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「父上! 今はそのような焼き物の話などより、ウィリアムの話でしょう!? フィッツガードの正当な後継者であるウィリアムが、日本人の男などと一緒に国を出ようというのですよ! ここで我々が彼を正しき道に導かねば、誰がそれをできるというのですか!」 テオドアには父が信じられなかった。 フィッツガード伯爵が許しているから何だというのだ。伯爵は後妻の日本人を優遇し、貴族令嬢だった亡き夫人の名誉を傷つけているではないか。夫人が愛したイングリッシュガーデンを日本庭園に造り替え、茶室を作り...
真昼の月 | 2024.09.22 Sun 03:56
「その台詞は私にではなく、トーマスにでも言ってやると良い」 「え?」 伯爵の言葉の意味を図りかねている久義に向かって、伯爵はもう一度肩を竦めて見せた。 「もしも君が当家の使用人だったとしても、人事権は執事と家政婦にあり、私が口を挟む物ではない。それ以前に君は当家の使用人ではなく、バーマストン社のティールームに所属する職人だ。辞表は既に受理されている。こちらも私が関与するものではない」 伯爵は感情の見えない顔でそう言うと、もう一度ウィリアムに視線をやっ...
真昼の月 | 2024.09.15 Sun 04:23
サロンルームにはバーマストン伯爵とその息子のテオドアが待ち構えていた。久義は小さくぺこりと頭を下げてソファの端に座ろうとしたが、もちろんそんなことをウィリアムが許すはずもなく、堂々と真ん中を2人で共有する。 ソファに座ると馴染みのメイドがコーヒーと簡単なお菓子をセットしていく。今日は男性のみのせいか、ティールームのスイーツではなく、ベルギー産のチョコが添えられていた。 「それで、どこを回って来たのかね」 伯爵は、ウィリアムが久義を追っていったことを知っているのかいないのか、そんな...
真昼の月 | 2024.09.08 Sun 03:30
◇◇◇ ◇◇◇ その城は、久義には見慣れた城の筈なのに、ずいぶんと大きく聳え立つように見えた。 暗い雲を背負って立つ名城、ローズウッド城。イングランドの歴史に名高い名門バーマストン伯爵家の居城であり、世界に名高い陶磁器メーカーであるバーマストンの庭園美術館である。 久義は2歳という幼さで日本を離れ、この城で育ってきた。毎年日本に帰ってはいたが、久義はここで育ち、ここが彼の故郷(ふるさと)と言っても間違いはあるまい。 その城を、久義は全く違う目で見つめていた。 この城...
真昼の月 | 2024.09.01 Sun 06:16
◇◇◇ ◇◇◇ その日の夜は、真理江から熱心にフィッツガード邸に泊まるようにと勧められ、とうとう真理江は二人を留め置くことに成功した。 「せっかくなんだから、2人は2人で過ごしたいだろう?」 伯爵はそう言ってウィリアム達がよそに宿を取るならそれで良いと言ってくれたが、真理江は一歩も譲らなかった。 「だって、ここはウィリアムが育ったおうちなのよ? そりゃいつでも2人はここに帰ってきても良いけど、もしこれから2人が日本に行っちゃうなら、そんなしょっちゅうここに帰って来れる訳じ...
真昼の月 | 2024.08.25 Sun 01:56
皆様、先週はお休みをいただき、また、ご心配おかけしてすいませんでした。 もうしっかり良くくなりましたので、またよろしくお願いします。 ヌ吉拝 ------------------------- 父の顔を見る。ずいぶんと年を取った父の顔を。 そうして自分も、自分が思っている以上に年を取ったのだ。 ────父の庇護下にいる子供では、いられないほどに────。 「……父上。ありがとうございます……」 フィッツガード...
真昼の月 | 2024.08.18 Sun 04:05
皆様、いつも真昼の月に遊びに来て下さりありがとうございます。 すいません、最近流行しているという例のアレにかかってしまいまして……人生二度目のコロナでございますが、熱が39.2℃とか出ております……。普通に1回目と症状ほぼ変わりません……。 や、前回と同様、熱が高かったり、咳が激しかったり、味覚障害があったり、飯が食えなかったりするんですが、前回と同様インフルより辛くないんですよね……。全然インフルより辛くないんですが、...
真昼の月 | 2024.08.11 Sun 03:43
フィッツガード伯爵は、厳めしい顔のまま言い放った。 だが、その口から出てきた言葉は、ウィリアムや久義が思った物とは全く違う物だった。 「勘当はしない。お前はフィッツガードの継承権を持ったまま、ここではないどこかに行って、愛する人と暮らすのだ」 厳めしい顔のままそう断言した伯爵を、二人はまじまじと見つめた。真理江も驚いたような顔をしている。 今、伯爵は何を言ったのか。 勘当はしない? お前はフィッツガードの継承権を持ったまま、日本に行って愛する人と暮らすのだ…&helli...
真昼の月 | 2024.08.04 Sun 03:56
それでも、ウィリアムは当然の事として、久義の腰にそっと手を添えて話し始めた。 それは、あまりにも当然で……まるで太陽が東から昇って西に沈むのだと言うような、それほどまっすぐな口調だった。 「私は久義を愛しています。この冬の間、日本で共に暮らして思い知りました。私は彼の隣にいたい。彼の田舎はとても山深くて雪も多いけれど、あんなに暖かな所を私は知りません。どうか父上、あなたが義母上の手を取ったように、私がヒースと共に生きる人生を歩ませて下さい」 ドッドッドッと、自分の血液が...
真昼の月 | 2024.07.28 Sun 04:29
「そう、伊嶋のおじい様はそんなにフレンドリーな方なのね」 「ええ、彼は私のことまで、まるで孫のように可愛がって下さいました」 ウィリアムが幸せそうにそう言うと、真理恵は驚いたように目を見開いてから、嬉しそうに笑った。 「人間国宝だって聞いてたから、気難しい方なのかしらって勝手に思っていたの。いきなりウィリアムが訪ねていったりして、追い返されたりしないのかしらって。でも杞憂だったようね」 そう言ってホッとした顔をする真理恵に、久義は確かに日本の職人はそういうイ...
真昼の月 | 2024.07.21 Sun 02:01
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