JUGEMテーマ:ショート・ショート ケイタイにメッセージ。懐かしい彼女から。もう交わることはないと思っていたから、不可思議な気分。 『夏が終わりましたね。もう炎を見つめたのかしら。私は明日の夕刻、あの波打ち際で』 海沿いのパーキングを思い出す。急なカーブを曲がりきったすぐのところ。広いけれど、施設は何もなく、見晴らしも良くない。そのせいかいつも人気は少ない。だからあの頃、僕らはあのパーキングをいつだって二人占めしていた。パーキングの隅に、急坂。細い道が海へと下っている。僕...
pale asymmetry | 2024.10.24 Thu 20:45
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これが最後の夏にはならないんだよね」 君が呟く。真上からの陽光に、君の鼻先が煌めいている。君の眼差しが向けられた海面の煌めきと、それは全く同じだ。たぶん、海面から君の鼻先に移し取られた煌めきなのだろうと僕は考える。だから、それは偽物の煌めきなんだろうと思う。それなら、僕が奪っても差し支えないだろうと考え、僕は君の鼻先に口づけしてみた。 「世界ってだらだらと終わらないね」 君は眼差しを海に向けたまま。でも少しだけ笑ったのを僕は見逃さな...
pale asymmetry | 2024.10.20 Sun 21:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 今年も金の犀が駆け回る。否が応でも風景に織り込まれる。黄昏時に青と夜と橙が三層に戯れ合うような時刻には、それをとくに強く感じたりする。そんなときの空気は凜としていて、私の丸まった背中を突き飛ばすようだ。何者かが私に問い掛ける。「どうしたって消えない想いを、あなたはどうしているの?」と。そんな問いには答えようがない。消えない想いを消すことなど出来ない。日々に紛れて無意識の領域に沈んでいたとしても、何のきっかけもなく唐突に浮かび上がっている想いな...
pale asymmetry | 2024.10.17 Thu 18:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート トカゲに導かれて世界の果てに到達してしまった。なんて言えば、君は笑うだろうか。それともいかにも僕らしいと納得してくれるだろうか。そのトカゲには大きな翼が生えていて、一見ドラゴンにも見えるけれど、魔法には一切関与していないから、やっぱりトカゲなんだ。不敵に笑うこともないし、人語を操ることもないしね。そろそろ君は、これが何かのメタファーなのだろうと考え始めているだろう。でもその考えは一旦中断して欲しい。これはメタファーであり、同時にメタファーでは...
pale asymmetry | 2024.10.09 Wed 21:14
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今なんてないんじゃないかな。僕らが今と感じているのは、ほんの僅かだけど過去のことだから」 僕がそう言うと、君は少し首を傾げて穏やかに笑った。 「この瞬間は、本当はこの瞬間ではなくてあの瞬間だということね」 君は何故か得意げな顔でそう言うと、コーヒーカップに口を付けた。何日か続いた雨混じりの日が途切れ、今日は気持ちよく晴れ渡ったので、僕らは夕暮れ時にベランダでコーヒーを飲んでいた。アルコールを飲んでも良かったのだけれど、風がとても澄ん...
pale asymmetry | 2024.10.01 Tue 20:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 寝坊してしまったので、仕事を休むことにする。ベッドの中でそれを決めて、また眠る。次に目覚めてときはお昼だった。お腹が空いて目が覚める。こういう目覚めは良いなと思う。獣のようで良いなと思う。ベッドを出てキッチンに向かう。獣のように狩りは出来ないから、冷蔵庫に頼るしかない。 「おはよう」 キッチンに行くと、リビングから甥っ子の声がした。リビングのソファーでタブレットを覗き込んでいる。僕のタブレットだったけれど、彼はピンコードを知っているから...
pale asymmetry | 2024.09.28 Sat 18:53
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「閉ざされた箱が一つあるの。世界にはそれだけしかないの」 薄暗い部屋で彼女が囁く。部屋の隅で小さなキャンドルが橙色に揺らめいている。部屋の光源はそれだけで、だからその橙色は部屋の薄暗さを強調しているだけだった。 「宇宙もないの?」 声を潜めて、僕は尋ねる。僕らはリビングのソファーに身を寄せ合って腰掛けている。彼女の熱を確かに感じる。けれどその身体の輪郭は曖昧な感じがした。僕らはここにいる。でも、ここではない何処かにもいるような気がした...
pale asymmetry | 2024.09.26 Thu 21:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 君は湿った地面を見つめて、「空は空ね」と叫ぶように囁く。 僕は君を見つめて、「ソラハクウネ」という君の声を聴きとる。 君は傘を閉じて、雨の心根を受け入れる。僕にはそれが出来ないから、雨と仲良くなれそうにない。 君は首を傾げて「どうして?」と問うけれど、僕には上手く答えられない。だから曖昧に笑って「どうしても」と誤魔化す。 立体駐車場の最上階には屋根がない。だから君はすぐに濡れ鼠。僕は狡賢いイタチだから、傘を手放すわけにはいかな...
pale asymmetry | 2024.09.20 Fri 21:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 玄関の扉を開けると、彼女がしゃがみ込んでいた。 「どうしたの?」 問い掛ける僕を、彼女は深刻な表情で見上げる。 「鍵がないの」 彼女が立ち上がる。僕は扉を閉める。玄関の小さな空間で、僕らは向かい合う。思わず抱き締めてキスしてしまいそうになったけれど、僕は我慢する。 「キーって、家のキー?」 「いいえ、キーの方じゃなくてロックの方。南京錠がなくなったの」 彼女は鼻先で右手の親指と人差し指を一センチくらいまで近づける。そのくら...
pale asymmetry | 2024.09.10 Tue 20:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、夏って溶けるものよね?」 君の言葉を思い出す。遠い夏の、何気ない朝の会話だったはずだ。詳細は忘れてしまったけれど、僕らは窓辺で朝食を食べていたのだと思う。そのときに君が、オレンジジュースを飲みながら唐突に言ったのだった。 「暑いから、とろけてしまうってこと?」 実際に、早朝から身体が溶けそうなくらいに暑い日だったのだ。 「そうじゃなくて、季節としての夏そのものが溶けてしまうってこと」 君は何故かもどかしげに唇を尖らせた。...
pale asymmetry | 2024.09.04 Wed 18:54
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