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JUGEMテーマ:小説/詩 「モサヒー、見ろよ! こんなでかい馬、見たことねえぞ!」 「うん、馬では、うん、ないようですね」ネコ科に答えてそう言う『信号』が、キャンディの耳に伝わってきた。 キャンディは長い首を傾げて注意深く見、やがてもう一体、小さな生物がそこにいることを感知した。「こんにちは」挨拶をする。 「あ、ども、こんちは、えっ、馬じゃないのか?」ネコ科──ボブキャットは挨拶を返した後大きく驚いた。 「こんにちは、うん、馬というか、うん、地球の生物ではな...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2025.06.27 Fri 21:12
厄介な客はハードカバーの本と共に来店すると、行きつけの喫茶店で聞いた。これについてhわたしも同意見で、自営業だった実家にもハードカバー付きの若い人間が時々訪れ、コーヒー一杯で外回りの営業よろしく長居し、母がタバコを吸うと嫌な顔をし、健康のために禁煙しろなど大きなお世話を焼いたものである。母は外面の出来た人間だったので適当にいなしたが、内心では俺の家だ馬鹿野郎くたばれと副流煙を吐きかけたらしい。わたしだったら口に出したと思う。内面の邪悪さはともかく表は立派な商売人である。他人には嘘を吐きニコニ...
記4 | 2025.06.26 Thu 23:30
JUGEMテーマ:小説/詩 「双葉だ」ムスタング種の一頭が叫んだ。「双葉がいるぞ」 「皆逃げろ」別の一頭も叫ぶ。「消されるぞ」 どどどどど、馬たちは一斉に走り出し、あっという間に遠くへ去った。 「あっ」コードセムーは慌てて電子線の射出口を向け戻したが、馬たちは速く、もう射程距離のはるか向こうまで行ってしまい小さな後ろ姿しか見えなくなっていた。「待ちなさいよ!」思わず叫び、推進し始める。 「あなたこそ待ちなさいよ」だがセムーの前に、先ほどの巨大な馬が立ちはだか...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2025.06.21 Sat 07:35
四国か九州か中国地方を旅した時のこと、海水と温泉の混ざった巨大な入浴施設に立ち寄った。玉造温泉の大露天風呂に似ているが、元からある池に温泉を掛け流したほかは人の手を入れず、入浴に適した場所は一部に限られる。適温の辺りには少年の亡霊がにこやかに立ち尽くしていた。観光客が快適に入浴できるよう、また遭難や溺死といった事故を避けるよう、旅館が専用鉄道を敷いており、これもまた同温泉の名物になっていた。 池の特性上、レールと荷車は腐食しにくく、また金属が溶け出しても人体に悪影響がないよう素材にこだわ...
記4 | 2025.06.20 Fri 19:57
昨年からミッシェルガンエレファントやブランキージェットシティのYouTubeチャンネルがレコード会社によって開設され、アルバムやミュージックビデオをいつでも閲覧可能にしてくれたのはいいものの、二十年前のロック青少年が大人になって手にした小銭を巻き上げてやろうという浅ましさがそこかしこに見えてしまい辟易もする。不愉快なのは、ポップアップストアが始まったらちょっと行こうとか、HDリマスターされたライブビデオは買ってもいいとか、わたし自身かっぱがれる気満々なところである。特に復刻版グッズや新しいデザインの...
記4 | 2025.06.16 Mon 18:00
JUGEMテーマ:小説/詩 大気圏に突入した火星搬送船MARSHOPE104号は、灼熱色に輝きなおも大地を目指し驀進した。 その一途さには、感心もし感謝もし、けれどどこか哀れに思うところがあった。 我々の目的のために、今それは真っ赤に燃えて目的地にたどり着こうと必死で頑張っている。 「ごめんね」誰かが声もなく囁いた詫びの文句は、我々全員の装着するヘルメットのスピーカから頼りなく洩れ聞こえた。 誰も返答しない、だが皆心のどこかで同じような気持ちを噛みしめているのに違い...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2025.06.15 Sun 17:23
JUGEMテーマ:小説/詩 キャンディは、自分の名前を憶えていなかった。 というと妙な話に聞こえるかも知れないが、キャンディというのはこの星に来てからつけられた呼称だ。愛称、だったか。 そしていつからこの星に住んでいるのかも憶えていなかった。だがこの星で生まれたのでないことだけは、憶えている。 自分はここ、地球で生まれたものではないのだ。 さらにそして、今。 キャンディは、とても懐かしい気持ちにさせる景色の中を、歩いていた。 四本の、蹄を持つ...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2025.06.14 Sat 10:12
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