[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは花を買った。彼女の思いつきで。午後の陽光は強く、風の冷たさを無効化するのに十分だった。だから花が必要だと彼女は思ったのかもしれない。花屋により、吟味して、いくつかの花を彼女は手に入れた。見知らぬ花ばかりだった。 「あなたはもう少し花に興味を持った方が良いわ」 彼女が笑う。僕も笑う。その花たちの色と形を、僕はちゃんと見つめて記憶した。そして僕らは海辺まで歩き、砂浜に腰を下ろした。 「あの人は、何をしているのかしら?」 彼女が目...
pale asymmetry | 2023.02.28 Tue 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼はリビングのソファーに身体を投げ出すように横たわっている。やわらかく目を閉じているから、眠っているのかもしれない。あるいは瞑想しているようにも見える。瞑想中にうっかり身体から抜け出てしまって、別の宇宙を旅している最中のようにも見える。表情が穏やかだから、迷っているようには見えない。でも彼はどんなときも穏やかな表情だから、本当にそうなのかは私には解らない。 「ただいま」 私はそっと彼に声をかける。彼は目を開け小さく頷く。 「お帰り」 ...
pale asymmetry | 2023.02.22 Wed 20:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事から家に帰ると、彼女がリビングのソファーに倒れ込んでいた。朝仕事に出かけて行ったときの服装。ソファーの脇にはそのとき持って行った鞄も投げ出されていた。 「ただいま」 「お帰り」 ソファーに顔を伏せたままで、くぐもった声が返ってきた。 「疲れてる感じ?」 「溶けてる感じ」 顔を僕に向け、彼女は微妙な感じで笑う。 「溶けてる感じ?」 「そう。雪が溶ける感じ。雪のまま舞い落ちては来ず、溶けて雨として落下してくる感じ」 よ...
pale asymmetry | 2023.02.19 Sun 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「南風って、こましゃくれているわね」 彼女が芝生に寝転がりながら小さく叫ぶ。 「僕は結構癒されるけどね」 彼女の隣に僕も寝転んでみる。陽光が強すぎるので、芝生は電気カーペットくらい暖かい。それに乾いていて、メタバースチックだった。 「じゃあ、あなたには母性の強い存在なの?」 「南風が?」 「ええ」 「母性は感じないな。親しい友達みたいな感じかな」 僕は上半身を起こし、風景を見下ろす。僕らは山の中腹の公園にいて、そこからは斜...
pale asymmetry | 2023.02.17 Fri 18:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日はダーウインの日なんだって」 彼女は額の汗を拭う。 「ダーウインって、進化論のダーウイン?」 僕は後ろから彼女の肩に手を回す。 「そう。彼の誕生日なんだって」 「そうなんだ」 僕らは浴室にいて、浴槽に熱めのお湯を半分ほど溜め、前後に並んで収まっている。そして浴槽の脇にはアルミのテーブル。そこにはワインのボトルとグラスが二つ。 「人間は進化したから、こんな時間を過ごすようになったのかしら?」 彼女がグラスに手を伸ばし...
pale asymmetry | 2023.02.12 Sun 20:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「僕は天使だったみたいなんだ」 遅い朝、エスプレッソを飲んで覚醒を引き寄せているところに、甥っ子が訪ねてきた。 「おはよう、火曜日の朝だね。学校は?」 「それは訊かないで」 「うん解った。もう訊かない」 僕らは笑い合う。共犯者の笑顔を重ねる。 「で、どうして君が天使だと判明したの?」 僕が尋ねると、甥っ子は驚いた表情を見せて一瞬フリーズした。 「えーっと、理由が必要な感じ?」 少し再起動に戸惑っているような口調だった。...
pale asymmetry | 2023.02.07 Tue 20:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは傘を持て余していた。家を出るときには弱いけれど大粒の雨が降っていたのに、歩き出して数分でその雨は止んでしまった。空はまだどんよりと曇っていたから僕らは閉じた傘を手に歩いた。そこからさらに数分、いつもの散歩コースでビーチに着いた頃には雲はかなり薄まり、淡いブルーが見え隠れしていた。 「春は嘘つきだね」 彼女が砂に足跡を押しつける。砂は僅かに湿っていて、そのへこみぐわいが巨大な生物の背中のように思えた。モンスターの背中を彼女は進む。 ...
pale asymmetry | 2023.02.04 Sat 19:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「すごく深い塔なんだ」 甥っ子がスケッチブックを広げる。 「深い塔? 高い塔じゃなくて?」 「そう、深い塔」 甥っ子は色鉛筆のグレーで輪郭を書き始める。 「もちろん造られたときは高い塔だったんだけど、今は地中に埋まっているんだ」 「なるほど、だから深い塔か」 甥っ子は赤と茶と黄色と緑で、地中の塔を描いてゆく。彼は実に絵が上手い。 「それでね塔の下層には水が溜まって円柱型の池になっているんだ」 甥っ子は塔の底の方に薄い青...
pale asymmetry | 2023.01.31 Tue 17:45
JUGEMテーマ:ショート・ショート 北からの風は冷たかったけれど、陽光はなかなかに鋭かった。海は南側に広がっていたから、背中に風を受けることになる。陽光は真上から。水面は細かく波打ち、キラキラの衣を纏っていた。 「何を狙っているの?」 恋人は忙しなく竿とリールを操っている。防波堤の上に立ち、動作とは裏腹に水面を優しく見つめている。僕は防波堤の上に腰を下ろし、というか半ば寝そべるような姿勢で、ラインの先端がキラキラを切り裂くのを眺めていた。 「とくに何って言うのはないよ」...
pale asymmetry | 2023.01.29 Sun 20:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 私たちは、手を繋いで歩いた。夕暮れ時、風はとても冷たい。青空が広がっているのに、どこからか微細な雨粒が風に運ばれてくる。 「誰かが泣いているのかもしれない……」 あなたが囁く。声が風に流される。だから上手く聞き取れなかったけれど、私は聞き返すことはしなかった。声がよく聞こえなくても、あなたの想いは私の内側に響いていたから。 「日が長くなったから」 私がそう言うと、あなたは首を傾げる。空を見つめ、私を見つめ、微かに頷く。...
pale asymmetry | 2023.01.28 Sat 19:22
全1000件中 91 - 100 件表示 (10/100 ページ)