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JUGEMテーマ:ものがたり 星はまだ見えるけれど、空の色はすでに夜の淫らさを失っている。涼風が、北から駆けてくる。少し湿っているけれど、十分に私の皮膚から熱を払ってくれる。浮かれてはいけない。私は自分にそう言い聞かす。意味もなく強く言い聞かす。際限なく湧き上がる熱を、風だけに頼らず私自身でも沈めるために。 海と森の境界を歩く。道は舗装されているけれど、それは人一人がやっと通れる幅で、何のために舗装したのか私にはよく解らない。まるで獣たちのために舗装したかのようだ。本当にそう...
pale asymmetry | 2022.09.08 Thu 20:40
JUGEMテーマ:ものがたり 「何が見える?」 少年は問われ、そのとき目にしていたものを正直に答えた。 「鳥が見えます。光る鳥。でも、女の子にも見えます」 「女の子も光っている?」 「はい、光っています」 「どんな風に?」 「瑠璃色に。鳥は黄金色に、女の子は瑠璃色に光っています」 「飛んでいる? 鳥も少女も飛んでいる?」 少年はそこで一瞬言いよどむ。その問への答えを返そうとしたとき、一瞬視界が渦巻くように歪んだのだ。 「どう? 飛んでいるの?」 少年は再び...
pale asymmetry | 2022.09.05 Mon 21:24
JUGEMテーマ:ものがたり 小さな寺だった。堂が一つ鐘が一つ、そして池と桜が一つずつ。嵐が近づくその夜、真夏だというのにその桜は満開だった。強まりつつある風がその薄紅の花片を池の水面に降らせている。狂い咲いている、とは思えなかった。覚醒が行き過ぎて、つまり正気が行き過ぎて咲き開いてしまったのだろう、と男は思った。 空は黒く、底がない。月光も星影もない。しかし黒い流れが確かに感じられた。それが吉兆であると男は思いたかった。もちろん凶兆であるという方が相応しい流れであったけれど...
pale asymmetry | 2022.09.01 Thu 21:40
JUGEMテーマ:ものがたり 岬の裾には、行ってはならない渚がある。と言っても、そこは誰でも行ける場所ではない。迷い込む力のある者だけが、その場所に足を踏み入れることが出来るのだ。それは阿呆で、そして同時に叡智を有していなければならない。2つの対立する要素を、対立させることなく抱けるものでなければならない。それはつまり世界だ。対立する2つの事象が両立する状態こそが、世界なのだから。 少年が辿り着いた渚は、瑠璃と黄金が混じり合った風景だった。けれどどちらもひどく淡く、そこには過剰...
pale asymmetry | 2022.08.23 Tue 20:47
JUGEMテーマ:ものがたり 風景のどこにも銀河はなくて、僕は尺取り虫だった。この二つに関係はなく、これはメタファーではなく、何の意味もなく、ただ状況を説明しただけだ。つまるところ、寂しいということだ。銀河を見つけられないことが。尺取り虫としての使命を感じられないことが。 太陽は沈みきっていたけれど、まだ夜ではなかった。黄昏というよりは黎明の色彩に近いような茶金色の空気が、岬の先端に蹲っていた。そこには楕円体の何かが孤独を持て余すように足下を僅かに地面に埋めて佇んでいた。その...
pale asymmetry | 2022.08.21 Sun 22:03
JUGEMテーマ:ものがたり 恐ろしく美しい連舞だった。世界の理を超越した速度だったにも構わず、音は全く聞こえなかった。四肢が空を斬るその鋭利さが凶暴な渦を巻き起こしていたはずだったし、踏み下ろされた足先や踵が大地を残忍に抉っていたはずなのに、その音も衝撃も伝わっては来ない。連舞する二体は巨人であったにもかかわらず。 少年は岩陰に潜み、その光景を刮目していた。背後から朝の光が滲んでくる。二体の巨人は一晩中踊り続けていた。もちろんそれは遊興ではない。それは天に捧げられるものだっ...
pale asymmetry | 2022.08.20 Sat 20:59
JUGEMテーマ:ものがたり 水晶のように果てしなく透きとおった歯車たちだった。 眩く煌めきながら、歯車たちは精密に連動していた。これは何の装置なのだろうと私は考えた。この世界と別の世界を少しの間だけ寄り添わせるための装置なのだろうか。そんな気がした。私は棺を覗き込んでいたのだ。祖母の横たわる棺を。そこに祖母は確かに横たわっていて、その姿に重なるように水晶の歯車たちが回転していた。回転と回転を綺麗な舞踏のように噛み合わせ、この世界の外側にも世界があるのだということを、それは時...
pale asymmetry | 2022.08.17 Wed 22:03
JUGEMテーマ:ものがたり それは奥の座敷の隅っこに蹲っていた。置き忘れられていたのかもしれない。落ちていたのかもしれない。あるいは生え出たのかもしれないとも思えた。いや、やっぱりそれは蹲っていたのだ。時折、カタカタと細かく震えたりしたから。それは漆黒の札が幾枚も組み合わされたものだった。金と銀の組紐で、少し湾曲した長方形に束ねられていた。風を孕む帆のような湾曲だった。でもそれは帆ではなかったから、孕んでいるのは風ではなく澱なのだろうと思った。どうしてそんなことを思ったしまった...
pale asymmetry | 2022.08.13 Sat 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 浮かんでいたのは、八角柱。その両端は八角錐。両八角錐柱とでも表現すればいいだろうか。それはとても巨大だった。澄んだ紫色を纏っていて、半透明なその内部では翡翠色の玉と瑠璃色の玉が駆け回っている。争っているようにも、遊んでいるようにも、愛し合っているようにも見えた。 大樹だった。それは賢者の三樹の一つだった。しかし本来賢者の三樹は三つとも水没しているはずだった。果ての海の深海で、夢も見ずに眠っているはずだった。それがなぜこんな所にあるのか、誰にも解ら...
pale asymmetry | 2022.08.11 Thu 21:08
JUGEMテーマ:ものがたり 祖母の家を訪ねたら、瓢箪が出迎えてくれた。祖母が一人で暮らすその古民家は、入ってすぐが昔ながらの土間で、とても薄暗い。その薄暗い土の真ん中で漆黒の瓢箪が踊っていたから、最初はよく解らなかった。その漆黒がかなり薄闇に溶け込んでいたから。それでもそこに瓢箪があって、踊っていると解ったのは、瓢箪から真っ白くて細長い手足が生え出ていて、それが奇妙に揺らぐように動き回っていたからだ。波を真似るように、あるいは波に翻弄されるように、その手足は確かに踊っていた。 ...
pale asymmetry | 2022.08.08 Mon 20:33
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