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JUGEMテーマ:ショート・ショート 最初に上映された映画は『工場の出口』というタイトルで、それは1895年の12月28日のことだったそうよ。 かつて愛した人から送られてきた手紙には、そう記されていた。そういう知識の豊富な人だっただろうか。そうだったような気もするし、そんなことはなかったような気もする。それはあまりにも昔の記憶で、正確に呼び出すことが難しいのだ。仮にこれは確かなことだと思えたとしても、きっと偽りの記憶に傾いているに違いないのだろう。記憶とはそういうものだから。だから彼...
pale asymmetry | 2025.12.28 Sun 14:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「何処から来て何処へ向かっているかなんて、考える必要あるかしら?」 君はそう言いながら笑う。なんとなく空虚な笑顔に見えた。 「そんなことを考えているうちに、どんどん進んでしまうでしょう?」 オープンテラス席はゆるやかな風の通り道になっている。その風はゆるやかだったけれど、とても冷えていて、僕たちは、少なくとも僕は際限なく冴えていく感じがした。 「それに、雨は降らないわ。降りそうに見えても降らない」 君はそう言いながら空に顔を向け...
pale asymmetry | 2025.12.22 Mon 17:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「待っているのです」 その人は曇った空を見上げてそう言った。午後の遅く、風が吹き始めたときだった。天気予報では、もっと早くから、それは朝から吹き始めるのだと思われていたのに、午後の遅くになってようやくに吹き始めた風だった。 「今は待つしかないのです」 その人は砂浜に腰を下ろしている。きっと昼過ぎまで降り続いていた雨のせいで、砂はたっぷりと濡れていたはずなのに、そんなことは意にも介さず、その人は寛ぐように腰を下ろしている。 「そういう...
pale asymmetry | 2025.12.21 Sun 18:21
JUGEMテーマ:ショート・ショート 果ての二十日に雨が降る。僕らは海沿いの道を散歩する。彼女はお気に入りの傘を差している。万華鏡のような紋様を纏った傘。僕はコンビニエンスストアで買った透明なビニール傘。雨が強くなったら、僕は沈んでしまうかもしれないな。そう思えた。彼女はきっとその傘が方舟になって、洪水が過ぎ去るまでたゆたい続けるだろう。次の世界に僕はいないかもしれない。次の世界では彼女が創造主になるのかもしれない。そんな妄想を弄びながら、彼女と並んで歩く。週末の雨と終末の雨の両...
pale asymmetry | 2025.12.20 Sat 16:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「グロテスクなのは嫌いでしょう?」 彼女はそう言って、抉り取った左の眼球をコップに落とす。ガラスのコップには水が張られていて、その液中に眼球が静かに沈む。そこでやわらかく跳ねると次の瞬間それは蕾に変わり、水面まで浮かび上がって花開いた。淡い紫色の蓮の花だった。 「何処にだって花を咲かすことは出来る」 彼女はシンクからコップを取り上げ、キッチンの床に向かってそれを傾けた。流れ落ちる液体は宙で無数の蝶になり、蓮の花は紫色の猫に変わる。蝶は...
pale asymmetry | 2025.12.14 Sun 17:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『高次厳重注意』 彼女から贈られてきたダンボール箱の側面には大きな文字でそう記されていた。その文字は丁寧な丸みを帯びていて、厳重に注意しなければいけないという言葉の意味とは裏腹に思えた。だからとくに注意することなく、僕は箱を開けた。中には小分けにパッキングされたお茶っ葉のような物がいくつか入っているだけだった。どこにどのように注意する必要があるのか、僕には解らなかった。例えば保管方法が独特なのかもしれない。そんなことを考えて、彼女に電話する...
pale asymmetry | 2025.12.09 Tue 15:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あなたはイルミネーションのような現象なのだと思う」 唐突に、隣の彼女がそう呟いた。僕らは海沿いのパーキングに停めた車中にいて、冬の黄昏の水面を眺めていた。海は東に面していたから、サンセットは見当たらない。それでも海面は茜の色を帯びていて、冬の風がその茜を擽っている様は、いつまでも眺めることが出来た。サンセットが見られないせいなのか、そのパーキングには僕らの車以外に駐車している人はいなかった。 「イルミネーション?」 僕は彼女に顔を向...
pale asymmetry | 2025.12.07 Sun 17:58
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「玄関の扉を開けたら、そこにカンガルーが立っていたの」 リビングのソファーに寝転ぶ彼女が、窓の外を見つめて言う。北側の窓で、見えない風の存在を感じることが出来る。別に硝子面が振るえているわけではない。何かが、例えば枯葉とかが跳び回っているというわけでもない。それでも、窓の外には強い風が流れていることが解る。そういう存在感のある北風が吹いているのだろう。 「それはフラミンゴだったかもしれないし、マウンテンゴリラだったかもしれない。とにかく人...
pale asymmetry | 2025.12.05 Fri 17:50
JUGEMテーマ:ショート・ショート 頬に冷たさを感じて目を開ける。目の前に彼女の顔が合った。両手にグラスを持っている。その一つが僕の頬にくっつけられていた。 「レモンティーをどうぞ」 彼女が笑う。金茶の液体で満たされたグラスを受け取りながら、僕は上半身を起こす。胸の上にあった文庫本がソファーで一旦跳ねてから床に落ちた。いつの間に眠ってしまったのだろう。西に面したの窓が開け放たれていて、そこから乾いた風が陽光を連れて流れ込んでくる。乾いているのに、その風はとても滑らかに流れ...
pale asymmetry | 2025.12.02 Tue 18:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート テレヴィジョンのなかの君が言う。 「まだ何も始まってはいない」 僕は頷き、テレヴィジョンのモニタに答える。 「だから、あらゆる可能性を考察しなければいけないんだ」 すると君は首を振る。 「あなたは『あらゆる』という状態に囚われすぎている。本当に見つめなければいけないのは可能性の方なのに」 僕は思わず首を傾げる。 「でも何も始まっていないのだから、可能性は無数で、無作為の抽出だけでは僕は満足できないよ」 君は微笑む。暖か...
pale asymmetry | 2025.11.21 Fri 10:24
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