JUGEMテーマ:ショート・ショート エイリアンたちのパーティーは、延々と続いている。それが永遠に続いたとしても私には無関係の事象だから、それを終わらせたいとも思わないし、不快感を感じることもない。ただ私には解らない。エイリアンたちがそのパーティーの何を楽しんでいるのかが。本当にさっぱり解らない。祭りのような神性は微塵も存在しないし、ある種の性的な興奮もそこにはない。ただ罵り合い、辱め合い、笑いながら怒り、間抜けを演じることの何処にも魅力を感じることは出来ない。でも遠い昔、私もエ...
pale asymmetry | 2025.01.30 Thu 20:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは何処で眠れるのだろう? そんなことを考えながら閉じた傘で空を突き刺す。銀鼠の群は僕の傘に怖じ気づくこともなく、全てを喰らい尽くす勢いで北から南へと行進している。子供らを掠っていこうとしているのかもしれない。いや、笛の音は聞こえない。黄昏時まではまだ遠い。 「翼が欲しいのなら、あげようか?」 年老いた少女が下品に笑う。彼女はきっと何もかもを知っているのだ。つまり僕らの過去も、僕らの未来も、僕らの螺旋も、僕らの来世も。でもたぶん僕らの...
pale asymmetry | 2025.01.25 Sat 20:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート リノリウムの廊下は長く真っ直ぐに伸びていて、仄暗く光に満ちていた。つまり私が歩いているその辺りは仄暗かったのだけれど、果てしなく延びる廊下のその先は光のハレーションに遮られるように隠されていたのだ。山葵色のその廊下は歩くたびに鈴のような音が響く。それが心地良くて私は歩みを止められなかった。あの光の内部は楽園だろうか。それとも桃源郷によく似た地獄だろうか。そんなことを考えながら小走りしたりして鈴の音を楽しむ。すると不意に脇道があることに気づき立...
pale asymmetry | 2025.01.22 Wed 21:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 休日の午睡から目覚めると、いつの間にか彼女が帰ってきていて、ダイニングキッチンの大きなテーブルをじっと眺めていた。リビングのソファーからそっと身を起こして、僕はその様子を窺う。西側の窓から斜めに陽光が差し込み、彼女と長方形のテーブルを光の内に閉じ込めていた。危ういバランスを保つことで完成されているアートのように思えて、僕は息を止めた。 「ただいま」 彼女が僕に気づいて手招きする。バランスは崩れてしまったけれど、僕は呼吸を再開する。 「...
pale asymmetry | 2025.01.18 Sat 20:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日の世界は仄暗いわね」 カーテンを少しだけ開き、窓の外を見つめながら彼女が呟く。その声は暗くはなく、どちらかと言えば嬉々としているような口調にも思えた。けれどその横顔はとてもフラットで、冷静に風景を捉えて分析しているように見える。結局のところ、その言葉の意味は不確かで捉えようがなかった。 「強い寒気が南下しているらしいよ」 ソファーで文庫本を読んでいた僕は、顔を上げて彼女を見つめる。彼女は僕の声に軽く肩を竦め、窓辺からソファーに戻...
pale asymmetry | 2025.01.09 Thu 18:47
JUGEMテーマ:ショート・ショート 混み合うレストランで、隣の席の会話が聞こえてくる。それは喪失の物語のようだった。隣の席には二人の老婦人が向かい合って顔を寄せ、ひそひそと話していた。店内はノイズに溢れていたけれど、何故かその潜めた声が漏れ聞こえてきた。それは猫の死だった。突然猫が血を吐いて死んでしまった、という話だった。前日までは普通に暮らしていた猫が、ある朝突然動かなくなり、その日の夜には血を吐いて逝ってしまったのだという。老婦人たちはその会話の途中から涙を滴らせていた。そ...
pale asymmetry | 2025.01.03 Fri 18:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 森に囲まれた広いパーキングの真ん中で、黒猫は丸まっていた。通過する僕を真っ直ぐに見つめて、「冬は眠りの季節ではないよ」と囁いた。たぶんここ数日、眠ってばかりの日々を過ごしていたからだろう。そんな僕を責めているのかもしれない。それともただ単に過ちを正そうとしているのか。掛け間違えたボタンを元に戻そうとしているのだろうか。掛け間違えたままの方が、奇妙な世界を愉しめるのに。 「北風の冷たさが、覚醒を深めてくれるでしょう?」 黒猫はソプラノの声...
pale asymmetry | 2024.12.28 Sat 20:36
JUGEMテーマ:ショート・ショート 生まれたてのコイン。輝く色彩は名付けようがない。綺麗だけど、この世の色ではないみたい。だから今はその色の名を呼ぶことは出来ない。私の命が尽きたならば、その瞬間にその色彩の名を知ることが出来そうな気がする。でもそんな気がするだけ。それは約束された事象ではない。だから願いでさえない。ありふれた空想。形を伴わない。だから明日には忘れてしまうかもしれない。それは少し嫌だなと思った。だからそのコインをテーブルに並べる。アート作品のように鑑賞するため...
pale asymmetry | 2024.12.27 Fri 22:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 昼食のあとにリビングのソファーでうつらうつらしていたら、勢いよく玄関の扉が開く音で覚まされた。玄関には鍵をかけていたはずだから、鍵を持っている誰かなのだろう。そう思って、横たわったまま起き上がらなかった。 「ただいま」 案の定甥っ子の声が響いて、すぐにその姿がリビングに流れ込んでくる。そのままの勢いで、甥っ子はソファーに飛び込んできた。両手に持っていた手提げカバンから、バラバラと細かな荷物が飛び散る。それにはお構いなしに、僕の躰の上でモ...
pale asymmetry | 2024.12.25 Wed 20:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、境界面はどこにあるのかしら?」 館内の空調の響きと同じくらいの音量で、彼女が囁く。それでもその声は消え入ることなく響いた。館内に人影がまばらだったせいかもしれない。 「それとも、境界面なんてないのかしら?」 僕らは巨大な絵の前に立っていた。縦は僕の背丈よりも長く、横は僕ら二人が両腕を広げて並んだ幅より広いサイズだった。それが目線より高い位置に展示されていたので、僕らは自然とその絵を見上げる形になる。多彩刷りの版画で、複雑なコー...
pale asymmetry | 2024.12.22 Sun 20:01
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