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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「見て」 夕食の後、彼女がテーブルに小さなモニタを立てる。 「綺麗なの」 彼女がモニタの電源を入れると、そこには流麗な紋様が顕れた。色とりどりに流れ、絡まり上昇したり下降したりする紋様だった。 「これは?」 紋様はときどき煌めきを放ち、確かにとても綺麗だった。煌めきは些末な、だからこそ重要な想いの欠片のように想えた。 「これは夢なの」 「夢?」 「そう、夢。睡眠時の夢。AIに夢を見させているの」 「どんな夢を? それとも自...
pale asymmetry | 2023.06.29 Thu 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 三日間の出張から彼女が帰ってきた。その日数の割には大きなキャスターバッグとA4サイズの茶封筒を持って。彼女はその茶封筒をとても大切そうに胸に抱えていた。 「出張先の街の駅前に似顔絵描きの人がいたの」 リビングのソファーに落ち着くと、彼女がそう切り出す。僕はミルクたっぷりのカフェオレを淹れ、二つのカップをテーブルに並べた。 「そういうのって、サンプルみたいなのを何枚か展示してあるじゃない」 彼女がカップを手に取り口を付ける。満足そうに...
pale asymmetry | 2023.06.20 Tue 18:52
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「戻ってきて。もう浮かび上がる時間よ」 彼女の囁きで目を開ける。薄暗い部屋。微笑む彼女。その指先が僕の鼻の頭を撫でていた。 「何時?」 「もう二時を過ぎたわ」 それはもちろん午後の二時のことだろう。十二時間以上眠っていたことになる。損をしたような得をしたような不思議な気分になる。 「傷ついていたのね」 どうだろう。僕は傷ついていたのだろうか。それに関する具体的な事象は何も思いつかないけれど、彼女がそういうのならそうなのかもしれ...
pale asymmetry | 2023.06.14 Wed 20:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『迎えに来て』 彼女からのメッセージ。仕事が休みだった僕は、リビングで古い映画を見ていた。外は雨。そういえば彼女は傘を持っていかなかったなと気づく。仕事が終わる時間には随分と早い気がしたけれど、彼女の分の傘を持ち、僕自身のための傘をさしてバス停へと向かう。 『泳いでるわ』 バス停が見えてきたところで、また彼女からのメーセージ。バス停には彼女の姿が見当たらない。バス停の脇のビーチに目を向けると彼女の鞄と上着。真っ直ぐに降る雨。凪を纏った...
pale asymmetry | 2023.06.07 Wed 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「何処がいいと思う?」 彼女がそう訊くから、僕はいくつかの場所を思い浮かべ、今日の最適解を考えた。例えば今日朝一の彼女の笑顔や、朝の天気予報で見た気圧配置や、実際に感じた空気のざらつきや、陽光の潤み具合、それに鳥の声の飛翔角度なんかを変数として。 「バス停の裏のビーチに行こう」 僕がそう言うと、彼女は大きく頷く。きっと彼女も同じ解に辿り着いていたのだろう。そんな感じの頷きだった。僕らはワンショルダーのボディバッグにスキットルとカップを...
pale asymmetry | 2023.05.29 Mon 21:06
JUGEMテーマ:ショート・ショート 南の島の波打ち際を、白い虎がのそりのそりと歩いていて、それが私なのだろうなと思った。虎は夜を見上げて荒い息を吐き、重い足取りで歩いていたから、私は疲れているのだろうなと思った。それに月の不在を嘆いているのだろうなとも思った。虎は真っ直ぐに夜を見つめていたから、夜の方も真っ直ぐに虎を見つめているのだろうな感じた。私は夜を見つめ、夜が私を見つめる。双方向に行き交う眼差しが、世界の織物を形成しているのだと思えた。 「だから私は腐敗した泥なのだと思...
pale asymmetry | 2023.05.25 Thu 18:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「じゃあ、最初は渦」 開け放たれた窓の外に顔を向けたまま、甥っ子が言う。 「どうして渦?」 僕はソファーに沈み、タブレットで電子書籍を読んでいる。 「別に意味はないよ。今思い浮かんだだけ」 甥っ子は空を見つめたまま答える。僕はそんな彼に目を向ける。タブレットの中では素人探偵が不可能犯罪の種明かしを始めていたけれど、それよりも彼の表情が気になった。彼はスッキリとした表情で空と向かい合っていて、僕は安堵した。 「吹雪」 そう言...
pale asymmetry | 2023.05.21 Sun 18:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ただいま」 「おかえり」 彼女はリビングのソファーに横たわり、毛布に包まっていた。ソファーの周りはたくさんのキャンドルに取り囲まれていた。色とりどりのグラスの中で、小さな炎は微笑むように揺らいでいた。部屋の照明は灯っていたから、炎の神秘性は希薄だった。 「どうしたの?」 「熱あるみたい」 エアーコンディショナーがしっかりと働いていて、リビングは冷たく乾いていた。それが僕を少しだけ空虚な気分にさせた。 「計った?」 「うん」 ...
pale asymmetry | 2023.05.14 Sun 20:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これはすごく良い子だと思う」 甥っ子がしゃがみ込み、地面をじっと見つめている。視線の先には小さな石が転がっている。青みがかった灰色の石で、ゴツゴツとした形をしている。 「どの辺りが、良い子なの?」 僕が尋ねると、甥っ子はその石を丁寧に掌に乗せ、午後の陽光に翳す。石は陽光を弾くことはなく、煌めきも輝きも発しない。陽光を吸収しているというわけでもなく、ただただその表面を撫でられているという感じだった。 「カクカクした感じなのに、パチパ...
pale asymmetry | 2023.05.12 Fri 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「本当にね、油断しているとすぐにやられてしまうものなのよ」 彼女はスプーンを加えてそう言う。少しもごもごした口調になってしまう。カップの蓋を外すのに両手が必要だったから、スプーンを加えるしかなかったのだ。 「ブルーミント味にしたから、風が心地よく感じると思うよ」 彼女は大切な秘密を明かすように笑った。でも海から吹いてくる風は、極々弱い。彼女の髪は踊ることはない。日差しは鋭く、水面は複雑に煌めく紋様を纏っていた。 「あと、踝を持って行...
pale asymmetry | 2023.05.09 Tue 18:59
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