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JUGEMテーマ:ショート・ショート 『このメールは満月の裏側から送信しています』 君からのメールはこんな一文で始まっていた。実際には君は赤道直下の島か、その周辺を航行する船上にいるはずだ。君との時差は約十五時間。響きが良い。十五は半素数だから。 『あなたはとても大胆だから、満月の裏側に返信できるでしょう?』 僕は大胆な人間なのだろうか。自分ではよく解らない。満月の裏側に返信するためには大胆さが必要なのだろうか。それが可能なデバイスの方がより重要ではないかと思われたりする...
pale asymmetry | 2024.06.20 Thu 19:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「コマはとても簡単に回るもの」 君は声を潜めてそう言う。それでもその声は建物内に響いた。控えめだったけれど、直線的に響いた。ただその場所には僕らしかいなかったから、君の声を聞いたのは無数に並ぶベンチシートだけだった。その内の一つに、僕らは並んで腰掛けていた。 「だからといって、無闇にコマを回してはいけないの」 何が可笑しいのか、君は微かに笑う。それで君の声が奇妙に震え、建物内の不必要に強い照明を不自然に揺らめかせたように感じた。全く配...
pale asymmetry | 2024.06.14 Fri 19:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「君の涙はデジタルなのかも」 唐突に、あなたがぽつりと言った。白地図に朱で地図記号を書き込むように。私たちはソファーに沈み込んでいて、それは窓辺に置かれていて、窓の外は弱い雨が真っ直ぐに降っていて、窓は開け放たれていた。でも雨は本当に真っ直ぐに落ちていたから、部屋の中に滴が入り込んでくることはなかった。ただ雨の気配だけが部屋を侵食するように滲んでいた。ソファーと窓の間には小さな丸テーブル。その上にカップが二つと魔法瓶が一つ。そして中央にキャ...
pale asymmetry | 2024.06.08 Sat 19:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 気持ちの良い青空を見上げながら傘を開く。透明なビニール傘を。今朝強く降った雨の滴がまだ傘の表面に散らばっている。そのまま雨を閉じ込めてしまったから、解放してあげたくなって傘を開いたのだった。まばらな雨粒の向こう側に見える青空は不可思議に煌めいていて、別の惑星の空のようだ。私はアストロノーツで、これからこの惑星を探検する。そういう世界線の中でなら、私は何から探すだろう。未知の惑星で、最初に見つけたいものは何だろうか。 「歩いているうちに乾くか...
pale asymmetry | 2024.06.03 Mon 21:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大陸で発生した嵐は、あっという間にその魔力を失ってしまったのだそうだ。そのせいなのか雨は急速に弱まり、青空がちらほら。そんな午後に君は上機嫌で鼻歌を空に放っている。それはやわらかすぎたから、大陸までは届かないだろう。けれどこの辺りの風景を、その端々を解すのにはちょうど良いくらいの響きに思えた。青空に溶け込むくらいの透明感。あるいはその歌はブルーに染まっているのかもしれない。甘ったるいソーダ水のようなブルーに。 ビーチの砂は予想以上に湿って...
pale asymmetry | 2024.06.01 Sat 17:55
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「お腹が空いたから、ビーチに出かけましょうよ」 君がそう提案したから、僕らは雨の風景に分け入ることにした。雨はかなり強く降り注いでいたから、僕らはレインシューズを履き、裾の長いレインコートを着て、フードをしっかりと被って出かけた。レインコートは鮮やかなサフラン色で、きっと夜のビーチには不似合いな色彩だと思えたけれど、君は「今夜の月の身代わりよ」とはしゃいだ声を上げていた。確かに、今夜は満月だったかその近辺だったはず。僕と君のサフラン色の身体...
pale asymmetry | 2024.05.21 Tue 20:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート ベランダに続く窓硝子を外し、僕らはバケツを二つ並べる。窓際までソファーを移動して、腰を下ろす。足先はバケツに。バケツには氷水が満ちている。鋭すぎる午後の陽光がベランダを斜めに攻撃していたから、そのひんやり感が心地良かった。手にはアイスクリームとアイスクリームソーダ。僕がアイスクリームのコーンを握り、君はアイスクリームソーダのグラスを握る。そうしてだらしなくソファーに沈み、無意味に怠惰な時間を楽しんだ。今世界で僕らが一番贅沢な時間を過ごしている...
pale asymmetry | 2024.05.09 Thu 18:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 海岸沿いの遊歩道で、長く光線を描く流星を何度か見た。極大は本当は明日の未明だけど、明日は雨の予報。だから僕らはこの未明に空を見つめるしかなかった。 「流星雨と言うには少し弱い感じね」 暗い空に顔を向けたまま、君が囁く。流星雨ではなく流星群だよと僕が何度訂正しても君は流星雨という。そのうちに僕もその言い回しが気に入ってしまって、流星雨という響きに違和感を感じなくなってしまった。 「傘はいらないね」 僕がそう言うと、君はくすりと笑...
pale asymmetry | 2024.05.05 Sun 19:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 微睡みから、ジャズの音色で呼び戻される。微睡みに沈むときにはポップスを聴いていたはずなのに、いつの間にジャズの方に選曲が傾いてしまったのだろう。選曲をAIに任せているとときどきこういうことが起こる。たぶんAI自身にさえそのメカニズムは解らないのではないだろうか。僕の身体はジャズを必要としていなかったので、身を起こプレーヤーの電源を落とす。午後の日差しを嫌って閉じていたカーテンを開くと、そこに魔女がいた。いや、それは魔女の格好をした甥っ子だった。い...
pale asymmetry | 2024.04.30 Tue 20:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 港の外れの花壇で、僕らは持ってきた折りたたみの椅子を広げて腰を下ろす。霧雨が降ったり止んだりしていたから、傘を差したり畳んだりを繰り返し、花壇の向こうの海を眺める。白百合が咲いていて、その花は海の方向に開いていたから、僕らと一緒に海を鑑賞しているように思えた。持ってきたミルクティーを飲み、持ってきたクッキーを食べる。君が作ってくれたしっとりとやわらかいクッキー。それを食べるのに最適な場所はどこだろうと話し合い、僕らはここにやって来たのだった。...
pale asymmetry | 2024.04.26 Fri 20:49
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