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JUGEMテーマ:ショート・ショート 風が吹いている。風に吹かれている。雨が降っている。雨に降られている。寒さが地面に蹲っている。寒さで地面に蹲っている。 「そういうことだよ」 静かに笑いながら、メンターが言う。空を見やると朧の月。その淑やかな月光が、雨の雫を煌めかせている。煌めいている。煌めかせている。そういうことだろうか。何か違う気がする。差異を感じてしまうのだ。そのささいな差異は、世界の細部を掻き乱す事象のように思われる。私はその想いをメンターに伝える。 「そう思う...
pale asymmetry | 2026.01.09 Fri 18:11
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あそこ」 彼女が低い空を指差す。そこには強い北風に煽られ何度も翻るカラスがいた。曇りがちな弱い陽光でも、その濡れ羽色の翼は独特の光沢を放っている。一瞬カラスと目が合ったような気がしたけれど、それはもちろん気のせいだろう。あいつが僕に目を向ける理由はない。あいつに比べたら、僕は実に頼りない生命体だ。 「戯れていると思う?」 彼女がじっとカラスを見つめたまま訊く。 「北風と?」 「もちろん北風と」 僕は頷くしかない。その優雅な翻...
pale asymmetry | 2026.01.07 Wed 17:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「点が二つでは、面を描くことは出来ないでしょう?」 彼女はモニタを見つめながら独り言のように言う。でももちろん僕に向かって言っているのだ。ソファーに寝そべって文庫本を読んでいた僕は顔を上げてモニタに目を向ける。 「面を描くためには三つ以上の点が必要なの」 モニタの中では、三角形が机の上を転がっている。行きつ戻りつしながら、風の煌めきを吸収しているようだった。それは最近彼女が熱中しているビデオゲームだった。どういうルールなのか、どういう...
pale asymmetry | 2026.01.01 Thu 20:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 最初に上映された映画は『工場の出口』というタイトルで、それは1895年の12月28日のことだったそうよ。 かつて愛した人から送られてきた手紙には、そう記されていた。そういう知識の豊富な人だっただろうか。そうだったような気もするし、そんなことはなかったような気もする。それはあまりにも昔の記憶で、正確に呼び出すことが難しいのだ。仮にこれは確かなことだと思えたとしても、きっと偽りの記憶に傾いているに違いないのだろう。記憶とはそういうものだから。だから彼...
pale asymmetry | 2025.12.28 Sun 14:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「何処から来て何処へ向かっているかなんて、考える必要あるかしら?」 君はそう言いながら笑う。なんとなく空虚な笑顔に見えた。 「そんなことを考えているうちに、どんどん進んでしまうでしょう?」 オープンテラス席はゆるやかな風の通り道になっている。その風はゆるやかだったけれど、とても冷えていて、僕たちは、少なくとも僕は際限なく冴えていく感じがした。 「それに、雨は降らないわ。降りそうに見えても降らない」 君はそう言いながら空に顔を向け...
pale asymmetry | 2025.12.22 Mon 17:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「待っているのです」 その人は曇った空を見上げてそう言った。午後の遅く、風が吹き始めたときだった。天気予報では、もっと早くから、それは朝から吹き始めるのだと思われていたのに、午後の遅くになってようやくに吹き始めた風だった。 「今は待つしかないのです」 その人は砂浜に腰を下ろしている。きっと昼過ぎまで降り続いていた雨のせいで、砂はたっぷりと濡れていたはずなのに、そんなことは意にも介さず、その人は寛ぐように腰を下ろしている。 「そういう...
pale asymmetry | 2025.12.21 Sun 18:21
JUGEMテーマ:ショート・ショート 果ての二十日に雨が降る。僕らは海沿いの道を散歩する。彼女はお気に入りの傘を差している。万華鏡のような紋様を纏った傘。僕はコンビニエンスストアで買った透明なビニール傘。雨が強くなったら、僕は沈んでしまうかもしれないな。そう思えた。彼女はきっとその傘が方舟になって、洪水が過ぎ去るまでたゆたい続けるだろう。次の世界に僕はいないかもしれない。次の世界では彼女が創造主になるのかもしれない。そんな妄想を弄びながら、彼女と並んで歩く。週末の雨と終末の雨の両...
pale asymmetry | 2025.12.20 Sat 16:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「グロテスクなのは嫌いでしょう?」 彼女はそう言って、抉り取った左の眼球をコップに落とす。ガラスのコップには水が張られていて、その液中に眼球が静かに沈む。そこでやわらかく跳ねると次の瞬間それは蕾に変わり、水面まで浮かび上がって花開いた。淡い紫色の蓮の花だった。 「何処にだって花を咲かすことは出来る」 彼女はシンクからコップを取り上げ、キッチンの床に向かってそれを傾けた。流れ落ちる液体は宙で無数の蝶になり、蓮の花は紫色の猫に変わる。蝶は...
pale asymmetry | 2025.12.14 Sun 17:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『高次厳重注意』 彼女から贈られてきたダンボール箱の側面には大きな文字でそう記されていた。その文字は丁寧な丸みを帯びていて、厳重に注意しなければいけないという言葉の意味とは裏腹に思えた。だからとくに注意することなく、僕は箱を開けた。中には小分けにパッキングされたお茶っ葉のような物がいくつか入っているだけだった。どこにどのように注意する必要があるのか、僕には解らなかった。例えば保管方法が独特なのかもしれない。そんなことを考えて、彼女に電話する...
pale asymmetry | 2025.12.09 Tue 15:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あなたはイルミネーションのような現象なのだと思う」 唐突に、隣の彼女がそう呟いた。僕らは海沿いのパーキングに停めた車中にいて、冬の黄昏の水面を眺めていた。海は東に面していたから、サンセットは見当たらない。それでも海面は茜の色を帯びていて、冬の風がその茜を擽っている様は、いつまでも眺めることが出来た。サンセットが見られないせいなのか、そのパーキングには僕らの車以外に駐車している人はいなかった。 「イルミネーション?」 僕は彼女に顔を向...
pale asymmetry | 2025.12.07 Sun 17:58
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