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JUGEMテーマ:ショート・ショート 庭の花たちが草に隠れだしたので、彼女が調え始めた。まあ、いわゆる雑草というやつを引っこ抜いているのだけれど、彼女はそれを調えると言うのだ。 「これは調律と同じなの」 素手のまま地面にしゃがみ込んで、彼女は草を抜く。時々剪定ばさみを使ったり、小さなシャベルで土を掘り起こしたり。つまりよく見ると、その調律には三つの段階があるみたい。シンプルに草を掴んで引っこ抜く。引っこ抜かずに剪定ばさみを使って根元や途中で切断する。根元をシャベルで掘り起こ...
pale asymmetry | 2026.05.26 Tue 18:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「だから時間と空間の序列を、あなたは正確に把握していなければいけないの」 私の左手の小指を刺したあと、ミツバチはそう言って笑う。その痛みは鋭く深かったけれど、とても局所的で広がりのない痛みで、その代わりに確実に私の芯まで届く痛みだった。 「でも、時間と空間を細部まで把握するためには、膨大な記述が必要でしょう?」 私の小指から、紅玉のような鮮血が膨らんでいる。痛みはその表面から波となって放たれ、世界の果てまで浮遊していく。踊るようなステ...
pale asymmetry | 2026.05.20 Wed 20:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 明るい空から霧雨が舞い落ちている。風はほぼ無風だったから、その霧雨は私たちに対して素っ気なかった。それで私たちも雨に素っ気ない態度をとるためだけに、縁側で紅茶を飲むことにした。少し肌寒かったので紅茶を温めすぎてしまったから、あなたは何度も息を吹きかけて、世界の暗号を解くように少しずつカップに口を付けている。終いには縁側から腕を伸ばして突き出し、カップに霧雨を招いたりしだす。霧雨は甘いのか、それとも酸っぱいのか、私も興味を引かれてあなたと同じよ...
pale asymmetry | 2026.05.10 Sun 20:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「さあ、新しい旅を始めましょう」 君がどこか映画のセリフのようにそう言ったので、僕は思わず笑ってしまった。 「旅と言うほどのものだろうか?」 僕がそう問うと君は明後日の方向に眼差しを向け、そしてそこから手繰り寄せた思考に従って頷く。 「だって、長い物語になるでしょう。今までよりずっと」 その言葉に僕は頷く。その点については、君は全く正しい。 「確かに、長い物語かもしれないけれど、旅と呼ぶほど転がり回ることはないよ」 そう僕...
pale asymmetry | 2026.05.05 Tue 18:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート パーキングに車を止めて、窓を全開にする。君の窓から風が強く流れ込み、君の長い髪を踊らせる。それは南風の向こうから、風が運んできたコードなのだろう。君は擽ったそうに笑いながら、とても重要なことを打ち明けるように言う。 「雨の匂いがする」 僕にはよく解らない。僕はそういうことに鈍感なのだ。でも君がそう言うのならば間違いないだろう。南風が遠い場所から運んできたコードには、雨に記述が含まれているはずだ。けれどそれだけではない。それ以外の複雑な導...
pale asymmetry | 2026.05.03 Sun 16:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「裏側の色が見えてしまうことってある?」 彼女が唐突にいう。霧雨が降る海辺の公園。ベンチの上には大樹の枝葉が茂っていて、傘を開く必要はない。 「裏側の色?」 少し肌寒い。風が北西から流れてくるせいだろう。けれどそれは非常にゆるやかで、疎外感を感じるほどではない。つまり僕らはちゃんと世界に組み込まれていると感じることが出来た。 「そう。見える色とは全然違う色が、裏側に潜んでいる。それが垣間見える瞬間がある」 「対象は?」 そう僕...
pale asymmetry | 2026.04.25 Sat 18:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「雨は降りそうにないけれど、夏の準備をしないとね」 海辺のパーキングに車を駐めて、あなたは歌うようにそう言った。そこはとても小さなパーキングで、長い直線の真ん中辺りにあって、だから海沿いを走る車たちはたぶん見逃してしまうのだろう。私たち以外の車はなく、人影もなかった。 「でもまだ風は冷ややかだね」 全部の窓を開けて、流れ込む風に軽く手を翳し、あなたは少しがっかりしたように言う。私は扉を開け、車を降りた。パーキングは波打ち際より随分と高...
pale asymmetry | 2026.04.20 Mon 17:39
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「そのランプは、もちろんスタンダードなランプではない」 あなたはそう言って、テーブルの小さなランプを点灯した。 「もちろん、このランプのことでもないよ」 あなたは少しはしゃいだ声で言い、私は頷く。今あなたが点灯した八角柱の充電式ランプは、あなたがECサイトで買ったスタンダードなランプだった。 「そのランプは止水のランプと呼ばれている」 「水に関係が深いの?」 私が訊くと、あなたは首を振る。 「そのランプが直接的に水と繋がってい...
pale asymmetry | 2026.04.18 Sat 20:06
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「何処に向かっていいるの?」 幼いカラスが私に問う。小首を傾げ、濡れ羽色の輝きを放ちながら。 「それとも、何処にも向かっていないの?」 私はすぐには答えられない。カラスが問うている『何処』とは、今私が向かっている目的地のことだろうか。いや、そうではないだろう。幼いカラスが問うているのは、私が最終的に辿り着きたい場所に違いないのだ。それならば、私は慎重に答えなければいけない。思いつきで答えたら、カラスの信用を失ってしまうだろう。カラスは...
pale asymmetry | 2026.04.17 Fri 18:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「なら、そのまま進めば良い」 灰色の龍が私に言う。野太い低い声で。けれどその龍は身籠もっている。身籠もっているから雌だとは限らない。私は龍についてそれほど詳しくはない。でも何処かで龍は雄が身籠もるのだと聞いたことがある。確かその理由も聞いたはずだけれど、そちらの方は忘れてしまった。 「風は強まる一方だ」 灰色の龍は風上に顔を向ける。私もそれに倣う。東からの風は激しくのたうっていて、世界は何処までもフラットなのだと教えられているようだ。...
pale asymmetry | 2026.04.03 Fri 17:32
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