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次の日、瑞穂が学校へ行くと、珍しく伊豆はもう席についていた。 教室に入ってきた瑞穂に、クラスメイトが近寄ってくる。休んでいた自分のことを心配してくれていた級友に答えながらも、瑞穂は早く、伊豆の近くに行きたかった。伊豆の前の自分の席に。ようやく自分の席にたどり着いた瑞穂は、伊豆に声を掛ける。 「おはよう」 「…おはよう」 ぶすっとした表情のまま、瑞穂の方を見もしないで、それでも伊豆は小さく答えた。 その日、授業をサボることもなく伊豆はずっと瑞穂の後ろに座っていた。...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.13 Sat 19:38
「瑞穂さん?」 朝、いつもの時間になっても起きてこない瑞穂の部屋のドアを、華名子がノックする。返事はなかった。瑞穂はいつも、起こさずとも時間になれば身支度を整えて下のダイニングに降りてくる。華名子は、そっとドアを開けた。 「瑞穂さん、どうかした? 具合でも悪いの?」 まだベッドに横たわったままの瑞穂の顔は蒼く、唇の端が切れて赤く腫れていた。 「瑞穂さん! どうしたの、いったい」 驚いて駆け寄る華名子の声に、瑞穂が目を開ける。 「お母さん…。ごめん、大丈夫だから...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.12 Fri 12:46
日曜の夕方、瑞穂は居間で、最近覚えたオセロゲームに夢中の美果の相手をしてやっていた。そこへ、お手伝いの茂子が入ってくる。 「だんな様は、書斎ですか?」 「うん、多分」 瑞穂が答える。さっきまでここにいたが、二階に上がっていったから、多分部屋で仕事をしているのだろう。 「お客さま?」 何の気なしに訊いた瑞穂に、 「ええ、バイク便の方を呼ばれたみたいですので、」 「僕が、行くよ」 茂子が言い終わらないうちに、瑞穂は立ち上がっていた。 「あ、おにいちゃまの番よ!」 ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.11 Thu 14:34
「おにいちゃん!」 赤いゴルフが、大学の通用門の前に停まっている。硬派な国立大学に似つかわしくない派手な格好の美果が、研究棟から出てきた瑞穂に向かって車越しに手を振っていた。 有吉瑞穂は、この大学の研究室に勤めている。年の離れた妹の美果は今年短大を卒業する予定で、そのまま4月からアメリカに語学留学することになっていた。 スリムのジーンズに、ブーツ。ラビットファーのブルゾン。ストレートの綺麗な茶髪は良く似合っていて可愛いが、ここでは浮いてるなあと、瑞穂は他人事のように思う。 瑞穂の...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.10 Wed 12:00
葵は、自分のマンションのベランダから外を眺めていた。ここは6階で、部屋の灯りはつけていなかった。そのせいか、遠い街の灯りがやけにきれいに見えた。 ここにはときどき、着替えや郵便物を取りに来たり、風を入れたりしにきてはいたが、なんだかもう自分の家とは思えなくなってしまっていた。 葵はズボンのポケットから、マルボロとライターを取り出す。つい持ってきてしまったけれど、残りはあと2、3本だ。きっと梶原は無くなっていることにも気付かないだろう。<BR> 一本銜えて、火をつける...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.09 Tue 14:05
そろそろ、本格的に春の訪れを感じさせるような日が続いている。三月も半ば過ぎ、その日は大安吉日の日曜日だった。夕方、慣れない礼服を着込んだ葵は、大きな紙袋を下げて帰った。 「ただいま」 出迎えて足にまとわりついてくる、クロに言う。すると、 「おかえり」 ソファで新聞を読んでいた梶原が答えた。出掛けているものと思っていた葵は驚いて振り向いた。フード付きのグレーのトレーナーに、黒いジャージのパンツというラフな格好。梶原は、落ち着いた物腰のせいかスーツの時は実際の年より上に見える...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.06 Sat 01:03
「梶原くん」 営業部のフロア、梶原は廊下で支店長に呼び止められた。 「はい」 振り返った梶原に、支店長は愛想のよい笑顔で近づいてきた。 「この前のパーティ、ご苦労だったねぇ。おかげで得意先の評判も上々だよ」 「ありがとうございます」 先日、得意客を集めた懇親パーティがあり、その取り仕切りを梶原が任されていた。通常の業務で手いっぱいなのに余計な仕事を、と内心毒づいてはいたが、相手は大手の融資先ばかり、万に一つも失礼があってはならない。任された以上失敗するわけにはいかな...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.05 Fri 21:00
JUGEMテーマ:JUNE/BL/ML 「彼女に子供が出来た――」 口を開きかけた葵を遮るように、坂本はそう言った。 金曜の夜、オフィス街にある賑やかなカフェ。奥の席に向かい合って座った彼の口から、最後通告のように響いたその言葉。 葵は、何も言えずに黙って席を立った。 「すまない、許してくれ葵。すまない…」 坂本は俯いたまま、ただそう繰り返していた。結局彼は最後まで、真っ直ぐに葵を見ることなかった。 さよならも言えないまま、葵は彼に背を向けた。 外の冷たい空気に、思わ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.05 Fri 00:54
男の名は、梶原直人。大手都市銀行に勤める銀行員で、年は二十五歳、葵よりも三つ年下だった。行為のあと、見ず知らずの他人を家に一人にしていいのかと皮肉っぽく云った葵に、梶原は葵の上着のポケットから勝手に抜き取った名刺を見せる。 「鵜川葵、市役所の戸籍係。身元の確認は済んでるよ」 抜け目ない笑顔でそう言った。 結局その日一日中、そして次の日も、二人はベッドのなかで過ごした。 そしてそのままなし崩しに、葵は梶原の部屋に居着いてしまうことになる。 職場へは、梶原のマンションの...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.07.04 Thu 23:10
「シギーさん、これは?」 「これはルバーブのジャム。これもセリョージャの手作りでね?」 「ルバーブ?」 設楽が初めて聞く名前に小首を傾げると、セリョージャが続きを引き受けた。 「ルバーブは、丁度今頃から収穫し始めて、秋頃まで採れるんですよ。日本の蕗を真っ赤にしたような植物でね。春先のルバーブは茎が太くてコンポートに向いています。もし興味があるようなら、一緒にコンポート作ってみるかい?」 「良いんですか?お願いします」 設楽が素直に頭を下げると、またダグラス達がニヤニヤとちょっかいを...
真昼の月 | 2019.06.23 Sun 12:27
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