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◇◇◇ ◇◇◇ イギリス最後の夜を過ごす場所として、ウィリアムが選んだのはロンドンでも最も階層の高いホテルだった。五つ星のついたホテルだが、彼が選んだ理由は「ロンドンの全てを1度に目に焼き付けようと思って」というものだった。 なるほど、眼下にはロンドンブリッジやテムズ川、ビッグベンや観覧車を一望に見下ろす事が出来る。向こうの黒い翳った空間はハイドパークやリージェントパークだろうか。 「すごいな、ウィル。ロンドンを独り占めしてるみたいだ」 「ああ、やっぱり、ここを選んで正解だ...
真昼の月 | 2025.01.12 Sun 03:33
「……だから、皆そろそろ、あの事故は誰のせいでもない、対向車のおっさんのせいだって、認めても良いと思うんだ」 その事故で父を亡くした息子はそう言った。 あの事故のせいでどれだけでも寂しい想いをしてきた筈なのに。 「もう、あの事故のせいで誰も自分を責めて欲しくないし、お互いを憎んで欲しくない。俺は……俺は、伯父さんと一緒に、相手のおっさんのせいにしてきたよ。あのおっさんが居眠り運転なんかしやがったせいで父さんが死んだんだって。……だから母さん、母さん...
真昼の月 | 2024.12.29 Sun 04:57
大切な義信を失ってまで、何がイギリスだ。何が自分の夢だ。そんな物が何になる。愛しい義信と比べものになどならないのに。 何故自分はあの時義信のそばを離れた。一瞬でも、彼のそばを離れるべきでは無かった。ずっと一緒にいたかった。ずっと一緒にいるはずだった。その為に離れたはずだったのに。 謳子がぐっと唇を噛みしめて俯くと、ウィリアムはそんな謳子に優しく言った。 「おじい様は、あなたとお父上の考えを認めなかったことを、ずっと後悔していらっしゃいます。あなた達の中にある物...
真昼の月 | 2024.12.22 Sun 04:23
「お母さん、おじい様は、あなたに謝罪を」 ウィリアムがそっとそう呟くと、謳子は何を言われたのか分からないような顔をした。 「謝罪? お義父様が……?」 何故? 何に対して? まさか、まさか自分に対してではないだろう。あの人は、息子を置いて出て行った自分を、一生許さない。 「先日、おじい様と二人で話をしました。男同士で外国人の私を何故許してくれるのですか、本当に許してくださるのかと聞きたくて。その時に色々な話をしたんです。おじい様は、後悔しておられました...
真昼の月 | 2024.12.15 Sun 05:39
みなさま、いつも真昼の月に遊びに来てくださってありがとうございます! すいません、今週はちょっとお休みさせてください!! なんか、仕事が繁忙期だったり、風邪のせいで口内炎がひどくて飯が喰えないから風邪が治らなくて口内炎がの無限ループに陥ったり、メインで使ってるクレカの不正利用が発覚してカード停められて自動引き落としの対応に追われたりで、もう怒涛のような日々を過ごしております!! 皆様、カードの不正利用増えているようです!! なんか、海外のサイトで1ドル試し使...
真昼の月 | 2024.12.07 Sat 22:17
それから謳子は、眉を寄せ、目尻を下げて、微笑みながら「困っちゃったなぁ」と呟いた。それは本当に困った顔で、一瞬ウィリアムは謳子が泣き出すのかと思う程だった。 「お母さん? 大丈夫ですか? あの、無理はしないで下さい。ハギスはイギリス人でも苦手な人はたくさんいますから」 「ああ、そうじゃないわ。……ほんと、うちの新しい息子はずいぶんと生真面目なのね。そんなに堅苦しくする必要なんてないのに。カップケーキはあなたの好きにお食べなさいな。ハギスだってそう。そんな事に流儀だなんて&hellip...
真昼の月 | 2024.12.01 Sun 00:46
「それで、なに? この後は伊嶋に行くの?」 謳子は2人の前の席に座り込むと、さっさとカップケーキを手に取って、そのまま齧り付いた。さすがにウィリアムが目を丸くする。それはそうだろう。今まで会ってきた謳子は、バーマストン伯爵の右腕として、上品な笑顔で微笑む姿しか見せていなかったのだから。その謳子が手づかみでカップケーキを食べるだなんて、ウィリアムに想像がつくはずがない。 だが、久義も当たり前のようにカップケーキを手づかみで口に運び、「あ、昔と同じ味」などと喜んでいる。ここはウィリアムもそ...
真昼の月 | 2024.11.24 Sun 04:20
◇◇◇ ◇◇◇ 前もって知らせてあったので、サロンを出たウィリアムと久義を先導する為に、メイドのクラリスが廊下で控えていてくれた。 「高野夫人の元にご案内します」 あくまでも、ウィリアムに合わせた対応である。息子が母の元を訪ねるということではないらしい。それでも、クラリスは客をもてなす為の1階ではなく、2人を3階に案内した。そこは上級使用人達の部屋があるエリアだ。そのまま、2人は謳子のプライベートルームに案内された。これはさすが息子の久義がいてこそだろ...
真昼の月 | 2024.11.17 Sun 03:56
テオドアには分からなかった。ただ1人の友を想う気持ちがどこから来ているのか。 現在テオドアには婚約の話が持ち上がっているが、彼にとってはそんな降って湧いた婚約者など、取り替えのきく存在でしかなかった。そんな彼女との関係よりも、テオドアにはウィリアムとの関係の方が遙かに大切だった。 そう。分からなかった。そんな関係は知らないから。今までずっと、知らなかったから。 今、ウィリアムは男である久義の手を取ってテオドアの元を去って行った。 そんな関係があるなんて、テオドアは今まで知ら...
真昼の月 | 2024.11.09 Sat 01:57
「伊嶋のおじいさま達は皆心が広く、国際的な視野も持っている。私があそこで暮らす為の手はずを整えてくれたのは彼らだ。ここにいるよりも、あそこにいた方が、私は生きがいを感じるだろう」 確かに山深く、駅からは車で2時間もかかる。だが、フィッツガードだって結構な田舎じゃないか。 「イギリスにはお前の友人もいるだろう?私だっている」 「確かに、君は得がたい友人だ。君が私を心配して言ってくれていることも分かっている。だが、私は久義のいない人生は考えられない」 「ウィリアム…!」 ...
真昼の月 | 2024.11.03 Sun 04:52
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