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JUGEMテーマ:小説/詩 彩夏が遺した、最後の日記。 一夫は一心に、一度も目を逸らすことなくそれを読み続けた。 だが読み続ける内、その手は細かく震え出し、呼吸は穏やかなものではなくなってきた。やがてその唇からは、 「あの野郎……あの野郎……」 という声にもならぬ呟きが繰り返された。 慶子も眉を寄せ、瞼を伏せ、俯き堪えていた。 クローノイド──彩夏は何も言わず、一夫の震える手に視線を合わせじっと椅子に座っていた。 ...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2023.10.27 Fri 22:36
JUGEMテーマ:小説/詩 彩夏の遺したメモには、右上隅に数字の羅列──年月日が、これもまた小さな字で記入されていた。 日記の内容はその後も、夫である圭輔から理不尽に禁止されたこと、改善を命じられたこと、強制されたことが綴られていた。慶子は時折強く目を閉じ、しかしまたそれを開け歯を食いしばり、拒絶したい衝動に堪えながら、自分の知らなかった──それどころかその片鱗にすら気づけなかった真実を、読み続けた。 そしてメモが残り半分ほどになった辺りで、どうやら彩夏はカウン...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2023.10.16 Mon 19:31
JUGEMテーマ:小説/詩 慶子は気が遠くなるほどの震えを感じながら、手許の紙束から輪ゴムを外し、メモを開いた。 なるほど確かに、大層細かい字で紙面全体にびっしりと書かれてある。慶子は両眼を精一杯すがめたが、それでもまったく読み取れない。 スピリットの言う通り、ルーペで拡大して読むほかなさそうだ。 「お母さん、私が読みましょうか?」クローノイドが提案する。 「──」慶子は一瞬考えたが、すぐに微笑みつつ首を振った。「ありがとう、でもこれは、やっぱり自分で読み...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2023.10.12 Thu 18:46
JUGEMテーマ:小説/詩 姫奈は、圭輔さんのことが好きなのかな。 圭輔さんと、結婚したいと思っているのかな。 でも圭輔さんのこと『あいつ』って、呼んでたよね。 私がロボットになったとしても、きっと攻撃してくるって。 それは、私が圭輔さんとまた一緒に暮らさないようにするために言ったことなの? 私がいなくなった後で、今度は自分が後妻になりたいと望むからなの? 私には、どうしてもそんな風には思えない。 だって圭輔さんを奪いたいのなら、あんなに...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2023.10.06 Fri 23:07
JUGEMテーマ:小説/詩 「彩夏……?」慶子はクローノイドを見て呼びかけた。 それはしかし、クローノイドに対する呼びかけではなく、その中に『いる』と今し方聞いた、彩夏の──娘の『魂』に対するものだった。 「はい、お母さん」クローノイドが答える。 慶子は目をしばたたかせた。 心のどこかで、ロボットではなく綾香の『魂』からの返事が聞けるものと期待していたのかも知れない。 そんな馬鹿なことが── もう一度姫奈を見る。 姫奈もじっと慶子を見...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2023.09.29 Fri 22:58
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