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JUGEMテーマ:ショート・ショート 日陰の奥にトカゲが蹲っていた。日差しが遮られていたため、正確な体色は解らない。私の掌サイズで、斑模様。半開きだった目が大きく見開かれて私を見上げた。 「オレが日陰にいると思っているのだろう?」 トカゲがそう私に訊くので、私は頷く。意外にキーの高い声だった。 「オレは日陰にいるわけではないんだ。オレは闇の内にいるんだよ」 トカゲはそう言って、微かに首を傾げた。 「陰にいるのではなく、闇にいる。この違いは解るかな?」 私は首...
pale asymmetry | 2025.08.14 Thu 18:17
JUGEMテーマ:ショート・ショート 窓辺のハンモックで彼女は風に吹かれている。午後の真ん中の南風は意外に乾いていて、その生温さに不快感はない。むしろ清涼な素性の風だとさえ思えてしまう。やわらかく目を閉じる彼女は時折微笑んだりしている。呼吸は深い眠りのそれだから、夢を見ているのかもしれない。僕も猛烈に眠かったけれど、その彼女の姿を見つめていたくて眠気を堪えていた。少しだけ彼女が顔を顰めた。何かを囁いたような気がしたけれど、言葉は聞き取れなかった。あるいはそれは僕の見知らぬ言語だっ...
pale asymmetry | 2025.08.10 Sun 18:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 陽がまだ低い内に、銀の眠りを貪った。私だけでは消化しきれないので、庭の花たちと分け合った。枯れた枝たちが櫓のように重なる隙間に銀の眠りを織り込んでみたりして、思いも寄らない紋様が現れないかと実験してみたけれど、その期待は裏切られることになる。それは銀の眠りのせいではない。花たちのせいでもない。私が凡庸なのが原因だ。私が凡庸すぎるせいなのだった。だから髪を切ってみた。回路をクルクルと噛み合わせて、凡庸を組み替えられるのではないかと考えたからだけ...
pale asymmetry | 2025.08.08 Fri 18:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 勾玉が転がっている夢を見ている夢を見た。夢の中で夢を見ていたのだけれど、夢の中ではそれを夢だと気づいていない。このときすでに夢の入れ子細工になっていたにもかかわらず、私はそれをシンプルな夢だと思っていた。そして私は夢から覚める。もちろん夢の中で。つまり夢から覚める夢を見たのだ。夢の中で夢から覚めた私は泣いていた。転がる勾玉がもたらした涙だ。けれどどうして転がる勾玉が涙する理由に繋がるのかが解らない。その理屈を私は識らない。識っていなければいけ...
pale asymmetry | 2025.08.02 Sat 18:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「織り込まれた弦は甘ったるい感じがするわ」 水色の大きなバケツに種を飛ばしながら彼女が言う。眼差しは灰色の空に向けられている。南風はじっとりと湿っていて、今にも雨を吐き出しそうだ。でも今はまだ風はそれを堪えている。もちろん僕らに気兼ねしているわけではないだろうけれど。気兼ねしているとしたら、それはもっと大きな存在に対してだろう。そいつが機嫌を損ねたら、この惑星の自転速度が加速してしまうくらいに大きな存在だろう。 「赤いから、そう思うんじゃ...
pale asymmetry | 2025.07.27 Sun 18:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 台風は熱帯低気圧へと勢力を弱めたはずなのに、強い風と大粒の雨が斜めに降り落ちていた。これは何者かの涙かもしれないし、あるいは怒りのようにも感じた。だからその何者かは哀しみと怒りの入り混じった感情を持て余しているのかもしれない。長い年月の間ずっと抱えていた感情が、今になって迸っているのかもしれない。そんな風に思えてしまったのは、時折鋭い雷鳴が響いているからだろうか。カーテンを僅かに開いて、彼女が庭を窺っている。稲光が瞬間的に庭を照らす黄昏時。庭...
pale asymmetry | 2025.07.26 Sat 18:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「少し寒いわ」 彼女が囁く。その声で目が覚めた。彼女が僕の背中を抱き締めていた。確かに彼女の躰はひんやりしている。何に熱を奪われているというのだろう。暗い部屋はエアコンが稼働しているのに少し暑く感じる。僕の躰は火照っているように思える。重い瞼を持ち上げ、デジタル数字を見つめる。蛍光グリーンに発光するそれは午前四時三十二分を表示していた。早朝と言っていいのだろうか、それともまだ夜と言うべきなのだろうか。部屋のこの暗さならば、未明と呼ぶのが良い...
pale asymmetry | 2025.07.21 Mon 18:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨が次々と通過していく。その度に空気が変化している。それは翻る獣のように、私たちを乱暴に撫でていく。きっと四肢で駆ける巨大な獣に違いない。長い角を持ち、けれど牙や爪は持たない獣だろう。だから一直線に襲いかかって角で貫くことしか生存戦略はない。無骨で優しい獣なのだろうと思えた。そういう獣が鬣をなびかせて、次々と駆け抜けていく。私たちは縁側にいたから、降り込む雨に半ば濡れている。それでも通過するたびに差し込む陽光のおかげで、躰が冷えることはなかっ...
pale asymmetry | 2025.07.20 Sun 18:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さな白いテーブルの上には、あの人が私のために用意してくれたブランチがある。四角いテーブルの真ん中に、楕円形の器が置かれていて、そこに盛り付けられている。テーブルは窓辺にあって、今日は強い日差しだから、その器はキラキラ光っている。それが器の中身をハレーションに包み込んでいて、私は戸惑ってしまう。私は漂い、そのテーブルに近づく。器の中身は色とりどりの花だった。あの人は、私がこんな様なものを好むのだと思っているのだろう。あるいは、そんな風に記憶し...
pale asymmetry | 2025.07.14 Mon 18:21
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大渋滞の国道から逸れて、僕らは堤防沿いの道でバイクを止めた。僕らの背丈と同じくらいの防波堤によじ登り、寝転がる。真上からの陽光は鋭く豪胆だったけれど、空の端から灰色の雲塊がゆっくりと迫っているのが見える。たぶんもうすぐ雨が降るのだ。それが解ったから、僕らはここに来たのだった。国道で雨に降られたくなかったのだ。渋滞の車の狭間を雨に濡れながら擦り抜けるのは格好悪いと思えたから。どうせなら思いっきりびしょ濡れになりたかったから、いつ来ても人影がまば...
pale asymmetry | 2025.07.05 Sat 18:09
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