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JUGEMテーマ:ショート・ショート トカゲに導かれて世界の果てに到達してしまった。なんて言えば、君は笑うだろうか。それともいかにも僕らしいと納得してくれるだろうか。そのトカゲには大きな翼が生えていて、一見ドラゴンにも見えるけれど、魔法には一切関与していないから、やっぱりトカゲなんだ。不敵に笑うこともないし、人語を操ることもないしね。そろそろ君は、これが何かのメタファーなのだろうと考え始めているだろう。でもその考えは一旦中断して欲しい。これはメタファーであり、同時にメタファーでは...
pale asymmetry | 2024.10.09 Wed 21:14
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今なんてないんじゃないかな。僕らが今と感じているのは、ほんの僅かだけど過去のことだから」 僕がそう言うと、君は少し首を傾げて穏やかに笑った。 「この瞬間は、本当はこの瞬間ではなくてあの瞬間だということね」 君は何故か得意げな顔でそう言うと、コーヒーカップに口を付けた。何日か続いた雨混じりの日が途切れ、今日は気持ちよく晴れ渡ったので、僕らは夕暮れ時にベランダでコーヒーを飲んでいた。アルコールを飲んでも良かったのだけれど、風がとても澄ん...
pale asymmetry | 2024.10.01 Tue 20:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 寝坊してしまったので、仕事を休むことにする。ベッドの中でそれを決めて、また眠る。次に目覚めてときはお昼だった。お腹が空いて目が覚める。こういう目覚めは良いなと思う。獣のようで良いなと思う。ベッドを出てキッチンに向かう。獣のように狩りは出来ないから、冷蔵庫に頼るしかない。 「おはよう」 キッチンに行くと、リビングから甥っ子の声がした。リビングのソファーでタブレットを覗き込んでいる。僕のタブレットだったけれど、彼はピンコードを知っているから...
pale asymmetry | 2024.09.28 Sat 18:53
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「閉ざされた箱が一つあるの。世界にはそれだけしかないの」 薄暗い部屋で彼女が囁く。部屋の隅で小さなキャンドルが橙色に揺らめいている。部屋の光源はそれだけで、だからその橙色は部屋の薄暗さを強調しているだけだった。 「宇宙もないの?」 声を潜めて、僕は尋ねる。僕らはリビングのソファーに身を寄せ合って腰掛けている。彼女の熱を確かに感じる。けれどその身体の輪郭は曖昧な感じがした。僕らはここにいる。でも、ここではない何処かにもいるような気がした...
pale asymmetry | 2024.09.26 Thu 21:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 君は湿った地面を見つめて、「空は空ね」と叫ぶように囁く。 僕は君を見つめて、「ソラハクウネ」という君の声を聴きとる。 君は傘を閉じて、雨の心根を受け入れる。僕にはそれが出来ないから、雨と仲良くなれそうにない。 君は首を傾げて「どうして?」と問うけれど、僕には上手く答えられない。だから曖昧に笑って「どうしても」と誤魔化す。 立体駐車場の最上階には屋根がない。だから君はすぐに濡れ鼠。僕は狡賢いイタチだから、傘を手放すわけにはいかな...
pale asymmetry | 2024.09.20 Fri 21:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 玄関の扉を開けると、彼女がしゃがみ込んでいた。 「どうしたの?」 問い掛ける僕を、彼女は深刻な表情で見上げる。 「鍵がないの」 彼女が立ち上がる。僕は扉を閉める。玄関の小さな空間で、僕らは向かい合う。思わず抱き締めてキスしてしまいそうになったけれど、僕は我慢する。 「キーって、家のキー?」 「いいえ、キーの方じゃなくてロックの方。南京錠がなくなったの」 彼女は鼻先で右手の親指と人差し指を一センチくらいまで近づける。そのくら...
pale asymmetry | 2024.09.10 Tue 20:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、夏って溶けるものよね?」 君の言葉を思い出す。遠い夏の、何気ない朝の会話だったはずだ。詳細は忘れてしまったけれど、僕らは窓辺で朝食を食べていたのだと思う。そのときに君が、オレンジジュースを飲みながら唐突に言ったのだった。 「暑いから、とろけてしまうってこと?」 実際に、早朝から身体が溶けそうなくらいに暑い日だったのだ。 「そうじゃなくて、季節としての夏そのものが溶けてしまうってこと」 君は何故かもどかしげに唇を尖らせた。...
pale asymmetry | 2024.09.04 Wed 18:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート センターの広大なフロアには、数え切れないほどの扉が並んでいた。いやそれは嘘だ。扉の数は有限で、だからその気になれば数えることも可能だろう。ただ膨大な数なので、それを数えている時間がない。だから私だけではなく誰もその扉の数を把握したいとは思わないし、実際に数えることもしないだろう。この扉を構築した誰かには、そのような意図があったと思われた。つまり無限の構築。偽の無限だけれど。 「どの扉を開いても楽園に繋がっていますよ」 フロアに声が響く。...
pale asymmetry | 2024.08.30 Fri 17:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート ギリギリのところまで進んで、僕らはバイクを止めた。潮はかなり引いていて波打ち際まではずいぶんな距離があったけれど、これ以上進めば砂にバイクが沈んでしまいそうだったから。一時間ほど前にスコールに降られた僕らの身体は、まだ端々が湿っている。でも砂浜は完全に乾いていたから、スコールはここを通過しなかったのかもしれないと思った。ただそれは判然としない。僕らのバイクもすっかり乾いていたから。湿っていたのは僕と友達だけだ。世界中で僕らだけかもしれない。そ...
pale asymmetry | 2024.08.25 Sun 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 隣の少女はその箱に黒いビーズを敷き詰めた。そしてその真ん中に小さな舟の模型を置く。海に浮かんでいるように配置することも出来たのに、少女は陸に打ち上げられた舟のようにビーズの上に横たわらせた。 「この舟はね、方舟なの」 私が尋ねる前に、少女が教えてくれた。 「まだ洪水が起きる前の方舟。だからあなたはまだ溺死していない」 そう言うと、少女は舟の周りに造花を並べた。舟と同じくらいの大きさの、茎のない花を。赤と橙と黄色と緑と青と藍色の花。...
pale asymmetry | 2024.08.22 Thu 19:54
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