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JUGEMテーマ:ショート・ショート 南の島の波打ち際を、白い虎がのそりのそりと歩いていて、それが私なのだろうなと思った。虎は夜を見上げて荒い息を吐き、重い足取りで歩いていたから、私は疲れているのだろうなと思った。それに月の不在を嘆いているのだろうなとも思った。虎は真っ直ぐに夜を見つめていたから、夜の方も真っ直ぐに虎を見つめているのだろうな感じた。私は夜を見つめ、夜が私を見つめる。双方向に行き交う眼差しが、世界の織物を形成しているのだと思えた。 「だから私は腐敗した泥なのだと思...
pale asymmetry | 2023.05.25 Thu 18:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「じゃあ、最初は渦」 開け放たれた窓の外に顔を向けたまま、甥っ子が言う。 「どうして渦?」 僕はソファーに沈み、タブレットで電子書籍を読んでいる。 「別に意味はないよ。今思い浮かんだだけ」 甥っ子は空を見つめたまま答える。僕はそんな彼に目を向ける。タブレットの中では素人探偵が不可能犯罪の種明かしを始めていたけれど、それよりも彼の表情が気になった。彼はスッキリとした表情で空と向かい合っていて、僕は安堵した。 「吹雪」 そう言...
pale asymmetry | 2023.05.21 Sun 18:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ただいま」 「おかえり」 彼女はリビングのソファーに横たわり、毛布に包まっていた。ソファーの周りはたくさんのキャンドルに取り囲まれていた。色とりどりのグラスの中で、小さな炎は微笑むように揺らいでいた。部屋の照明は灯っていたから、炎の神秘性は希薄だった。 「どうしたの?」 「熱あるみたい」 エアーコンディショナーがしっかりと働いていて、リビングは冷たく乾いていた。それが僕を少しだけ空虚な気分にさせた。 「計った?」 「うん」 ...
pale asymmetry | 2023.05.14 Sun 20:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これはすごく良い子だと思う」 甥っ子がしゃがみ込み、地面をじっと見つめている。視線の先には小さな石が転がっている。青みがかった灰色の石で、ゴツゴツとした形をしている。 「どの辺りが、良い子なの?」 僕が尋ねると、甥っ子はその石を丁寧に掌に乗せ、午後の陽光に翳す。石は陽光を弾くことはなく、煌めきも輝きも発しない。陽光を吸収しているというわけでもなく、ただただその表面を撫でられているという感じだった。 「カクカクした感じなのに、パチパ...
pale asymmetry | 2023.05.12 Fri 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「本当にね、油断しているとすぐにやられてしまうものなのよ」 彼女はスプーンを加えてそう言う。少しもごもごした口調になってしまう。カップの蓋を外すのに両手が必要だったから、スプーンを加えるしかなかったのだ。 「ブルーミント味にしたから、風が心地よく感じると思うよ」 彼女は大切な秘密を明かすように笑った。でも海から吹いてくる風は、極々弱い。彼女の髪は踊ることはない。日差しは鋭く、水面は複雑に煌めく紋様を纏っていた。 「あと、踝を持って行...
pale asymmetry | 2023.05.09 Tue 18:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らはベランダにテントを張ってそこで眠った。たっぷりの毛布と小さなランタン。いろいろな記憶を語り合った。重なり合うものもあったし、ずれているものもあった。修正できるもの合ったし、できないものもあった。できないものは無理に混ぜ合わせず、やわらかく寄り添わせることを僕らは心がけた。そうして、いつの間にか眠ってしまった。 「ねえ、戻ってきて」 彼女の囁きが僕を世界に呼び戻す。テントの中の空気はひんやりとしていて、だから鋭く澄んでいた。 「声...
pale asymmetry | 2023.05.02 Tue 21:32
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「こんなの想像してた?」 あなたが問うので私は笑顔で首を振る。 「もちろん想像してなかったわ」 私たちは降り注ぐ花びらの最中で踊る。軽やかに出鱈目に。でもとても愉しい。堪えられずに笑い出してしまう。向かい合い、両手を繋いでくるくる回る。あなたはただただ加速する。この世界に挑戦するように。私はあなたの足手まといにならないように、その加速を鈍らせないように必死だ。私だって世界に挑戦したいのだ。 「全部の花びらが散れば良いのに」 あな...
pale asymmetry | 2023.04.16 Sun 21:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 海沿いのパーキングで車を止めて、少し仮眠することにした。窓を全開にすると心地良い西風が流れ込んでくる。日差しの強さとその風の湿り具合が古い記憶を呼び覚ます。目を閉じて真っ先に浮かんでくるのは、君の笑顔だ。唇の両端の持ち上げ具合が独特で、僕にはその笑顔が妖精のように思えた。そんな記憶。 「花については全然詳しくないの」 僕らは岬の先端の遊歩道を歩いている。強い西風が君の髪を揺さぶる。 「僕もよく知らない」 君が指差した花に目を向けて...
pale asymmetry | 2023.04.13 Thu 20:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ベランダで月を見よう」 放射冷却で冷えた朝にやってきた甥っ子は、玄関の扉を開けるなりそう言った。 「月? 今見えるの?」 反射的に僕は時計を見る。午前七時三分だった。 「うん、見えるよ」 甥っ子は何故か得意げに胸を張る。 「ところでその耳は?」 甥っ子は頭にウサギの耳をのせていた。黄みの強い赤色の耳だった。 「良いでしょう。昨日フリースクールで作ったの」 「それはフェルト?」 「そう。中に針金のフレームが入っている...
pale asymmetry | 2023.04.10 Mon 20:06
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰るとリビングのソファーで彼女がラップトップのキーを忙しなく叩いていた。ソファーの前のテーブルには小さなロボットが横たわっている。ガンメタリックの五頭身くらいのロボット。中性的で、幼さを感じさせるフォルム。フェイスにパーツはなく、だからもちろん表情もない。 「おかえり」 キーを弾く指を止めずに、彼女が言う。眼差しもラップトップのモニタに向けられたままだ。 「ただいま。何してるの?」 「この子の眠りと目覚めの準備」 彼女が目を...
pale asymmetry | 2023.04.07 Fri 21:41
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