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掌編。超短編。など、名前は様々。
一瞬を切り取って、読んでくれる人に届けたい。
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世界には名前なんて必要ない

JUGEMテーマ:ショート・ショート    少女が連れていたのはまだ幼いボストンテリアだった。まだ世界を把握し切れていないようで、半径1mくらいの匂いをずっと嗅ぎ回っている。ときどき顔を上げて少女を見つめ、少女が頷くとまた地面に鼻先を沿わす。それを繰り返していた。 「可愛いね」  気まぐれに私は少女に声をかけた。 「ありがとう」  少女は真っ直ぐに私を見つめて言う。その瞳には微かな尖りが感じられ、私はあまり歓迎されていないかもしれないと思った。 「大きな犬ですね」  少女が...

pale asymmetry | 2023.09.18 Mon 18:26

雨音幻想

JUGEMテーマ:ショート・ショート    雨が強く窓を叩くから、少し眠くなる。この雨はどこから来たのかしらと考え、眠りに落ちそうになる。さっきまでたっぷりと午睡を貪ったはずなのに、私の細胞たちが全て夢に逃げたがっているような気がする。別に今困難な状況にいるわけではないけれど、ここではないどこかを探してしまう。雨のせいだ。これは幻想で、雨が誘っているのだろう。  これが世界に降る最初の雨ならば、私たちは気づかなければいけない。世界が現れる前にすでに流れが、その流れを導く道があったのだ...

pale asymmetry | 2023.09.17 Sun 17:33

秋桜とモフモフ

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「時間が止まっていると思ったら、止まっていたのは私の時間だけだったの」  帰宅した彼女が唐突にそう切り出した。手には秋桜を一輪持っている。きらきら光る青い半透明な紙で包装されていた。 「そういうのって、ない?」  ソファーに寝そべる僕を押しのけるように、彼女が腰を下ろす。そうしながら、秋桜を投げ出す。秋桜は軽く宙を舞いソファーの前のテーブルに横たわった。 「ないね」 「そうか。残念」 「そういう経験をしたの?」 「そう。今日したの...

pale asymmetry | 2023.09.14 Thu 19:07

Tropical cyclone afternoon

JUGEMテーマ:ショート・ショート    熱帯低気圧はすぐそばの海上にあるのだそうだ。天気図ではそうなっている。風は緩く、陽光は凶悪。真夏の色彩しか見当たらない午後だ。午後の短い時間の中にだけ、まだ真夏が残っている。楽しみたければその時間に出かけるしかない。何を期待しているわけでもないけれど、僕らは海に出かけた。 「熱帯低気圧なんて嘘だね」  友達が唇を尖らせて言う。その眼差しは水面に向けられている。鏡のような凪を纏った水面に。 「嵐の前のってやつじゃないの」  そう言う僕の...

pale asymmetry | 2023.09.10 Sun 18:55

cold fireworks

JUGEMテーマ:ショート・ショート    花火に火をつけたときには、日付が変わっていた。六時間も車を走らせて、私たちはこの川原にやって来たのだ。半月はまだ夜の裾に寝そべっていて、その光はか弱く、空気は冷たく沈んでいるように感じられた。 「この火花を、凍らせてしまえれば良いのに」  私が言うと、彼は笑った。とても楽しそうに。私はどちらかというと少し切ない気分だったけれど、彼は終始楽しそうだった。部屋の掃除をしていて遊び忘れていた花火を見つけたときも、私が思いつきで思い出の川原で花火...

pale asymmetry | 2023.09.08 Fri 19:02

君を迎えにいく午後

JUGEMテーマ:ショート・ショート    君を迎えにいく途中で、僕は馴染みの書店に寄ったんだ。月曜日の午後だったからか、店内の人影はまばらだった。まだまだ暑い日が続いているせいもあるのかなと考えたりした。僕がそうだったから。よくよく考えてみるとこの書店に来たのは久しぶりだ。暑いと休日の外出が億劫になるし、通勤の途中に寄り道をしようとも思わなくなるから。それに今はワンクリックで欲しい本は手に入るからね。でもそれだと思わぬ出会いがないから、読書の幅は狭くなる一方だ。だからこういうきっかけ...

pale asymmetry | 2023.09.04 Mon 19:44

blue and moon

JUGEMテーマ:ショート・ショート    それが青白い馬であったとしても、僕は跨がり駆け出すしかなかったんだ。君の声は聞こえなかった。耳を塞いでいたわけではない。そのとき嵐が世界を猛らせていたので、僕自身の鼓動も高鳴り、もう何も聞こえなかったんだ。道はどこまでも続いていたから、振り返る暇さえなかった。ただただ進み続ければ、いつか再び君と繋がるかもしれない。そう考えても見たけれど、上手くはいかないものだね。  それから僕の世界は、長い長い昼の時代が続き、夢を見ることさえ忘れていたよ。...

pale asymmetry | 2023.08.31 Thu 19:01

selfishness of jewels

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「流れの速いその川に、サファイアが流れていました。澄んだ川の川底を、流れと同じ速さで転がっていました。午後の陽光に輝くその宝石を見つけた少年は、躊躇なく川に飛び込みました」 「その少年は貧乏だったの?」 「そうかもね。でも川に飛び込んだ少年はあっという間に流されてしまい、サファイアよりも速く川底を転がるように流され、溺れてしまいました。そして溺れた少年はいつの間にかルビーに変化していて、サファイアとともに川を流れていきました」 「魔法か何...

pale asymmetry | 2023.08.28 Mon 17:48

Rails from the faraway deep sea

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「ねえ、見て」  ソファーの上から彼女がタブレットを差し出す。ソファーの脇で床に寝そべっていた僕はそれに目を向ける。どこかの入り江、鏡のように凪いだ海の画像だった。海に向かって緩やかに傾斜する坂道が延びていて、そこにはレールが敷かれている。だからレールは水面下に進んでいる。 「深海に向かう列車の線路よ」  彼女が楽しそうに言う。凪の海は透明度も高く、水面下のレールはかなりの距離その姿を確認できる。そしてそのまま深い青に飲み込まれていく。こ...

pale asymmetry | 2023.08.20 Sun 21:28

名前のない風

JUGEMテーマ:ショート・ショート    海沿いの道はコンクリートの高い壁が海側に続いていて、きっときらきらしているはずの水面は見えなかった。カーブが少なくなり、つまらなさを感じ始めた頃にやっと壁が途切れたので、僕は海辺にバイクを止めた。予想通りに海面はきらきらと騒々しくはしゃいでいて、そして予想以上にエメラルド色をしていた。  ヘルメットを脱いで汗を拭う。散々風に纏わり付かれていたはずなのに、全身汗まみれだった。風よりも、僕の熱量の方が上回っているのだろう。夏だからしょうがない。...

pale asymmetry | 2023.08.19 Sat 20:50

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