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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これは夢なの」 私は彼に言った。見知らぬ海辺を二人で歩いていた。見知らぬ場所なのに、水平線は南にあるのだと解った。そちらから風が吹いていたので、それは南風だと解った。 「夢だから、いくらでも掻き乱すことができる」 私がそう言うと、彼は小さく頷いて微笑む。 「それなら、掻き乱さずに掻き回すことだってできるね」 そう言って、風を掻き回すように軽やかに踊った。確かにそれは、掻き乱さずに掻き回しているように私には思えた。 「でも、ど...
pale asymmetry | 2025.09.25 Thu 18:18
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「それは変数を釘打つようなものなの」 彼女はそう囁いて、遠くを見つめる。黒雲が広がった空は、今にも泣き出しそうだ。けれど彼女が見つめているのはその雲ではない。きっとその雲の向こう側で滑空する、大きな鳥の姿なのだ。その鳥は虹の七色を纏っている。その七色は混ざり合ったり分離したりといった具合に蠢いている。紋様を描いているわけではない。ただ意味もなく蠢いている。それとも僕が無知だから、その色彩の蠢きに意味を見いだせないのか。いや、そんなものに意味...
pale asymmetry | 2025.09.13 Sat 18:23
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「私たちはいつだって、本当の意味で世界に触れてはいない」 陽光は強く、彼女の額には汗が滲んでいる。 「そもそも私たちの周りには、本当の意味で触れることのできる世界なんてない」 広い砂浜には人影はない。潮は満ちていて、ビーチは長い帯状に横たわっていた。その真ん中辺りに、僕らは並んで座っている。 「きっと枠の内にいるせいね」 彼女が傍らの砂を掬う。きっとその砂は熱いはずだ。指の隙間から零れ落ちる砂は、流れ落ちているようにも流れ昇って...
pale asymmetry | 2025.09.09 Tue 18:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート ひそひそと囁き合う少年たちは、どうやら黄昏をたくらんでいるらしい。黄昏にたくらんでいるわけではない。黄昏のためにたくらんでいるわけでもない。黄昏をたくらんでいるのだ。それは、大人たちが決して触れるこのできない黄昏。少年たちのそれは、時間軸が大きく違うのだろう。あるいは世界線すらも全く違うのかもしれない。だからひそひそと囁きながら、囁くふりをしながら、じつは彼らは大っぴらに振る舞っていたりする。自分たちがモラトリアムの最中に留まっていることを知...
pale asymmetry | 2025.09.04 Thu 18:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート ソファーを埋め尽くす花たちは色鮮やかだった。けれど香りはしない。それはその花たちが人工物だったからだ。けれどどう見ても作り物の偽の花には見えない。そろりと手を伸ばし、花弁に触れてみる。ひんやりと湿っていた。その感触も偽物には思えなかった。部屋は薄暗く、それが僕の感覚を狂わせているのだろうか。そう考えて部屋の明かりを灯す。花たちの鮮やかさが強化されたけれど、偽物感はさらに薄らいだ。 「どう?」 彼女が僕の反応を窺っている。 「すごいと思...
pale asymmetry | 2025.08.31 Sun 18:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 今でも時々思い出す。とくにきっかけになる何かがあるわけではなく、何の前触れもなく突然に脳裏に浮かんだりする。それはチェロを抱くあの人の姿。夏の朝、明け放れた窓からは少しはしゃいだ南風が流れ込んでいる。それがレースのカーテンを踊らせている。あるいは、風とカーテンはペアで踊っているのかもしれない。その傍らで、あの人は飾り気のない木製の椅子に腰掛け、開いた両脚の間にチェロを据え、ゆったりと弦を震わせている。私はベッドからその姿を眺めている。その弦の...
pale asymmetry | 2025.08.28 Thu 18:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女はしゃがみ込み、庭の花にレンズ寄せて、カメラのファインダーをじっと覗き込んでいる 「カメラは最初、とても緩やかな時間しか記録できなかったの」 ファインダーを覗き込んだまま彼女が言ったので、花に話しかけているのかと思った。 「だって画期的な発明だったダゲレオタイプだって、記録するのに2分ほどの時間がかかったのだから」 ファインダーから目を離し、彼女が僕に顔を向ける。ああ、僕に話しかけていたのかとそのとき気づいた。だってときどき彼...
pale asymmetry | 2025.08.19 Tue 18:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 日陰の奥にトカゲが蹲っていた。日差しが遮られていたため、正確な体色は解らない。私の掌サイズで、斑模様。半開きだった目が大きく見開かれて私を見上げた。 「オレが日陰にいると思っているのだろう?」 トカゲがそう私に訊くので、私は頷く。意外にキーの高い声だった。 「オレは日陰にいるわけではないんだ。オレは闇の内にいるんだよ」 トカゲはそう言って、微かに首を傾げた。 「陰にいるのではなく、闇にいる。この違いは解るかな?」 私は首...
pale asymmetry | 2025.08.14 Thu 18:17
JUGEMテーマ:ショート・ショート 窓辺のハンモックで彼女は風に吹かれている。午後の真ん中の南風は意外に乾いていて、その生温さに不快感はない。むしろ清涼な素性の風だとさえ思えてしまう。やわらかく目を閉じる彼女は時折微笑んだりしている。呼吸は深い眠りのそれだから、夢を見ているのかもしれない。僕も猛烈に眠かったけれど、その彼女の姿を見つめていたくて眠気を堪えていた。少しだけ彼女が顔を顰めた。何かを囁いたような気がしたけれど、言葉は聞き取れなかった。あるいはそれは僕の見知らぬ言語だっ...
pale asymmetry | 2025.08.10 Sun 18:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 陽がまだ低い内に、銀の眠りを貪った。私だけでは消化しきれないので、庭の花たちと分け合った。枯れた枝たちが櫓のように重なる隙間に銀の眠りを織り込んでみたりして、思いも寄らない紋様が現れないかと実験してみたけれど、その期待は裏切られることになる。それは銀の眠りのせいではない。花たちのせいでもない。私が凡庸なのが原因だ。私が凡庸すぎるせいなのだった。だから髪を切ってみた。回路をクルクルと噛み合わせて、凡庸を組み替えられるのではないかと考えたからだけ...
pale asymmetry | 2025.08.08 Fri 18:43
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