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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「植物は会話をするんだって」 大樹を見上げて甥っ子が呟く。僕を見つめてはいなかったし、独り言のような口調だったので応えて良いのか一瞬迷ったけれど、僕は声を発した。 「植物同士でってこと?」 甥っ子は僕に顔を向け頷く。やっぱり僕に話しかけていたようだ。 「人間のような言語を使っているのかな?」 甥っ子がまた大樹に顔を向けたので、僕も大樹を見上げた。立ち並ぶ大樹たちが僕たちの頭上で会話しているのだとしたら、どんなことを対話しているの...
pale asymmetry | 2024.01.07 Sun 20:19
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、私の中心となるパーツは何?」 海に面した公園で、僕らは新しい風に吹かれていた。その風はとても冷たかったけれど、とても澄んでいて、とても清廉だった。それに僕らはたっぷりと着込んでいたし、温かなワインをカップに満たしていたから、風の冷たさには十分に立ち向かえていた。 「君の? 僕のじゃなくて?」 「そう。私の中心となるパーツを教えて」 彼女はカップのワインを一口のみ、長い息を宙に放った。一瞬白く煌めいてから、その息は天に召された...
pale asymmetry | 2024.01.01 Mon 20:23
JUGEMテーマ:ショート・ショート 早めに仕事を切り上げて家に帰るとすでに彼女がリビングにいた。毛布を敷いたリビングの床に横たわり、ぼんやりとした表情でテレヴィジョンを眺めていた。モニターには海のティラノサウルスと呼ばれる古代の生物が悠悠と泳ぐ姿が映し出されていて、ワイプの中で年老いた研究者が解説をしていた。全て英語で字幕もなかったので、僕にはよく解らなかった。 「ただいま」 僕の声に彼女は無反応なまま、テレヴィジョンを見つめている。僕は部屋着に着替えて、彼女の隣に横たわ...
pale asymmetry | 2023.12.30 Sat 18:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 寒い外から戻ると、リビングはいつもより暖かく明るかった。外が暗く寒かったからそう感じたわけではない。実際に彼女は薄手のパジャマ姿でソファーに沈み込んでいたのだから。 「おかえり」 彼女がソファーからずり落ちながら笑う。少し頬が赤らんでいる。 「ただいま」 僕もスーツを脱ぎ、パジャマに着替えた。 「ホットワイン、飲む?」 なるほど、彼女は身体の内側からも暖まっていたのか。 「もちろん」 僕はソファーに倒れ込みながら頷く。...
pale asymmetry | 2023.12.24 Sun 19:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 長い坂道を小走りに下りながら、水平線に近づきつつある太陽に向かって君が叫ぶ。 「飛行することが許されるのは、墜落する覚悟がある者だけよ」 僕は君の背中を見つめながら、紙飛行機を飛ばす。北風に煽られて紙飛行機は上昇し、そこから急角度で落下。そして軽くジャンプした君の手が紙飛行機をキャッチする。 「あなたは許された者なのかしら?」 君の問い掛けに僕は答えることが出来ない。僕自身が、自分が覚悟を持った者なのかを把握していないから。僕...
pale asymmetry | 2023.12.19 Tue 18:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日はどんな日だった?」 家に戻るとあなたが私に訊く。ダイニングキッチンの大きなテーブルにはカフェオレとフレンチトーストが二人分並んでいる。両方とも温かそうだ。あなたは私がいつ戻ってくるのかが解る超能力を持っている。そして私がランチを食べていないことも知っている。 「今日は何もない日だったわ」 荷物を投げ捨て上着も脱ぎ捨て、ダイニングキッチンのテーブルに辿り着く。捨てられた荷物と上着は速やかにあなたが救出している。それは所定の場所に...
pale asymmetry | 2023.12.14 Thu 19:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これを採集するために来たんだよ」 早朝にやって来た甥っ子は、そう言って玄関の三和土でしゃがみこんだ。そして玄関先の傘立てに向かってカメラを構える。それはマクロレンズがセットされたデジタル一眼レフカメラ。僕が新しいカメラを買ったので、今まで使っていた古いカメラをあげたのだ。でも見覚えのない装備が追加されている。 「それはテレコンバーターだね」 僕が尋ねると、甥っ子はファインダーを覗き込んだまま頷く。そして何度かシャッターを切ってから答...
pale asymmetry | 2023.12.07 Thu 18:42
JUGEMテーマ:ショート・ショート 北風はひんやりとしていたけれど、陽光はとてもパワフルで、洗車をする僕はいつの間にか汗ばんでいた。 「旅行に行きたいな」 車の横に広げたリクライニングシートに半ば横たわったまま、彼女が呟く。その眼差しは胸元に抱えたタブレットに向けられていた。平日の午前中だったからか、コイン洗車場には僕らの他に客はいなかった。 「どこに行きたいの?」 洗車が終わり、拭き取りにかかる前に彼女に声をかける。タブレットを覗き込むとそこにはシルバーバックのマ...
pale asymmetry | 2023.11.28 Tue 18:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 海を見下ろすパーキングにバイクを滑り込ませた。喉が渇いていたし、空腹も抱えていた。それに眠気も。もう何時間も走り続けている。でも走りたい衝動に従って夜明けと共にエンジンに火を灯したのだから、満足していた。小さなパーキングの隅にバイクを止めてエンジンを冷ます。バイクにも私にも歪みが溜まっているような気がする。きっとそれは飽食の世界の歪みだ。私だってその世界の住人だから、貪り食いながら空腹を抱えている。いや逆か。常に空腹を抱えているから、見境なく...
pale asymmetry | 2023.11.23 Thu 21:50
JUGEMテーマ:ショート・ショート 庭に面した窓をノックする音で目が覚めた。日曜日の午後、窓際のソファーで午睡に沈んでいたのだった。ガラスの向こうには縁側、そこに黒いウサギが膝を立てて笑っていた。いや、ウサギみたいな格好をした誰かだった。よく見るとそれは甥っ子だった。ウサギの耳の装飾がついたイヤーウォーマーをつけている甥っ子だった。僕はクレセント錠を回して窓を開け放つ。 「まだ夜じゃないよ」 空はどんよりと曇っていて庭に日差しは注いでいなかったけれど、甥っ子は明るく笑って...
pale asymmetry | 2023.11.19 Sun 20:52
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