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JUGEMテーマ:ショート・ショート 巨大な翼を持つ船だった。だからもちろん天空を航行していた。一度飛び立てば二度と地上に戻ることはない。そういう宿命の船だった。いつ飛び立ったのかは解らない。その船がいつ地面にさよならを告げたのかも解らない。おそらく、すでにさよならという概念さえ、船は忘れているだろう。それは46億年より前だったかもしれない。それなら、その船は宇宙から飛来したことになる。別の恒星系から来たのならば、そもそもその場所にはさよならという概念は存在しなかったかも知れない。...
pale asymmetry | 2024.12.21 Sat 20:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 海沿いのパーキングに車を止めて、僕らはコーヒーを飲んでいた。パーキングの隣に広い芝生があり、いくつかのベンチが設置されていたので、そこは僕らのお気に入りの場所だった。海自体はそこから階段を下りた場所にあって、だから波打ち際は見えなかったけれど、キラキラと広がる水面は遠くまで見下ろすことが出来た。今日は陽光がパワフルだったので、水面は騒々しく煌めいている。歌ってるようにも思えた。風がゆるく、凪の水面が歌っているのだから、それは歓喜の歌だと思えた...
pale asymmetry | 2024.12.17 Tue 20:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「証明写真って、何を証明しているのかしら?」 テーブルを埋め尽くす書類に目を向けながら、彼女が呟く。開いた窓から流れ込む風は極ゆるかったけれど、とても冷たかった。斜めに差し込む西日とのバランスでは完全に風の方が勝っていたので、僕らはたっぷりと重ね着をしていた。それでも窓を閉めなかったのは、それが今年最初の冬の風で、とても澄んだ風だったからだ。 「うーん、とくに何も証明していないと思う」 ソファーに寝転び文庫本を読んでいた僕は、少しだけ...
pale asymmetry | 2024.11.29 Fri 20:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 閉じた傘は罪だろうか。そんわけないのに、そんな風に感じてしまう。朝の天気予報では午後から雨のはずだったのだ。だから傘を持って出かけたのに、正午を過ぎても雨は降らない。それどころか空は青。何処までも上昇する青に染められている。きっとあなたが旅立ったからだ。あなたが雨を連れ去ったのだろう。だから私は傘を開くことが出来ない。何故か罪悪感に捕らわれてしまう。罪を犯したのは傘か、私か、空か、それともあなたか。もちろん真相は解らない。これはきっと不可能犯...
pale asymmetry | 2024.11.25 Mon 20:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨が上がって、窓から強い日差しが斜めに差している。それがあまりにも騒々しく室内で跳ね回るので、僕は窓を全開にした。東から流れ込む風は思ったよりひんやりとしていて、強い日差しとのバランスがちょうど良く、涼しくて暖かかった。ソファーに戻った僕はそこで寝そべり、読み始めていた文庫本の続きに思考を沈める。物語の中では第三の殺人が起こり、それを防げなかった探偵が奔走していた。彼女は床に横たわり、半ば眠るような表情で広げた紙を眺めている。それは薄い水色の...
pale asymmetry | 2024.11.17 Sun 20:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、濡れていきましょうよ」 彼女がそういうので、僕は傘を閉じた。もちろん彼女も傘を閉じた。雨脚はそんなに強くはない。その雫も大きくはない。けれど正面から風が吹いていて、だからその分勢いがあるように感じられた。この風は東風だ。決して冷淡な風ではないけれど、温厚な風というわけでもない。風本来の冷ややかさを感じさせる。だから僕らは冷たく濡れる。 「こういう濡れ方は純粋だね」 彼女がはしゃいだ声を上げる。足取りも軽く、跳ねるように進む。 ...
pale asymmetry | 2024.11.09 Sat 19:36
JUGEMテーマ:ショート・ショート 君はまだ眠っている。やわらかな寝息を放っている。少しだけ眉間に皺が見える。微かに藻掻いているのかもしれない。君の心が、眠りの懐で。窓の外は徐々に明るくなっている。夜はゆっくりと天に還っていく。僕らは目覚めなければいけない。けれどそれを決めたのは僕らじゃない。随分と理不尽な話だと思う。世界は不平等だ。歪んでいて汚れていて、傷ついている。でもまあ、その傷が陽光を乱反射して、世界は輝いている。だから僕らは朝になったら目覚めるんだ。それでも急ぐ必要は...
pale asymmetry | 2024.10.31 Thu 21:28
JUGEMテーマ:ショート・ショート ケイタイにメッセージ。懐かしい彼女から。もう交わることはないと思っていたから、不可思議な気分。 『夏が終わりましたね。もう炎を見つめたのかしら。私は明日の夕刻、あの波打ち際で』 海沿いのパーキングを思い出す。急なカーブを曲がりきったすぐのところ。広いけれど、施設は何もなく、見晴らしも良くない。そのせいかいつも人気は少ない。だからあの頃、僕らはあのパーキングをいつだって二人占めしていた。パーキングの隅に、急坂。細い道が海へと下っている。僕...
pale asymmetry | 2024.10.24 Thu 20:45
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これが最後の夏にはならないんだよね」 君が呟く。真上からの陽光に、君の鼻先が煌めいている。君の眼差しが向けられた海面の煌めきと、それは全く同じだ。たぶん、海面から君の鼻先に移し取られた煌めきなのだろうと僕は考える。だから、それは偽物の煌めきなんだろうと思う。それなら、僕が奪っても差し支えないだろうと考え、僕は君の鼻先に口づけしてみた。 「世界ってだらだらと終わらないね」 君は眼差しを海に向けたまま。でも少しだけ笑ったのを僕は見逃さな...
pale asymmetry | 2024.10.20 Sun 21:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 今年も金の犀が駆け回る。否が応でも風景に織り込まれる。黄昏時に青と夜と橙が三層に戯れ合うような時刻には、それをとくに強く感じたりする。そんなときの空気は凜としていて、私の丸まった背中を突き飛ばすようだ。何者かが私に問い掛ける。「どうしたって消えない想いを、あなたはどうしているの?」と。そんな問いには答えようがない。消えない想いを消すことなど出来ない。日々に紛れて無意識の領域に沈んでいたとしても、何のきっかけもなく唐突に浮かび上がっている想いな...
pale asymmetry | 2024.10.17 Thu 18:49
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