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JUGEMテーマ:ショート・ショート 真夜中に目が覚める。嘘、本当に真夜中なのかは知らない。でも部屋の闇は真夜中の装いだったから、真夜中でなかったとしてもその近辺だと思えた。全身に、結構な汗をかいている。少し気持ちが悪かったので着替えようかと半身を起こす。そのとき、布団の脇に佇んでいるロリータと目が合った。いや嘘。目は合っていない。そのロリータは顔の部分が花だったから。だから目はなかったのだ。もちろん口も鼻も耳も見当たらなかった。淡いピンクのアマリリスが顔だったのだった。だからア...
pale asymmetry | 2025.05.03 Sat 20:14
JUGEMテーマ:ショート・ショート まだ朝と呼ぶには暗すぎる時刻に、あなたはモゾモゾと動き出す。 「シグナルを放たなければいけない」 私の左の頬に指先を真っ直ぐに沈めながら、あなたはそう囁いた。部屋の照明を灯すと、あなたはとても真面目な表情をしていたので、私は堪えきれずに笑ってしまった。 「今すぐに準備しなければ、シグナルを放つために」 あなたは手早く着替えを澄ませ、大きなリュックを引き摺りながらキッチンの方へと歩いていく。私はのそのそとベッドから抜け出し、幽霊のよ...
pale asymmetry | 2025.04.17 Thu 18:11
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「まことに水は不可思議な翻りそのものなのですよ」 老人はそう言うと、何故かはにかむ笑みを浮かべた。夕日は背後で沈んでいるので、その茜と黄金は煌めきの欠片だけしか見えなかった。 「その不変性は、普遍性へと繋がっていくのです」 僕と老人は川原に腰を下ろしていた。傍らの小石を拾い、老人が川面に投げる。水面に飲み込まれた小石が去り際に放った波紋が、夕日の欠片を踊らせる。 「特に地下に染み込んだ水は、一度闇を取り込んでいますからね」 老人...
pale asymmetry | 2025.04.08 Tue 17:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 正午の時報を合図にして、雨が降り出した。お昼前の天気予報をラジオで聞いていて、そのあとの時報とぴったり重なるように雨が降り出したのだった。空腹の雨だな。意味もなく思った。むしろ雨によって過食が象徴されているような気もしたけれど、きっと僕自身のお腹が減っていたからそう思ってしまったのだろう。面倒臭いけれど何か食べなければ、なんて考えていると玄関の扉が賑やかに開く音が聞こえてきた。 「雨だよ」 甥っ子の声だった。玄関まで行くと、レイコート姿...
pale asymmetry | 2025.03.27 Thu 20:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート 私は夜の住人ではない。正確には、今はそうではない。もっと正確に言えば、かつてもそうではなかった。ただ私が夜の住人だと思い込んでいただけだ。そしてその思い込みも失われ、あらゆる意味で私は夜の住人ではない。だから私は夜の懐を知らない。そこに懐柔されたこともない。陽光を浴び、風に吹かれ、雲の流れを追いかける暮らしが、私の属する世界だ。 重い荷物を転がして、あなたははしゃぐ。街灯はか弱く夜は闇に喰らわれている。何か大切なものが蹂躙されているよ...
pale asymmetry | 2025.03.20 Thu 18:17
JUGEMテーマ:ショート・ショート 散歩が好きな犬と暮らしている。だから自然と長い時間を掛けて散歩することになる。とくに夕刻の散歩は、じっくりと一日の流れを確認しながら海辺を歩く。その日自分が何を紡ぎ、何を紡げなかったのか、何を繕い、何を解れさせたのか、そんなことを丁寧に思い返しながら、やわらかい靴を履いて長距離を歩く。 今日は朝から激しい雨。散歩には適していない空模様。愛犬は早朝から窓辺でずっと窓外を観測している。朝の散歩をいつもより短く切り上げたのが腑に落ちないのかもし...
pale asymmetry | 2025.03.15 Sat 20:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「それでも、私たちは転がっていかなければいけないと思う」 彼女が大きく息を吐く。 「であるなら、僕らはもっと身軽にならないとね」 僕は息を潜める。 「でも、置いていけないものもあるわ」 彼女の声がキラリと尖る。 「それでも縋りつく何もかもを抱えていくことは出来ないよ」 僕は静かにそれを受け流す。 「だとしたら、どうやって取捨選択するのかしら?」 彼女の眼差しが来世に向けられる。 「成り行きに任せるのが良いと思うけれ...
pale asymmetry | 2025.03.07 Fri 21:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 十六夜の深夜、僕らはベランダに椅子を並べて、夜空にシャボン玉を飛ばしていた。本当は花火をしたかったのだけど、家中を探しても花火を見つけることが出来なかったのだ。代わりに彼女がシャボン玉セットを見つけ出したので、僕らはそれで手を打つことにしたのだった。 「月影って、子供の頃は影だと思ってたわ」 宙を漂うシャボンに目を向けたまま、彼女が呟く。風が弱かったから、シャボンはすぐに崩れることなく、宙で緩やかに踊った。その表層に月光を分解したいくつ...
pale asymmetry | 2025.02.14 Fri 20:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると、彼女が胸にラジオを抱いてソファーに横たわっていた。リビングの天井の方に真っ直ぐに顔を向け、姿勢良く横たわっていたので、まるでラジオと一緒に棺に収められているように思えてしまった。部屋はすでに薄暗くなっている。日暮れにはまだ少し早い時刻だったけれど、一日中降り続く雨のせいで、世界には陽光が不足していた。僕は壁のスイッチに触れ、部屋の明かりを灯す。完成されたこの部屋のバランスを崩すことになるだろうと思えたから少し気が引けたけれど、彼女...
pale asymmetry | 2025.02.13 Thu 18:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「枠のなかはどんなの?」 玄関の扉を開けると、そこに立っていた甥っ子がいきなりそう言った。何故か和服姿だった。漆黒の単衣に袴、襟と袖と裾に朱の差し色が入っている。寒くないのだろうか。でもよく見ると和服の下に温かそうなインナーが見えたので、大丈夫なのだろう。 「枠の外は広いよ」 甥っ子はその場で二度三度と跳ねる。唇に薄い紅が引かれていた。姉が施したのだろうか。それとも甥っ子が自分でやったのだろうか。 「お入り」 扉を開けたまま、僕...
pale asymmetry | 2025.02.02 Sun 20:55
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