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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「玄関の扉を開けたら、そこにカンガルーが立っていたの」 リビングのソファーに寝転ぶ彼女が、窓の外を見つめて言う。北側の窓で、見えない風の存在を感じることが出来る。別に硝子面が振るえているわけではない。何かが、例えば枯葉とかが跳び回っているというわけでもない。それでも、窓の外には強い風が流れていることが解る。そういう存在感のある北風が吹いているのだろう。 「それはフラミンゴだったかもしれないし、マウンテンゴリラだったかもしれない。とにかく人...
pale asymmetry | 2025.12.05 Fri 17:50
JUGEMテーマ:ショート・ショート 頬に冷たさを感じて目を開ける。目の前に彼女の顔が合った。両手にグラスを持っている。その一つが僕の頬にくっつけられていた。 「レモンティーをどうぞ」 彼女が笑う。金茶の液体で満たされたグラスを受け取りながら、僕は上半身を起こす。胸の上にあった文庫本がソファーで一旦跳ねてから床に落ちた。いつの間に眠ってしまったのだろう。西に面したの窓が開け放たれていて、そこから乾いた風が陽光を連れて流れ込んでくる。乾いているのに、その風はとても滑らかに流れ...
pale asymmetry | 2025.12.02 Tue 18:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート テレヴィジョンのなかの君が言う。 「まだ何も始まってはいない」 僕は頷き、テレヴィジョンのモニタに答える。 「だから、あらゆる可能性を考察しなければいけないんだ」 すると君は首を振る。 「あなたは『あらゆる』という状態に囚われすぎている。本当に見つめなければいけないのは可能性の方なのに」 僕は思わず首を傾げる。 「でも何も始まっていないのだから、可能性は無数で、無作為の抽出だけでは僕は満足できないよ」 君は微笑む。暖か...
pale asymmetry | 2025.11.21 Fri 10:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート 求められているのは言語によるデッサンと身体感覚の拡張、異質なスナップショットなのだという。 前提1 湖を取り囲む暗く陰った稜線。這うように低いその稜線は、疲れて横たわる架空の獣のように見える。たとえばそれは龍のような。その獣は一日中、躍起になって太陽を喰らおうとしていたのかもしれない。そのせいで疲れ果て、今は凪の湖面に寄り添うように臥している。沈み行く太陽はそれを嘲笑うかのように金色の輝きを盛大に放ち、鮮やかな黄金の影を湖面...
pale asymmetry | 2025.11.16 Sun 20:42
JUGEMテーマ:ショート・ショート 玄関の扉を開けると、早朝の空気は橙色をしていた。風は強く、その橙が気流に巻き取られて流れていく。生温い風だった。 「私たちは南側にいるの?」 君が少しはしゃいだ声で聞く。 「そうだね。前線はここより北側に位置しているようだ」 僕は北の空を見つめる。遠くに青の欠片が斑に見える。あの辺りに境界があるのだろうか。もちろんその詳細は解らない。今朝の天気図をイメージして、この場所の空に重ねてみても、それでもよく解らない。 「台風はもう近づ...
pale asymmetry | 2025.11.12 Wed 18:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「月が綺麗だね」 隣のあなたがそう言ったので、私は少しドキドキしてしまった。そっとあなたを見ると、あなたは真っ直ぐに月を見上げていて、だからあなたは漱石を知らないのだと思った。 「空気が、冷ややかに沈んでいるからかな」 呟きは私に向けられたものではないようだったから、私は肯定も否定もしなかった。ただ温かなワインを口に運び、その甘みと渋みを流し込んで気分を落ち着けたりしていた。夜が長くなったから、ベランダで並んでワインを飲むことが多くな...
pale asymmetry | 2025.11.02 Sun 17:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 数分前まで強い雨が斜めに降っていたのに、今は晴れ間が見えている。でもその陽光は頼りなく、どこか病的な印象を受けた。僕らは丘の上のレストランで、窓際の席に並んで腰掛け、そんな窓外の風景を眺めていた。窓の外の庭には大きな魚が設置されている。まん丸い躰に小さな鰭の魚。カラフルな体色と模様で、たぶん熱帯魚を模したものなのだろうと思われた。その向こう側の、遠くに海を見下ろすことができる。さっきまでの雨の滴を纏った魚は、海までの長い距離に憤っているように...
pale asymmetry | 2025.10.29 Wed 18:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート たっぷりと濡らしたタオルで、彼女の足先を拭う。小さな傷が刻まれた足先からは、血が滲んで流れ落ちる。 「こうやって、全ての血液が流れ出してしまうのかしら?」 彼女の呟きが、薄暗い部屋を控えめに跳ね回る。それは無邪気な子猫のような気配で僕を擽る。 「傷は小さいから、全ての血液が失われる前に止まるよ」 僕がそう言うと、彼女はとても意外そうな表情をする。僕は器の中で温くなった液体をシンクに流し、また冷水を器に注ぐ。それは星雲を連想させる図...
pale asymmetry | 2025.10.23 Thu 18:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「私たちが砂漠にいることを想像して」 彼女が囁く。真夜中のベランダ。満月に向かう月。簡素な椅子を並べて僕らはだらしなくそれに腰掛けている。それぞれの手には温めた赤ワイン。もう夜は夏ではない。 「砂漠って、どんな砂漠?」 僕が尋ねると、彼女は少し驚いた表情になる。 「どんなって、砂漠は砂漠じゃない?」 彼女はカップに口を傾けた後、気持ちよさそうに息を吐く。きっと温かい息が放たれたはずだけど、それが白く際立つほど冷えた夜ではない。 ...
pale asymmetry | 2025.10.18 Sat 19:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨が降るのを待って、僕たちは出かけた。雨が降ることは解っていたから、それまでに出かけて用事を済ませることだって出来た。でも彼女が言ったのだ。「雨を待ちましょうよ」と。一つの傘のなかに窮屈に収まって、僕たちは街路を歩く。触れ合っているのは肩先だけではなく、形のない事象だって強く触れ合っている。あるいはそれは形がないからこそ、触れ合うだけじゃなく重ね合わされているように思える。 「ねっ」 彼女が突然囁く。 「ね?」 僕の問いかけは勢い...
pale asymmetry | 2025.10.08 Wed 17:25
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