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JUGEMテーマ:ショート・ショート 風は真南から吹いていて、心地良い違和感があった。やって来る遙かな向こうにも、吹き抜けていく遙かな向こうにも、その違和感はあった。そこには時間が織り込まれていて、未来と過去と現在が綯い交ぜになっているような気持ちの良さだった。つまりその風は、時間なんて本質的に存在しないのだと感じさせるような風だった。 「僕らはどこにも生きていない」 僕は思わず呟いた。声は霧雨に濡れそぼって、地面に落ちた。 「生きてるよ。今ここに」 彼女が地面近くの...
pale asymmetry | 2026.02.06 Fri 18:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 彼女がカップアイスを買って帰ってきたので、リビングで並んで食べる。濃厚なバニラ味のアイスはとても美味しかった。積乱雲を食べているような気分になった。高空まで舞い上がれる鳥ならば、こんな感覚を得ることができるのかなと、ふと思った。 「このアイスを買うのに寄ったコンビニでね」 隣の彼女がカップを見つめたまま話し出す。 「レジの店員さんが浮き上がった声をしていたの」 そう言ってスプーンを口に運び、彼女は穏やかに笑う。 「浮き上がる声?...
pale asymmetry | 2026.01.30 Fri 18:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「時間って、どんな触り心地だと思う?」 僕らはリビングの窓辺でプリンを食べていた。窓は開け放っていて、北風が流れ込んでいる。その風はヒンヤリとしていたけれど、風速はとても穏やかで、心地良い感じだった。もちろん今日の日差しが強く鋭かったからというのもある。だから僕らは比較的薄着で、窓辺に半ば寝そべりながら落ち着いていた。 「時間には触れられないね」 僕は空を眺めながら長閑に答える。パステルカラーのブルーに色づいた空は平面的だった。そこで...
pale asymmetry | 2026.01.25 Sun 19:27
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「寒いね」 彼女がコートの襟を立て、桜を見上げる。 「大寒だからね」 僕もジャケットの襟を立て、首を竦めて桜を見つめる。 「寒いときはね、何処かの宮殿で猩猩が踊っているんだって」 「猩猩? 赤毛の猿みたいなあれ?」 「そう、その猩猩。その猩猩が、宮殿の秘蔵のお酒を飲んで、良い気分になって踊っているんだって」 北からの風が吹き抜ける。僕らは躰を寄せ合う。 「猩猩が踊ると、どうして寒くなるの?」 「知らない。それとも逆だった...
pale asymmetry | 2026.01.20 Tue 18:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日ね、春に出会ったよ。季節の春」 家に帰って来るとすぐに彼女はそう話し出す。少し上気しているような表情で、ソファーに寝そべる僕に歩み寄る。僕の手からタブレットを丁寧な動作で取り上げると、ソファーの前に腰を下ろした。 「今日は心地良い陽気だったから?」 僕が尋ねると、彼女は首を振る。一瞬黙り込んで、明後日の方に眼差しを向ける。自分のなかにあるイメージを、どのように言語化すれば良いのかを考えているようだった。 「仕事の帰りにコンビニ...
pale asymmetry | 2026.01.14 Wed 18:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 風が吹いている。風に吹かれている。雨が降っている。雨に降られている。寒さが地面に蹲っている。寒さで地面に蹲っている。 「そういうことだよ」 静かに笑いながら、メンターが言う。空を見やると朧の月。その淑やかな月光が、雨の雫を煌めかせている。煌めいている。煌めかせている。そういうことだろうか。何か違う気がする。差異を感じてしまうのだ。そのささいな差異は、世界の細部を掻き乱す事象のように思われる。私はその想いをメンターに伝える。 「そう思う...
pale asymmetry | 2026.01.09 Fri 18:11
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あそこ」 彼女が低い空を指差す。そこには強い北風に煽られ何度も翻るカラスがいた。曇りがちな弱い陽光でも、その濡れ羽色の翼は独特の光沢を放っている。一瞬カラスと目が合ったような気がしたけれど、それはもちろん気のせいだろう。あいつが僕に目を向ける理由はない。あいつに比べたら、僕は実に頼りない生命体だ。 「戯れていると思う?」 彼女がじっとカラスを見つめたまま訊く。 「北風と?」 「もちろん北風と」 僕は頷くしかない。その優雅な翻...
pale asymmetry | 2026.01.07 Wed 17:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「点が二つでは、面を描くことは出来ないでしょう?」 彼女はモニタを見つめながら独り言のように言う。でももちろん僕に向かって言っているのだ。ソファーに寝そべって文庫本を読んでいた僕は顔を上げてモニタに目を向ける。 「面を描くためには三つ以上の点が必要なの」 モニタの中では、三角形が机の上を転がっている。行きつ戻りつしながら、風の煌めきを吸収しているようだった。それは最近彼女が熱中しているビデオゲームだった。どういうルールなのか、どういう...
pale asymmetry | 2026.01.01 Thu 20:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 最初に上映された映画は『工場の出口』というタイトルで、それは1895年の12月28日のことだったそうよ。 かつて愛した人から送られてきた手紙には、そう記されていた。そういう知識の豊富な人だっただろうか。そうだったような気もするし、そんなことはなかったような気もする。それはあまりにも昔の記憶で、正確に呼び出すことが難しいのだ。仮にこれは確かなことだと思えたとしても、きっと偽りの記憶に傾いているに違いないのだろう。記憶とはそういうものだから。だから彼...
pale asymmetry | 2025.12.28 Sun 14:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「何処から来て何処へ向かっているかなんて、考える必要あるかしら?」 君はそう言いながら笑う。なんとなく空虚な笑顔に見えた。 「そんなことを考えているうちに、どんどん進んでしまうでしょう?」 オープンテラス席はゆるやかな風の通り道になっている。その風はゆるやかだったけれど、とても冷えていて、僕たちは、少なくとも僕は際限なく冴えていく感じがした。 「それに、雨は降らないわ。降りそうに見えても降らない」 君はそう言いながら空に顔を向け...
pale asymmetry | 2025.12.22 Mon 17:12
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