JUGEMテーマ:ショート・ショート リビングの丸いテーブルの真ん中に、アップルパイがのっかっていた。それはテーブルの正確な中心にあるように見えた。リビングの部屋中にアップルパイの良い匂いが漂っていた。テーブルの前では彼女がクッションに半身を沈ませている。そして彼女が僕を見上げて言った。 「3.14と3.16は、どちらが美しいと思う」 僕は彼女の隣に腰を下ろして、考えてみる。これは「ただいま」を言うより重要なことだろう。だから彼女も「おかえり」の前に尋ねたのだろう。 「うーん、ど...
pale asymmetry | 2024.03.14 Thu 20:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 青い光で目が覚めた。彼女がベッドに腰掛けていた。カーテンが開いていて、朝の日差しに斜めに差し込んでいる。その日差しと僕の間で彼女が青いグラスを翳している。青く彩色された光が僕の顔に落ちている。青いフィルターで僕を変換しようとしているようだった。 「何を飲んでるの?」 渇ききった喉に、僕の声が引っかかる。そんな僕を見つめて彼女が小さく笑う。 「おはよう。ミネラルウォーターよ」 彼女がグラスに口を付け、そのまま僕に口づけする。冷たい水...
pale asymmetry | 2024.03.11 Mon 18:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女はリビングでタブレットじっと見つめていた。とても真剣な表情で、世界の行く末を思案しているようだった。 「ただいま」 僕は鞄とジャケットを放り出し、彼女の隣に腰を下ろした。彼女はソファーに背中をあずけ、床に腰掛けていた。フローリングの床は冷たく、少し湿っているように感じた。外では細かな雨が降り続いていて、部屋の湿度も高かったのだ。 「おかえり」 タブレットを見つめたまま、彼女が応える。 「何を見てるの?」 尋ねると、彼女が...
pale asymmetry | 2024.03.07 Thu 18:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小袋を持って、僕は歩いていた。海沿いの道、午後の遅く。隣には甥っ子がいる。彼はリュックを背負っている。中には水筒が納まっていて、水筒には紅茶が満たされている。僕の小袋にはビスケット。僕らは近所の小さなビーチに向かって歩いている。傾く太陽を眺めながらティータイムを過ごそうとしていた。甥っ子の提案だ。今日みたいに少し雲の多い午後には、そういうことが必要なんだと彼は力説した。 「そういうのはね、世界の駒なんだよ」 甥っ子は何故か胸を張ってそう...
pale asymmetry | 2024.02.28 Wed 18:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「その塔は、砂漠の真ん中にあるんだ」 あなたは窓を開け、ひんやりとした風を受け入れる。 「とても広大な砂漠だ。だから塔から脱出することは困難を要する」 「じゃあ皆どうやって塔にやって来たの?」 私が問うとあなたは頷き、窓を閉めた。私に頷いたのか、風に頷いたのかよく解らなかった。そのまま、あなたは私の隣に腰を下ろす。私たちはリビングのソファーにもたれて、並んで床にお尻を付ける。ひんやりと固い床は、心地良かった。エアコンの暖房が強すぎる...
pale asymmetry | 2024.02.24 Sat 18:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート ソファーに寝そべり、彼女がスマホを覗き込んでいる。いつからそうしているのか、リビングはもう薄暗くなっているのに照明が灯っていない。 「ただいま」 鞄を下ろして、僕は部屋の明かりをつける。一瞬無数の煌めきが弾け、天国が翻って消える。 「おかえり」 彼女は寝そべったまま、スマホをじっと見つめている。よく見ると右耳に何かが突き刺さっていた。そろりと近づきスマホを覗くと、彼女の外耳が映し出されていた。カメラ機能のついた耳かき棒のようだ。 ...
pale asymmetry | 2024.02.17 Sat 18:52
JUGEMテーマ:ショート・ショート 冷えたノイズはあったけれど、そこに言語はない。いや、冷えたノイズよりも歌の方が強かったはず。とても情熱的な歌。けれどその歌も言語によって構築されてはいない。あるいは、それは私が見知らぬ言語なのだろうか。いいえ、きっと違うはず。それは言語よりももっと高度なインフォメーション。歌というフレームに無理矢理落とし込んでいるのは、私のエゴなのかも知れない。だから揺らいでしまうのだろうか。それともそれは生命の宿命なのだろうか。私は確かに揺らいでいる。歌が...
pale asymmetry | 2024.02.12 Mon 19:19
JUGEMテーマ:ショート・ショート ゴーストの様な雪が、世界の音を霞ませている朝に甥っ子がやって来た。 「この子も雪にやられてしまったみたい」 分厚い手袋で覆われた両手には、金属製のフクロウが抱えられている。そこにも薄らと雪が積もっている。 「大丈夫? 寒くない?」 甥っ子の頭の上にも、コートを纏った両肩にも雪が積もっていた。 「うん、大丈夫。雪は楽しいものだから」 甥っ子は笑い、身体を揺さぶって雪を払う。上手くいかなかった分は僕が手で払い落とした。そしてスト...
pale asymmetry | 2024.02.06 Tue 18:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 午後の空は全面アッシュグレーだった。午前中の青空はどこにも見当たらなかった。その空は何だか世界を狭くしているような感じがした。私たちの気持ちを窮屈にしているような気もした。 「くだらないな」 彼が呟いた。長い坂道を上りながら。風は南から吹いていて、坂道は急傾斜で、私たちは急ぎ足で、曖昧な時間はだらだらと停滞している。 「もうどうしようもない」 彼がまた呟く。微かに笑っていたけれど、たぶん怒っているのだろうと思った。そういう気配を感...
pale asymmetry | 2024.01.30 Tue 20:52
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「青いウサギが嘲笑うんだって」 そう囁きながら、君は私の背中を舐める。左の肩甲骨に沿うように。私の心臓を狙うように。 「どうして?」 私が問うと、君はその口元を私の右耳に寄せる。君の胸の膨らみが私の背中を刺激する。やわらかく、ひんやりとしていた。君は冷めているのだろうか。それとも私が冷ましているのだろうか。 「トリではないからよ。だから、誰も幸福にはならない」 君が私の耳朶を噛んだ。そのまま笑う。痛みは私を擽り、私を波打たせる。...
pale asymmetry | 2024.01.25 Thu 20:44
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