい、夫人には伯爵がガツンと言ったんじゃなかったのか?」 「そ……そうだけど……その時のは子爵、いらっしゃらなかったからなぁ……」 シェフパティシエのウッディがそれを聞くと、むっと顔を顰めた。 「断れ」 「でも……」 「でももヘッタクレもねぇ。お前を見下してやがるんだよ。陶器って、お前の親父さんの形見だろう?そんなもん、他人にくれてやる訳ねぇだろうが!」 ウッディの怒りはもっともだが、久義の困ったような顔にきづいたジェフリーが、「&...
真昼の月 | 2023.03.04 Sat 22:22
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