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JUGEMテーマ:ものがたり 「これが雲鉢だよ」 友人が木箱から取り出したのは、小さな茶器のような鉢だった。 「雲文ではないのだね」 雲鉢と言うから、雲形文様の施された鉢なのだと勝手に考えていたのだった。しかしその鉢の表面にはそんな文様は見当たらず。独特な深い藍色を纏った鉢だった。 「違うね。そういう意味での雲鉢ではないのだよ」 友人が差し出したその鉢を受け取り、じっくりと見つめる。内側も同じ藍色だ。光に翳すと、その藍色がキラキラと細かく煌めいた。 「光るね。金か...
pale asymmetry | 2020.11.03 Tue 22:11
JUGEMテーマ:ものがたり 一日中雑巾がけをしている。部屋中が汚れているから。薄い泥を被ったような汚れ。それが部屋の床も壁も家具にも、部屋中のあらゆるものに纏わり付いている。それを取り除くために、ずっと部屋中に雑巾がけをしている。これはおかしい。何かがおかしい。それは解っている。でも部屋中が汚れていると思えるのは確かな感覚で、だから雑巾がけをするしかないという気分になってしまう。このままではいけないと思い、何とか祖母に連絡する。事情を説明するのは困難だったので、とにかく来て欲し...
pale asymmetry | 2020.10.30 Fri 20:50
JUGEMテーマ:ものがたり 「じゃあ次は星の測定をしますね」 定期健康診断の途中で突然そう言われた。 「え? 腰の測定ですか?」 聞き間違えたのかと思って聞き返す。 「いえ、星の測定です。あなたの星の測定ですよ」 看護師さんは真面目な顔で答える。 「じゃあ、この健診書類を持って、23番の部屋まで行って下さい。この廊下を真っ直ぐ進んだ部屋です」 「はあ」 よく解らないまま、僕は廊下を進む。23番のプレートの部屋を見つけ、扉を開く。中には全身をカバーする防護服を着...
pale asymmetry | 2020.10.27 Tue 21:42
JUGEMテーマ:ものがたり ビショップという名の少年は、草原を歩いていた。信号を受信し、それに導かれて歩いていた。風は西からやわらかく吹いていて、心地良い風なのだろうと彼は思った。それはしかし推測だ。彼は心地良い風というものがどういう性質の風なのかを知らない。大抵彼は草原を歩いていて、大抵風に吹かれているけれど、その風が彼に某かのインフォメーションをもたらしてくれることはなかった。 ビショップという名の少年は北西の方角を向き、斜め上方を見つめる。信号はそちらの方向から彼に発...
pale asymmetry | 2020.10.26 Mon 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 宵に大雨が降った。南風に操られ、斜めに強く降った。縁側は家の北側にあるから、それに面した縁側は雨に濡れない。背後から降り、家の軒が雨を遮ってくれるから。雨が強く降れば降るほど、縁側にその雫が巻き込まれてくることはない。だから私はスコッチウイスキーに熱々のお湯を注ぎ、縁側に寝そべりながら飲んだ。雨にうたれる庭を眺めながら。 庭は少し草が目立つ。ちょっと最近手入れをサボっていたな。そんなことを考えながら温かいスコッチを飲む。時々、カーブチーを囓ったり...
pale asymmetry | 2020.10.23 Fri 21:23
JUGEMテーマ:ものがたり その人は、僕と目線を重ねるために片膝をついた、と思えた。僕の瞳の底の底まで見通すために少し小首を傾げた、ように感じた。そして笑った。あたしに任せてしまえば、何もかもが上手く流れ出すのよ。と言っているかのような笑顔だった。でも実際には何も言葉を発していない。ただその人は左手を伸ばし、その人差し指で僕の鼻の頭に軽く触れただけだ。 「大切なものをなくしたと思っているわね?」 その人の声に、僕は旋風のように洗練された激しさを感じた。獣でさえも平伏すよう...
pale asymmetry | 2020.10.21 Wed 14:53
JUGEMテーマ:ものがたり 「おやおや、これはこれは小人のぼうやだね」 巨大な光の人が、僕を見下ろして笑っている。そう思えた。でも本当は解らない。光の人は文字通り人型の光だったから、その表情は僕には解らないのだ。声がとても優しそうに響いていたから、僕が勝手にそう思っただけだ。極々薄い桃色に輝く光の人は、人型だけどその端々は丸い。その形も優しく笑っているようなイメージに思えたのだ。 「ここはぼうやの国ではないのに、どうしてきたのかな?」 光の人が片膝をついて、しゃがんだ。...
pale asymmetry | 2020.10.19 Mon 20:19
JUGEMテーマ:ものがたり 水は空気のように希薄だった。重なり合って纏うはずのブルーもグリーンも見えない。色彩は全て水底に潜り込んでしまったのだろうか。それとも偏在する余剰空間に巻き取られてしまったのだろうか。どてらでも構わない。僕のダイブにとってはそのどちらでも関係ないから。 コンソールの水深表示にはアスタリスクのマークが三つ並んでいる。それは僕が順調にゾーンに入り込んだことを示している。色彩が消えてしまったのもその影響だ。同時に僕の身体も半透明になっていたりする。大抵の...
pale asymmetry | 2020.10.12 Mon 21:31
JUGEMテーマ:ものがたり 水は緑色に澄んでいると思えたから、そう口にしたら彼に笑われた。 「本当に澄んでいるなら、色彩なんてないはずだろう」 確かに彼の言うとおりだ。緑色に見える時点で純粋な水に緑色の何かが、光を緑色に弾く何かが混ざっているのだ。でも綺麗だから、私には澄んでいるようにしか感じられない。 「水温のせいではないかな」 彼は右手を水に浸し、軽く掬う。 「ひんやりとしていると、清らかに思えてしまうだろう?」 そう言って私を見つめる瞳には、その奥深...
pale asymmetry | 2020.10.11 Sun 21:35
JUGEMテーマ:ものがたり 翼の人たちが上空で戯れている。皆、瑠璃色をしている。瑠璃色の衣装を纏っているのか、瑠璃色の鱗に包まれた身体なのかはよく解らない。僕はあまり視力が良くないので、眼鏡なしでは細かなところが見えないのだ。眼鏡は、この異迷路に入ってすぐに粉々に砕かれてしまったので、世界はやんわりとぼやけている。それに陽光は銀色のハレーションが強すぎて、そもそも落ち着いて空に眼差しを固定することが出来ないのだった。 その上空が一瞬陰る。僕を跨いでキリンが歩いて行く。翠色の...
pale asymmetry | 2020.10.07 Wed 14:52
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