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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「思いがけず、扉が開いてしまうことってあるでしょう?」 彼女が唐突に問う。僕の肩に頬を傾けたまま。僕らは窓辺のソファーから、午後の雨を見つめていた。それは微かな雨で、時折陽光が割り込んできたりしていた。でも僕らが見つめたかったのは陽光ではなく雨の方だった。僕らはぼんやりと微かな雨を待ち、それを鑑賞し、とっておきのコーヒーを飲んだ。 「それは、ずっと開かなかった扉が、ってこと?」 「そう。硬く閉ざされていた扉が、ってこと」 微かな雨や...
pale asymmetry | 2024.04.02 Tue 18:50
JUGEMテーマ:ショート・ショート 祝日の朝は眠りの底で過ごした。疲れが溜まっていたのだろうか。それとも今朝が心地良すぎたのだろうか。目が覚めたときはもうすぐ正午という時刻で、カーテンを閉め切った寝室でさえ仄明るい光が彷徨っていた。満たされたような、損したような気分。キッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取りだし、リビングの庭に面した窓を開け放つ。燦燦の陽光が溢れかえる庭の真ん中で、甥っ子が横たわっていた。うつ伏せで、地面に耳を付けている。顔はこちらに向けていたので、...
pale asymmetry | 2024.03.20 Wed 18:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 駅前の花壇の縁に君は腰掛けている。両手に紙のカップを持っている。そして夜空を見つめている。何かを探している横顔に見えたりもするし、何かと見つめ合っている横顔にも見えたりする。無言で愛を伝え合っているようにも見えたりして、僕はザワザワした気持ちになったりもする。君が僕に気づきカップを掲げる。僕も軽く手を上げ君に近づく。風はなく、どこかふんわりとした夜だ。月も星も見えないけれど、街路灯がレトロな銀河を想起させる。レトロな銀河というのがなんなのか、...
pale asymmetry | 2024.03.18 Mon 18:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート リビングの丸いテーブルの真ん中に、アップルパイがのっかっていた。それはテーブルの正確な中心にあるように見えた。リビングの部屋中にアップルパイの良い匂いが漂っていた。テーブルの前では彼女がクッションに半身を沈ませている。そして彼女が僕を見上げて言った。 「3.14と3.16は、どちらが美しいと思う」 僕は彼女の隣に腰を下ろして、考えてみる。これは「ただいま」を言うより重要なことだろう。だから彼女も「おかえり」の前に尋ねたのだろう。 「うーん、ど...
pale asymmetry | 2024.03.14 Thu 20:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 青い光で目が覚めた。彼女がベッドに腰掛けていた。カーテンが開いていて、朝の日差しに斜めに差し込んでいる。その日差しと僕の間で彼女が青いグラスを翳している。青く彩色された光が僕の顔に落ちている。青いフィルターで僕を変換しようとしているようだった。 「何を飲んでるの?」 渇ききった喉に、僕の声が引っかかる。そんな僕を見つめて彼女が小さく笑う。 「おはよう。ミネラルウォーターよ」 彼女がグラスに口を付け、そのまま僕に口づけする。冷たい水...
pale asymmetry | 2024.03.11 Mon 18:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女はリビングでタブレットじっと見つめていた。とても真剣な表情で、世界の行く末を思案しているようだった。 「ただいま」 僕は鞄とジャケットを放り出し、彼女の隣に腰を下ろした。彼女はソファーに背中をあずけ、床に腰掛けていた。フローリングの床は冷たく、少し湿っているように感じた。外では細かな雨が降り続いていて、部屋の湿度も高かったのだ。 「おかえり」 タブレットを見つめたまま、彼女が応える。 「何を見てるの?」 尋ねると、彼女が...
pale asymmetry | 2024.03.07 Thu 18:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 小袋を持って、僕は歩いていた。海沿いの道、午後の遅く。隣には甥っ子がいる。彼はリュックを背負っている。中には水筒が納まっていて、水筒には紅茶が満たされている。僕の小袋にはビスケット。僕らは近所の小さなビーチに向かって歩いている。傾く太陽を眺めながらティータイムを過ごそうとしていた。甥っ子の提案だ。今日みたいに少し雲の多い午後には、そういうことが必要なんだと彼は力説した。 「そういうのはね、世界の駒なんだよ」 甥っ子は何故か胸を張ってそう...
pale asymmetry | 2024.02.28 Wed 18:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「その塔は、砂漠の真ん中にあるんだ」 あなたは窓を開け、ひんやりとした風を受け入れる。 「とても広大な砂漠だ。だから塔から脱出することは困難を要する」 「じゃあ皆どうやって塔にやって来たの?」 私が問うとあなたは頷き、窓を閉めた。私に頷いたのか、風に頷いたのかよく解らなかった。そのまま、あなたは私の隣に腰を下ろす。私たちはリビングのソファーにもたれて、並んで床にお尻を付ける。ひんやりと固い床は、心地良かった。エアコンの暖房が強すぎる...
pale asymmetry | 2024.02.24 Sat 18:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート ソファーに寝そべり、彼女がスマホを覗き込んでいる。いつからそうしているのか、リビングはもう薄暗くなっているのに照明が灯っていない。 「ただいま」 鞄を下ろして、僕は部屋の明かりをつける。一瞬無数の煌めきが弾け、天国が翻って消える。 「おかえり」 彼女は寝そべったまま、スマホをじっと見つめている。よく見ると右耳に何かが突き刺さっていた。そろりと近づきスマホを覗くと、彼女の外耳が映し出されていた。カメラ機能のついた耳かき棒のようだ。 ...
pale asymmetry | 2024.02.17 Sat 18:52
JUGEMテーマ:ショート・ショート 冷えたノイズはあったけれど、そこに言語はない。いや、冷えたノイズよりも歌の方が強かったはず。とても情熱的な歌。けれどその歌も言語によって構築されてはいない。あるいは、それは私が見知らぬ言語なのだろうか。いいえ、きっと違うはず。それは言語よりももっと高度なインフォメーション。歌というフレームに無理矢理落とし込んでいるのは、私のエゴなのかも知れない。だから揺らいでしまうのだろうか。それともそれは生命の宿命なのだろうか。私は確かに揺らいでいる。歌が...
pale asymmetry | 2024.02.12 Mon 19:19
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