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「おはよう、馨。そろそろ、起きないと遅刻するぞ」 「ん…」 目を開けると、廉がいた。 「おかえり。帰ってきてたんだ」 ぼんやりとかすむ廉の顏。何度か瞬きをして、確認する。廉だ。 嬉しくて、思わず手を伸ばしていた僕を、廉が抱きしめて起こす。 「ああ、昨夜遅くにな」 抱きしめられたまま頭を撫でられ、心地よくて目を閉じてしまった僕に、くすりと廉が笑う。 「寝るなよ、馨。もう、8時だ」 「...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.12.19 Sat 11:46
僕らが生徒会室に行くと、中には紡と類、長谷川が待っていて、奥には新庄の姿もあった。 「馨! 水無瀬! 良かった〜!!」 紡が飛んできて抱きついてくる。 「ごめんね、心配かけて」 「何言ってんだよ。無事なら、それで良いんだよ」 横から類が、ちょっと怒った顏で言う。 「大丈夫? 怪我してない?」 紡がお母さんのように、僕の身体を点検する。僕はさりげなくセーターの袖口を伸ばす。もう痕は薄くなってると思うけど&...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.12.18 Fri 08:37
「ごめんね。僕のせいで慎一まで閉じ込められちゃって」 「は? 何いってんの。悪いのは新庄だから。ぜーんぶあいつのせいだから」 はは、怒ってるな慎一。絶対敵に回しちゃいけない相手だ。 僕にとっては優しい友だちだから怖くないけど。怒らせた新庄はご愁傷様だ。 「多分、長谷川辺りが気が付いてくれそうな気がする。すぐ戻るつもりだったから、部室に裁縫道具とか出しっぱなしだし、荷物もそのままで来たから」 長谷川は同じ茶道部で、僕らと同じ代の風紀委員長。地...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.12.17 Thu 08:55
「好きです、馨先輩。俺のものになって下さい」 まっすぐに見つめてくる新庄の目を逸らすこともできなくて、僕は黙って彼を見上げていた。 去年の体育祭で僕を追いかけてきた一年坊主。そのときは確か同じ目線で。あの頃はきりっとした眉毛の美少年で、必死な感じも、慌てておろおろする感じも可愛くて。 それがいつの間にか、背も伸びて、紅顔の美少年がイケメン生徒会長になり、近隣女子高生のアイドルで。 なんか感慨深い。 「馨先輩! …聞いてます?」 ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.12.16 Wed 12:00
痛いくらいの力。 苦しくて、上がっていく息が苦しくて堪らないのに、その息苦しさの分だけ、現実のこいつの存在を感じられる気がして。 どうしても突き放す事ができなかった。 「もしかして……妬いてくれた?」 「バ……ッ!そんなんじゃ…っ!」 「大丈夫、あいつはそんなんじゃないよ。サッカー部のマネージャー。それだけだよ?三島さんが心配してるような関係じゃ、絶対にないから」 「心配なんかしてね……っ…ぅ」 抱きしめられた腕の中、ぷいと逸らした顔に射した翳り。 え?と思う暇もなく、そっとそっと塞がれた唇から...
駄文倉庫 | 2020.11.22 Sun 00:45
出て行けと言った俺の言葉に、戸惑うように瞳を揺らした仁志が、それでも動こうとはしなくて。 それどころか、ゆっくりと近づいてくるその動作に、不覚にも俺の方が後ずさってしまう。 「どうしたんだよ?俺、ちゃんと思い出したよ?だから帰って来たんだ」 「思い出した…って事は、綺麗さっぱり忘れてたって事だろ?俺の事、わかってなかったもんな」 「それは……」 「それ以上近寄んな!」 あと一歩。そして手を伸ばせばすぐにでも届く場所まで距離を縮めてきた仁志へと、まるで追い詰められるかのようにして、壁に背をつけ...
駄文倉庫 | 2020.11.22 Sun 00:27
「こんにちは」 一瞬、時間が戻ったのかと思った。 「何……してんの…?」 とぼとぼとアパートに帰りついた俺は、階段を昇り始めてすぐに気づいた気配に立ち竦む。 目の前にあるはずの現実が信じられなくて、震える声であの日と同じ質問を投げかける。 「雨やどり」 そして返ってきた答えは、向けられた笑顔は、あの日と同じものだった。 違うのは、あの時は学生服姿だったこいつが私服だという事と、あの日は何も持っていなかったはずの手に、さっき俺が渡した紙袋を持っていたという事。 「寒いから、三島さんの部...
駄文倉庫 | 2020.11.22 Sun 00:24
走って、走って、走って──…。 今、目の前に見た光景を頭の中から追い出そうと躍起になる。 俺の事を覚えていない、そんなあいつを見ていたくなかった。 親しげにあいつに話しかける女の子を、見ていたくなかった。 何よりも、彼女に笑いかけるあいつを見ていたくなかった。 「はは……」 真冬の季節だというのに、アパートに辿り着いた時には汗だくになっていて。 そんな自分の惨めさに、乾いた笑みが零れ出す。 呆れてしまう。 逃げるようにして背を向ける事しかできなかった自分に。 言いたいことも言えずに、逃げ出...
駄文倉庫 | 2020.11.12 Thu 22:17
「おまえ、飼い犬だろ。飼い主さまはどうした〜?」 チビを抱き上げた仁志が、その首に巻いてある青い首輪をちょいちょいと突付きながら問いかける。 それは、あいつがうちに来た翌日に、あいつの服を買った時に俺が一緒に買ったものだった。 もし仁志が全てを覚えているとしたら、そんな台詞が出てくるはずがなくて。 ここに来てもまだ捨てきれていなかった期待が、駄目押しとばかりに覆された瞬間だった。 「わ…わっ!仁志!バカ!!近づけんなよっ!」 「なんだよ、おまえこんな小さな犬も駄目なのか?」 「態度はデカイ...
駄文倉庫 | 2020.11.12 Thu 22:11
仁志がいなくなってしまってすぐに訪れた週末。先週と同じようにして過ぎていく休日の時間は、一週間前とたいして変わらないというのに。 つい2、3日前まで、それこそ3日間しかこの部屋にいなかった人間がいないというだけで、妙な喪失感を煽られる。 これでチビがいなければ、きっとアレは夢だったのだと、振られて落ち込んでいた心の隙間に入り込んできた夢だったのだと思えたのに。 結局金曜日に大学を休んでしまってから3日間、俺は外に出る気分にもなれず、バイトまで休んでしまい、部屋でぼんやりと過ごしていた。 時...
駄文倉庫 | 2020.11.12 Thu 22:07
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