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◇◇◇ ◇◇◇ 遠い山の中。最寄りの駅から緑の山道を抜けると、陶芸の村がある。 村の中はレンガで舗装されている。昔からの工房。歴史のある登り窯。ろくろや絵付けの体験もできるし、年に二回、大きな陶芸市も立つ。 メイン通りには昭和モダン様式の倉や店が並び、各工房ごとの店や、県下の伝統工芸や民芸品の土産物屋も並ぶ。もちろん、子供が喜ぶお土産屋さんも。 村から少し車で行くと湖があり、夏はカヌーを楽しめ、冬は雪原散策が人気だ。天体観測ツアーやバードウォッチング、サイクリングやアスレチック...
真昼の月 | 2025.03.09 Sun 08:59
伊嶋村には、陶芸だけしか選択肢がなかった。陶芸の才能が無いからと、村を出て行った者も多い。ただでさえ若者に倦厭されがちな古い体質の村なのに、このままでは村が無くなってしまう危険だってある。それは伊嶋焼きの存続に直結しているのだ。それなら逆に、陶芸以外の選択肢があれば、若い奴らも少しはこの村に残ってくれるのではないか。そう思っても、それは具体的にどんな選択肢なのかも、どうしたらその選択肢を実現出来るのかも分からなかった。 『でもさ、久義はバーマストンの中で子供の頃から暮らしてきた訳だろ?...
真昼の月 | 2025.02.23 Sun 05:33
1階に降りて仏間でお線香を上げてから居間に入ると、若い連中はタブレットを持ち寄って早速計画表からデザイン画やら予算案やらを見せてくる。何故だか自分達が村おこしの旗頭にされてしまっていて、なんだか申し訳なくなってくる。 『あのさ、えっと……俺達、でも、いつまでもここにいるかは分からないんだよ?ひょっとしたらその……他の国とか、イギリスとか、行くかもしれないし……』 遠慮がちにそういう久義に、皆はキョトンとした顔をした。 『なんでそんな事わざわざ言...
真昼の月 | 2025.02.16 Sun 03:44
みなさま、いつも真昼の月に遊びに来てくださってありがとうございます! すいません、ちょっと色々と立て込んでおりまして、今週お休みさせて下さい💦💦 また来週再開できるように頑張っております。 よろしくお願いします。 イヌ吉拝 にほんブログ村 日本ブログ村 BL小説ランキング ←携帯の方は、こちらからお願いしますm(_ _)m ムーンライトのベルズに登録しました。 当blogのお話置き場とし...
真昼の月 | 2025.02.09 Sun 01:49
◇◇◇ ◇◇◇ 駅に着くと、信吉の軽トラが見えた。その小さなトラックを見て、久義とウィリアムは、自分たちは日本に帰ってきたのだなと思えた。 『じいちゃん、迎えは良いって言ったのに』 『なぁに、せっかくお前らが帰ってきたんだ。俺が迎えに来ないでどうするんだよ』 2月に入って、ますます雪が深い。それでも気軽に迎えに来てくれた祖父に、久義はありがたいけれども困ったように眉を下げた。 「早くこっちの免許を取らないと」 こっそり久義が囁くと、ウィリアムが隣で小さく笑う。 「日本は...
真昼の月 | 2025.02.02 Sun 05:17
久義はぐっと唾を飲み込み、ゆっくり瞬きをした。 「……ああ。ウィリアムを伴侶とし、病める時も、健やかなる時も、あなたを愛することを誓います。だから、だからウィル。俺も……ウィルに申し込むよ。どうかウィリアム、俺と結婚して下さい。一生俺と一緒にいて下さい」 「もちろんだよ、久義。……ありがとう」 ウィリアムの日本語は大分上達したが、それでも「久義」と呼ぶ発音は、まだ大分辿々しい。 でも、辿々しくて良いのだ。それが自分達なのだから。久義を本当の名...
真昼の月 | 2025.01.19 Sun 02:45
◇◇◇ ◇◇◇ イギリス最後の夜を過ごす場所として、ウィリアムが選んだのはロンドンでも最も階層の高いホテルだった。五つ星のついたホテルだが、彼が選んだ理由は「ロンドンの全てを1度に目に焼き付けようと思って」というものだった。 なるほど、眼下にはロンドンブリッジやテムズ川、ビッグベンや観覧車を一望に見下ろす事が出来る。向こうの黒い翳った空間はハイドパークやリージェントパークだろうか。 「すごいな、ウィル。ロンドンを独り占めしてるみたいだ」 「ああ、やっぱり、ここを選んで正解だ...
真昼の月 | 2025.01.12 Sun 03:33
「……だから、皆そろそろ、あの事故は誰のせいでもない、対向車のおっさんのせいだって、認めても良いと思うんだ」 その事故で父を亡くした息子はそう言った。 あの事故のせいでどれだけでも寂しい想いをしてきた筈なのに。 「もう、あの事故のせいで誰も自分を責めて欲しくないし、お互いを憎んで欲しくない。俺は……俺は、伯父さんと一緒に、相手のおっさんのせいにしてきたよ。あのおっさんが居眠り運転なんかしやがったせいで父さんが死んだんだって。……だから母さん、母さん...
真昼の月 | 2024.12.29 Sun 04:57
大切な義信を失ってまで、何がイギリスだ。何が自分の夢だ。そんな物が何になる。愛しい義信と比べものになどならないのに。 何故自分はあの時義信のそばを離れた。一瞬でも、彼のそばを離れるべきでは無かった。ずっと一緒にいたかった。ずっと一緒にいるはずだった。その為に離れたはずだったのに。 謳子がぐっと唇を噛みしめて俯くと、ウィリアムはそんな謳子に優しく言った。 「おじい様は、あなたとお父上の考えを認めなかったことを、ずっと後悔していらっしゃいます。あなた達の中にある物...
真昼の月 | 2024.12.22 Sun 04:23
「お母さん、おじい様は、あなたに謝罪を」 ウィリアムがそっとそう呟くと、謳子は何を言われたのか分からないような顔をした。 「謝罪? お義父様が……?」 何故? 何に対して? まさか、まさか自分に対してではないだろう。あの人は、息子を置いて出て行った自分を、一生許さない。 「先日、おじい様と二人で話をしました。男同士で外国人の私を何故許してくれるのですか、本当に許してくださるのかと聞きたくて。その時に色々な話をしたんです。おじい様は、後悔しておられました...
真昼の月 | 2024.12.15 Sun 05:39
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