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JUGEMテーマ:ものがたり 僕と彼女は、砂浜に小さな椅子を並べて腰掛けていた。東に面した砂浜。広がる海は完璧な凪ぎ。風はなく、それなのに空気がサワサワと沈み続けているような気がする。それは昼間の季節と夜の季節にずれがあるからだろう。あんなに暑かった昼の後、清浄な寒さの夜に僕らはいる。このずれは心地よかった。こういうずれを直接的に感じていると、何か特別な存在になったような気持ちになる。身勝手な空想だけど。 「夜は寒いね」 ランプの灯りを見つめて、彼女が呟く。独り言だったかも...
pale asymmetry | 2021.09.20 Mon 21:31
JUGEMテーマ:ものがたり クビナシクイナを乗りこなすことは、私には全く無理だった。だって、オーラを読み取ってそれをコントロールするというのだから、そんなことは私には不可能だ。今までオーラなるものを目にしたことがないし、それが見えるものだなどと信じたことさえない。もちろんそんな才能は微塵もない。というわけで、私が跨がったクビナシクイナは並走するガイドのK君が操ってくれた。 長い二本の脚をもつザボン。クビナシクイナはそういうのがぴったりの生物だ。身体の表面の触り心地もザボンの...
pale asymmetry | 2021.09.17 Fri 21:01
JUGEMテーマ:ものがたり 真夜中過ぎに電話が鳴った。枕元の携帯電話ではなく、台所の固定電話が。きっと間違い電話だろうと思った。今どき、固定電話にかけてくる友人などいないから。だから無視しようとしたけれど、電話は鳴り止まない。いつまでもいつまでも、しつこく鳴り続ける。この星に生命が誕生したその瞬間に鳴り始め、この星からあらゆる生命が消滅するまで鳴り続ける壮大な音のように思えてきて、仕方なくベッドを抜け出し、ふらつく足取りで台所まで巡って受話器を取った。 「やあ、もちろん眠って...
pale asymmetry | 2021.09.16 Thu 22:13
JUGEMテーマ:ものがたり 君は傷だらけの身体を引き摺るように、街路を西へと歩いて行く。空は今にも雨が降りそうな灰色で、それは悪意のない色彩だったけれど、奔放に何もかもを破壊しそうな狂気を含んでいるように思えた。 「最初の色は何色なの?」 全身の傷から黒い血を滴らせながら、君は僕に問う。 「最初の色かどうかは解らないけれど、基底の色は翠だと思う」 僕はシガレットに火を着けながら答えた。君の歩行速度に合わせるために僕はスピードをかなり落としていたから、口寂しくなってシ...
pale asymmetry | 2021.09.13 Mon 21:09
JUGEMテーマ:ものがたり それはゼリーのような質感の立方体だ。 「ゼリーみたいだわ」 彼女もそう言った。僕に向かって、右手を伸ばしている。左手の人差し指が自身のこめかみに触れていて、何かを洞察しているみたいだった。あるいは、私は取扱注意なのよと、それとなく示唆しているのかもしれないと思えた。 「ゼリーみたいにずれているのよ、私たちは」 彼女はそう付け加えた。一歩前に足を踏み出したけれど、動作が空回りするように位置は変わっていない。おそらくそういう類いのずれなのだろ...
pale asymmetry | 2021.09.10 Fri 21:01
JUGEMテーマ:ものがたり 朔月を二日ばかり過ぎ、空の月は血なまぐさく尖っていた。何もかもを切り裂けるオーラが、その痩身から放たれる月光に織り込まれている。それは不可思議な微振動で、それが夜気を伝わって、私の皮膚を震わせる。くすぐりに似た、けれど確実に微細な傷を刻んでいた。痛みはある。それを感じてはいる。でも、それが心地よかったりもした。血を流すことが好きなわけではないけど、血の流れない日々は甘すぎて覚醒することがないのだ。 「あなたの翼は、今日も綺麗ね」 姉様が、私の背...
pale asymmetry | 2021.09.07 Tue 22:06
JUGEMテーマ:ものがたり 風はなかった。笑っていたけれど、風はなかった。笑っていたのは空間。世界を欺こうとする空間。企みは透明で、ただただそれは空気を微かに震わせている。それが、笑っているように感じたのだ。私には。私だけには。すると笑っているのは何者か。それはまだ存在しない者だ。未来に存在する者か、過去に存在しなかった者か、あるいは過去にも未来にも存在している私か。ああ、こんがらがってきた。 風がなければ水面は鏡だ。真上からの陽光が、それを銀色に染めている。青い銀色。コー...
pale asymmetry | 2021.09.04 Sat 21:16
JUGEMテーマ:ものがたり アンダーソン君がそのカプセルに入ったのは、カプセル内部を洗浄するためだ。それが、アンダーソン君の仕事だった。世界は実に様々なカプセルに溢れていて、それは年々複雑なフォルムへと進化しているので、内部の洗浄はとても難しくなっている。洗浄を行うものには高度なスキルが必要とされるのだった。その仕事に携わるためにはいくつものライセンスを所得していることが絶対条件で、アンダーソン君はもちろんその全てを所得していた。 「アンダーソン君、97パーセントの洗浄が終了し...
pale asymmetry | 2021.09.03 Fri 21:07
JUGEMテーマ:ものがたり うつむいて歩くあの人は、黄昏の光に染まって輝いて見えたのに、周囲に纏う空気はとても冷たいもののように感じた。海の青を凍らせた色の金平糖を引き連れている。金平糖の角はどれも鋭く尖っていて、地面を削り砂塵を巻き上げている。白い粉の砂塵。粉砂糖のようだ。程良い甘さを有しているように見えたけれど、実際には甘苦いはずだ。あの人の表情を見れば解る。何か憤ることがあったのだろうか。それとも自分の非力を強く感じてしまうような出来事があったのだろうか。それでも金平糖は...
pale asymmetry | 2021.08.29 Sun 21:29
JUGEMテーマ:ものがたり 僕らは、波打ち際に横たわっていた。ゆるやかな波が、ゆるやかだけど幅の広い波が、僕の足先から肩口まで濡らす。隣に横たわる彼女のことも、当然波は濡らした。僕らはしっかりと手を繋いで、その波が僕らを飲み込んでくれないかと願った。けれど、そういうことは起きない。長くここに横たわっていても、決してそういうことは起きない。それを僕らは知っている。波は捕食者ではないからだ。捕食者は僕らの方だ。 波はレモン色を纏っていた。少しざらついた感触がした。そのざらつきが...
pale asymmetry | 2021.08.28 Sat 21:13
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