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JUGEMテーマ:ショート・ショート 温いペパーミントティーを飲みながら、僕らは縁側で怠惰な時間を愉しんでいた。ほぼ中天に太陽はあって、そこから陽光が豪雨のように降り注いでいる。もっともその粒子を感じたりは出来なかったけれど。それでも縁側から眺める庭は、其処彼処で陽光が跳ね回っているように感じた。その刺激で庭は歓んでいるようにも、うんざりしているようにも見えた。僕らの方ももちろん同じ陽光を浴びていて、それは皮膚の上を跳ね回っていたから、愉しかったし、うんざりもしていた。 「六角...
pale asymmetry | 2026.06.20 Sat 18:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「でもあなたには千年先の生はない。と白いキツネはハンターに言いました。その口調はやわらかでしたが、その声は凜と澄み渡っていました」 彼女のそんな声を聞きながら、僕は窓を開ける。南に面した窓で、開いた空間から風が流れ込んでくる。それは乾いた熱い風で、たぶん夏至南風だろうと思った。でも公式にはまだ雨期を引き摺っている。きっと敏感な人は皆違和感を抱いているだろうなと思った。 「千年というような長い流れを把握することも出来ないあなたに、世界の深層...
pale asymmetry | 2026.06.19 Fri 18:21
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨は強く激しく降っていて、空は暗い。黄昏時はまだ間があるのに、世界は昏く、空気は粗い粒子に退化してひたすらに沈んでいく。昏い世界は僕らに溺死する隙さえ与えてくれない。僕らは抱き合って昇天することも出来たはずなのに、暗い部屋で昏い雨の音に耳を傾けながら、互いに文庫本に視線を落としていた。 「寒い? それとも暑い?」 ページを見つめたまま彼女が言う。だから最初朗読を始めたのかと思った。けれどすぐにそれが僕への質問だと気づく。彼女の声が、全く...
pale asymmetry | 2026.06.15 Mon 17:35
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「雨滴のズレを感じる」 「雨滴のズレ?」 「そう。それに少しだけ苛立ちを感じたりしてる」 「そうなんだ。どのくらいのズレなの?」 「時間でいえば十八時間くらいかな」 「けっこうなズレだね」 「そうね。でも良く考えたらズレに苛立ちを感じているのではなくて、ズレに苛立ちを感じてしまう私自身のことを苛立っているのかも」 「でも苛立ちは少しだけなんだよね?」 「そうね、そんなに強くはない。けれどそれはそういう感覚をある程度抑えているから...
pale asymmetry | 2026.06.09 Tue 11:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート あなたは平たい石を手に取り、美しいフォームでそれを湖面に投げた。飛んでいく小石は水面に求愛するように触れて跳ね、触れて跳ねを繰り返し、やがて水中に沈んだ。私はたった今の、一連の出来事の流れを頭の中で反復してみる。まずあなたが水面を駆ける白鳥のように石を投げた。大きな翼をいっぱいに拡げて、そこに自ら駆けることで粒子を孕ませている白鳥のように。私はそれを美しいと思った。あなたが白鳥に近づくことが美しいと思えたのだ。あるいは、あなたの美しさが白鳥の...
pale asymmetry | 2026.06.05 Fri 19:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「たぶん、いえきっと大切なものを次々と失っているのだと思う」 彼女はそう言いながら、長い前髪を掻き上げる。けれどまだ強い南風が、すぐに彼女の長い髪を激しく踊らせるから、その前髪だってくしゃくしゃにしてしまう。それは宙に刻まれた銅版画のようにも思えて、僕は自然と魅せられてしまう。いやだめだ。彼女の話に耳を傾けなければ。 「正確には、大切なものになるはずだった事象。それを拾い上げる前に風が掠っていくの」 彼女は膝を折り、アスファルトを転が...
pale asymmetry | 2026.06.02 Tue 18:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート 兄に呼び出されて集合した場所は古民家だった。といってもとても大きな屋敷で、たぶんかなりの資産家の屋敷だったのではないだろうか。だったのでは、と過去形にしたのは、私がそこに着いたときにはまさに屋敷の取り壊しが始まったところだったからだ。 「あれを頂いたんだ」 兄がそう言って指差したのは、黒光りする太い柱だった。いわゆる大黒柱と言われるものだろうと思った。 「持って帰るのを手伝って欲しい」 兄の言葉になるほどそういうことかと納得し...
pale asymmetry | 2026.05.31 Sun 18:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 庭の花たちが草に隠れだしたので、彼女が調え始めた。まあ、いわゆる雑草というやつを引っこ抜いているのだけれど、彼女はそれを調えると言うのだ。 「これは調律と同じなの」 素手のまま地面にしゃがみ込んで、彼女は草を抜く。時々剪定ばさみを使ったり、小さなシャベルで土を掘り起こしたり。つまりよく見ると、その調律には三つの段階があるみたい。シンプルに草を掴んで引っこ抜く。引っこ抜かずに剪定ばさみを使って根元や途中で切断する。根元をシャベルで掘り起こ...
pale asymmetry | 2026.05.26 Tue 18:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「だから時間と空間の序列を、あなたは正確に把握していなければいけないの」 私の左手の小指を刺したあと、ミツバチはそう言って笑う。その痛みは鋭く深かったけれど、とても局所的で広がりのない痛みで、その代わりに確実に私の芯まで届く痛みだった。 「でも、時間と空間を細部まで把握するためには、膨大な記述が必要でしょう?」 私の小指から、紅玉のような鮮血が膨らんでいる。痛みはその表面から波となって放たれ、世界の果てまで浮遊していく。踊るようなステ...
pale asymmetry | 2026.05.20 Wed 20:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 明るい空から霧雨が舞い落ちている。風はほぼ無風だったから、その霧雨は私たちに対して素っ気なかった。それで私たちも雨に素っ気ない態度をとるためだけに、縁側で紅茶を飲むことにした。少し肌寒かったので紅茶を温めすぎてしまったから、あなたは何度も息を吹きかけて、世界の暗号を解くように少しずつカップに口を付けている。終いには縁側から腕を伸ばして突き出し、カップに霧雨を招いたりしだす。霧雨は甘いのか、それとも酸っぱいのか、私も興味を引かれてあなたと同じよ...
pale asymmetry | 2026.05.10 Sun 20:26
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