[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
2月も半ばに入った冬らしい日、慎一はひと気のない芭蕉庵に呼び出された。 「失礼します」 今は中間考査の期間中だった。 試験が終わった午後、慎一が部室の木戸を開けると、中の障子は開けられていて、部長の吉見が中で待っていた。 「いらっしゃい。悪いね、試験中に呼び出して」 「いえ、僕は大丈夫ですでけど」 3年生はもう授業もほとんどなくて、自由登校になっていた。 学院の生徒のほとんどは内部進学でそのまま聖ステファノ大学に進むが、外部受験をする生徒も何割かいる。 国立の二次試験を間...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.15 Sat 00:16
休憩の後またしばらく滑って、慎一は転ばずに一人で滑れるようになった。 後半、高嶋が後ろ向きに慎一の手を引いて滑ってくれたのを見て、それやりたいと云ったら、また今度とやんわり止められたけど。 屋外のスケートリンクはやっぱり寒いし、疲れてくると怪我をしやすくなるからと、二人は混み合ってきたお昼頃にスケートリンクを出た。 「お昼ごはん、少し遅くなっちゃいそうだね。大丈夫?」 街中に向かって車を走らせながら、高嶋が訊いてくる。 「アイス食べたりしたから、そんなにお腹すいてないよ」 「...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.14 Fri 08:59
「あれ、慎一出掛けるの?」 冬休み明けの土曜日、寮のエントランスを出たところで、慎一は馨たち生徒会の連中とばったり 会ってしまった。 「うん。馨たちは生徒会の仕事?」 「仕事ってほどじゃないけど、そろそろ卒業式とか謝恩会のことでね。まぁ、まだミーティングと云う名のおしゃべり会だよ。この時間、バスあんまりないよね…。お迎え?」 「そう。冬休みはずっと京都だったからね。この週末はおじい様のところへも顔を出しておかないと」 東京に住む母方の祖父、九条のおじい様のところへ行くとき...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.13 Thu 09:24
湊斗は、白い物の多くなった頭を、そっとアディの肩に凭れかけた。 「とんでもない親バカだけど……でも、アディがいてくれて良かった」 「失礼な。親バカなんかんじゃないぞ。私は、正真正銘湊斗を愛している。自分の子供に欲情する親はいないだろう?」 「……そ、そうか……」 返事に困っていると、アディはそっと湊斗の皺の刻まれた手を持ち上げた。 「美しい手だ。この皺のひとつひとつが私と共に刻まれたと思うと、堪らなく愛おしい」 そうしてアディは、湊斗の手の甲...
真昼の月 | 2020.02.13 Thu 08:09
「おばあちゃん、表の窓ふき終わったで。あとどこ拭いたらええん?」 慎一は雑巾をつけたバケツを持って、台所にいる祖母に声を掛ける。 「あとはお風呂とはばかりさんの窓だけや。朝からようおきばりやしたなぁ。ほっこりしたやろ? 今日はもう終いにして、ゆっくりしとき」 昆布巻きの準備をしながら祖母が言った。黒豆を炊く甘い匂いが漂ってくる。うちはお醤油を入れて炊くから、ほんのりみたらし団子みたいな香ばしい匂いもする。 「そんだけやったら、もう今やってしもとくわ」 トイレと風呂の窓なら小さい...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.12 Wed 09:52
◇◇◇ ◇◇◇ ぽかりと目が開くと、煌々と、明るい空間にいた。 ここはどこだろう。眩しすぎて、目が痛い。 「まだ眩しいか?そのうち馴れる。大丈夫だ」 声の方を見る。大きなひとの姿が見えた。綺麗な顔。宇宙のような、藍色の瞳。長く伸びた銀藍の髪。すっきりと伸びた、一本角。 初めて見るひとなのに、ずいぶんと懐かしい気がした。 「おはよう。やっと目覚めたね。ずっと待っていたんだよ」 悪魔はそっと、優しく手を伸ばして、小さな小さな子供の形をしたものを手のひらに載せた。 それは暖かく...
真昼の月 | 2020.02.12 Wed 08:04
「すいませんでした。お怪我はありませんでしたか?」 「まだ若いつもりなのに、そんなに心配されたら傷つくなぁ」 「あ、すいません!私、そんなつもりじゃ!!」 「冗談ですよ。ありがとう。今時感心なお子さんですね」 湊斗が笑うと、母親はちょっとバツが悪そうに、それでも嬉しそうに微笑んで、「まだまだヤンチャで」と言い訳をした。それから何度も頭を下げながら、遊具のあるコーナーに子供と一緒に歩いて行く。 子供は何度か振り返って湊斗の姿を確認した。そのたびに手を振ってやると、嬉しそうに小さな手を大き...
真昼の月 | 2020.02.12 Wed 08:03
聖ステファノ祭の当日。 バザーは、メインの会場が体育館と講堂。クッキーや焼菓子を用意するクラスは、食堂の厨房で作って食堂ホール前で販売する。 カフェテラスで飲物を提供するクラスもあり、ギャルソンの格好をしたイケメン男子生徒が給仕してくれるとあって大盛況だった。 ギャルソン役は作る方に回らなくていいから楽そうだと競争率が高かったらしいが、イケメン順に選ばれるからそこはシビアだった。 体育館と講堂は、各クラスが作った作品をそれぞれのブースに並べて販売する形だから、よくあるハンドメイド...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.11 Tue 11:27
「どうした、アディ?」 「いや、そろそろ昼休みが終わるんじゃないか?」 そう言ってアディが湊斗から離れた瞬間。 「あれ?課長、ここにいたんですか?」 後ろからいきなり声を掛けられて、湊斗は驚いてその声の方を振り返った。同じ課内の女子社員が3人、一緒に並んで立っている。湊斗も驚いたが、向こうも驚いた顔をしていた。 「今、課長いないなって話してたんですよ?課長、どこにいたんですか?」 「……え?そこにいたけど?」 「え〜、気づかなかった!」 「ね、課長、私達も一緒にコー...
真昼の月 | 2020.02.11 Tue 08:10
「遅い! まったくお前はいつもふらふらと。どこで油売ってた?」 校門の外、車を横付けして待っていた近藤がやっと戻ってきた高嶋を睨む。 近藤の身長は高嶋とそう変わらないが、黙っていれば細身で理知的な学者のような雰囲気。手足のパーツが大きく骨太でがっしりした体型の高嶋と並ぶと対照的だ。 高嶋の前限定で口が悪くて怒りっぽくなるから、その雰囲気は途端に霧散する。 「いやー、もうそんな季節なんだなーと思って」 助手席に乗り込みながら、いつもの調子でへらへらしている高嶋。 「は?そんな季節...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.10 Mon 13:53
全1000件中 431 - 440 件表示 (44/100 ページ)