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JUGEMテーマ:ショート・ショート 港の外れの花壇で、僕らは持ってきた折りたたみの椅子を広げて腰を下ろす。霧雨が降ったり止んだりしていたから、傘を差したり畳んだりを繰り返し、花壇の向こうの海を眺める。白百合が咲いていて、その花は海の方向に開いていたから、僕らと一緒に海を鑑賞しているように思えた。持ってきたミルクティーを飲み、持ってきたクッキーを食べる。君が作ってくれたしっとりとやわらかいクッキー。それを食べるのに最適な場所はどこだろうと話し合い、僕らはここにやって来たのだった。...
pale asymmetry | 2024.04.26 Fri 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雷鳴で目が覚めた。稲光が薄暗い部屋を揺さぶる。セットしたアラームの時刻までは、まだ三十分ほどある。しばらく逡巡していたけれど、結局ベッドを抜け出す。リビングの湿度は高いのに、肌寒い。雷鳴と稲光のせいだろうか。それとも激しく地面を叩く雨群のせいだろうか。温かいココアをいれて、テレヴィジョンを灯す。ゴンドワナ大陸の恐竜の物語を見ながらココアを飲み始めたとき、玄関のチャイムが鳴る。僕は慌てて立ち上がり玄関に走って扉を開けた。こんな天気の早朝にやって...
pale asymmetry | 2024.04.23 Tue 17:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「その若き赤銅狼は、追跡していたの」 彼女は真剣な声で囁く。半月の月光は半減することなく、リビングに満ちていた。 「赤銅狼ということは、赤銅色の毛皮を纏っているの?」 僕が尋ねると彼女は首を振る。 「毛色は濃密な灰色よ。瞳が赤銅色なの」 濃密な灰色をイメージしようとして僕は失敗する。灰色の狼はイメージできるけれど、何度思い浮かべてもそれが濃密な灰色だとは思えなかった。僕は彼女と身を寄せ合ってソファーに横たわりながら、疾走する不完...
pale asymmetry | 2024.04.18 Thu 18:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 鮮やかなオレンジ色のキツネが、モニタの中から僕を見つめて笑っている。少しデフォルメして、キャラクターめいた姿にしてあるキツネだった。キツネは短い指の前脚を器用に操って首から腹にかけて縦に走るファスナーを下ろす。そしてそのキツネの姿を脱ぎ捨てた。中から現れたのは、けれどキツネだった。菫色のワンピースを纏ったたぶん少女。その身体の大きさから僕はそう判断した。顔は解らない。その人物がキツネのお面を付けていたからだ。鮮やかなオレンジ色のお面だった。 ...
pale asymmetry | 2024.04.14 Sun 18:36
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨のない朝はやっぱり心地良いな。そんなことを考えながら庭を見つめていた。仕事に行かなければいけないけれど、午後から雨の予報。それなら雨が降り出すまで庭を眺めていようかなと考える。窓を開け放ち、縁側にラグを敷いて、コーヒーの入ったカップを片手にだらしなく横たわる。せっかくの雨のない朝なのだから、ここで過ごさなければ。そう思ってしまう自分が、そしてそれを実行してしまう自分のことが好きだ。 「おはよう」 花束を抱えて甥っ子が現れた。プルシアン...
pale asymmetry | 2024.04.08 Mon 20:19
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「思いがけず、扉が開いてしまうことってあるでしょう?」 彼女が唐突に問う。僕の肩に頬を傾けたまま。僕らは窓辺のソファーから、午後の雨を見つめていた。それは微かな雨で、時折陽光が割り込んできたりしていた。でも僕らが見つめたかったのは陽光ではなく雨の方だった。僕らはぼんやりと微かな雨を待ち、それを鑑賞し、とっておきのコーヒーを飲んだ。 「それは、ずっと開かなかった扉が、ってこと?」 「そう。硬く閉ざされていた扉が、ってこと」 微かな雨や...
pale asymmetry | 2024.04.02 Tue 18:50
JUGEMテーマ:ショート・ショート 祝日の朝は眠りの底で過ごした。疲れが溜まっていたのだろうか。それとも今朝が心地良すぎたのだろうか。目が覚めたときはもうすぐ正午という時刻で、カーテンを閉め切った寝室でさえ仄明るい光が彷徨っていた。満たされたような、損したような気分。キッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取りだし、リビングの庭に面した窓を開け放つ。燦燦の陽光が溢れかえる庭の真ん中で、甥っ子が横たわっていた。うつ伏せで、地面に耳を付けている。顔はこちらに向けていたので、...
pale asymmetry | 2024.03.20 Wed 18:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 駅前の花壇の縁に君は腰掛けている。両手に紙のカップを持っている。そして夜空を見つめている。何かを探している横顔に見えたりもするし、何かと見つめ合っている横顔にも見えたりする。無言で愛を伝え合っているようにも見えたりして、僕はザワザワした気持ちになったりもする。君が僕に気づきカップを掲げる。僕も軽く手を上げ君に近づく。風はなく、どこかふんわりとした夜だ。月も星も見えないけれど、街路灯がレトロな銀河を想起させる。レトロな銀河というのがなんなのか、...
pale asymmetry | 2024.03.18 Mon 18:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート リビングの丸いテーブルの真ん中に、アップルパイがのっかっていた。それはテーブルの正確な中心にあるように見えた。リビングの部屋中にアップルパイの良い匂いが漂っていた。テーブルの前では彼女がクッションに半身を沈ませている。そして彼女が僕を見上げて言った。 「3.14と3.16は、どちらが美しいと思う」 僕は彼女の隣に腰を下ろして、考えてみる。これは「ただいま」を言うより重要なことだろう。だから彼女も「おかえり」の前に尋ねたのだろう。 「うーん、ど...
pale asymmetry | 2024.03.14 Thu 20:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 青い光で目が覚めた。彼女がベッドに腰掛けていた。カーテンが開いていて、朝の日差しに斜めに差し込んでいる。その日差しと僕の間で彼女が青いグラスを翳している。青く彩色された光が僕の顔に落ちている。青いフィルターで僕を変換しようとしているようだった。 「何を飲んでるの?」 渇ききった喉に、僕の声が引っかかる。そんな僕を見つめて彼女が小さく笑う。 「おはよう。ミネラルウォーターよ」 彼女がグラスに口を付け、そのまま僕に口づけする。冷たい水...
pale asymmetry | 2024.03.11 Mon 18:54
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