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JUGEMテーマ:ものがたり 八年に一度の祭りは、中止されることになった。八年前はまだ四歳だったから、祭りの記憶はとてもぼやけている。金色と銀色の衣装を纏った何人もの人たちが踊っている様子が思い出されたりもするけれど、それが本当のことなのか自信はない。大人たちは最後までいろいろな計画を練ってなんとか祭りを行おうとしていたようだけれど、でも大きな、よく解らない大きな渦がそれを許さなかったそうだ。そう祖父が僕に教えてくれた。 正式に祭りの中止が決まった夜、何人かの大人たちが家にや...
pale asymmetry | 2020.06.04 Thu 22:06
JUGEMテーマ:ものがたり 「おてんとうさまは、まいやまからはねる」 少女は大きな声で歌う。薄暗く湿った森の雰囲気に飲まれないように。 「おてんとうさまは、こくさんにもぐる」 急な坂道を上り続けて息が乱れていたけれど、それでも少女は大声で歌い続ける。本当はすぐにでも麓へと引き返したいのだ。 「まいやまてっぺんには、にょらいさま」 怯えは大きく重くなる。けれど、少女は進まなければならない。 「こくさんふかくに、くろこさま」 やがて獣道のような細道が終わり、開け...
pale asymmetry | 2020.05.29 Fri 20:44
JUGEMテーマ:ものがたり 巨大樹は、全て真っ直ぐに天空に向かって伸びていた。己を厳しく律して、その振る舞いで世界を正しい方向へと導いているようだった。私は小さい。私は些末な存在だ。そのことを巨大樹たちは教えてくれている。彼らの存在は、陽光さえ弱めてしまうほどの濃厚さなのだ。地面には、私の影も見当たらない。空気さえ、恐れ戦いている。それなのに、私は愛でずにはいられない。この森を、この森が世界と強く繋がることを求めているとするならば、その世界も。 「どうですか? 現れそうですか...
pale asymmetry | 2020.05.27 Wed 21:23
JUGEMテーマ:ものがたり 大粒の雨が真っ直ぐに降っている。温かいコーヒーの満たされたカップと座布団を持って、私は裏庭に面した縁側に出る。風がないから、本当に真っ直ぐに雨滴が落ちている。素直な子供たちが、通りすがりに次々とお辞儀をしてくれているような、そんな感じのする雨だった。風に翻弄されない雨は、純粋な雨に思える。純粋な雨は、とても心地良いものなのだと改めて思う。風に吹き上げられてはしゃぎ回る雨が嫌いなわけではないけれど、そういう雨が活劇なら、この雨は絵画だ。端から端まで綿密...
pale asymmetry | 2020.05.22 Fri 21:56
JUGEMテーマ:ものがたり 閉じられていた扉を開く。それを閉じたのは私だ。ここは私だけの部屋だから。私以外の誰かがこの扉を開くことはない。扉の鍵を持っているのは私だけで、この部屋にいるときでもいないときでも常に鍵を掛けていたから、私以外の誰にもこの扉を開くことは出来ないのだ。つまり私はこの扉を支配しているし、この扉の開閉を完全に制御していると言えるだろう。そしてまた、開閉される扉によって繋がり合ったり分断されたりする空間を、その接続や切断に強く干渉しているとも言えるのではな...
pale asymmetry | 2020.05.20 Wed 20:35
JUGEMテーマ:ものがたり ベントラーベントラーと星空に囁き続ければ、いつか宇宙船が迎えに来てくれるのだと教えてくれたのは兄だった。年齢が一回り上だったせいで、私にとっては兄というより父親に近い存在だった。仕事が忙しくほとんど家にいなかった本当の父親の代わりに、私にいろいろなことを教えてくれた。ベントラーもその一つだ。他に教わったことはほとんど忘れてしまったけれど、このベントラーについてはよく憶えている。よく一緒に並んで夜空に囁いたせいもあるけれど、このベントラーという呪文なの...
pale asymmetry | 2020.05.14 Thu 20:56
JUGEMテーマ:ものがたり この博物館は、展示エリアが十八のブロックに分かれている。僕らはその中の第十七エリアの担当になった。十七エリアは比較的小さなブロックで、教室三個分くらい。L字型のスペースだった。照明は全て点灯されていたから十分に明るかったけれど、僕ら以外に誰もいなかったから光が空気に吸収されているような、そのせいで光の力が減じられているようなそんな気がした。 このエリアに展示されているのは、オルゴールだった。オルゴールといっても箱形のそれではなく、とても巨大だった...
pale asymmetry | 2020.05.10 Sun 21:55
JUGEMテーマ:ものがたり 取り急ぎ、近況を報告するね。半年ぶりに人里に、つまりワイファイの届く場所に来てみたら、世界が大きな変化の渦に飲み込まれていることを知って、私は大丈夫だよってことをあなたに知らせておかなくちゃって思ったのです。あなたのことは心配していません。こういう大きな危機に際してあなたが発揮してきた超能力のようなものを、私は何度も目にしてきたから。でもきっとあなたが私のことを心配しているだろうと思って、それを解消するためにあなたの貴重な能力を、そのリソースを割いて...
pale asymmetry | 2020.05.06 Wed 22:14
JUGEMテーマ:ものがたり 夜というものは黒い。黒いということは青い。青いということは深い。深いということは冷たい。冷たいということは硬い。硬いということは煌めく。煌めくということは夜だ。思考がループしたことに、僕はほっとする。同時にがっかりもする。でもまた思考すればいいだけで、違うループに入り込むことも可能だから、僕はすぐに気を取り直す。僕には時間はたっぷりある。たっぷり過ぎるくらいにあるのだから。 一人は寂しい。夜しかないこの星の上では特に。といっても、僕はこの星以外の...
pale asymmetry | 2020.05.03 Sun 22:15
JUGEMテーマ:ものがたり 赤い太陽は東の空にあった。白い月は西の空に寝そべっていた。星たちは空の向こう側に紛れようとしていた。 どす黒い巨大な鬼が、群れを成して走っている。赤い土の大地を。赤い砂煙を上げながら。それは惑星の鮮血かもしれない。それとも、惑星に染みこんだ鬼たちの生命エナジーが逆流して溢れているのだろうか。大地にはぎっしりと紋様が刻まれている。それは森羅万象の生命と、その生命を構築するためのコードを紋様として固定したものだ。そうに違いないだろう。 どす黒い鬼...
pale asymmetry | 2020.04.26 Sun 21:13
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