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JUGEMテーマ:ショート・ショート それが青白い馬であったとしても、僕は跨がり駆け出すしかなかったんだ。君の声は聞こえなかった。耳を塞いでいたわけではない。そのとき嵐が世界を猛らせていたので、僕自身の鼓動も高鳴り、もう何も聞こえなかったんだ。道はどこまでも続いていたから、振り返る暇さえなかった。ただただ進み続ければ、いつか再び君と繋がるかもしれない。そう考えても見たけれど、上手くはいかないものだね。 それから僕の世界は、長い長い昼の時代が続き、夢を見ることさえ忘れていたよ。...
pale asymmetry | 2023.08.31 Thu 19:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「流れの速いその川に、サファイアが流れていました。澄んだ川の川底を、流れと同じ速さで転がっていました。午後の陽光に輝くその宝石を見つけた少年は、躊躇なく川に飛び込みました」 「その少年は貧乏だったの?」 「そうかもね。でも川に飛び込んだ少年はあっという間に流されてしまい、サファイアよりも速く川底を転がるように流され、溺れてしまいました。そして溺れた少年はいつの間にかルビーに変化していて、サファイアとともに川を流れていきました」 「魔法か何...
pale asymmetry | 2023.08.28 Mon 17:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、見て」 ソファーの上から彼女がタブレットを差し出す。ソファーの脇で床に寝そべっていた僕はそれに目を向ける。どこかの入り江、鏡のように凪いだ海の画像だった。海に向かって緩やかに傾斜する坂道が延びていて、そこにはレールが敷かれている。だからレールは水面下に進んでいる。 「深海に向かう列車の線路よ」 彼女が楽しそうに言う。凪の海は透明度も高く、水面下のレールはかなりの距離その姿を確認できる。そしてそのまま深い青に飲み込まれていく。こ...
pale asymmetry | 2023.08.20 Sun 21:28
JUGEMテーマ:ショート・ショート 海沿いの道はコンクリートの高い壁が海側に続いていて、きっときらきらしているはずの水面は見えなかった。カーブが少なくなり、つまらなさを感じ始めた頃にやっと壁が途切れたので、僕は海辺にバイクを止めた。予想通りに海面はきらきらと騒々しくはしゃいでいて、そして予想以上にエメラルド色をしていた。 ヘルメットを脱いで汗を拭う。散々風に纏わり付かれていたはずなのに、全身汗まみれだった。風よりも、僕の熱量の方が上回っているのだろう。夏だからしょうがない。...
pale asymmetry | 2023.08.19 Sat 20:50
JUGEMテーマ:ショート・ショート 新月の夜は美しい闇だ。純度の高い闇が僕の心を揺さぶるから、高架橋の橋脚に魚を描いた。最初は隅に小さなやつを一つ。黄色と赤の縞模様のやつ。十六夜の月のような切ない感じで描いた。けれどトーチの光に浮かび上がるその魚は、切なさよりも卑猥さを強く放っているように思えた。 「良いね。うん、良いよ」 セツちゃんがそう言って跳ねた。大きなおっぱいが揺れて卑猥だった。それを見て僕は切なくなった。本当はそのおっぱいに触れてみたかったけれど、セツちゃんは空...
pale asymmetry | 2023.08.16 Wed 21:03
JUGEMテーマ:ショート・ショート 目が覚めると、枕元にナイトが立っていた。馬をかたどった黒いガラスのナイト。チェスの駒だ。彼のものだと知っていたから驚きはしなかった。ナイトはメモ紙の上に立っている。その紙を手に取り文字を追う。 『気持ちよさそうだったから起こさなかった。いってきます。ちなみのこのナイトは左利きだよ』 そんな文字が書いてあった。そいえば、今朝は早く家を出るって言ってたっけ。カーテンを開け、朝日にナイトを翳す。煌めくナイトは澄ましている。自分の強さによっぽど...
pale asymmetry | 2023.08.13 Sun 21:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 花火の音が聞こえる。それで八時半になったのだと思う。毎週土曜日の午後八時半に近くのホテルが花火を打ち上げるのだ。最初の頃はベランダに出て眺めていたけれど、毎週続くとやがて眺めようとは思わなくなってしまった。今では花火の音を時報代わりに聞いているだけだ。だからこの花火が透明であったとしても僕らは気づかないだろう。 開け放たれた窓からは、極弱い風が流れてくる。それは弱すぎて、生温い湿気を運んでいるに過ぎない。風と呼ぶには少し違和感があったけれ...
pale asymmetry | 2023.08.12 Sat 21:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 強い西風は少しだけ北に傾いていて、そのせいかひんやりとしていた。宵と呼ぶには早い時刻に、僕らはベランダに金属バケツを出し、そこに二枚の短冊を落とした。風はベランダに巻き込んでくるけれど、バケツの底の短冊を吹き飛ばすほどではなかった。夜がゆるやかに沈み始めているのを感じたけれど、バケツを覗く彼女の横顔ははっきりと見えた。 「何て書いたの、短冊に」 バケツに目を向けたまま彼女が訊いてくる。僕らはそれぞれ短冊に願い事を書いた後、相手に見せない...
pale asymmetry | 2023.08.07 Mon 21:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート ゆるやかな流れの川に、僕らは足を浸していた。河原を埋める小石は程良い丸みで、座り午後地が良かった。僕らは半ば寝そべるような体勢で並んで腰を下ろし、空を見つめていた。真上の空は銀のベールを纏った青。遠くの場所には黒雲が見えた。風はそちらの方から吹いていて、それは少しひんやりとしていた。 「微かに雨の匂いがする」 彼女が言葉を零した。やわらかく閉じた目は、成層圏の外側を見つめているように思えた。 「あの雨雲が向かってきているんだろうね」 ...
pale asymmetry | 2023.07.28 Fri 21:03
JUGEMテーマ:ショート・ショート 午後になるとベランダは日陰になる。それを待って僕らは椅子とバケツを並べた。クーラーボックスにはたっぷりの氷。それにグラスとスコッチウイスキー。バケツに張った水に足を浸して、僕らは青すぎて銀色にハレーションした空を見上げて目を瞑る。 「夏だね」 彼女の声に一瞬目を開き、眩しすぎてまたすぐに目を閉じる。 「もちろん」 僕が応えると、彼女は笑う。 「あなたが夏にしたみたい」 彼女がグラスを僕の頬にくっつける。ひんやりとして心地良か...
pale asymmetry | 2023.07.23 Sun 21:27
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