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JUGEMテーマ:ショート・ショート 古い写真にハサミを入れる。細かく細かく切り刻む。色あせた風景。笑う君。かっこ悪くはにかむ僕。全てを破壊したいわけじゃない。それはもう存在しない。だから壊す必要もない。切り刻んだ欠片を集めてゴミ箱に降らす。そしてそのゴミ箱をひっくり返して床にばらまく。これはパズルだ。ハサミのパズル。古い君と古い僕。古い風景も全て暗号化された。そしてもう今はない。あるはずのない笑顔。かつてはあった色彩。弾む鼓動を抑え込んだはにかみ。そういう欠片たちが床に散らばる...
pale asymmetry | 2024.08.19 Mon 20:42
JUGEMテーマ:ショート・ショート モニターに浮かぶ見知らぬナンバーを無視する。コールは途絶え、でもすぐにまた同じナンバーが響く。それを何度か繰り返し、その間ずっとモニターを見つめ思案する。七度繰り返してからコールに応える。 「どうしてすぐに出ないの?」 不機嫌な君の声。十年ぶりくらいだけどすぐに君だと解った。 「知らない番号だったから」 僕が言うと、君の溜息がはっきりと聞こえた。 「十年ぶりなんだから、ナンバーだって変わるわ」 きっとラインの向こうで、君は眉...
pale asymmetry | 2024.08.15 Thu 20:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あなたから掠った猫は今日も元気です」 そんなEメールには黒猫の画像が添付されている。 「でももう15歳になったので、眠ってばかりいます」 画像の黒猫はしっかりとカメラのレンズを覗き込んでいる。けれど瞳は確かに眠そうだ。そのトパーズは昔に比べてくすんでいるようにも思える。 「起きているときも、何もない空間をじっと見つめていることが多く。私の呼びかけにもすぐには反応してくれません」 確か子猫のときにもそんな感じだったような気がする。...
pale asymmetry | 2024.08.08 Thu 18:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨が降ってきたので、私たちはキャンドルに火を灯した。オレンジのグラスのなかの炎は、頼りない黄金色に揺らいだ。午後の終わりがちかずく時刻だったから、私たちはそのキャンドルを窓辺に置き、エアコンを止めて窓を開け放った。風は東から吹いていることを知っていたので、西側の窓を開け放った。だから雨は部屋に吹き込んでは来なかった。私たちから斜めに遠ざかるように、雨粒の群は忙しなく落ちていた。 「僕らは賢いね」 窓辺のソファーに並んで腰を下ろすと、あな...
pale asymmetry | 2024.08.07 Wed 17:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 少年たちがのんびりとシュノーケリングする姿を、僕らは堤防の上に腰を下ろして眺めていた。風は無風だった。空気は狂おしい熱のせいで何処までも上昇していて、もう地上は真空に近いような気がしていた。でも重力は変わらずある。だから僕らの汗は堤防のコンクリート面に滴り落ちていた。陽光は斜めにあり、獣のような図太い哲学を僕らにぶつけるように照りつけていた。僕らは僕らの哲学でそれに対抗しなければいけないのだろうか。でもそんなものは持ち合わせていないから、僕ら...
pale asymmetry | 2024.07.30 Tue 19:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 氷バケツに足を浸し、凍らせたプリンにスプーンを差し込む。プリンの硬さは脆く、シャーベットとしては脆弱だ。でもその繊細さが完璧さに繋がっているような気がして、僕は凍らせたプリンが好物だった。狭いベランダにはしっかりと西日が差し込み、夏が増幅されている。誰かが発動機をフル稼働させて、熱気を大量に生み出しているようだ。その誰かはきっと夏が嫌いなのではないだろうか。だから皆で不快な夏を共有しようとしているのかもしれない。けれど僕らには通用しない。 ...
pale asymmetry | 2024.07.25 Thu 20:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「もしも今悪魔が現れて、あなたの理想の暮らしをあげる代わりに残りの時間をいただくと言ったらどうする?」 闇の中で彼女が囁く。僕らはベッドに横たわっていて、部屋の明かりはすでに消えている。 「どうするとは?」 「残りの時間がどのくらいなら合意できるかってこと」 「残りの寿命が十年とか、二十年とかってこと?」 僕がそう尋ねると彼女が薄く笑う。 「あなたは欲張りね。こういうのは普通一年から五年辺りが相場ではないかしら」 彼女の声は...
pale asymmetry | 2024.07.10 Wed 18:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 夕立のすぐあとに、甥っ子がやって来た。涼しい風に運ばれてきたような笑顔で。小さな箱を大事そうに胸に抱えている。細かな幾何学模様が描かれた紙の箱だ。何故だか解らないけれど、天使をモチーフにした模様なのだろうなと思った。僕は縁側に寝転がって庭を眺めていた。雨に濡れた庭はどこかほっとしているように見えた。今日も暑い一日だったから、うだっていたのかもしれない。でもそんななかでも歌を歌っていたはずだ。それが庭の勤めだから。我が家の秩序を安定させるための...
pale asymmetry | 2024.07.04 Thu 21:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小さなベランダで、僕らはバケツを挟んで向かい合っている。ブルーグリーンのバケツには半分くらいまで水が張られている。早朝の空気はもうかなり熱を孕んでいたけれど、南に面したベランダに幼い陽光は半分しか差していなかった。 「雨は降らないのね?」 バケツの傍らにしゃがみ込んでいる彼女が、つまらなそうな口調で尋ねる。 「雨は降りそうもないね。そういう予報だ」 僕もバケツの傍らにしゃがみ込んで、スマホを覗き見て答える。モニタにはこのエリアの一...
pale asymmetry | 2024.07.01 Mon 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「観月しましょうよ」 彼女がはしゃいだ声を上げ、小さな庭にテーブルと椅子を並べる。でもまだ黄昏時にもなっていない。もちろん月は現れていない。 「今夜の満月は、進むべき道を照らすのだそうよ」 彼女はテーブルにホワイトワインとグラスを並べ、簡素な椅子に腰を下ろす。僕も隣の椅子に腰を下ろして斜めを見上げる。まだ東の空は十分に青く、背後にも茜の要素はない。 「あら、ボタンヅルだわ」 一口ワインを飲んでから、彼女が庭のフェンスの天辺辺りを...
pale asymmetry | 2024.06.22 Sat 19:15
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