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JUGEMテーマ:ものがたり 職場に向かう長い下り坂をいつものように歩いていた。空は心地良く晴れ渡っていて、少しひんやりとした空気も気持ち良い。これから仕事じゃなければなお良いのにとか考えながら歩いていると、道端の物陰から猫が一匹飛び出してきた。思わず私は立ち止まる。猫も私の前で静止し、私に顔を向けた。大きなキジトラで、聡明な顔つきをしているように思えた。 「もう渡りの季節なんだよ」 その猫が私をじっと見つめて言った。実際には鳴き声を上げただけだったかもしれない。けれど...
pale asymmetry | 2023.10.14 Sat 20:54
JUGEMテーマ:ものがたり 朝から心地良い空模様だったから、庭の草むしりをすることにした。本当はだらだらと一日を過ごすつもりだったけれど、空の青色が、いや碧色が私の身体にエネルギーを注ぎ込んでくれたみたいで、じっとしていられなかったのだ。ビールやスナック菓子を大量に買い込んでいたのだけれど、それは夜に取っておくことにした。 小さな庭だったけれど、夏の間放っておいたので背を伸ばした草の量はかなりのもだった。端っこの方から丁寧に抜いていく。根も生長していて土を抱え込んで抜けるの...
pale asymmetry | 2023.10.11 Wed 17:41
JUGEMテーマ:ものがたり 目が覚めたときに最初に感じたのは、肩甲骨のムズムズした感触だった。そのムズムズが心臓に伝わって、僕の心臓をザワザワさせているような気がした。もちろん心臓がザワザワすると感じることなんておかしいのはよく解っている。でもそうとしか言い表せないような感覚が僕の心臓に纏わり付いているように思えてならなかったのだ。 そんな不可思議な感覚を抱えながら、カーテンを開く。すると窓ガラスの向こう側、小さなベランダに少女が立っていた。いや、正確には立っていたわけでは...
pale asymmetry | 2023.10.08 Sun 20:57
JUGEMテーマ:ものがたり 私はうつ伏せに横たわっている。衣服は身につけていない。下着も身につけていない。確か和室だったはずだ。過剰に光に満ちた部屋だったと思う。部屋の様子をじっくりと見ることは出来なかった。連れてこられてすぐに目隠しをされたから。部屋の空気は少し湿度が高い。何かを私に要求しているような湿度だった。私は何かを差し出さなければいけないのかもしれない。そう思った。その広い部屋の中央で、私は横たわっている。そこに敷かれていた布団に横たわっている。やわらかくふかふかした...
pale asymmetry | 2023.10.04 Wed 20:30
JUGEMテーマ:ものがたり 年の離れた姉は、小一時間ほど望遠鏡を覗き込んでいる。夕暮れ時の空に向けられたその望遠鏡が何を捉えているのか私には解らない。向けられているのは東の空だったけれど、そこに見るべき何かが存在しているとは思えなかった。もちろんまだ星も月も現れてはいない。 「ねえ、何を見ているの?」 コミックを読むことに飽きた私は、ソファーに寝転んだまま窓辺の姉に尋ねた。 「犬よ」 年の離れた姉は望遠鏡を覗き込んだまま答える。とても真剣な口調で、冗談を言っているよ...
pale asymmetry | 2023.10.02 Mon 21:02
JUGEMテーマ:ものがたり 小さな図書館だった。たぶん私設の図書館だ。フロアは一つ。壁は一面本棚。でも一冊の本も見当たらなかった。そして人影もない。利用者もスタッフの姿も見当たらない。館内にはただ静寂が満ちていて、エアーコンディショナーの微かな稼働音さえ、その静寂を補強していた。 フロアの中央にカウンター。それ以外にはイスもテーブルもない。本もなく、本を読むための設備もない。ここを訪れた利用者は何をすれば良いのだろう。ただ思索に埋没するための施設なのだろうか。いや、それなら...
pale asymmetry | 2023.09.20 Wed 19:01
JUGEMテーマ:ものがたり 冷凍庫の扉を開くと、凍ったプリンとスマートフォンが並んでいた。スマートフォンが凍っているのかは解らなかった。ひょっとしたらスマートフォンの時間は止まっているかもしれないと思えたけれど、それがスマートフォンにどんな影響を及ぼすのか仮定できなかったので、検証方法も思いつかなかった。私の時間は止まっていない。頭が割れるように痛かったし、まだ息にはアルコールの余韻がたっぷりと織り込まれていた。 「プリンは嫌い?」 私は背後の人物に問い掛ける。顔は冷凍庫...
pale asymmetry | 2023.09.19 Tue 20:49
JUGEMテーマ:ものがたり ステーションから見える風景は、闇と煌めき。どこまでも果てなく深い闇と、無数の無数倍の煌めき。闇は僕を呼んでいるように思えて、煌めきは僕を弾いているように思えた。でも何故か前者も後者も心地よく感じた。呼ばれていたとしても弾かれていたとしても僕は寄り添うことが出来るから、どちらでも良かったのだ。 「色彩が足りないわね」 隣の彼女が呟いた。外に顔を向けていたから、風景のことを言っているのだろう。でもたぶんその言葉に意味はない。中途半端な時間を少しでも...
pale asymmetry | 2023.09.05 Tue 17:44
JUGEMテーマ:ものがたり ときどき現れる銀色の猫だった。大抵はいつの間にか私の少し前を歩いている。長い尻尾を真っ直ぐに立てて、とても優雅な足取りで歩く。私が歩調を速めると同じように早め、私が立ち止まると同じように止まる。そして振り返り首を傾げたりする。追いかけても追いつくことは出来ず、触れることも出来ない。そしていつもいつの間にか見失っている。どんなにしっかりと見つめ続けて追いかけていても、一瞬の隙をつかれて姿を消すのだった。 でもその日は違っていた。何が違っていたのだろ...
pale asymmetry | 2023.08.08 Tue 21:16
JUGEMテーマ:ものがたり 「スイカにハチミツをかけるとすごく美味しいんだよ」 大河内さんはそう言って笑った。どこか尖った笑顔で、何故か僕は少し恐さを感じた。夏期講習のあと、急に話しかけられたせいかもしれない。大河内さんと僕はそんなに親しくはない。一年の時に同じクラスだったけれど、言葉を交わした記憶はほとんどなかった。彼女は演劇部だったけれど目立たないタイプの人で、僕は天文部でもっと目立たない高校生活を過ごしてきたから。 「食べにお出でよ。スイカもハチミツも家にあるから」 ...
pale asymmetry | 2023.08.03 Thu 16:56
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