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JUGEMテーマ:ものがたり 巨大な狼だった。巨大すぎたから、本当は狼ではないのかもしれない。けれどその姿は、私には狼にしか見えなかった。脚の長さだけで三メートルくらいはあっただろう。かなり遠くから、その姿を確認することが出来た。ゆるやかに波打つ砂の地面を、強すぎる陽光に激しく揺らぐ空気を擦り抜けるように、その狼はゆっくりと軽やかに歩いている。最初、砂漠を歩きすぎて幻を見ているのではないだろうかと思った。暑さのせいで、私の頭のネジが何本か緩み知らぬ間に落ちているのではないかと思っ...
pale asymmetry | 2020.08.01 Sat 21:52
JUGEMテーマ:ものがたり ステーションに足を踏み入れると、寒かった。思わず自身を抱きしめてしまうほど寒かった。簡素な細長い空間は何にも満たされてはいない。あえて言うならば、そこは純粋な空虚で満たされていたかもしれない。そうであったとしても、それは僕の空虚ではない。このステーションの空虚でもないだろう。たぶんまだ存在しない来世の僕の抱える空虚なのかもしれない。それくらい洗練された空虚だと感じたのだ。 その空間には二枚の扉、それを成立させるための四枚の壁、さらにそれを成立させ...
pale asymmetry | 2020.07.31 Fri 21:41
JUGEMテーマ:ものがたり 僕はそのミニブタにピートという名前をつけた。僕の知らない異境への扉を見つけてくれそうな気がしたから。そんな眼差しをしていたのだ。そんな眼差しで僕を見つめていたのだ。ある意味それは間違ってはいなかったのだということを後に僕は知ることになるのだけれど、ただピートが見つけた扉を僕がくぐり抜けることは出来なかった。 出会ったとき、ピートは六キログラムの子豚だった。白と黒のブチ模様で、好奇心旺盛で、食欲も旺盛で、だらかよく食べてよく遊ぶ子だった。ハーネスを...
pale asymmetry | 2020.07.30 Thu 21:40
JUGEMテーマ:ものがたり 河が涸れた。雨が少なかったというわけでもないのに。ある朝、いつの間にか涸れていることに早起きの誰かが気づいたのだ。夏の朝、日の出と共に鋭利な陽光が降り注ぐ河底が、一直線に煌めいていたことに。その河底には、真ん中にクリスタルが打ち込まれていた。普段は水の流れがそれを隠していたけれど、水がすっかりなくなってそれが現れたのだ。道だった。それは道だった。シャシが疾走するときの道を示す標だった。 河が涸れたのは、シャシが疾走するからだ。この街の誰もが、その...
pale asymmetry | 2020.07.25 Sat 21:38
JUGEMテーマ:ものがたり 「黒い怪獣を見に行こう」 トウヤに誘われたので、学校帰りについて行った。二時間ほど電車に乗って知らない駅で降りたけど、私が日常で歩き回っている風景とそんなに変わらない風景が広がっていた。きっと私はありふれた街で、ありふれた日常を過ごしているのだろう。ありふれた高校生で、消えても世界には何の支障もないのだろう。とそんなことを考えさせられる風景だった。それをそのままトウヤに言った。 「ああ、まあ誰でもそうじゃない」 トウヤは軽く返し、なぜかはにか...
pale asymmetry | 2020.07.21 Tue 21:18
JUGEMテーマ:ものがたり 日が中天に達する頃、兵衛は日課の素振りをする。小さな庭の真ん中で、千回ほど。この季節には汗が噴き出るので、上半身をはだけ、一心に刀を振る。千回振ると手ぬぐいで汗を拭い、呼吸を整えてから庭に面した縁側に横たわる。そのまましばらく昼寝をする。それも兵衛の日課だった。つまるところ、彼には職がなかったのだ。だから暇だったのだ。どこかで揉め事があれば仲裁したり、誰かの喧嘩の助太刀をしたり、商人の集金の用心棒をしたりして、日銭を稼いでいた。 微睡みの中で兵衛...
pale asymmetry | 2020.07.14 Tue 22:22
JUGEMテーマ:ものがたり 岬の先端には、一本の柱がある。私が幼少の頃から、ずっと岬の先端に立っている。いや私が生まれる前から、柱はそこに立っている。私の母が、私の祖母が、私の曾祖母が生まれる前から、柱はそこに立っている。岬は真南に突き出ていて、その岬では風は真南からか、それとも真北からか、そのどちらかの方向から吹く。それ以外の方向からは吹かない。それは獣神の力なのだ。獣神がそれを望んでいるのだ。何故そんなことを獣神が望んでいるのかは、誰も知らない。獣神を理解することなど、誰に...
pale asymmetry | 2020.07.11 Sat 21:49
JUGEMテーマ:ものがたり 一年ほど、仕事の忙しさのせいにして庭の手入れを一切やっていなかった。もちろん庭はすっかり荒れてしまい。文字通りジャングルになってしまっていた。二メートル×四メートルくらいで決して広い庭ではないけれど、植物は軒並み私の背丈を超える高さにまで生長していて、庭の入り口から奥の様子をうかがうことは全く出来ない。庭の奥にはヨモツヒラサカへの口があるかもしれなし、あるいはアマノイワトがあるかもしれない。庭を前にするとそんな風に思えて、なかなか手を着ける気に...
pale asymmetry | 2020.07.10 Fri 20:43
JUGEMテーマ:ものがたり 十八夜の月だった。貞淑な極薄の橙色を纏った月だった。その色彩は沈んだ心持ちを放っていた。だから、ある種の匂いも発していただろう。風に織り込まれて漂うそれは、この世の全てのもののうつろいを嘆かずにはいられなくなるような、そんな想いにさせる匂いだったろう。 その月は丸かったろうか。一見それは丸く見える。どのような定義を採用するかによってもちろん違ってしまうけれど、広義を重んじる感性に従うのならば、丸いと言って差し支えなかったはずだ。しかし当然ながら丸...
pale asymmetry | 2020.07.09 Thu 20:04
JUGEMテーマ:ものがたり 耐えがたい寒さで、ジエイは目覚めた。硬い床に直接横たわっていたから、背中と首が凝り固まっていた。しかしそのことはさほど苦痛ではなかった。ジエイは普段から薄っぺらいせんべい布団を板間に敷いて眠っていたので、背中や首が凝り固まることには慣れていたのだ。だからいつものように肩を回してほぐしながら、堂の内部を見回した。 障子の向こう側から滲んでくる月光で、堂の内部は十分に明るかった。今夜は満月か十六夜か、ジエイははっきりと憶えてはいなかったけれど、どちら...
pale asymmetry | 2020.07.06 Mon 21:44
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