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JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女が庭のアセロラを収穫する。背丈を低く抑えるように剪定したのが良かったのか、結構な実がなった。一つ一つ摘み取って、小瓶に集める彼女の表情は慈愛に満ちている。このアセロラでジャムを作るのだという。それにしては収穫が少なすぎるような気もするけれど、まあ彼女にも何か考えがあるのだろう。 「急がないとね。掠われてしまうから」 独り言のように彼女が呟く。 「何に? 何者に掠われてしまうの?」 僕が尋ねると、彼女は首を傾げる。 「さあ、何...
pale asymmetry | 2025.10.01 Wed 18:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「でもそれはあなたの問題でしょう?」 君はやわらかな口調でそう言って、軽やかに砂を蹴る。跳ねた砂が僕の踝にかかって少し熱かった。 「そして当然私の問題ではないわ」 君は笑う。楽しいはずがないのに、とても楽しそうに笑う。つられて僕も笑ってしまう。すると君はまた砂を蹴り上げる。今度は明確に僕を狙って。 「どう仕様もない問題だというのなら、それに専念しても良いのよ」 君は走る、波打ち際まで。スニーカーを水没させて、それでも走る。 「...
pale asymmetry | 2025.09.29 Mon 17:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「火喰い蜻蛉に諭される夢を見たよ」 目を覚ました彼がそう囁いた。曇りがちな午後、リビングのソファーに私たちは落ち着いていた。私はそのソファーに腰掛け、文庫本を開いていた。彼は傍らに横たわり、さっきまで寝息を立てていた。ソファーはそんなに大きくはなかったから、彼の脚は盛大にソファーからはみ出していた。私の読んでいる物語のなかで三人目の死者か出たときに、彼の少し掠れた声が私を物語から呼び戻したのだった。 「僕が生きていることには何の意味もない...
pale asymmetry | 2025.09.26 Fri 19:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これは夢なの」 私は彼に言った。見知らぬ海辺を二人で歩いていた。見知らぬ場所なのに、水平線は南にあるのだと解った。そちらから風が吹いていたので、それは南風だと解った。 「夢だから、いくらでも掻き乱すことができる」 私がそう言うと、彼は小さく頷いて微笑む。 「それなら、掻き乱さずに掻き回すことだってできるね」 そう言って、風を掻き回すように軽やかに踊った。確かにそれは、掻き乱さずに掻き回しているように私には思えた。 「でも、ど...
pale asymmetry | 2025.09.25 Thu 18:18
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「それは変数を釘打つようなものなの」 彼女はそう囁いて、遠くを見つめる。黒雲が広がった空は、今にも泣き出しそうだ。けれど彼女が見つめているのはその雲ではない。きっとその雲の向こう側で滑空する、大きな鳥の姿なのだ。その鳥は虹の七色を纏っている。その七色は混ざり合ったり分離したりといった具合に蠢いている。紋様を描いているわけではない。ただ意味もなく蠢いている。それとも僕が無知だから、その色彩の蠢きに意味を見いだせないのか。いや、そんなものに意味...
pale asymmetry | 2025.09.13 Sat 18:23
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「私たちはいつだって、本当の意味で世界に触れてはいない」 陽光は強く、彼女の額には汗が滲んでいる。 「そもそも私たちの周りには、本当の意味で触れることのできる世界なんてない」 広い砂浜には人影はない。潮は満ちていて、ビーチは長い帯状に横たわっていた。その真ん中辺りに、僕らは並んで座っている。 「きっと枠の内にいるせいね」 彼女が傍らの砂を掬う。きっとその砂は熱いはずだ。指の隙間から零れ落ちる砂は、流れ落ちているようにも流れ昇って...
pale asymmetry | 2025.09.09 Tue 18:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート ひそひそと囁き合う少年たちは、どうやら黄昏をたくらんでいるらしい。黄昏にたくらんでいるわけではない。黄昏のためにたくらんでいるわけでもない。黄昏をたくらんでいるのだ。それは、大人たちが決して触れるこのできない黄昏。少年たちのそれは、時間軸が大きく違うのだろう。あるいは世界線すらも全く違うのかもしれない。だからひそひそと囁きながら、囁くふりをしながら、じつは彼らは大っぴらに振る舞っていたりする。自分たちがモラトリアムの最中に留まっていることを知...
pale asymmetry | 2025.09.04 Thu 18:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート ソファーを埋め尽くす花たちは色鮮やかだった。けれど香りはしない。それはその花たちが人工物だったからだ。けれどどう見ても作り物の偽の花には見えない。そろりと手を伸ばし、花弁に触れてみる。ひんやりと湿っていた。その感触も偽物には思えなかった。部屋は薄暗く、それが僕の感覚を狂わせているのだろうか。そう考えて部屋の明かりを灯す。花たちの鮮やかさが強化されたけれど、偽物感はさらに薄らいだ。 「どう?」 彼女が僕の反応を窺っている。 「すごいと思...
pale asymmetry | 2025.08.31 Sun 18:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 今でも時々思い出す。とくにきっかけになる何かがあるわけではなく、何の前触れもなく突然に脳裏に浮かんだりする。それはチェロを抱くあの人の姿。夏の朝、明け放れた窓からは少しはしゃいだ南風が流れ込んでいる。それがレースのカーテンを踊らせている。あるいは、風とカーテンはペアで踊っているのかもしれない。その傍らで、あの人は飾り気のない木製の椅子に腰掛け、開いた両脚の間にチェロを据え、ゆったりと弦を震わせている。私はベッドからその姿を眺めている。その弦の...
pale asymmetry | 2025.08.28 Thu 18:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女はしゃがみ込み、庭の花にレンズ寄せて、カメラのファインダーをじっと覗き込んでいる 「カメラは最初、とても緩やかな時間しか記録できなかったの」 ファインダーを覗き込んだまま彼女が言ったので、花に話しかけているのかと思った。 「だって画期的な発明だったダゲレオタイプだって、記録するのに2分ほどの時間がかかったのだから」 ファインダーから目を離し、彼女が僕に顔を向ける。ああ、僕に話しかけていたのかとそのとき気づいた。だってときどき彼...
pale asymmetry | 2025.08.19 Tue 18:01
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