[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
JUGEMテーマ:ショート・ショート ゴーストの様な雪が、世界の音を霞ませている朝に甥っ子がやって来た。 「この子も雪にやられてしまったみたい」 分厚い手袋で覆われた両手には、金属製のフクロウが抱えられている。そこにも薄らと雪が積もっている。 「大丈夫? 寒くない?」 甥っ子の頭の上にも、コートを纏った両肩にも雪が積もっていた。 「うん、大丈夫。雪は楽しいものだから」 甥っ子は笑い、身体を揺さぶって雪を払う。上手くいかなかった分は僕が手で払い落とした。そしてスト...
pale asymmetry | 2024.02.06 Tue 18:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 午後の空は全面アッシュグレーだった。午前中の青空はどこにも見当たらなかった。その空は何だか世界を狭くしているような感じがした。私たちの気持ちを窮屈にしているような気もした。 「くだらないな」 彼が呟いた。長い坂道を上りながら。風は南から吹いていて、坂道は急傾斜で、私たちは急ぎ足で、曖昧な時間はだらだらと停滞している。 「もうどうしようもない」 彼がまた呟く。微かに笑っていたけれど、たぶん怒っているのだろうと思った。そういう気配を感...
pale asymmetry | 2024.01.30 Tue 20:52
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「青いウサギが嘲笑うんだって」 そう囁きながら、君は私の背中を舐める。左の肩甲骨に沿うように。私の心臓を狙うように。 「どうして?」 私が問うと、君はその口元を私の右耳に寄せる。君の胸の膨らみが私の背中を刺激する。やわらかく、ひんやりとしていた。君は冷めているのだろうか。それとも私が冷ましているのだろうか。 「トリではないからよ。だから、誰も幸福にはならない」 君が私の耳朶を噛んだ。そのまま笑う。痛みは私を擽り、私を波打たせる。...
pale asymmetry | 2024.01.25 Thu 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート ときどき私は、休日に長く眠る。普段は休日でも早起きなのだけれど、たまに身体が過剰なほどに長い眠りを欲しがるときがある。逆らえないから、私は求められるままに長く眠る。そういうとき目覚める直前に必ず見る夢がある。長い眠りの最後にその夢を見て目を覚ますと、十分に寝たのだなと解るような夢。よく眠ってくれましたと、身体が私に告げているような気分になる夢だ。それは過去に体験したことのある事実に、架空の出来事が入り混じった夢。ずっと以前の記憶だから、どの部...
pale asymmetry | 2024.01.22 Mon 18:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 夜明け前に君は出て行った。小さなハードケースだけを持って。君は最後まで笑わなかった。表情は凍り付いたままだった。怒りを飲み込んでいるのかどうかは、僕には解らなかった。君がどんな風に世界を捉えているのか、もう僕には解らなくなっていたから。それでも僕は君の背中に語りかけるべきだったはずだ。僕が描く世界の風景を。出来るだけ包み隠さず、出来るだけ詳細に。でも僕はそれが出来なかった。だから為す術なく君を見送ることしか出来なかった。これからずっと途方...
pale asymmetry | 2024.01.17 Wed 18:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「私たちが魚だった頃のこと」 彼女が囁く。窓から広がる陽光が部屋を暖めてはいたけれど、それ以上の冷気が部屋に満ちていたから、僕らはモフモフな毛布の中で背中同士をくっつけていた。 「あなたは憶えている?」 この季節の休みがあった日の午後は、僕たちは大抵ベッドでこうして背中をくっつけて過ごしている。僕は文庫本を読みながらうつらうつらし、彼女はタブレットでゲームをしていた。互いの熱を背中で感じ合い、それで安穏とする時間を楽しんでいた。 「...
pale asymmetry | 2024.01.09 Tue 21:27
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「植物は会話をするんだって」 大樹を見上げて甥っ子が呟く。僕を見つめてはいなかったし、独り言のような口調だったので応えて良いのか一瞬迷ったけれど、僕は声を発した。 「植物同士でってこと?」 甥っ子は僕に顔を向け頷く。やっぱり僕に話しかけていたようだ。 「人間のような言語を使っているのかな?」 甥っ子がまた大樹に顔を向けたので、僕も大樹を見上げた。立ち並ぶ大樹たちが僕たちの頭上で会話しているのだとしたら、どんなことを対話しているの...
pale asymmetry | 2024.01.07 Sun 20:19
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、私の中心となるパーツは何?」 海に面した公園で、僕らは新しい風に吹かれていた。その風はとても冷たかったけれど、とても澄んでいて、とても清廉だった。それに僕らはたっぷりと着込んでいたし、温かなワインをカップに満たしていたから、風の冷たさには十分に立ち向かえていた。 「君の? 僕のじゃなくて?」 「そう。私の中心となるパーツを教えて」 彼女はカップのワインを一口のみ、長い息を宙に放った。一瞬白く煌めいてから、その息は天に召された...
pale asymmetry | 2024.01.01 Mon 20:23
JUGEMテーマ:ショート・ショート 早めに仕事を切り上げて家に帰るとすでに彼女がリビングにいた。毛布を敷いたリビングの床に横たわり、ぼんやりとした表情でテレヴィジョンを眺めていた。モニターには海のティラノサウルスと呼ばれる古代の生物が悠悠と泳ぐ姿が映し出されていて、ワイプの中で年老いた研究者が解説をしていた。全て英語で字幕もなかったので、僕にはよく解らなかった。 「ただいま」 僕の声に彼女は無反応なまま、テレヴィジョンを見つめている。僕は部屋着に着替えて、彼女の隣に横たわ...
pale asymmetry | 2023.12.30 Sat 18:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 寒い外から戻ると、リビングはいつもより暖かく明るかった。外が暗く寒かったからそう感じたわけではない。実際に彼女は薄手のパジャマ姿でソファーに沈み込んでいたのだから。 「おかえり」 彼女がソファーからずり落ちながら笑う。少し頬が赤らんでいる。 「ただいま」 僕もスーツを脱ぎ、パジャマに着替えた。 「ホットワイン、飲む?」 なるほど、彼女は身体の内側からも暖まっていたのか。 「もちろん」 僕はソファーに倒れ込みながら頷く。...
pale asymmetry | 2023.12.24 Sun 19:05
全1000件中 51 - 60 件表示 (6/100 ページ)