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JUGEMテーマ:ショート・ショート 大陸で発生した嵐は、あっという間にその魔力を失ってしまったのだそうだ。そのせいなのか雨は急速に弱まり、青空がちらほら。そんな午後に君は上機嫌で鼻歌を空に放っている。それはやわらかすぎたから、大陸までは届かないだろう。けれどこの辺りの風景を、その端々を解すのにはちょうど良いくらいの響きに思えた。青空に溶け込むくらいの透明感。あるいはその歌はブルーに染まっているのかもしれない。甘ったるいソーダ水のようなブルーに。 ビーチの砂は予想以上に湿って...
pale asymmetry | 2024.06.01 Sat 17:55
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「お腹が空いたから、ビーチに出かけましょうよ」 君がそう提案したから、僕らは雨の風景に分け入ることにした。雨はかなり強く降り注いでいたから、僕らはレインシューズを履き、裾の長いレインコートを着て、フードをしっかりと被って出かけた。レインコートは鮮やかなサフラン色で、きっと夜のビーチには不似合いな色彩だと思えたけれど、君は「今夜の月の身代わりよ」とはしゃいだ声を上げていた。確かに、今夜は満月だったかその近辺だったはず。僕と君のサフラン色の身体...
pale asymmetry | 2024.05.21 Tue 20:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート ベランダに続く窓硝子を外し、僕らはバケツを二つ並べる。窓際までソファーを移動して、腰を下ろす。足先はバケツに。バケツには氷水が満ちている。鋭すぎる午後の陽光がベランダを斜めに攻撃していたから、そのひんやり感が心地良かった。手にはアイスクリームとアイスクリームソーダ。僕がアイスクリームのコーンを握り、君はアイスクリームソーダのグラスを握る。そうしてだらしなくソファーに沈み、無意味に怠惰な時間を楽しんだ。今世界で僕らが一番贅沢な時間を過ごしている...
pale asymmetry | 2024.05.09 Thu 18:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 海岸沿いの遊歩道で、長く光線を描く流星を何度か見た。極大は本当は明日の未明だけど、明日は雨の予報。だから僕らはこの未明に空を見つめるしかなかった。 「流星雨と言うには少し弱い感じね」 暗い空に顔を向けたまま、君が囁く。流星雨ではなく流星群だよと僕が何度訂正しても君は流星雨という。そのうちに僕もその言い回しが気に入ってしまって、流星雨という響きに違和感を感じなくなってしまった。 「傘はいらないね」 僕がそう言うと、君はくすりと笑...
pale asymmetry | 2024.05.05 Sun 19:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 微睡みから、ジャズの音色で呼び戻される。微睡みに沈むときにはポップスを聴いていたはずなのに、いつの間にジャズの方に選曲が傾いてしまったのだろう。選曲をAIに任せているとときどきこういうことが起こる。たぶんAI自身にさえそのメカニズムは解らないのではないだろうか。僕の身体はジャズを必要としていなかったので、身を起こプレーヤーの電源を落とす。午後の日差しを嫌って閉じていたカーテンを開くと、そこに魔女がいた。いや、それは魔女の格好をした甥っ子だった。い...
pale asymmetry | 2024.04.30 Tue 20:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 港の外れの花壇で、僕らは持ってきた折りたたみの椅子を広げて腰を下ろす。霧雨が降ったり止んだりしていたから、傘を差したり畳んだりを繰り返し、花壇の向こうの海を眺める。白百合が咲いていて、その花は海の方向に開いていたから、僕らと一緒に海を鑑賞しているように思えた。持ってきたミルクティーを飲み、持ってきたクッキーを食べる。君が作ってくれたしっとりとやわらかいクッキー。それを食べるのに最適な場所はどこだろうと話し合い、僕らはここにやって来たのだった。...
pale asymmetry | 2024.04.26 Fri 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雷鳴で目が覚めた。稲光が薄暗い部屋を揺さぶる。セットしたアラームの時刻までは、まだ三十分ほどある。しばらく逡巡していたけれど、結局ベッドを抜け出す。リビングの湿度は高いのに、肌寒い。雷鳴と稲光のせいだろうか。それとも激しく地面を叩く雨群のせいだろうか。温かいココアをいれて、テレヴィジョンを灯す。ゴンドワナ大陸の恐竜の物語を見ながらココアを飲み始めたとき、玄関のチャイムが鳴る。僕は慌てて立ち上がり玄関に走って扉を開けた。こんな天気の早朝にやって...
pale asymmetry | 2024.04.23 Tue 17:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「その若き赤銅狼は、追跡していたの」 彼女は真剣な声で囁く。半月の月光は半減することなく、リビングに満ちていた。 「赤銅狼ということは、赤銅色の毛皮を纏っているの?」 僕が尋ねると彼女は首を振る。 「毛色は濃密な灰色よ。瞳が赤銅色なの」 濃密な灰色をイメージしようとして僕は失敗する。灰色の狼はイメージできるけれど、何度思い浮かべてもそれが濃密な灰色だとは思えなかった。僕は彼女と身を寄せ合ってソファーに横たわりながら、疾走する不完...
pale asymmetry | 2024.04.18 Thu 18:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 鮮やかなオレンジ色のキツネが、モニタの中から僕を見つめて笑っている。少しデフォルメして、キャラクターめいた姿にしてあるキツネだった。キツネは短い指の前脚を器用に操って首から腹にかけて縦に走るファスナーを下ろす。そしてそのキツネの姿を脱ぎ捨てた。中から現れたのは、けれどキツネだった。菫色のワンピースを纏ったたぶん少女。その身体の大きさから僕はそう判断した。顔は解らない。その人物がキツネのお面を付けていたからだ。鮮やかなオレンジ色のお面だった。 ...
pale asymmetry | 2024.04.14 Sun 18:36
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨のない朝はやっぱり心地良いな。そんなことを考えながら庭を見つめていた。仕事に行かなければいけないけれど、午後から雨の予報。それなら雨が降り出すまで庭を眺めていようかなと考える。窓を開け放ち、縁側にラグを敷いて、コーヒーの入ったカップを片手にだらしなく横たわる。せっかくの雨のない朝なのだから、ここで過ごさなければ。そう思ってしまう自分が、そしてそれを実行してしまう自分のことが好きだ。 「おはよう」 花束を抱えて甥っ子が現れた。プルシアン...
pale asymmetry | 2024.04.08 Mon 20:19
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