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JUGEMテーマ:ショート・ショート 冬型の気圧配置で北風が強まった早朝に、甥っ子が我が家にやって来た。そのとき僕はまだベッドの上で毛布に包まっていたから、甥っ子の快活な声でこの朝に浮かび上げられたのだった。 「とても寒いよ、今朝は」 頬を赤く染めた甥っ子は、とても聡明な感じで笑っている。深夜まで仕事をしていて全くの寝不足だったけれど、その笑顔でこの朝が心地良い色彩に色づけられた。甥っ子が手を伸ばし、その指先が僕の頬に触れる。ひんやりとしたその感触は透きとおった風景をイメー...
pale asymmetry | 2023.11.13 Mon 18:53
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あなたはシリウスを目指せば良いわ」 君はそう言ってオリオンを指差す。その指がプロキオンを経由してシリウスに到達する。まるで恒星間を航行する宇宙船のように。あるいは君はイメージの宇宙船を操って、実際に恒星間旅行をしているのかもしれない。僕の目はオリオンに釘づけられたままで、その勇者がサソリによって貶められる物語を手繰る。いや、逆だっただろうか。サソリが勇者に追い立てられているのだったっけ。僕の貧弱な知識では、どちらだったか確定できない。 ...
pale asymmetry | 2023.11.09 Thu 21:11
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「空気って、羽みたいだよね」 スケッチブックに色鉛筆のオレンジを走らせながら、甥っ子が呟いた。彼は庭の月桃と向かい合っていて、だから最初その言葉は月桃に向けて放たれたものなのかと思った。僕は彼の背後の縁側に寝そべっていたし、植物に話しかけることは、彼の振るまいとしては極スタンダードな事だったから。 「ねえ、そう思わない?」 甥っ子が振り返ったので、僕に向けられた言葉だったことに気づく。僕はタブレットに向けていた顔を上げ、甥っ子を見つめ...
pale asymmetry | 2023.11.03 Fri 19:14
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今朝、満月のような月を見たわ」 彼女の囁きは、湿っていた。 「満月のような?」 「たぶん正確には満月ではなかったと思う。でも満月に近似の月だった」 彼女の囁きは湿っていて、けれど羽ばたくような躍動を有していた。 「長い上り坂を上っているとき、空の低い位置にその月はいたの」 「そうなんだ」 僕の囁きは渇いているような気がした。そして少し錆び付いているような気もした。 「だから私は今西に向かって進んでいるんだなって、ふと思っ...
pale asymmetry | 2023.10.30 Mon 18:47
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「寒いと思う心は大切だと思う」 そう言う彼女の息はまだ白くはなかったから、僕はこの朝を素直に受け入れることが出来た。 「さそりの宮に入って冬に向かうことが、良いことだと思えるでしょう?」 彼女は温かなレモネードにその声を吹きかけ、その熱を庭に放つ。霜降の早朝、僕らは縁側で朝を眺めていた。それが特別な朝だと思ったわけではなく、ありふれた朝だと思えたから眺めることにしたのだ。そういうありふれた時間を共有できることは幸福なことだと思えた。幸...
pale asymmetry | 2023.10.24 Tue 17:55
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、見て欲しいの」 彼女に揺り起こされて、僕は目を覚ます。僕が上半身を起こすと、彼女はベッドの脇のソファーに腰を下ろした。 「あなたに、見て欲しいの」 彼女は裸だった。部屋には闇が満ちていた。けれどそれは澄みきった闇で、彼女の姿ははっきりと見えた。たぶん月光が、カーテンを擦り抜けて滲み広がっている月光が、闇を澄ませているのだ。綺麗に、純粋に。 「なんだか、どうしてもあなたに見て欲しい気分になったの。突然にそうなったの」 彼女...
pale asymmetry | 2023.10.20 Fri 19:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「異世界に転生したとしたら、どんな職業が良い?」 彼女が訊いてきたので、僕は文庫本から顔を上げた。彼女はモニターに顔を向けたままだ。モニターの中では魔法使いがモンスターと戦っている。もちろんその魔法使いを操っているのは彼女だった。 「君は魔法使いが良いの?」 「このゲームではね。使い勝手が良いから」 僕はソファーから身体を落とし、フロアに座る彼女の隣に収まる。彼女の身体は熱を帯びていて、モンスターとの戦いが白熱しているのだろうと思っ...
pale asymmetry | 2023.10.16 Mon 20:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「午前四時って、浮かび上がっていると思う」 彼女が呟く。最初それを独り言だと思った。小さな声だったし、部屋の片隅に向かって無造作に放り投げたような口調だったから。僕はだから文庫本から顔を上げなかった。物語の中では、今まさに殺人者がピストルの引き金を引こうとしていた。そして沈黙。意味のあるようにもないようにも感じられる沈黙。永遠と刹那が混ざり合ったような時間。 「そう思わない?」 その彼女の言葉で初めて僕は顔を上げる。傍らの彼女が、僕を...
pale asymmetry | 2023.10.09 Mon 20:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 連休だというのに何の予定もなく、昼過ぎまで怠惰を貪って、目覚めてからもソファーに崩れて根を下ろす。明日もあさったも予定はないので、だらだらとワインを飲みチーズを囓る。家中の窓を全開にして強い風を流し、なにかもう訳の解らないほど大きな事象を受け入れている気分に浸る。微かに雨の匂いがするような気もするけれど、気にせず受け入れる。 我ながら、世界から浮き上がった暮らしをしていると思う。普段は社会と繋がり噛み合っているふりをしているけれど、本当は...
pale asymmetry | 2023.10.07 Sat 20:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート それは夕立のような雨だったけれど、それにしてはとても潔く降っているような気がした。別に夕立が卑怯な降り方をすると思っているわけではないけれど、普段の夕立はどこか意地悪な感じがすると思えたりもしたから。雨の振り出しと共に北風が強くなった。南に面した窓が開いていたけど、そのせいで雨は降り込んでこなかった。だから私はその窓をそのままにしておいた。雨に装飾された世界と、それなりの繋がりを保っておきたかったのだ。 「ニー」 その窓から小さなクロネ...
pale asymmetry | 2023.10.05 Thu 17:07
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