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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「寒いと思う心は大切だと思う」 そう言う彼女の息はまだ白くはなかったから、僕はこの朝を素直に受け入れることが出来た。 「さそりの宮に入って冬に向かうことが、良いことだと思えるでしょう?」 彼女は温かなレモネードにその声を吹きかけ、その熱を庭に放つ。霜降の早朝、僕らは縁側で朝を眺めていた。それが特別な朝だと思ったわけではなく、ありふれた朝だと思えたから眺めることにしたのだ。そういうありふれた時間を共有できることは幸福なことだと思えた。幸...
pale asymmetry | 2023.10.24 Tue 17:55
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、見て欲しいの」 彼女に揺り起こされて、僕は目を覚ます。僕が上半身を起こすと、彼女はベッドの脇のソファーに腰を下ろした。 「あなたに、見て欲しいの」 彼女は裸だった。部屋には闇が満ちていた。けれどそれは澄みきった闇で、彼女の姿ははっきりと見えた。たぶん月光が、カーテンを擦り抜けて滲み広がっている月光が、闇を澄ませているのだ。綺麗に、純粋に。 「なんだか、どうしてもあなたに見て欲しい気分になったの。突然にそうなったの」 彼女...
pale asymmetry | 2023.10.20 Fri 19:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「異世界に転生したとしたら、どんな職業が良い?」 彼女が訊いてきたので、僕は文庫本から顔を上げた。彼女はモニターに顔を向けたままだ。モニターの中では魔法使いがモンスターと戦っている。もちろんその魔法使いを操っているのは彼女だった。 「君は魔法使いが良いの?」 「このゲームではね。使い勝手が良いから」 僕はソファーから身体を落とし、フロアに座る彼女の隣に収まる。彼女の身体は熱を帯びていて、モンスターとの戦いが白熱しているのだろうと思っ...
pale asymmetry | 2023.10.16 Mon 20:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「午前四時って、浮かび上がっていると思う」 彼女が呟く。最初それを独り言だと思った。小さな声だったし、部屋の片隅に向かって無造作に放り投げたような口調だったから。僕はだから文庫本から顔を上げなかった。物語の中では、今まさに殺人者がピストルの引き金を引こうとしていた。そして沈黙。意味のあるようにもないようにも感じられる沈黙。永遠と刹那が混ざり合ったような時間。 「そう思わない?」 その彼女の言葉で初めて僕は顔を上げる。傍らの彼女が、僕を...
pale asymmetry | 2023.10.09 Mon 20:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 連休だというのに何の予定もなく、昼過ぎまで怠惰を貪って、目覚めてからもソファーに崩れて根を下ろす。明日もあさったも予定はないので、だらだらとワインを飲みチーズを囓る。家中の窓を全開にして強い風を流し、なにかもう訳の解らないほど大きな事象を受け入れている気分に浸る。微かに雨の匂いがするような気もするけれど、気にせず受け入れる。 我ながら、世界から浮き上がった暮らしをしていると思う。普段は社会と繋がり噛み合っているふりをしているけれど、本当は...
pale asymmetry | 2023.10.07 Sat 20:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート それは夕立のような雨だったけれど、それにしてはとても潔く降っているような気がした。別に夕立が卑怯な降り方をすると思っているわけではないけれど、普段の夕立はどこか意地悪な感じがすると思えたりもしたから。雨の振り出しと共に北風が強くなった。南に面した窓が開いていたけど、そのせいで雨は降り込んでこなかった。だから私はその窓をそのままにしておいた。雨に装飾された世界と、それなりの繋がりを保っておきたかったのだ。 「ニー」 その窓から小さなクロネ...
pale asymmetry | 2023.10.05 Thu 17:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨上がりに川沿いの遊歩道を散歩する。空気はまだたっぷり濡れそぼっていたけれど、北からの風が心地よくてムシムシした煩わしさは感じない。午後はまだたっぷりとあるから、この風景を長く纏うことが出来る。それが嬉しかった。しばらく歩いたところで道端にしゃがみ込む少年を目にする。少年はスケッチブックを抱えていて、そこに色鉛筆で何かを熱心に描いている。目の前の草むらにじっと目を凝らし、スケッチブックに色鉛筆を走らせ、また草むらを覗き込む。それを繰り返してい...
pale asymmetry | 2023.10.01 Sun 21:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 空気はひんやりと湿っていた。星も月も見えなかったけれど、空はまだ夜の余韻を十分に残している。それで庭はその輪郭をはっきりと僕らに顕わにしていて、その存在は確かだった。庭には黒い蝶が舞っていた。二匹の黒い蝶。どちらかがオリジナルで、どちらかはクローンだ。そう思えるほど同じ姿の蝶だった。いや、姿だけではない。はたはたと開閉する羽の振る舞いが瓜二つだったのだ。 「朝はもう夏ではないわね」 傍らの彼女がぽつりと零す。 「うん。秋とも言いがたい...
pale asymmetry | 2023.09.27 Wed 19:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート これは儀式じゃない。単なる気まぐれ。あるいは意味のない思いつき。でも、どこか遠い場所から大切な事象を引き寄せているように思えるのはどうしてだろう。 「東は、旅の果てのような感じね」 東側に面した窓を開け放して私が言うと、あなたは一瞬斜め上を見上げて首を傾げる。 「旅の果て? のような感じ?」 流れ込む風がカーテンを踊らせ、それがあなたの頬を撫でる。あなたは心地よさそうに笑う。 「東の方角の遙かな先には、何もかもが終わる場所がある...
pale asymmetry | 2023.09.23 Sat 20:47
JUGEMテーマ:ショート・ショート 散歩の途中で一面の彼岸花に出会う。この道はしばらく通っていなかったから、僕らを欺こうとしているのかもしれない。そう君に言ったら、君はとても楽しそうに笑う。 「私たちを歓待しているのよ」 そんな風に言いながら、彼岸花に顔を近づけた。 「ダメだよ」 僕は思わず声を上げる。 「彼岸花には毒がある」 君はそれを聞いてまた楽しそうに笑う。 「彼岸花の毒は球根でしょう? 食べなければ毒に侵されることはないわ」 そういって鼻先を花に...
pale asymmetry | 2023.09.21 Thu 20:18
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