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JUGEMテーマ:ものがたり 耳の奥がむずがゆい。耳かきで探ってみる。耳の奥からとても小さな鱗が出てくる。煌めく朱色の鱗だ。美しい扇形をしている。美しい扇形とはどんな形か。説明することは難しい。私は数学者ではないから、数式でそれを客観的に表すことなど出来ない。けれど美しい扇形は確かに存在していて。その形を私は正確に知っている。私の頭の中に、その完璧なイメージがあるからだ。私はその美しい扇形を具現化しようと日々悪戦苦闘している。でもまだ一度も成功したことはない。私は扇職人なのだ。 ...
pale asymmetry | 2020.10.06 Tue 22:17
JUGEMテーマ:ものがたり ライカが地球に帰還した日の朝、私は寝坊した。とくに前日に夜更かししたわけでもなかったのに、いやむしろいつもより早くベッドに入ったのに、夢も見ずに深く眠ったのに、寝過ごしてしまった。しかも目覚めたときもまだまだとても眠くて、出来れば今日は一日中ベッドで過ごしたいと思っていた。でも仕事に行かなければいけないので、無理矢理にベッドから離れたのだった。 だからテレヴィジョンの電源を入れたとき、最初何が起こっているのかよく解らなかった。まだ私の頭が十分に稼...
pale asymmetry | 2020.10.05 Mon 20:45
JUGEMテーマ:ものがたり 両手に漆黒の手袋を装着する。何とかグローブとか、何とかギアとか呼ばれている手袋だけど、何とかの部分はよく憶えていない。名前を憶えるのは苦手なのだ。名前を憶えることが性能や機能を高めることに繋がるのなら、憶えてみようかとも思うけれど、実際には何の関係もないし。むしろ名前に惑わされてその道具の本質を見失ったりすることの方が多いような気もする。まあ、本心を言えば面倒くさいのだけど。たくさんの名称を憶えていて、会話の中でそれを連呼することで気持ちよさそうにし...
pale asymmetry | 2020.10.04 Sun 21:30
JUGEMテーマ:ものがたり 最後に咳き込むような音を立てて、エンジンが止まった。そしてその後は再び動き出す気配さえなかった。セルモーターは回っている。そうと解る音はするけれど、エンジンは始動しない。年度かキーを捻った後、運転席の友達は僕に顔を向けて軽く肩を竦めた。 「参ったね」 言葉とは裏腹に、とても愉しそうなトーンの声だった。面白くなってきたね、と言うときのトーンだった。太陽はすっかり傾いている。空気はすでに黄昏色に染まりきっている。そして僕らは未舗装の山道の、どこだか...
pale asymmetry | 2020.10.02 Fri 20:31
JUGEMテーマ:ものがたり 「さて、諸君。我々に今必要なのは、ずばり洗濯屋だ」 リーダーが胸を張り宣言する。過剰に胸を反らしていて、後ろに倒れてしまいそうだ。 「あれ? 諸君らはそう思わないのか?」 メンバーの全員が無反応なことに気づいて、リーダーは少し声のトーンを落とす。メンバーを見回し、自分の何がズレているのかを探っているようだ。 「いや諸君らだって解っているはずだ。我々が今抱えている問題を解決するためには、洗濯屋の解析が必要なことを」 リーダーは声を潜める。...
pale asymmetry | 2020.09.28 Mon 21:48
JUGEMテーマ:ものがたり 交差点の四つの信号機は、全て赤が点灯している。もちろん、歩行者用のものも全て赤だ。つまり、この交差点は閉鎖されている。麒麟の反応が検知されたからだ。おそらく、かつて麒麟であった余韻が地中に残っていたのだ。それは最初地中奥深くに沈んでいき、そこで眠りの殻に閉じこもったに違いない。しかし年月と共に、その殻が夢に侵食され、ついに裂け目が生まれてしまったのだろう。そしてそこから漏れ出た麒麟の余韻が、地上に向かって流れとなって上昇し始めているのだろう。だから麒...
pale asymmetry | 2020.09.21 Mon 21:25
JUGEMテーマ:ものがたり ステージ上には、小さなロボットが立っていた。ステージの真ん中に、居心地悪そうに立ち尽くしていた。ロボットの前にはスタンドマイクが一本、強い照明がロボットとそのマイクを照らしていた。それは都市の片隅、何のために作られたのかよく解らない広場でのこと。太陽はすっかり傾き、錆びたオレンジ色に空気が染まっていた。 「僕は、ここまで歩いてきました」 ロボットの声は高音で、幼い子供のようだった。その声量も子供のように弱かった。 「僕は、飛ぶことが出来ません...
pale asymmetry | 2020.09.19 Sat 19:04
JUGEMテーマ:ものがたり 友人がカエルアンコウをくれるという。アンコウと言うくらいだから美味いのだろうと思って検索したら、食用魚ではなかった。観賞魚のようだが、しかしとくに姿が美しいとか、色彩が豊かとかいうわけでもなく、ポテっとした体型のあまり活発に泳ぎ回りそうもない魚だった。いわゆるキモカワイイ系の魚なのだろう。しかし我が家には水槽がない。そもそも私は魚を飼うことに全く興味がない。それを伝えて断ろうと連絡したら、「水槽はいらないのだ」と友人は言う。魚なのに水槽がいらないとは...
pale asymmetry | 2020.09.18 Fri 21:45
JUGEMテーマ:ものがたり 有翼の光と有翼の光が争っていた。星も月も見えない夜の真ん中で。一方は金色の光で金色の翼。もう一方は銀色の光で銀色の翼。あれは善と悪の戦いだろうか。どちらが善でどちらが悪だろうか。どちらも綺麗だから、どちらも善に見える。同じ理由でどちらも悪に見える。まあ僕の勝手な空想だから、たぶん善も悪もないのだろう。それどころか争っているのかどうかも本当は知らない。戯れているだけかもしれないし、愛し合っているのかもしれない。ああやって激しくぶつかり合うことが、有翼の...
pale asymmetry | 2020.09.14 Mon 21:36
JUGEMテーマ:ものがたり 「世界に最初に降った雨は、千年降り続いたのだそうよ」 彼女が囁く。真っ直ぐに目をむいたまま。僕らは時間を泳ぐ。見知らぬ路地に流れる風に紛れてたゆたう。眠りと紙一重の覚醒を抱えたまま、オートマチックに追跡している。 「それは、この惑星が生まれて二億年ぐらいがたったときのことなんだって」 彼女は僕の少し前を歩いている。足音はしない。実は地面から一ミリぐらい浮き上がっているのかもしれない。そんな足運びだ。僕にはそんなスキルはない。だから慎重に彼女を...
pale asymmetry | 2020.09.13 Sun 21:31
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