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「あれ、珍しい、ちーちゃん風邪引いたの?」 月曜日、おはよう〜と元気に出社してきた柴田が、マスクを掛けた千尋の顏を見てびっくりしてる。花粉症にも風邪にも無縁の、千尋のマスク姿を見るのは初めてだ。 「うん、ちょっとね。喉が痛くて」 笑って誤魔化す千尋に、柴田が心配そうに続ける。 「大丈夫? インフルエンザ流行ってるみたいだし、病院行った方がいいんじゃない?無理せず休みなよ」 「そうだね、午前中のアポだけ済ましたら、病院行ってくる」 「ただの風邪でもそのまま...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.31 Sat 18:06
「母さん、そろそろ行くよ」 夕方、千尋はスーツを着て身支度を整えると、部屋で準備を始めたばかりの母親に声を掛ける。 「え、もういくの? まだ早いわよ」 「良いから着替えたら出てきて」 「ちょっと待って、もうちょっと」 そう云って、部屋の中で慌ててごそごそしている音がする。時間はまだあるが、そもそも化粧とかちゃんと出来るのかと、千尋は心配だった。普段は化粧なんて滅多にしない人で、髪もまとめやすいという理由だけで、ワンレングスのボブスタイル。いつも一つにひっつめていた。 やっと襖が...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.27 Tue 10:47
「風邪ひくぞ」 テレビをかけっ放しでうとうとしていた千尋の頭を、くしゃりと並木が撫でた。 「んー。おかえりー」 伸びをしてソファから起き上がりながら、千尋が云った。いつの間にか部屋が暗くなっている。もう午後7時を過ぎていた。 並木が出掛けた後、溜まっていた洗濯や掃除をして、終わった後することもないのでソファに寝転んだままぼーっとテレビでを見ているうちに、眠ってしまっていたらしい。 「悪かったな、遅くなって。今からでもいいか?」 珍しく素直に謝る並木に、 「ん? ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.25 Sun 13:36
お昼のチャイムが鳴り終わったちょうどそのとき、社に戻ってきた彼を出迎えるように、同じ課の女子社員たちが一斉に立ち上がった。 「ちーちゃん、お帰り〜」 老舗の寝具メーカー、鷹山寝具の営業マン小林千尋は、女子社員の熱い出迎えに圧倒されながらも、笑顔で持っていた紙袋を差し出した。 「はいはい。お待ちかねの、チーズケーキ」 「きゃ〜ありがと。ちーちゃん」 嬉しそうに受け取って、早速給湯室へ切り分けに向かう一団。その後ろ姿に、千尋は思い出したように声をかけた。 「あ、俺の分...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.24 Sat 14:01
皆様、いつも「真昼の月」に遊びに来て下さり、ありがとうございます!! 実はですね!実はですね!! タイトルの通り、なんと「夢見月夜曲」の日高千湖様から、6周年記念のお祝いのお話をいただいてしまいました!! これは以前、日高さんからお祝いにいただいたお話の続きのお話となっております。 少々前のお話になりますので、そちらのお話にもリンクを貼っておきますね!! >>>2016年の当blog開設3周年記念に寄せて贈って下さったお話はこちら!! &nb...
真昼の月 | 2019.08.23 Fri 08:08
(…この場合、やっぱり酔った勢い。というのが、一番穏当な言い訳だろうな…) 牧瀬広正は、隣に眠る同じ会社の後輩、房原歩を見下ろしながら思う。土曜日の遅い朝、ここは牧瀬の部屋のベッドの上で、そしてお互い生まれたままの姿。 牧瀬は上半身を起こすと、サイドテーブルに置いてある煙草を取って火を点ける。 昨夜は本社制作部の歓迎会で、名古屋から異動で戻ってきた牧瀬の歓迎会だった。もともと牧瀬はこっちの制作部にいたのだが、二年前、名古屋に出来る新しい事業部の立ち上...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.20 Tue 13:22
「相原!」 昼休みも終わり近く、化粧室から出てきたらしい相原の姿を見かけ梶原が声を掛けた。 梶原の所属する情報システム部は本社ビルの6階、相原のいる総務部は2階。同じ建物の中にいても偶然会う事はそうない。 「梶原くん、どうしたの?」 「ん。事務に出張費の請求にな」 ぴらぴらと請求伝票をひらめかせ、答える。システム部には一般職の女子社員がほとんどいないため、そういう細々としたこともすべて自分でやらなくてはいけない。時期外れの1月に異動、というか左遷されてもうすぐ一年。そん...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.14 Wed 12:00
四月に入って、梶原のいる情報システム部でも歓送迎会が催されることになった。一月の梶原の異動のときには、さすがに歓迎会をする雰囲気ではなかったので、今回普通の異動者とともに一応歓迎される側になるらしい。 なんだかなぁ。と梶原としては複雑な気分での出席となった。普段は未だに遠巻きにされてる感もあり、システムにあまり馴染めているとは言い難い。そういう連中との飲み会はあまり嬉しくはなかった。接待なら相手がどんな嫌な奴だろうと、仕事と割り切って愛想よくも出来るが、仕事でもなし、プライベ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.13 Tue 09:26
「ただいま」 灯りのついた部屋。葵がリビングに入っていくと、梶原がソファで寛いでいた。 「おかえり」 葵の方を見もしないけれど、一応返事は帰ってくる。 仕事帰りにスーパーで買い物を済ませ、急いで帰ってきたつもりだが、異動以来ほとんど残業のない梶原の方が早かった。 「ご飯まだだよね?」 「ああ」 ソファでコーヒーカップを片手に車の雑誌を見ている梶原の横で、最近は定番のようにクロが寝そべっている。ときには膝の上に乗って。世話をしているのは葵なのに、なんだか最近、どち...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.12 Mon 11:33
この香り――。 図書館の返却カウンター、ふわりと流れてきた香りに葵はふと顔をあげた。借りた本を返却に来た若いOLらしい女性は、不意に見つめられて、何か不備でもあったのかと首を傾けた。 「あ…、けっこうです。ありがとうございました」 慌てて笑顔を作り、個人カードを返した。軽く会釈をして踵を返したその女性を、葵は無意識に目で追っていた。まだかすかに残る香りは、やはりあの香りだった。もう去年のことだけれど、遅く帰ってきた梶原から微かに漂っていた、おそらく婚約者だった女性の移り香―...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.08.11 Sun 22:02
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