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波の回廊 65

    風がでてきて、信子の髪がなびいた。 「帰ろうか?」 金村がいうと、信子は黙って頷いた。 少し歩いて、信子は金村の後ろから声をかけた。 「髪が白くなったね」 体型は変わらないが、明らかに金村の白髪(しらが)は増えている。 「誰だって、六十すぎりゃ白くなるさ」 坂をくだりながら金村がいった。 駐車場の車に戻り、信子は助手席のシートベルトをしめた。 「あの地震から、すべてが変わってしまったわ。……ねっ?」 信子は金村の横顔を見ていった。 「昨日の...

 at dawn | 2018.03.30 Fri 09:09

波の回廊 64

    「ちょっと待って」 信子は食卓を離れた。佑子が遊びに来て一緒に昼食を食べているのだ。 「それで?」 「幸一は日本に帰っているぞ」 「えっ!?」 つい、大きな声が出てしまった。慌てて佑子を見るとこっちに視線を向けている。あなたに関係ないのよと手を振って、信子は佑子に背を向けた。 「それ、どういうこと?」 「とにかく、こっちにはいないようだ。大家(おおや)にも会ったし、学校にも行ってきた。英語がよくわからんので苦労したけどな」 金村は次のように話した。  ...

 at dawn | 2018.03.29 Thu 09:01

波の回廊 62

    信子は思いつくままに佑子のマネージャーに電話した。 幸一に電話してくれと頼んで番号を教えると、ものの五分もしないうちに返事がきた。さすが女子大を出ている女は違う。 「あのう、頂いた番号に間違いはないですか?」 マネージャーの松島が、申し訳なさそうな声を出した。 「二回かけてみたんですが、どうも違うようです」 信子は驚いて手帳の番号を確認してみるが間違いはない。しかし、その番号が違うというのだ。 松島は相手にその番号を昔から使っているかどうか尋ねてみたが、プラ...

 at dawn | 2018.03.27 Tue 09:08

波の回廊 61

    権蔵は、世の中のカネ持ちや一流とよばれる会社に良い印象を持っていない。 ため息がでるような大金は、悪いことでもしなければ、そうそう得られるものではないと思っているからだ。 もちろん、よほどの運に恵まれた場合は別だが、商売でいえば、たいていは安いものを庶民に高く売りつけて成り上がる。社会の構造がわかっていないといわれそうだが、良心的な商人であれば、大儲けとまではいかないのではないか。 高い利息でカネを貸し、悪代官のように情け容赦なく取り立てた高利貸しが、カネが溜まる...

 at dawn | 2018.03.26 Mon 09:39

波の回廊 60

    「ま、それはそうですね」 といって相手を安心させたあとで、権蔵は当時の営業部長がまだ在職中かどうか訊いてみた。 「退職されました」 「ほう。その方はなんというお名前ですか?」 男は返答に躊躇した。 「イヤなら仰らなくて結構です。調べる手はいくらでもありますから」 「……高山部長です」 「下のお名前は?」 「高山昭二です」 「江差町の方ですか」 「それはちょっと……」 男はまた言葉を濁した。 「ところで、支払いに関してですが、...

 at dawn | 2018.03.25 Sun 09:37

詩『時計:A Clock』

律儀なそれはしんずるのにあたいするのだろうか 正確さをもって任ずるそれを信頼するいわれはどこにあるのだろうか まっしょうじきな仕事ぶりは、馬鹿正直をとおりこして冷酷だ しかもあたえられたことしかしない そんな部下、そんな上司、もしくはそんな同僚(友人や恋人の場合はさておいて) ちょっといやだよね いや、もうごめんこうむりたいのだ ふたりのあいだにどんなちから関係があろうとも わたしは隠忍侍従するしかない だってそれしかできないのだから そいつは どんな権力者であっても こいつだけを支...

with a kiss, passing the key | 2018.03.25 Sun 00:00

単発ブログエッセイ「ハッスルばあちゃん伝説?〜子供時代に、ビックリするような生き物を飼っていたんやで!!〜」

先日(3月18日)、母方の祖母(通称、ハッスルばあちゃん)の100ケ日法要があり、今月10日で、亡くなってからちょうど3ヶ月経ったことに気づき、思わず月日の速さを感じました。 今回は、そんなハッスルばあちゃんの子供時代にまつわるエッセイをお届けいたします。 毎月1回お送りしている、この単発ブログエッセイ、今回も皆さまが「ええ〜っ!?」と驚くような仰天エピソードですので、どうぞご覧ください。 〈ハッスルばあちゃんは子供の頃、当時としてはかなり珍しい生き物を飼っていたそうだ。 こう言うと、「いったい...

素晴らしき出会いに…乾杯!!〜良き人・良き物・良き話〜 | 2018.03.24 Sat 16:14

波の回廊 59

    (おはようございます。みなさんお元気ですか? 昨日の58話のなかで時系列の間違いがありました。佐伯支店長の次男が電話をして手帳の存在を権蔵に伝えましたが、そのなかで「二十五年も前の古いやつです」といっていますが、あれは二十五年ではなく十年の間違いです。失礼いたしました。作中の今は2004年です。それでは今日のぶん59話のはじまりです)   翌朝、権蔵は洗面所で歯を磨きながら考えていた。 江差の檜山信用金庫本店に行って、誰に話を訊くかが問題だ。十年もたてば当時の関係者は...

 at dawn | 2018.03.24 Sat 09:32

波の回廊 58

    東京の旅を終えた権蔵と泰子は、新千歳空港から自家用車で小樽に帰った。 家の近くに来ると、道ばたに大きなゴミ袋が投げ捨ててあった。 「先に行け。俺はあれを片付けてから行く」 権蔵は家の前で泰子をおろすと、車から降りてそれを拾い、鉄でできたゴミ集積箱に入れた。最近はカラスの被害でゴミ集積所も頑丈である。 家に入ると、「電話でーす」と、奥から泰子の声がした。 あの佐伯正一の次男からである。十年以上も前に会ったきりだが、それでも権蔵はすぐに彼の顔を思い出した。 電話...

 at dawn | 2018.03.23 Fri 07:46

波の回廊 57

    連れていってやることにして、権蔵はカレンダーに目をやった。 行くなら早いうちがいい。十二月からは警備会社で働くことになっているのだ。大手スーパーの駐車場で車の整理を担当する。年末はスーパーも相当混雑するようだ。   それから一週間もしないうちに権蔵と泰子は東京へ行った。 千葉の舞浜駅で電車を降りると、そこはもう夢の国、ディズニーランドである。平日だというのに、小学生や中学生を連れた家族連れがたくさんいた。 「今日は平日だろ。学校行かなくていいのかなあ」  ...

 at dawn | 2018.03.22 Thu 08:45

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