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掌編。超短編。など、名前は様々。
一瞬を切り取って、読んでくれる人に届けたい。
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ふわふわと落下したりする

JUGEMテーマ:ショート・ショート    休日の午睡から目覚めると、いつの間にか彼女が帰ってきていて、ダイニングキッチンの大きなテーブルをじっと眺めていた。リビングのソファーからそっと身を起こして、僕はその様子を窺う。西側の窓から斜めに陽光が差し込み、彼女と長方形のテーブルを光の内に閉じ込めていた。危ういバランスを保つことで完成されているアートのように思えて、僕は息を止めた。 「ただいま」  彼女が僕に気づいて手招きする。バランスは崩れてしまったけれど、僕は呼吸を再開する。 「...

pale asymmetry | 2025.01.18 Sat 20:29

仄暗い世界と不確かな言語

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「今日の世界は仄暗いわね」  カーテンを少しだけ開き、窓の外を見つめながら彼女が呟く。その声は暗くはなく、どちらかと言えば嬉々としているような口調にも思えた。けれどその横顔はとてもフラットで、冷静に風景を捉えて分析しているように見える。結局のところ、その言葉の意味は不確かで捉えようがなかった。 「強い寒気が南下しているらしいよ」  ソファーで文庫本を読んでいた僕は、顔を上げて彼女を見つめる。彼女は僕の声に軽く肩を竦め、窓辺からソファーに戻...

pale asymmetry | 2025.01.09 Thu 18:47

The story of loss and the second new moon

JUGEMテーマ:ショート・ショート    混み合うレストランで、隣の席の会話が聞こえてくる。それは喪失の物語のようだった。隣の席には二人の老婦人が向かい合って顔を寄せ、ひそひそと話していた。店内はノイズに溢れていたけれど、何故かその潜めた声が漏れ聞こえてきた。それは猫の死だった。突然猫が血を吐いて死んでしまった、という話だった。前日までは普通に暮らしていた猫が、ある朝突然動かなくなり、その日の夜には血を吐いて逝ってしまったのだという。老婦人たちはその会話の途中から涙を滴らせていた。そ...

pale asymmetry | 2025.01.03 Fri 18:10

黒猫とシネマトグラフ

JUGEMテーマ:ショート・ショート    森に囲まれた広いパーキングの真ん中で、黒猫は丸まっていた。通過する僕を真っ直ぐに見つめて、「冬は眠りの季節ではないよ」と囁いた。たぶんここ数日、眠ってばかりの日々を過ごしていたからだろう。そんな僕を責めているのかもしれない。それともただ単に過ちを正そうとしているのか。掛け間違えたボタンを元に戻そうとしているのだろうか。掛け間違えたままの方が、奇妙な世界を愉しめるのに。 「北風の冷たさが、覚醒を深めてくれるでしょう?」  黒猫はソプラノの声...

pale asymmetry | 2024.12.28 Sat 20:36

standard day chocolate

JUGEMテーマ:ショート・ショート    生まれたてのコイン。輝く色彩は名付けようがない。綺麗だけど、この世の色ではないみたい。だから今はその色の名を呼ぶことは出来ない。私の命が尽きたならば、その瞬間にその色彩の名を知ることが出来そうな気がする。でもそんな気がするだけ。それは約束された事象ではない。だから願いでさえない。ありふれた空想。形を伴わない。だから明日には忘れてしまうかもしれない。それは少し嫌だなと思った。だからそのコインをテーブルに並べる。アート作品のように鑑賞するため...

pale asymmetry | 2024.12.27 Fri 22:16

Eight million

JUGEMテーマ:ショート・ショート    昼食のあとにリビングのソファーでうつらうつらしていたら、勢いよく玄関の扉が開く音で覚まされた。玄関には鍵をかけていたはずだから、鍵を持っている誰かなのだろう。そう思って、横たわったまま起き上がらなかった。 「ただいま」  案の定甥っ子の声が響いて、すぐにその姿がリビングに流れ込んでくる。そのままの勢いで、甥っ子はソファーに飛び込んできた。両手に持っていた手提げカバンから、バラバラと細かな荷物が飛び散る。それにはお構いなしに、僕の躰の上でモ...

pale asymmetry | 2024.12.25 Wed 20:37

繕う船の境界面 outside

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「ねえ、境界面はどこにあるのかしら?」  館内の空調の響きと同じくらいの音量で、彼女が囁く。それでもその声は消え入ることなく響いた。館内に人影がまばらだったせいかもしれない。 「それとも、境界面なんてないのかしら?」  僕らは巨大な絵の前に立っていた。縦は僕の背丈よりも長く、横は僕ら二人が両腕を広げて並んだ幅より広いサイズだった。それが目線より高い位置に展示されていたので、僕らは自然とその絵を見上げる形になる。多彩刷りの版画で、複雑なコー...

pale asymmetry | 2024.12.22 Sun 20:01

繕う船の境界面 inside

JUGEMテーマ:ショート・ショート    巨大な翼を持つ船だった。だからもちろん天空を航行していた。一度飛び立てば二度と地上に戻ることはない。そういう宿命の船だった。いつ飛び立ったのかは解らない。その船がいつ地面にさよならを告げたのかも解らない。おそらく、すでにさよならという概念さえ、船は忘れているだろう。それは46億年より前だったかもしれない。それなら、その船は宇宙から飛来したことになる。別の恒星系から来たのならば、そもそもその場所にはさよならという概念は存在しなかったかも知れない。...

pale asymmetry | 2024.12.21 Sat 20:46

A very small institution

JUGEMテーマ:ショート・ショート    海沿いのパーキングに車を止めて、僕らはコーヒーを飲んでいた。パーキングの隣に広い芝生があり、いくつかのベンチが設置されていたので、そこは僕らのお気に入りの場所だった。海自体はそこから階段を下りた場所にあって、だから波打ち際は見えなかったけれど、キラキラと広がる水面は遠くまで見下ろすことが出来た。今日は陽光がパワフルだったので、水面は騒々しく煌めいている。歌ってるようにも思えた。風がゆるく、凪の水面が歌っているのだから、それは歓喜の歌だと思えた...

pale asymmetry | 2024.12.17 Tue 20:05

Artificial ID photo

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「証明写真って、何を証明しているのかしら?」  テーブルを埋め尽くす書類に目を向けながら、彼女が呟く。開いた窓から流れ込む風は極ゆるかったけれど、とても冷たかった。斜めに差し込む西日とのバランスでは完全に風の方が勝っていたので、僕らはたっぷりと重ね着をしていた。それでも窓を閉めなかったのは、それが今年最初の冬の風で、とても澄んだ風だったからだ。 「うーん、とくに何も証明していないと思う」  ソファーに寝転び文庫本を読んでいた僕は、少しだけ...

pale asymmetry | 2024.11.29 Fri 20:29

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