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JUGEMテーマ:ものがたり 「言葉は、形のない事象に形を与えるコードなの」 少女が、真っ直ぐに私を見つめていう。ひまわりの花と同じくらい鮮やかな下着姿で。鋭すぎる陽光が、ひまわりと少女を輝かせている。無数のひまわりに囲まれて、私は少女と対峙している。 「言葉は、ありふれた事象を奇跡に変えるコードなの」 少女が一歩進み、私との距離を詰める。私は一歩下がり距離を保とうとしたけれど、ひまわりがそれを妨害する。私と少女を取り囲むひまわりは全て、私より背が高い。もちろん少女よりも...
pale asymmetry | 2023.03.30 Thu 20:37
JUGEMテーマ:ものがたり 父が絵を描いていたことを私は知らなかった。だから、姉にこれは父の絵だと示された絵画を目にしたとき、とても不可思議な感じがした。無骨な人だったのだ、父は。母が亡くなってからは近所づきあいもあまりせず、淡々と日々を過ごしているイメージだった。姉から父が倒れてそのまま逝ってしまったと連絡が来たときにも、きっと淡々と旅立ったのだろうと思った。 「変わった様子は何もなかったのよ、前日も」 私と姉は父の絵を前にして並んで立っている。葬儀が終わり、一段落した...
pale asymmetry | 2023.03.20 Mon 20:21
JUGEMテーマ:ものがたり モスは分厚い書籍を抱えて森の入り口に立っていた。 「怖いの?」 傍らに並ぶ少女が、そう言ってモスの肩に息を吹きかけた。その息の流れがモスのためらいを吹き飛ばしたように思えて、彼は歩き出す。 「スイーツは、何度もここに来たことがあるの?」 薄暗い小道を歩きながらモスが尋ねると、スイーツは首を振る。 「いいえ、一度も」 モスは立ち止まり、少女を見つめる。 「魔女なのに?」 「魔女だからと言って、世界中を蹂躙しているわけではないわ」 ...
pale asymmetry | 2023.03.12 Sun 21:01
JUGEMテーマ:ものがたり 気配を感じて目が覚めた。窓からの光は黄昏のフォーマットだった。早退して、午後から眠っていたことを思い出す。どうして早退したのだっけ。それは思い出せない。思いだそうとすると、罪悪感が額の内側で渦を巻くような感じがして邪魔をする。 「スイカが食べたいです」 ベッドのすぐ脇で四肢を投げ出して横たわる黒い犬がはっきりとそう言った。もちろん人語で。 「こんな季節に、スイカなんかないわよ」 そう答えながら私は考える。この犬は何なのかと。私が飼っていた...
pale asymmetry | 2023.03.07 Tue 22:12
JUGEMテーマ:ものがたり 真っ直ぐに伸びるアスファルト道路は北へと続いている。右手から太陽が昇り始めたから、僕らは一晩中歩き続けたことになる。 「歩いてなどいない。浮遊しているだけだ」 君は少しふてくされたような口調で言う。僕の思考はデジタルデータとしてオープンネットに開放されているので、君はその全てを読み取ることが出来る。 『君だって、疲れるわけではないじゃないか。エネルギーは無尽蔵だろう?』 声を放ってみようかと迷ったっけれど、その声も実際の音声ではなくデジタ...
pale asymmetry | 2023.02.27 Mon 20:46
JUGEMテーマ:ものがたり 『この手紙を君が手にする前に、世界は蜘蛛に喰われているだろうか。それとも、君はその前に何とかこの手紙を手に入れて、喰われていく世界を見つめながら読んでいるのだろうか。そのときには、すでに僕は喰われているだろう。あるいは君は蜘蛛の目の一つに、その奥底に僕の魂を見いだすかもしれない。君ならば、そういうことを自然とやってのけるだろうから。 まだかろうじて世界が機能していて、君が世界のどこかから世界の別のどこかを彷徨う蜘蛛を見てるとしよう。そのとき君は何を...
pale asymmetry | 2023.01.27 Fri 21:33
JUGEMテーマ:ものがたり 最強の寒波が来るのだというニュースを見て、近所のホームセンターでスコップを買った。その帰り道、歩道の隅で鎧を見つけた。小さな鎧だ。西洋騎士風の鎧。私の掌にもなんとか乗せられそう。でもそれは亡霊だ。鎧の亡霊だと思った。頭の部分がなかったのだ。私は跪き、首の穴を覗き込む。中では、瑠璃色の微細な煌めく粒子が渦巻いていた。鎧の魂とはこういう感じなのだろうと思った。 「不可思議な感じですか?」 その渦から声が響いた。声変わりが終わったばかりの男の子のよう...
pale asymmetry | 2023.01.20 Fri 20:38
JUGEMテーマ:ものがたり ホテルの窓から、何気なく外を見る。午後の日差しは柔らかく、冬特有の澄んだ風景。ぼんやりとそんな風景を眺めていると、通りの向こうに立つホテルの窓で、激しく手を振る人物に気づく。長い黒髪、真紅のドレス、年齢は若い、少女のようだった。少女は手に新聞を持っていて、手を振る合間にそれを忙しなく指差す。彼女は僕に手を振っているのだろうか。それとも他の窓の誰かにだろうか。僕は思わず自分を指差す。すると彼女は大きく頷く。偶然かもしれないと思ってしばらく立ち尽くす。そ...
pale asymmetry | 2023.01.15 Sun 21:41
JUGEMテーマ:ものがたり 小さな箱庭に小さなフィギュアをくわえる。それは森の奥に私が立ったことを意味する。大樹の狭間から、私は夜空を見上げる。そこには明星が見える。小さなフィギュアはその明星を頼りに森のさらに奥へと進む。私はそのフィギュアが感じている怖じ気を同じように抱えている。それが本当はどちらの怖じ気なのか、私にはもう解らなくっているのだ。 やがて小さなフィギュアは森の核に到達する。そこにはなんの目印もない。けれどそこが核であることは間違いないとフィギュアは感じている...
pale asymmetry | 2023.01.06 Fri 21:27
JUGEMテーマ:ものがたり シラツキさんと出会ったのは、去年の暮れ。12月3日の夕刻だった。僕はそのとき自販機の傍らに腰を下ろして、缶コーヒーを飲んでいた。その行為には何のドラマもない。大学からの帰り道に何の気なしにコーヒーが飲みたくなったというだけだ。だからコーヒーを買い、すぐに飲みたかったからその場で飲んでいた。そこにシラツキさんが通りかかったのだ。 「それはブラックコーヒーかしら?」 シラツキさんは立ち止まり、僕の前でしゃがんで目線を合わせた。僕が少しびっくりしながら...
pale asymmetry | 2023.01.04 Wed 21:21
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